2019-10-8(令和元年) 松尾芳郎
図1:(USAF Sr A . Joshua Hoskins) 高速無人機[ XQ-58A ]バルキュリーは2019年3月5日にアリゾナ州ユマ(Yuma Ariz.)で初飛行、続いて6月11日にも70分を超える飛行を行った。米空軍研究所(AFRL=Air Force Research laboratory)の無人戦闘機(UCAS= unmanned combat aircraft system)計画にクラトス(Kratos)社が参加、開発している機体である。諸元は、全長8.8 m、翼幅6.7 m、最大速度マッハ0.85 (1,050 km/hr)、航続距離3,900 km、ハードポイント8箇所、ウエポンベイ2箇所、JDAM[ GBU-31 ] / 500 kg GPS誘導爆弾やSmall diameter bomb [GBU-39/B ] / 重量110 kg 精密誘導滑空爆弾を搭載できる。地上設置のレール・ローンチ方式で発射、回収はパラシュート降下で行う。
[XQ-58A ]はF-35やF-22などの有人戦闘機を護衛して攻撃に参加する”僚機(Loyal Wingman)”の役目をするドローン(drone /無人機/UAS)。また[ XQ-58A]のみで構成する編隊(swarm/大群)攻撃も可能。民生技術を多用して契約後僅か2.5年で初飛行に漕ぎ着けた。5回ほどの試験飛行を行い、空力性能、システム機能、発射及び回収方法の検証を行う。極めて低価格 (100機受注の場合は単価200万ドル / 2.2億円)なので、空軍当局は2021年までに20-30機を調達したいとしている。
米国では、無人機(UAS=unmanned aircraft)や将来の巡航ミサイルで使う小型で低価格のこれまでと全く異なるジェット・エンジンの開発に、二つの企業が名乗りを上げている。
(Two U.S. engine manufacturers, “Kratos” and “Pratt & Whitney”, launches new small low-cost jet-engines for a new expendable unmanned aircraft and future cruise missiles.)
サンデイゴ(San Diego, Calif.)にある標的機(target drone)専門メーカー「クラトス(Kratos Defense & Security Solutions Inc.)」社は、2019年3月にフロリダ州ウエスト・パームビーチ(West Palm Beach, Florida)の「フロリダ・タービン・テクノロジー(FTT=Florida Turbine Technologies Inc.)」の株式80 %を買取り「クラトス・タービン・テクノロジー( KTT=Kratos Turbine Technologies)」として傘下にした。「クラトス」社/[KTT ]は、これで[ FTT ]が保有する小型、低価格、高性能のジェット・エンジン技術を入手することになった。
大型エンジンの分野でGE、RRと市場を分け合う「プラット&ホイットニー(P&W=Pratt & Whitney)」社の軍用エンジン部門は、2018年6月までにウエスト・パームビーチ近くのエバーグレイズ(Everglades, Florida)に「ゲイター・ワークス(Gator Works)」社を設立した。「ゲイター・ワークス」の目的は、最新型のエンジンを従来の半分の期間で、かつ半分のコストで開発すること、つまり時代、技術の変化、進歩に柔軟かつ早急に対応できる組織とすることである。「ゲイター(Gator)」とは「アリゲーター(Alligator/鰐)」の略で、ロッキード・マーチンの開発部門「スカンク・ワークス」に範をとったという。 「ゲイター・ワークス」では、P&W軍用エンジン部門が製造中の超小型エンジン[ TJ150 ]の改良型を3Dアディテイブ・マニュファクチャリング( 3D Additive Manufacturing )で作る予定である。
図2:(Pratt & Whitney TJ-150)P&W [TJ-150] エンジンは、多くのエンジンが2軸式(2ローター)形式であるのに対し、簡単な単ローター式。タービンは1段、部品数も少なく短期間で組立可能なミサイル搭載用の使い捨て型エンジン。現在はレイセオン・ミサイル・システムが作る”MALD“標的ミサイルに使われている。他の一つは[TJ-150-3]で、これは欧州のMBDAが開発中の精密誘導兵器[SPEAR]ミサイルに搭載される。[SPEAR]は有人機と同じように加減速ができる飛翔体で、エンジンは加減速操作ができるようになっている。
MBDAでは、英国空軍の要求で空対地および空対艦ミサイル[SPEAR 3 (Select Precision Effects at Range Capability 3)]を開発している。折りたたみ式主翼を備え超小型ターボジェットで高速で飛行、射程は130 km以上、第5世代戦闘機F-35のウエポンベイに4発搭載できる。重量100 kg、長さ180 cm、直径18 cm。
図3:(MBDA) MBDA製[SPEAR 3]空対地、空対艦精密誘導ミサイル。エンジンはP&W [ゲイター・ワークス]が作る[TJ-150-3]を搭載する。
「P&W」と「クラトス」は共に推力700 lbsクラスの低コスト、使い捨て型のエンジンの開発を始めており、いずれも現在[AGM-86航空機発射型巡航ミサイル]および[BGM-109トマホーク長射程巡航ミサイル]で使用中の「ウイリアムスF-107」エンジンの後継を狙っている。
P&Wでは[FJ700]の名称でスタートしているが詳細は明らかでない。P&Wは同社の小型エンジン部門P&WC (Pratt & Whitney Canada)で小型自家用機用として推力900-3,000 lbs級の[PW600]ターボファンを開発済みなので、]FJ700]はこの改良型で使い捨て型の低価格エンジンになると想像される。
図4:(Pratt & Whitney Canada) [PW600 ]エンジンは、2ローター式、高圧系はコンプレッサー2段+タービン1段、低圧系はファン1段+タービン1段、燃焼室は逆流式。系列には、[PW617F /推力1,780 lbs ]、[PW615F/推力1,460 lbs ]、[ PW610F/推力950lbs]、がある。最も小さい[PW610F]は、ファン・バイパス比 1.83、直径14 inch (36 cm)、長さ46 inch(115 cm)、でセスナ・サイテーション・ムスタング(Citation Mustang)、エンブラエル・フェノム(Embraer Phenom) 100、など5-6人乗り小型ジェットに使われている。
図5:(Williams International) ウイリアムス製[Williams F107]は、小型2軸 (2ローター)式ターボファン(バイパス比:1)で、推力3.1 kN (約700 lbs)、[AGM-86 ALCM(航空機発射型巡航ミサイル)]および[BGM-109 トマホーク(Tomahawk)・(長射程亜音速巡航ミサイル)]に使われている。どちらも射程は1,100-2,400 km程度。系列エンジン[F107-WR19]の諸元は、長さ61 cm、直径30 cm、自重30 kg、ファン2段+低圧コンプレッサー2段、遠心コンプレッサー1段、高圧タービン1段、低圧タービン2段。
空軍では、将来の戦術兵器として数十機の超小型無人機(UAS)が一団となって攻撃する「スワーム攻撃(swarm attack)」を検討中で、これに使う推力100-200 lbs級の低価格エンジンを求めている。これに応えて「クラトス・タービン・テクノロジーズ( KTT )」は新しく開発(図6を参照)、「P&Wゲイター・ワークス」は3Dプリント製 [TJ150]改良型と[FJ700 ]の開発を進めている。
Small jet engineの定義はないが、一般的に推力3,000 lbs (13.3 kN)、直径30 cm (12 inch)、長さ1 m (3 ft)、重量90 kg (200 lbs)、以下とされる。UAS用エンジンの寿命は20 hrで充分で普通のジェット・エンジンに要求される10,000 hrのサービス・ライフは不要である。
図6:( Florida Turbine Technologies / Department of Energy/credit Frank Serio) [ FTT ]の創立者兼CEOの「シャーリー・コーツ・ブロストメヤー(Shirley Coates Brostmeyer)」氏が、同社で[開発中の超小型、高効率、2ローター式ターボファンを持つ写真。これは推力100-200 lbs級の超小型エンジン。[ FTT ]改め[ KTT ]は、別に推力1,000-2,000 lbs級の開発も進めている
「シャーリー・コーツ・ブロストメヤー」氏は主人の「ジョセフ(Joseph)」氏と共に1998年に「フロリダ・タービン・テクノロジー(FTT=Florida Turbine Technologies Inc.)」を設立、CEO兼オーナーを務めていた。「シャーリー」はバージニア大学で機械工学を学び、Rensselaer Polytechnic Instituteで機械工学修士を取得している。「ジョセフ」も同じInstituteで機械工学修士を取得、30年間航空宇宙関連の仕事に従事してきた。[ FTT ]社は、タービン・エンジンとその部品、システムの設計、開発、製造を行う企業である。
既述したが、2019年3月に「クラトス」社が[ FTT ]社の株式80.1 %を6,000万ドルで取得したことで、[FTT]は[KTT]となり今後は「クラトス」社が開発する[UAS]にエンジンを供給する。[FTT]の創立者「ブロストメヤー」夫妻は、[KTT] の新社長「ステシイ・ロック(Stacey Rock)」氏のもとで同社の幹部として継続して新エンジンの開発に携わる。
図7:(Air Force Magazine / Air Force Research Laboratory) 空軍研究所(AFRL)が研究中の低価格、使い捨て型無人戦闘機(UCAV=unmanned combat aerial vehicle) の完成予想図。
「スカイボーグ(Skyborg)」と呼ぶ無人機で今年後半の初飛行を目指している。この無人機に自律性のフライト・コントロールを搭載、小型、高速で有人戦闘機に代わり任務を遂行し、2023年末までに有人戦闘機に匹敵する性能を実証したいとしている。機体と自動操縦システムは別個で、後者は有人戦闘機向けに開発中の自動空戦アルゴリズム[ACT3]に少し手を加えて搭載する。これで「スカイボーグ」は、人工頭脳で飛行、操縦を行い自身でも戦闘行動可能な有人戦闘機の編隊列機(wingman)を目指している。エンジンは未公表だが、推力数千ポンド級の新型、低価格エンジンになることは間違いない。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week September 30-October 13, 2019 “Competition Heats Up for New Class of Small, Disposable Jet Engines” by Steve Trimble
Air Force Magazine 6/17/2019 “USAF Seeing Operator Interest in “Wingman” Drone as Valkyrie Progresses” by Brian Everstine
Air Force Magazine 7/10/2019 “AFRL to Test Skyborg Autonomy Algorithms This Summer” by Rachel S. Cohen
TokyoExpress 2019-03-16 “クラトス社試作の[XQ-58]無人戦闘機、初飛行に成功”
Flight Global 13 June, 2018 “P&W does Gator Works prototyping arm for new engines” by Stephen Trimble
Pratt & Whitney “Small but Powerful : The TJ-150
KRATOS Feb. 28, 2019 “Kratos Defense & Security Solutions Acquires Advanced Turbine Engine Developer Florida Turbine Technologies”
Flight Global 06 August 2019 “Analysis: USAF eyes revolution in small jet turbines” by Garrett Rein
Energy.Gov (Department of Energy) March 22, 2011 “Shirley Coates Brostmeyer: Changing the (Engineering) Game”