2019-10-14(令和元年) 松尾芳郎
図1:(防衛装備庁平成28年2月) 防衛装備庁が公表した「将来戦闘機」のイメージ。[26 DMU]とも呼ばれる。令和2年度防衛省要求予算で、開発を「事項要求」として計上した。承認されれば本格開発がスタートする。
防衛省は2020年4月から始まる新年度予算案に、「我国主導の将来戦闘機の開発」を予算金額を明示しない[事項要求]の形で計上した。
「将来のネットワーク化した戦闘の中核となる役割を果たすことが可能な戦闘機について、国際協力も視野にしながら我国主導で開発に着手することが必要不可欠である」と述べている。
(The Japan’s Defense Ministry proposes to launch Future Fighter development in the next fiscal year., saying it should proceed even if a hoped-for international partnership cannot be arranged.)
防衛省では、2010年(平成22年)から関連の要素技術、すなわち「統合火器管制技術の研究」、「ステルス製向上技術の研究」、「次世代アビオニクス技術の研究」、「次世代エンジン技術の研究」を続けており2020年度末にはほぼ所期の目的に到達する。さらに「統合火器管制技術の研究」は今後も続行、「指向性エネルギー兵器技術の研究」とともに、2030年代の完成を目標にしている。
(TokyoExpress 2018-11-24 “空自次期戦闘機「F-3」、2025年の初飛行なるか“を参照)
こうして重要な要素技術の開発が目標の域に達することから、防衛省は、2020年度を「将来戦闘機」の全面開発をスタートする年、と位置付けている。
2018年に公表された「将来戦闘機」は双発で、「編隊列機/loyal wingman」と呼ぶドローン(drone・遠隔操作型支援機)を随伴・戦闘を想定し、2030年台半ばに実戦配備を実現するのを目標としている。
「将来戦闘機」開発に関連した研究開発項目として令和2年度予算に計上した項目は次の通り;―
- 戦闘機のミッションシステム・インテグレーションの研究:117億円
戦闘機等の作戦・任務遂行能力の根幹となるミッションシステム(mission system)を、将来ともに我国主導で自由に行えるようにするため、必要な「ミッションシステム・インテグレーション(mission system integration)/統合化」技術の研究を進める。
図2:(防衛省)【「ミッションシステム・インテグレーション」のイメージ】図に加筆した図。
- 遠隔操作型支援機の研究:19億円
有人戦闘機を支援する遠隔操作型支援機(ドローン)に必要な編隊飛行に関する技術や遠隔操作に必要なマン・マシン・インターフェイス(man-machine interface)技術に関する研究を行う。本件は2019年度に8億円で実施したものの継続である。
(TokyoExpress 2016-10-11(平成28年)“空自、有人戦闘機と無人機の混成部隊が2030年に実現”を参照)
図3:(防衛省) “多用途小型無人機(TACOM)”は1995年から試験中で、母機[ F-15J ]から発射され前方に進出、偵察・攻撃を行い自律飛行で基地に戻る。写真は海上自衛隊硫黄島航空基地でテスト中の無人機、背景に見えるのは擂鉢山。左は防衛装備庁の塗装、右は空自機塗装。富士重工製で、長さ5.2m、幅2.5m、エンジンはteledyne製・推力500kg、重量700kg。
図4:防衛省)[ F-15J ]の左翼に取付けた小型無人機(TACOM)の拡大写真。無人機の上部にはエンジン空気取入れ口、下面にはセンサーを収めるキャノピーが見える。
- 「将来戦闘機開発官(仮称)」の新設
将来戦闘機開発体制の強化と開発を効率的に推進するために、防衛装備庁に「将来戦闘機開発官(仮称)」を新設し、その下に担当部署を設ける。
- 空対艦ミサイル[ ASM-3改 ]の開発:161億円
中国やロシアなど諸外国の艦艇に射程の長い対空火器の導入が進んでいることに対処するため、これを上回る長射程の対艦ミサイルを装備し、敵の射程外からスタンドオフ(standoff)攻撃をする必要性が高まっている。このため、先般開発を完了(2018年)したが量産配備に至っていない超音速空対艦ミサイル[ASM-3]をさらに改良、射程を延長して400 km程度にした能力向上型を開発する。
原型の[ASM-3]は、射程200 km、マッハ3の超音速対艦ミサイルで、固体燃料ロケットとラムジェット( IRR=integral rocket ramjet)の複合推進方式で、超音速で攻撃する。「シーカー」は、アクテイブ・レーダー・ホーミング(active radar homing)とパッシブ・レーダー・ホーミング(passive radar homing)の複合型で敵艦艇を探知・接近・着弾する。[ ASM-3改]では、搭載コンピューターを新型の[ ASM ](advanced mission computer)に変え、目標への誘導精度を高める。
米海軍の新型対艦ミサイル[ LRASM ]は亜音速マッハ1以下で飛翔し射程は800 km以上で、弾頭は450 kgの炸薬、] B1B ]長距離爆撃に搭載、運用を始めている。
(TokyoExpress 2018-01-13 “航空自衛隊、超音速空対艦ミサイル[ASM-3]を2019年から量産“を参照)
図5;(防衛装備庁技術シンポジウム2018 (平成30-11-13) 空対艦ミサイル[ ASM-3 ]の運用構想を示す図。
図6:(防衛装備庁技術シンポジウム2018 (平成30-11-13))空対艦ミサイル[ ASM-3 ]および[ ASM-3改]の概要。[ASM-3改]の重量は推定値。[ IRR/インテグラル・ロケット・ラムジェット]の「ロケット」部分には、最新の研究成果である“燃焼特性の異なる推進薬セグメント”を採用し、筐体は樹脂硬化「直巻・Filament Winding」ケースになるかも知れない。
- AESAレーダー等新型センサー
「新型センサー」は「窒化ガリウム[GaN= gallium-nitride]」素子で作る送受信ユニット(TR unit)を多数配列した[AESAレーダー]が基本、これに敵レーダー波を受感する[パッシブRFセンサー]と[赤外線カメラ(infrared camera)]を組み込み一体化したシステムとなる。開発におよそ10年を費やしたが、[F-2]試験機を使った2019年5-7月にわたる実証試験では、ステルス性目標の検知などで満足する結果を得た。
防衛省の話では、このレーダーは素子の持つ性能限界の高出力で作動するので探知距離が著しく伸びるという。
[F-2]戦闘機に搭載しているAESAレーダー[J/APG-2]は三菱電機製で[GaN]素子を使っている、一方主題の「新型センサー」は同じ素子を使うが東芝が開発・製造を担当している模様。
[パッシブRFセンサー]は機首前部の「新型センサー」に組込まれているが、これだけでは機体全周をカバーできないので、「将来戦闘機」では主翼・胴体などに、形状に合わせた[コンフォーマル・アンテナ(conformal antenna)]を取付ける。
「センサー・システムの統合化」とは、個別のセンサーからの情報を統合(融合)して一つの画像として表示することで、すでに[F-35 ]戦闘機で実用化されている。「統合化」を実現するには新ソフトの開発という難題がある。
(TokyoExpress 2018-07-16 “イージス艦用レーダー、日米が共同開発へ – レーダー技術進歩の歴史“、およびTokyoExpress 2018-12-18 “防衛装備庁、新戦闘機「F-3」用AESAレーダーを公開“を参照)
図7:(防衛装備庁/Aviation Week/Oshima Naoki)将来戦闘機 [仮称F-3 ] に使う「新型センサー」を、F-2戦闘機に搭載して飛行試験をした。「新型センサー」は、窒化ガリウム(GaN= Gallium-Nitride)製の[AESAレーダー]と敵レーダー電波を受信する[パッシブRFセンサー(passive radio-frequency sensor)]、それに[赤外線カメラ(infrared camera)]の3つを一体にしたシステムである。試験結果は満足できるものだった。将来戦闘機は2030年台半ばの配備予定なので、[新型センサー]の更なる改良には十分時間がある。
図8:(防衛装備庁)F-2戦闘機の機首に搭載された将来戦闘機用の新型センサー。新しい「AESA (active electronically scanned array)」レーダーは、F-2戦闘機で使用中のJ/APG-2レーダー・アンテナとほとんど同じ形、サイズ。防衛装備庁は2018年11月の東京国際宇宙展で展示公開している。このレーダーは、最新のセンサー・システムと一体化され、液冷システムを装備、アンテナ面を構成する多数の送受信ユニット(T/R unit)は[GaN ] 半導体素子製。送受信ユニットは一つ一つが小型レーダーで、電子的に高速でビームをスキャンし目標を探知する。
結び
防衛省予算要求書に掲載の(図2)「ミッションシステム・インテグレーションのイメージ」は見過ごされやすい絵だが、内容は上述のように「将来戦闘機」開発に関わる重要な項目を列挙し、予算措置を要求している。
ここには触れなかったが、関連技術として、これまでに先進技術実証機[X-2]の飛行試験終了(2017-10)、大出力エンジンIHI製[XF9-1]の試運転、あるいは機体構造の部分試作、などが行われており、これらを含めて要素技術の準備が進んでいる。
「将来戦闘機」が令和2年度から本格開発に入ることを期待したい。「将来戦闘機」は、中国・ロシアの軍事的圧力から国民と国土を守る有力な手段の一つ、と銘記すべきである。
それにつけても気掛かりなのは、最近の安倍首相の対中観、1月の施政方針演説で「日中関係は正常に戻った」、10月4日の演説で「中国とのあらゆるレベルでの交流拡大」を強調している。尖閣諸島の日本領海に恒常的に武装艦艇を侵入させ武力奪取の構えを見せる中国となぜ融和するのか、不可解である。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week September 16-29, 2019 “Japanese Ministry proposes ‘Launch’ of _future Fighter in Fiscal 2020” by Bradley Perrett
Aviation Week September 16-19, 2019 “Future Fighter Sensors Take to Air” by Bradley Perrett
防衛省(平成22-08-25)“将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン”
防衛省“我が国の防衛と予算―令和2年度概算要求の概要”
防衛装備庁技術シンポジウム2018 (平成30-11-13)“新空対艦誘導弾(XASM-3)の研究開発成果” by 石井崇
防衛装備庁技術シンポジウム2018 (平成30-11-13)”CFRPロケットモーターの高性能化の研究と今後の展望“ by佐藤寛、橋野世紀、中山久広、海老根巧
防衛装備庁技術シンポジウム2018 (平成30-11-13)”航空装備研究所における戦闘機の胴体関連技術“ by 石井翼、饗庭昌行、林利光
防衛装備庁技術シンポジウム2018 (平成30-11-13)“戦闘機用エンジン(XF9)の研究進捗状況について” by 枝広美佳、山根喜三郎、平野篤、及部朋紀
TokyoExpress 2016-10-11(平成28年)“空自、有人戦闘機と無人機の混成部隊が2030年に実現”
TokyoExpress 2018-01-13 “航空自衛隊、超音速空対艦ミサイル[ASM-3]を2019年から量産“
TokyoExpress 2018-01-22 “日英共同開発のMBDA「ミーテイア」ミサイル試射は2022年度”
TokyoExpress 2018-07-16 “イージス艦用レーダー、日米が共同開発へ – レーダー技術進歩の歴史“
TokyoExpress 2018-11-24 “空自次期戦闘機「F-3」、2025年の初飛行なるか”
TokyoExpress 2018-12-18 “防衛装備庁、新戦闘機「F-3」用AESAレーダーを公開“