令和元年度(2019)の緊急発進について


2020-04-14 (令和2年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部は令和2年4月9日付けで「令和元年度の緊急発進実施状況について」と題して報道向け資料を発表した。すでに周知の内容だが、ここに整理、取りまとめて紹介しよう。

全般:

令和元年度の緊急発進回数は947回、前年度より52回減少するものの、過去3番目の多さであった。内訳は対中国機が71 %、他は対ロシア機であった。

方面隊別の状況

北部航空方面隊が198回、中部航空方面隊が35回、西部航空方面隊が133回、そして最大は南西航空方面隊が581回の緊急発進を行なった。

過去5年間の推移を見ると、北部航空方面隊は200-300回程度、中部航空方面隊は30-60回程度なのに対し、西部航空方面隊は従来の70回前後から130回台まで増加している。さらに東シナ海に面し中国軍に対峙する南西航空方面隊は全体の緊急発進回数の過半を占めている。南西航空方面隊のさらなる増強が喫緊の課題であることを示している。

令和元年度の特徴

中国機に対する緊急発進回数は前年度対比37回増の675回に達した。特にH-6戦略爆撃機などによる宮古海峡通過飛行、新しいY-9早期警戒機の出現などが注目される。

ロシア機に対しては緊急発進回数は268回で、前年度より75回減少した。特にTu-95戦略爆撃およびA-50早期警戒管制機などによる我が国領空侵犯事件などが注目される。また新しいSu-34戦闘爆撃機が初めて我国防空識別圏(ADIZ)に姿を見せたのは注意すべきである。

中国のH-6爆撃機とロシアのTu-95爆撃機が東シナ海および日本海で共同飛行を行った件も注目される。

期間中に生じた領空侵犯は、図1に示すロシア機による3件である。

領空侵犯関連図

図1:(統合幕僚監部)令和元年度(2019)における領空侵犯の事例図。6月20日ロシア空軍Tu-95爆撃機2機が南大東島領空を侵犯、同日同じTu-95爆撃機1機が八丈島領空を侵犯、また7月23日にはロシア空軍A-50早期警戒機1機が竹島領空を侵犯した。ロシアが実効支配する国後島、択捉島の領空侵犯飛行については、統合幕僚監部は侵犯と見なしていない。

年度緊急発進回数と対中国機

図2:(統合幕僚監部発表数値をグラフ化した図)平成21年度(2009)から令和元年度(2019)期間における年度毎の緊急発進回数を示す。その内数の中国機に対する緊急発進回数を併記してみた。中国機に対する回数が著増しているのが分かる。

20-02 令和元年9ヶ月の緊急発進のコピー

図3:(統合幕僚監部)統幕発表の「緊急発進の対象となったロシア機および中国機の飛行パターン例」に各航空方面隊の担当空域を加えた図(TokyoExpress 2020-02-05”令和2年1月、我が国周辺における中露両軍に活動と令和元年度第三四半期までの緊急発進状況“)から転載。

令和元年方面隊別

図4:(統合幕僚監部発表数値をグラフ化した図)令和元年度(2019)における各航空方面隊別の緊急発進回数を示す図。スクランブル回数は、ロシア機を睨む北部航空方面隊と並んで中国機と対峙する南西航空方面隊が突出して多い。この傾向は過去5年間変わらない。

 

空自航空方面隊とは:

ここで航空方面隊の組織を戦闘機部隊を主にして復習してみよう。空自航空方面隊とは、1 – 2個(戦闘)航空団、1 – 2個高射群、1個航空警戒管制団、および整備その他の支援部隊で構成されている。

各航空方面隊所属の(戦闘)航空団とその隷下の飛行隊12個隊の配備状況は次の通りで、合計約280機の戦闘機が配置されている;―

(つまり1個飛行隊は戦闘機20機〜25機で編成されている)

北部航空方面隊(司令部-三沢):

・第2航空団(千歳基地)、第201飛行隊(F-15)、第203飛行隊(F-15)

・第3航空団(三沢基地)、第302飛行隊(F-35)

中部航空方面隊(司令部-入間):

・第6航空団(小松基地)、第303飛行隊(F-15)、第306飛行隊(F-15)

・第7航空団(百里基地)、第3飛行隊(F-2)、第301飛行隊(F-4)

西部航空方面隊(司令部-春日):

・第5航空団(新田原基地)、第305飛行隊(F-15)

・第8航空団(築城基地)、第6飛行隊(F-2)、第8飛行隊(F-2)

南西航空方面隊(司令部-那覇):

・第9航空団(那覇基地)、第204飛行隊(F-15)、第304飛行隊(F-15)

これで分かるように、北部航空方面隊と南西航空方面隊に手厚く配備されている。

 

「平成31年度(令和元年度/2019)以降に係る防衛計画の大綱(30大綱)」には、航空自衛隊について、「戦闘任務用として13個飛行隊、戦闘機約290機を整備する」と明記されているので今後の増強を期待したい。

 

―以上―