空自「F-15 J」の近代化・「F-15 JSI」改修で米側と合意/改訂版


2020-08-05(令和2年) 松尾芳郎

2020-08-06 改定(誤記の誤りの訂正と“終わりに”の追加)

 

三菱重工とボーイングは”直接民間取引(DCS-Direct Commercial Sale)方式で航空自衛隊が保有するF-15J戦闘機の大規模改修計画(JSI=Japanese Super Interseptor)を支援する契約を締結した。契約内容は、最初の2機の改修のために、ボーイングが図面、地上支援機材、技術仕様書、を用意する、2022年に開始して合計98機の改修を行う、というもの。

(Mitsubishi Heavy Industries and Boeing have signed a Direct Commercial Sales(DCS) agreement to Japan’s fleet of F-15J. Boeing will provide MHI with retrofit drawings, ground support equipment and technical publications for the upgrade of first two jet. And the upgrade will extend up to 98 aircraft beginning in 2022.)

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図1:(U.S. Air Force)ボーイング国防・宇宙・保安部門(Defense, Space & Security) セントルイス(St. Louis, Missouri)工場で組立て中の米空軍仕様の[F-15 EX]。

 

米空軍、[F-15 C/D]を[F-15 EX]に改修を決定

米空軍省は、2020年7月13日に保有するF-15戦闘機のうち最初の8機を[F-15EX]に改修する契約をボーイングと取り交わした。総額12億ドル(約1,300億円)/単価160億円になる。契約内容には[F-15EX]に関わる設計、開発、統合化、製造、試験、確認、証明取得、引渡し、維持、部品補給、支援機材、訓練用資料、技術資料、を含んでいる。

改修対象は旧式の[F-15 C/D]のうち144機で、そのうち8機分の改修費用は2020年度予算に承認済み、2021年には12機を改修する。これとは別に空軍は5カ年で[F-15 EX]を新たに76機購入する計画だ。

空軍の要求に基ずく[F-15 EX]は、兵装ラックに合計22発の空対空ミサイルを携行、赤外線探知・追尾センサー(infra-red search and track)、先進アビオニクス、AESAレーダーを装備、さらに構造寿命は20,000時間に延長される。

空軍の戦闘航空軍司令(commander of Air Combat Command)マイク・ホルムス将軍(Gen. Mike Holmes)は語っている;―

「旧くなったF-15 C/Dの能力を近代化するには[F-15 EX]に改修するのが最も適切で直ぐに着手できる。しかも[F-15 EX]は受領すれば直ぐに戦闘に参加できる」、[F-15 EX]は複座で大量の最新兵器を搭載できる。F-15 C/Dからの移行訓練も少なくて済み、支援機材の変更もほとんど必要ない。戦闘航空団が機種変更する際には戦力回復まで通常数年掛かるが[F-15 EX]の場合は数ヶ月で十分だ。」

在来の[F-15]と[F-15 EX]の大きな違いは、「オープン・ミッション・システム(OMS=Open Mission Systems)」アーキテクチャーである。「OMS」アーキテクチャーを組込む事で、最新の電子装備の取付け/変更が素早く行えるようになる。[F-15 EX]は、操縦系統はフライ・バイ・ワイヤ(fly-by-wire)となり、先進コクピット・システム、デジタル電子戦システム・ソフト、AN/APG82(V)1 AESAレーダー、を装備する。

米空軍調達本部副本部長(assistant secretary of the Air Force for Acquisition)の ウイル・ローパー博士(Dr. Will Roper)は次のように話している;―。

「[F-15 EX]の根幹は、オープン・ミッション・システム(OMS)と大きな搭載量である、これが我々が描いている将来のネット中心の戦闘にぴったり適合する。[OMS]で絶えずシステムをアップグレードして友軍とのデータ共有をすることが、増大する脅威に打ち勝つ手段であり、[F-15 EX]はそのための第一歩となる。」

最初の8機の[F-15 EX]は試験のためフロリダ州北西部にあるエグリン空軍基地(Eglin Air Force Base, Florida)空軍試験センターの第96試験航空団 (96th Test Wing)に配属される予定。2021年6月までに2機、残りの6機は2023年に引き渡される。それ以降の機体は、順次重要拠点に配備される。

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図2:( Boeing)[F-15EX]の完成イメージ。双発、複座で最大離陸重量37 ton、翼・胴体下面にハードポイントを増設、兵装搭載量は10 ton以上になる。翼付け根にはコンフォーマル燃料タンク(CFT)が描かれている。米空軍では複座型だがパイロット1名で使う予定と言われる。

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図3:(Boeing) [F-15 EX]が「Advanced F-15」と呼ばれていた頃、ボーイングが用意したシミュレーターのコクピット。操縦席前面には一枚の10 inch x 19 inchサイズに大型多機能LEDパネル、同形式の一枚パネルは[F-35]が採用している。写真中央下の“青・茶色”の円形はHSI(方位情報指示器)、左下の茶色四角はムービング・マップ(moving map)、その他TID(戦術情報表示器)、レーダー情報、赤外線探知情報、火器情報、エンジン関係情報などが表示される。

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図4:(Boeing) 2019年にボーイングが公表した[F-15 EX]の低空試験飛行ビデオの一こま、前席コクピットの大型パネルとヘッドアップ表示が写っている。

 

航空自衛隊、[F-15J] 98機の近代化改修を決定

2020年7月29日ボーイングは、三菱重工との間で航空自衛隊の[F-15J] の大規模改修 [JSI]をすることで契約を締結した、と発表した。防衛省は2020年度予算に2機分の改修費用として390億円を計上しており、内容は「スタンドオフ・ミサイルの搭載」、「搭載弾薬数の増加」、「電子戦能力の向上」のための改修、としている。

改修内容は、前述の米空軍が[F-15 C/D]を[F-15 EX]に改修する契約をボーイングと結んだものに準じており、対象は空自が保有する[F-15J]約200機のうちの98機となる。これはこれまで近代化改修をしてきた[ J-MSIP ] 適用済みの98機が今回の大規模改修計画(JSI) の対象となるためである。

2019年10月末に、米国政府の国防保安協力局(DSCA=Defense Security Cooperation Agency)は空自の[F-15J]戦闘機の大規模改修計画(JSI)用としてAN/APG82(V)1レーダー 98機分の輸出、総額45億ドル(約4,700億円)、を承認した。今回の三菱・ボーイングの”直接民間取引(DCS-Direct Commercial Sale)”契約は、この政府承認の“45億ドル案件”の一部をなすものである。

レーダーはレイセオン製の最新型AN/APG82(V)1レーダーを搭載する。これは、海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネットに搭載するAPG-79とほぼ同じで、米空軍の[F-15 E]に搭載済み、これから[F-15EX]にも搭載する。

この中には、予備としてレーダーを6台、ハニウエル製Advanced Display Core Processor II (ADCP II)ミッション・コンピューターを116セット、BAE Systems製AN/ALQ-239デジタル電子戦システム101台、GPS妨害排除システム、それに機体構造の強化などを含んでいる。

[F-15J]の操縦系統は電気式操舵力増強システム(CAS=Control Argumentation System)と

油圧アクチュエータで構成されているので、フライ・バイ・ワイヤ(FBW)システムへの変更は見送られる模様。

これまで空自の[F-15J]は殆ど対地攻撃能力を有していなかったが、今回[F-15EX]改修/大規模改修 (JSI=Japanese Super Interceptor)が実施された[ F-15JSI ]機は、これまでの単なる迎撃機ではなく、対地・対艦攻撃能力を備えた多目的戦闘機(multi-roll fighter)に生まれ変わる。つまり新しく多目的戦闘機が98機が配備されることになり、これで我が国の防衛力は著しく向上し、中国などからの不測の攻撃に対する大きな抑止力となる。

F-15JSI

図5:(Boeing) ボーイング公表の近代化改修後の[F-15JSI]のイメージ。胴体下面にはスタンドオフ・ミサイル[AGM-158B JASSM-ER ]は翼を折り畳んだ状態で搭載される。翼下面のハードポイント数は[F-15J]のまま、またコンフォーマル燃料タンクも描かれていない。

 

“スタンドオフ・ミサイル(stand-off missile)”とは、敵の防空システムの射程外から攻撃可能な対地・対艦ミサイルのことで、ロッキード・マーチン(Lockheed Martin)開発の[AGM-158B JASSM-ER ]を指している。2018年12月閣議決定の「31中期防衛力整備計画」に”[F-15J]を改修して装備する”と記載されている。

[F-15JSI]に搭載するスタンドオフ・ミサイル[AGM-158B JASSM-ER]は、2009年から使われている基本型AGM-158Aの改良型で、2017年から生産されている。射程930 km 以上、重量約1 ton、長さ4.3 m、ステルス形状で亜音速で飛翔する。誘導はGPS/INS、終末誘導は赤外線画像誘導(IIR)で行う。[F-15]、[F-35]などに搭載可能。

なおこれを改良して射程延長を目指す[AGM-158D JASSM-XR]の開発が始まっており、こちらは重量2.3 ton、射程距離を1,900 kmに伸ばす。

AGM-158 JASSM

図6:[AGM-158 JASSM (Joint Air-to Surface Standoff Missile)]は、地上の固定目標および移動目標を正確に破壊するステルス巡航ミサイル。改良型長距離[AGM-158B JASSM-ER]はアラスカ(Alaska)のロッキード・マーチン社トロイ(Troy)工場で空軍向けに4,900発を製造中。

 

F-15の概要

F-15は、現在ボーイングの傘下となったマクドネル・ダグラス(McDonnel Douglas)が設計した双発・全天候、対地攻撃も可能な高速・高機動の制空戦闘機。48年前の1976年に初飛行、1976年から米空軍で配備が始まった。米空軍の他に日本の航空自衛隊、サウジアラビア空軍、イスラエル空軍、が採用している。F-15A/B/C/D/J/DJ などがあり合計1,200機ほどがボーイング「国防・宇宙・保安部門(Defense, Space & Security)」などで製造された。このうちF-15Jおよび同DJは航空自衛隊仕様の機体である。

1980年代から対地攻撃能力を強化した多目的戦闘機[F-15E]が出現、米空軍の他にサウジ、イスラエル、韓国の空軍が採用、500機ほどが作られている。

空自の[F-15J]は単座で[F-15C]に相当、2機がセントルイス(St. Louis, Missouri)工場で、140機ほどが三菱重工でライセンス生産された (1981-1997)。[F-15DJ]は複座で12機がセントルイスで、25機が三菱重工で作られた。

[F-15C]の要目は次の通り。

全長19.4 m、翼幅13 m、最大離陸重量31 ton、エンジンP&W製F100-PW-220アフトバーナ付きターボファン推力23,700 lbs  2基。最大速度マッハ2.5(2,650 km/hr)、戦闘行動半径約2,000 km、上昇限度20,000 m。兵装は、ハードポイント11箇所に合計7.3 tonの各種ミサイル、爆弾、増槽などを搭載できる。

アビオニクスは、ヘルメット・マウンテッド・キューイング・システム(Helmet Mounted Cueing System/ヘルメット搭載式視認装置)、レーダーはレイセオン製AN/APG-63か同-70、またはレイセオン製AN/APG-63(V)2または同3の AESAレーダーを装備。

[F-15E]の要目は;―

多くは[F-15C]と同じ、相違点は、最大離陸重量36.7 ton、戦闘行動半径1,270 km、兵装搭載量10.4 ton。レーダーはレイセオン製AN/APG-70またはAN/APG-82、いずれも最新のAESA(Active Electronic Scanned Array)型レーダーを装備する。

 

終わりに

空自[F-15J]の大規模改修について防衛省は、[F-15JSI]つまり「F-15J Super Interceptor / F-15Jスーパー迎撃機」計画と呼んでいるが、これは我が国一部マスコミが執拗に繰り返す“言葉狩り”を避けるための姑息な手段である。

[F-15JSI]は、本稿記載の通り米空軍が採用する[F-15EX]と同等の対地・対艦攻撃能力を備えた強力な多目的戦闘機/マルチロール・ファイターである。

[F-15JSI]と[F-15EX]の間に多少の違いがあるのは述べてきた通りだが、目標である「スタンドオフ・ミサイルの搭載」および新型レーダ搭載と大型デイスプレイを含む「電子戦能力の向上」は変りなく、共に最新の多目的戦闘機化を目指している。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Janes 29 July 2020 “MHI, Boeing sign DCS agreement to upgrade Japanese F-15L fleet” by Gareth Jennings

Flight Global 29 July 2020 “Boeing, MHI contract sets stage for major Japanese F-15J upgrade” by Greg Waldron

U.S. Air Force News July 13, 2020 “DAF awards contract for first lot of F-15EX fighter aircraft” by Secretary of the Air force Public Affairs

Aviation Week network 2020-08-01 “MHI will act as prime contractor for the up grade of 98 F-15J fighter”

Air Force Technology 29 July 2020 “Boeing and MHI sign agreement to upgrade Japan’s aging F-15J fleet”

航空万能論GF 2020-07-29 “ボーイングと三菱重工が契約締結、2022年からF-15JSIへの回数開始“ by 航空万能論GF 管理人

Air Force Technology “AGM-158 JASSM (Joint Air-to-Surface Standoff Missile)”

Defense News October 30, 2019 “Japan gets US nod for $4.5 billion F-15 upgrade package” by Mike Yeo

Defense News July 31, 2020 “Boeing and Mitsubishi sign agreement to support Japan F-15 upgrades” by Mike Yeo