2020-12-16(令和2年)斎藤 隆
図1:飛行中のホンダジェット 特徴的な鼻先とエンジンに注目(Homepageから引用)
はじめに
ホンダジェットは本田技研工業の航空事業会社であるホンダ・エアクラフト・カンパニー(社長:藤野道格氏)が製造販売をする小型ビジネスジェット機である。小型ジェット機カテゴリーにおける出荷数で2017年から3年連続で世界一を達成している。ホンダジェットに関しては、既にTokyoExpressに解説済みだが、ここでは過去数年間に公表されている様々なニュースのなかから、主にパイロットの視点で書かれた記事をもとに、ホンダジェットの特性をまとめてみた。大型機では当たり前の機能だが、それがホンダジェットにも!とか、大型機にもない機能だ!とか、まるでホンダ・レジェンドのようだ!とか、感想は様々であるが、ホンダ精神が飛行機設計製造にも現れていることがわかる。(ちなみにホンダジェットはボーイング 737MAXと比較してカタログ価格にして約1/20ととても「お求めやすい」。とはいうものの、ホンダの高級車ホンダ・レジェンド100台分の値段。)
ホンダジェットの位置づけ
ホンダジェットは、いわゆる超軽量ジェット機と呼ばれるカテゴリーであり、米国連邦航空規則パート23(耐空性基準: ノーマル、ユーティリティー、アクロバット、コミューターカテゴリー航空機)に基づいて2015年に認証されている。【18】その後、エリートと呼ばれる改良型が2018年に完成した。パイロットひとりでの運航が可能である。
ホンダジェットの生みの親である藤野道格氏は、ホンダジェットの開発に先行してミシシッピー州立大学の航空研究室でプロトタイプ(MH-01)の開発を行い【30】、その飛行試験も行っている。【4】このとき管轄していたのが米国連邦航空局アトランタ事務所(Atlanta Aircraft Certification Office)であり、ホンダジェットの拠点であるノースカロライナ州が同じアトランタ事務所の管轄であることもホンダジェットの開発がスムーズに進んだ遠因であるかもしれない。
価格は装備にもよるが5億円から6億円程度。【32】(ホンダ・レジェンドは600万円程度、737MAXは100億円程度) 2018年に発表された「エリート」とよばれる改良型はオリジナルに比べ数々の改善がなされているが、多くは改修キット(APMG: Advanced Performance Modification Group)として2,500万円程度で提供されている。【14】(以下の説明はエリートが中心)
ホンダジェットの競合機種
ホンダジェットと競合する超軽量ジェット機は、テクストロンアビエーションのセスナ・サイテーションジェット M2、エンブラエルのフェノム 100EVなどである。詳しくは2018/05/15寄稿を参照。
外観
機体前方部分は気流を層流状態に保ち空気抵抗を減少させる特異な形をしている。【8】
燃料搭載は垂直尾翼の付け根に設けられている燃料注入口(1箇所)から自動車と同じように給油する(Gravity Feed)。オリジナルでは、満タンになる直前に燃料が漏れ出し作業者にかかる問題があったので、エリートでは満タン直前に給油の勢いを抑えるように促すランプが点灯するように改修されている。【3】
主翼は腰の位置にある。【8】超軽量ジェット機は「車高」が低くなり、主翼下面と地上との隙間が狭いので、エンジンの取り付け位置は胴体後方というのが常識であるが、ホンダジェットは主翼上面後方に取り付けられている(OTWEM: Over the Wing Engine Mount)。エンジンを翼の上に取り付けるのは極めてユニークで業界からは疑問視されたが、風洞試験での結果を踏まえ絶妙な位置にエンジンを取り付けたことによりこの常識を覆し、空気力学的抵抗を減少させ、性能と燃費が著しく改善された。【11】また客室内騒音が低くなり、同時に地上での騒音レベルも低減された。【2】
図2:正面から見たホンダジェット。主翼の上に取付けられたエンジンの位置がよく分かる。参考文献【5】より引用
操縦室
「一見、高級車のよう。よく見ても高級車」
操縦室はGarmin社のG3000システムで構成され、ホンダジェット用にカスタマイズされている。ちなみに競合機種のサイテーションジェット M2、フェノム 100EVもG3000を採用している。【2】
操縦室の天井にはスイッチや計器類はついていない。
図3:ホンダジェットの操縦席(天井にスイッチ類がない)。参考文献【11】より引用
図4:ホンダジェットの操縦席。操縦室の座席というより、高級車のレザーシートという感じ。参考文献【2】より引用
高解像度で横長の主要飛行情報ディスプレー(PFD: Primary Flight Display)が左右に一台ずつ、多機能ディスプレイ(MFD: Multi-Function Display)が中央に一台装備されている。また左右パイロットシートの間にはタッチパネル(TSC: Touch Screen Control Unit)が2台装備されている。【7】 タッチパネル(TSC)に表示されるメニューをタップ、スワイプ、スクロール、ピンチすることにより(このあたりは完全にタブレットの世界)、必要な情報を主要飛行情報ディスプレー(PFD)/多機能ディスプレー(MFD)の好みの場所に表示することができる。
表示できる情報は非常に多岐にわたる。航法関連の情報、気象情報、近くを飛行する航空機の情報などの他に、ドアの開閉、エンジンオイルの量、各タンクの燃料搭載量、油圧、空調、電気システムなどの作動状況などもひと目でわかる。【2】
操縦桿はサイドスティックではなく普通のもので、よく使う機能を親指や人差し指で制御できるように操縦桿に複数のスイッチやダイヤルが装備されている。
主要飛行情報ディスプレー(PFD)も操縦桿も左右に装備されているが、パイロット1名で運航できるように設計されている。【2】
車やパソコンの感覚からすれば当たり前だが、一世代前の小型機からすると大きな進歩が感じられる。ただし、車では当たり前の外部監視カメラは装備されていない。
客室
客室も「一見、高級車のよう。よく見ても高級車」
図5:ホンダジェットの客室を前から後ろに見た写真。一番うしろが個室トイレ。ドアが閉まっている所。参考文献【2】より引用
超軽量ジェット機にしては珍しく、オプションとして客室後方に個室トイレを配置することができる。このオプションを採用すると、トイレにはシートベルトが装備されているので客席として使用することもできる。中には手洗い用のシンクが装備されており、天窓から明かりが採れるようになっている。トイレのドアはダブルアクションで左右に閉じた上で上下の隙間も閉じ、完全な個室となる。(上下の隙間すら閉じるところは、さすが日本感覚)さらに、汚物の処理を機外から行うことができる。(競合機種の場合は室内から外に運び出さなければならない。)【2】【3】
客室の窓はボーイング 787と同様、電気的に光の透過率を変えて遮光する。【2】
ドアを開く(下げる)とタラップになる。階段部分には滑り止めが施されており、ドアをたたむと、階段部分の裏側が小さなテーブルになるようになっている。滑り止めはハイヒールでも滑らないよう、またヒールがはまり込まないよう配慮されている。
エンジンを胴体後部ではなく主翼上面に取り付けたこと(OTWEM: Over the Wing Engine Mount)により、客室部分は均一の幅となっており、客室デザインの柔軟性が向上している。さらに、胴体後方にかなり広い貨物スペースが確保されている。【8】
飛行前準備
エンジン始動前の点検は主要飛行情報ディスプレー(PFD)の左半分にエレクトロニックチェックリストを表示して行う。右半分には速度、高度、姿勢などの飛行計器が表示されている。(表示位置はパイロットの好みで選択できる)チェックリストの操作は操縦桿にあるダイヤルで行うことができる。
基本的にはすべてのスイッチがノーマル/オン(NORM/ON)位置にあること、すべてのロータリースイッチが12時位置にあることを確認すれば良い。【3】
エリートには重量重心位置や性能計算をする機能があり、重量とその搭載位置のデータを入力すると離陸時の重量重心位置と燃料消費に伴う重心位置の変化がグラフで表示される。
気象データを衛星通信経由で自動的に取り込む機能もあり、氷で覆われた状態(ICY), 雨などで濡れている状態(WET), 乾燥している状態(DRY)などの滑走路条件さえ手動で入力すれば離陸速度(V1, VR, V2)、必要滑走路長、一つのエンジンが停止したときの上昇性能などが自動的に計算され表示される。【2】
これらの出発前の準備はパイロット1名でも数分で完了できる。
エンジンスタートボタンを押しスラストレバーをアイドル位置まで進めると、エンジンが自動的に始動する。【2】
タクシー(地上走行)
地上走行時のステアリングは操縦室からの指示を電気的に伝え、前輪を油圧で制御する(Steer by Wire)。低速で効きが良すぎるというコメントもあるが、逆に左右のエンジン推力を操作することなくタイトなターンが可能であるとの意見もある。【3】
「Surface Watch」という機能により、タクシー中に滑走路を横切る際は自動的に機体の着陸灯とストロボが点灯し、横切り終わると自動的に消灯する。衝突防止灯やナビゲーションライト、タクシーライトなどの点灯・消灯、自機情報自動応答装置(Transponder)、防氷装置などのオン・オフはすべて自動で行われる。(必要があれば手動でオン・オフすることは可能)【2】
「SafeTaxi」機能と主要飛行情報ディスプレー(PFD)の合成ビジョン機能により、空港の地図上に自機の位置と複雑なタクシー経路、地上走行中の他機の位置なども表示できる。危険な状態を察知した場合は、画面と音声での警告を発生する。【7】
離陸
自動操縦機能はタッチパネル(TSC)を用いて詳細に設定することができる。【7】
スラストレバーにある離陸/ゴーアラウンド(TO/GA)ボタンを押すと、上昇時に目標とするピッチ角度が主要飛行情報ディスプレー(PFD)に表示される。この角度は、離陸時のフラップ角度やエンジンの状況をもとに計算されている。【2】 性能計算に用いたフラップ角度と異なるフラップで離陸しようとすると、スラストレバーを進めた途端に離陸警報が作動する。
離陸滑走路に進入すると、機体に装備された灯火、防氷装置、トランスポンダーなどが自動的にオンとなる。【2】
離陸のために、スラストレバーを手動で離陸位置まで進める。【3】エンジン出力はで自動的に定格出力を維持するよう制御される。【2】
速度は主要飛行情報ディスプレー(PFD)上のスピードテープ(縦型の速度計)で表示される。大雑把な感覚としては、110ノット(時速204キロ)でV1、115ノット(時速213キロ)で引き起こし、離陸上昇時の目標ピッチ角は15度程度となる。【7】
小さめの主翼と、エンジンを胴体後方ではなく主翼に取り付けたことのディメリットは、離陸時のスピードが早くなり離陸滑走路長が長くなることである。例えば、ホンダジェットの離陸安全速度(V2)は120ノット(時速222キロ)であるが、競合機種のフェノム 100EVは98ノット(時速182キロ)、サイテーションジェット M2は110ノット(時速204キロ)である。離陸滑走路長はエリートが3,500フィート(1,067メートル)、フェノム 100EVが3,123フィート(952メートル)、サイテーションジェット M2が3,210フィート(978メートル)である。【4】
上昇が確認できたら着陸装置とフラップを上げる。着陸装置を上げたり、フラップを上げたりすると、大きな頭上げ、頭下げの反応を伴う飛行機があるが、エリートではこのような反応は発生しない。【7】
ピッチとロールのトリムは操縦桿のボタンを親指で動かして調整できる。【7】
上昇
フラップを上げた後、スラストレバーを「離陸」位置から「最大連続推力位置」まで戻す。【3】 自動操縦装置は500フィート(152メートル)でオンにすることができる。【21】
最適上昇速度は210ノット(時速390キロ)で、高度10,000フィート(3,048メートル)近辺では毎分3,400フィート(毎分1,036メートル)程度の上昇率が得られる。【7】
主翼の防氷装置はエンジンからの抽気が使われているので、これをオンにすると上昇率はかなり低下する。ある条件で高度35,000フィート(10,668メートル)を毎分1,700フィート(毎分520メートル)で上昇中に主翼の防氷装置をオンにすると上昇率が毎分500フィート(毎分150メートル)に減少する。【2】
一方、水平尾翼の防氷はエンジンからの抽気ではなく、電気的な振動を与えて氷が張り付かないようにする方式を採用しているため性能に大きな影響はなく、また、この振動に伴う騒音はほとんど気にならない程度である。【2】
最大離陸重量、標準大気状態で高度41,000フィート(12,497メートル)まで上昇するのに20分程度かかる。競合機種と比べると上昇性能は良い。【3】
巡航
最大巡航高度は43,000フィート(13,106メートル)であり、競合機種より2,000フィート(610メートル)高い。巡航速度はマッハ0.7程度(時速780キロ)。【2】燃費はリットルあたり2.2キロメートル程度である。ホンダの高級車レジェンドで高速道路を移動することと比較すると、速度は7倍、燃費は1/7程度。
エリートの場合、4名の搭乗者を載せた状態での航続距離は1,437海里(2,661キロメートル)。【3】途中一回の給油で米国を横断できる。北海道から沖縄までは無給油で飛行が可能である。
操縦室内も客室内も大変静かである。これは、エンジンが胴体ではなく主翼上面後方に装備されていること(OTWEM)が大きな要因である。【2】エリートはエンジン空気取入口近辺の処理(Perforated Inlet:小さな穴を空気取り入れ口に多数あけた)を改善したことにより、騒音は更に静かになっている。【2】
自動操縦装置の一つの機能として巡航速度制御(CSC: Cruise Speed Control)がある。高度維持モード(ALT HOLD)のときに、限定的な範囲で推力を調節し速度を維持する機能である(スラストレバーは動かない)。パイロットがスラストレバーを動かすと、この機能は解除される。【17】 これはオートスロットルと呼べる機能ではないが、巡航中のパイロットの負荷を低減するのに有効である。
降下
スピードブレーキは、機体の尾部が貝殻のように左右に開くタイプであり、エリートにオプションとなっている。【2】スピードブレーキは静かで効果的であるため、人気のオプションである。
図6:機体を後ろから見た写真。スピードブレーキ(尾部が左右に開く)。参考文献【31】より引用
降下だけでなくすべての飛行状態で言えることであるが、主翼の面積に対して重量が(翼面荷重)が大きいので、気流が悪い状態での乗り心地は比較的良い。【2】
TCSに着陸する滑走路を入力し、衛星通信経由で気象情報を取り込むためのボタンを押すと、即座に必要な滑走路長や着陸進入速度(Vref)が表示される。
着陸進入速度(Vref)は107ノット(時速200キロ)程度である。【7】
着陸
着陸は、自動操縦を切り手動で行う。【7】(自動着陸をすることはできない。)
電波高度計が50フィート(15メートル)になったところでスラストレバーをアイドルに引いていく。【2】 ホンダジェットは「車高」が低いので、地面効果の影響を受けやすく、進入中のピッチ角(頭上げ3度くらい)を維持したまま、ほとんど機首を上げずにそのまま着陸する感じである。(「車高」が高く地面効果が弱い飛行機は、着陸時に頭を上げてソフトに接地するような操作をする必要がある。)
逆噴射装置(Thrust Reverser)は装備されておらず、また主翼にスポイラーがないので、着陸後に揚力を急激に減らしブレーキの効きを強めることができないが、2,500フィート(762メートル)程度で停止できる。
Garmin G3000の「Surface Watch」機能が着陸時も作動しており、滑走中に残りの滑走路長を読み上げてくれる。【2】
着陸後は、離陸前と同様、衝突防止灯やナビゲーションライト、タクシーライト、着陸灯などの点灯・消灯、トランスポンダー、防氷装置などのオン・オフはすべて自動で行われる。
ゴーアラウンドを行うときは、スラストレバーにある離陸/ゴーアラウンド(TO/GA)ボタンを押しスラストレバーを手動で離陸推力位置(TO)まで進める。オートパイロットがスムーズにピッチ角を目標ピッチ角(約12度)まで引き上げていく。【3】
飛行のフェーズを追って代表的な操作を見てきたが、以下に、飛行フェーズごとには書ききれなかった機能をまとめて紹介しておく。
図7:ホンダジェットの計器類。参考文献【12】より引用
高速飛行時の安全性
スラストレバーを進めていき速度超過に近づくと、警告音とともに主要飛行情報ディスプレー(PFD)上に「MAXSPD」が表示され、更に加速すると自動操縦装置が機首を上げて減速する。
低速飛行時の安全性
「フラップ上げ・着陸装置上げ」のクリーンな形態でスラストレバーを引き(推力が減少する)高度を維持しながら操縦桿をゆっくり引き速度を減少させていくと、重量や高度などにもよるが約106ノット(時速196キロ)でスティックシェーカー(操縦桿をガタガタと振動させて失速が近いことを警告する)が作動する。着陸形態では、約91ノット(時速169キロ)でスティックシェーカーが作動する。【3】
低速域保護機能(USP: Under Speed Protection、オプション機能)をオンにして減速していくと、注意喚起のためにスピードテープ(縦型の速度表示)の下に迎え角表示がポップアップする。主要飛行情報ディスプレー(PFD)に「MINSPD」が表示され「Airspeed」の音声警報が発せられる。自動操縦装置の高度維持モード(ALT HOLD)が選択されている場合でも、スティックシェーカー速度まで速度が落ちると自動操縦装置は機首を下げ、失速を回避する。【2】
更に、ホンダジェットにはピッチ・リミット表示機能が装備されており、現在のフラップ角度などをベースにスティックシェーカーが作動するピッチ角を示す。パイロットにとって低速側の状況認識を高めるとともに、ウィンドシアーに遭遇したときなどは、このピッチ角を目指して操縦桿を素早く引いていくことにより最適な回避操作が可能となる。【5】
ロールの安全性
安定性保護機能(Stability and Protection、オプション)をオンにすると、自動操縦装置が働いていない状態でも、45度を超えてバンクさせようとすると操縦桿が重くなり、力を緩めると30度のバンクに戻る。【3】
片側エンジンが不作動となった場合の安全性
片側のエンジンが不作動となると、機体が故障したエンジン側に首を振る。これを補正するために、パイロットは逆側の方向舵(ラダー)ペダルをかなり強く踏み込む必要がある。この操作を補助しラダーペダルを踏む力を軽減するために、ラダーバイアス機能が作動する。【3】
氷結気象状態などでの飛行
効率良い安全な運航を可能とするために、氷結気象状態での飛行やRVSM(Reduced Vertical Separation Minima: 高高度で上下の間隔を2,000フィート(610メートル)でなく1,000フィート(305メートル)で飛行することができる空域での運航)などの承認も取得している。【4】
衝突防止と管制官とのデータ通信
自機情報応答装置(Mode-S Transponder)を2系統、衝突防止システム(TCAS II)、管制官とパイロット間の航空交通管制のためのデータリンク通信(CPDLC)が装備されている。【2】【7】
気象情報
衛星通信を経由してXM衛星気象サービス(XM Satellite Weather Service)を利用することにより、様々な気象情報をリアルタイムで入手できる。XM衛星気象サービスは北米を中心に船舶や航空機などに様々な気象情報をスブスクリプションベースで提供している。XM衛星気象サービスから提供される情報は気象レーダー画像として画面に表示されるだけでなく、上空の風、気温を取りこむことにより、上昇、巡航、降下の飛行計画をアップデートしていく。【2】【7】
地上走行の安全
地上では、Garmin社の 「SafeTaxi機能」と主要飛行情報ディスプレー(PFD)の合成ビジョン機能により、空港の地図上に自機の位置と複雑なタクシー経路、地上走行中の他機の位置なども表示できる。危険な状態を察知した場合は、画面と音声での警告を発生する。【7】
ターゲット速度の速度計への自動表示
性能計算の結果やウェイポイントでの速度制限などをもとにスピードバグ(スピードテープ上に、ターゲットとする速度を示す印)を自動的にセットする機能がある。ターゲット速度が変化した場合はパイロットに音で注意を喚起する。【5】
最後に
このように、ホンダジェットは基本的に優れた特性を持ち、高速度で高高度を飛行することが可能である。この機能をパイロット一人で運用し、安全で、効率的で、乗り心地の良い飛行が可能となるように、場合によっては大型旅客機と同等あるいはそれ以上の自動化が行われていることがわかる。最近の乗用車に使用されその安全性が証明されている機能なども積極的に取り入れられている感がある。
米国連邦航空規則パート23は、冒頭にも記したように単発ピストン小型機からホンダジェットのような高性能ジェット機、更にアクロバット機、コミューター機までを対象としていたが、広いスペクトラムを一つの基準でカバーするべきかの議論があり、現在では米国連邦航空規則パート23はノーマルカテゴリーの飛行機を対象としたいわゆる「Performance Based Rule」に変更されている。【19】【20】
参考文献
【1】TokyoExpress “「ホンダジェット」、好調な受注で月産6機体制へ” ; 2018/5/15
【2】“Aviation Week Network/Business Aviation Digest” by Fred George; 2020/10/19
【3】“Flight Global/Why ホンダジェット エリート is a class apart” by Mike Gerzanics; 2020/10/7
【4】“Business & Commercial Aviation: ホンダジェット” by Michimasa Fujino; 2016/06
【5】“Flying Magazine/We Fly: ホンダジェット エリート” by Pia Bergqvist; 2019/8/15
【6】“Honda EU/Honda Aircraft Company Announces Further Significant Milestones in Development of ホンダジェット; 2013/5/21
【7】“Ultimatejet.com/Go Fly The Honda Way!” by Greg Cellier; 2017/9/26
【8】“AOPA PILOT/Unveiling the Mysterious ホンダジェット” by Thomas Haines; 2005/5
【9】“Aviation Week/Techs to Watch” by Graham Warwick; 2010/1/25
【10】“AINonline/FAA Revises VLJ Certification Rules” by Paul Lowe; 2011/12/2
【11】“Global.Honda/Design Innovation”
【12】“ホンダジェットエリート.com/Brochure”
【13】“AOPA/ホンダジェット エリート: Honda’s E Ticket” by Thomas B. Haines; 2020/3/1
【14】“GlobalAir.com/ホンダジェット エリート HA-420”
【15】“GlobalAir.com/ホンダジェット HA-420”
【16】“Federal Register/Special Conditions: HACI, HA-420 Airplane; Single-Place Side-Facing Lavatory Seat Dynamic Test”; 2018/3/16
【17】“Federal Register/Special Conditions: HACI Model HA-420, ホンダジェット; Cruise Speed Control System”; 2015/10/30
【18】“FAA/TC Data Sheet No. A00018AT”; 2015/12/8
【19】“FAA/Part 23 – Small Airplane Certification Process Study”; 2009/7
【20】“FAA/New Certification Rule for Small Airplanes Becomes Effective; 2017/9/5
【21】“FAA/FSB Report Rev 1, Honda Aircraft Company HA-420; 2016/8/28
【22】“FAA/FSB report Rev 2, Honda Aircraft Company HA-420; 2019/2/13
【23】“Wikipedia/Business Jet”
【24】“Wikipedia/Very Light Jet”
【25】“Wikipedia/Beechcraft King Air”
【26】“Wikipedia/Cessna サイテーションジェット M2”
【27】“Wikipedia/Embraer Phenom 100”
【28】“AircraftCompare.com/Beechcraft King Air C90gti – Price, Specs, Photo Gallery, History”
【29】“EVOJETS/Citation M2 Ownership Overview”
【30】”Harvard Business Review/Flying into the Future: ホンダジェット” by Gary P. Pisano and Jesse Shulman; 2018/1/9
【31】”FLYING/ホンダジェット Redefines the Light Jet Category” by Pia Bergqvist; 2016/6
【32】”Wikiedia/ホンダジェット HA-420”