航空宇宙2021年の注目すべき事項―無人編隊列機から水素燃料エンジンまで


2021-01-19(令和3年) 松尾芳郎

 

エビエーション・ウイーク誌は新年号で、同誌のベテラン記者グラハム・ワーウイック氏が書いた「2021年の航空宇宙関係で注目すべき事項・9項目」を掲載した。この内から6項目を選び以下に紹介する。

(On Aviation Week / Dec 21 2020 – Jan 10 2021, Graham Warwick describes titled “Watchpoints 2021” covering nine items from royal wingman to hydrogen propulsion. Of which six items trying to explain herewith.)

 

  1. 有人戦闘機と編隊を組む無人機

 

有人の友軍機と編隊を組む”忠実な編隊列機”、”ロイヤル・ウイングマン( Loyal Wingman)”、の試験飛行が今年行われる。一つはボーイング・オーストラリアのエアパワー・チーミング・システム(Airpower Teaming System)が開発するもの、もう一つは米空軍の”スカイボーグ(Skyborg)” 原型機である。

 

ボーイング・オーストラリアの「ロイヤル・ウイングマン」

スクリーンショット 2021-01-19 15.27.02

図1:(Boeing) ボーイングが開発中の無人機「ロイヤル・ウイングマン」は昨年末(2020-12-21)に最初の高速タキシー・テストに成功した。試験は、ボーイング・オーストラリアとオーストラリア空軍により僻地の空軍基地で実施された。2021年初頭に初飛行する予定。「ロイヤル・ウイングマン」は、全長11.7 m、航続距離は3,700 km以上。「情報・監視・偵察 / ISR=intelligence, Surveillance and Reconnaissance」装置を搭載、早期警戒機の役割を担う。

F-15と編隊を組むATS

図2: (Boeing) 有人戦闘機と編隊飛行をする無人機「ロイヤル・ウイングマン 」の想像図。

 

米空軍研究所の「スカイボーグ」

skyborg

図3:(AFRL) 米空軍研究所( AFRL=U.S. Air Force Research Laboratory) が開発中の「スカイボーグ(Skyborg) 」無人機。低価格で、空軍の有人機とチームを組み、敵の攻撃を素早く阻止する自律能力を備える。小型、高速で有人戦闘機に代わり任務を遂行し、2023年末までに運用可能なレベルにしたいとしている。自動操縦システムは有人戦闘機向けに開発中の自動空戦アルゴリズム[ACT3]に手を加えて搭載する。これで「スカイボーグ」は、人工知能で飛行・操縦を行い自身でも戦闘行動ができる無人戦闘機になる。エンジンは未公表だが、推力数千ポンド級の新型、低価格エンジンになる。

空軍の「AFLCMC=Air Force Life Cycle Management Center」は、有人機と編隊を組み作戦を遂行する無人機「スカイボーグ」原型機の試作を次の3社と締結した(2020-12-10)。いずれも24ヶ月以内に完成するという条件。

ボーイング… … …… … … … … … $25,700,000

(The Boeing Co.,)

ゼネラル・アトミックス … … … … $14,300,000

(General Atomics Aeronautical Systems Inc.,)

クラトス無人機システム  … … … …$37,800,000

(Kratos Unmanned Aerial Systems Inc.,)

空軍は2019年に「2030年を目指す科学・技術」計画を樹て、その中に選んだ先端技術3項目の一つが「スカイボーグ」である。「AFLCMC」部門は「AFRL」が開発する項目の試作資金を供与配分する部局。

契約した3社は、試作機を2021年5月までに製作・納入し、7月から試験飛行を行なわなければならない。

 

  1. 米国と中露両国の極超音速ミサイル競争

弾道ミサイルと超音速滑空弾の違い

図4:(Congressional Research Service Dec. 1, 2020) 弾道ミサイル(Ballistic Missilesと極超音速滑空弾 (Hypersonic Glide Vehicles)の違いを示す図。両者とも極超音速で目標に着弾するが、弾道ミサイルは地上レーダーで早く捕捉できる。一方、超音速滑空弾は飛行高度が低く地上レーダーでの発見は目標近くになる。

 

米国が開発中の極超音速滑空ミサイル

米国の極超音速ミサイル(hypersonic strike-missile)とノースロップグラマン製B-21超音速爆撃機の試験が急がれている。これは中国・ロシアの急速な極超音速ミサイル開発とステルス爆撃機の完成に対抗するため。

米国防総省は極超音速ミサイルの開発を複数の項目で同時並行の形で進めている。これは競争促進のほかに、先行する技術を他の有望な計画に転用、より優れたミサイルを早期に完成するためだ。

A)   [ C-HGB ] /Common hypersonic Glide Body/3軍共通の極超音速滑空弾計画

[ C-HGB ]は3軍共通の計画だったが2021年度予算から空軍が撤退し、陸軍と海軍の計画になった。これまで3回の試射に成功している。海軍はバージニア級原潜から発射する方式、陸軍は大型の発射車両から発射する長距離型(Long-Range hypersonic Weapon)を検討している。滑空弾本体は「Dynetics」社で20機を製造中。

B)   [ TBG ] /Tactical Boost Glide/ 戦術増速滑空弾計画

[ TBG ]は、DARPA/Defense Advanced Research Project Agency (国防先端技術計画局)と空軍(USAF)の共同計画で、滑空弾本体はDARPAが2010~2011年に作った極超音速滑空弾-2で矢印のような形で、9分間に飛行に成功している。

空軍では[ TBG ]滑空弾を後述の「ARRW =Ari-launched Rapid Response Weapon/空中発射型即応兵器」に採用する。また陸軍はこの滑空弾を地上発射型滑空弾に使うことを考えている。[ TBG ]滑空弾はレイセオン(Raytheon Technologies)が開発している。

C)   [CPS ] /intermediate Conventional Prompt Strike/中射程通常型即応攻撃兵器

海軍の[ CPS ]計画は、[ C-HGB ]で開発するブースターに搭載、攻撃原潜から発射するシステムで、2028年度にバージニア級原潜で「初期運用能力(IOC)」の認証を得たいとしている。2020年度には512 million USD、2021年度には1.01 billion USDの予算を手当てする。ロッキード・マーチンが主契約で開発中。

D)   [ LRHW ] /Long-Range Hypersonic Weapon/長射程極超音速兵器

陸軍の計画で、海軍の[ C-HGB ]用ブースターを利用、大型発射車両に搭載する。2021~2023年に飛行試験を行い、2024年の実用化を目指す。2020年に404 million USD、2021年度に801 million USDの予算を取得。ロッキード・マーチンが主契約で開発中。

[ AGM-183A ]ARRW / Air-Launched Rapid Response Weapon/空中発射型即応兵器

空軍の計画で、[ ARRW /アロー]と呼ぶ。DARPA開発の[ TBG ]滑空弾を基本にした極超音速兵器で、小型・軽量で建造費も安い。AGM-183A ]は、B-52H型爆撃機、B-1B爆撃機およびF-15戦闘機から発射可能。

[ 2021年度から生産を開始、通常開発に要する期間の5年よりも早く2022年度に「初期運用能力 / IOC=initial operating capability」獲得を目指す。そして2022年度末までに4機を実戦配備する。ARRW ] 開発プログラムには、286 million USD (約300億円)/ 2020年、382 millions USD (約400億円) / 2021年の予算が充てられている。

ARRW

図5:(Lockheed Martin) ロッキード・マーチンが開発中の「ARRW=Air-launched Rapid Response Weapon/空中発射型即応兵器」[ AGM-183A ]は、カプセルに内蔵された状態でB-52H爆撃機から発射され 超音速に加速されてから分離、超音速で目標に向かう。米空軍とロッキード・マーチンは、2020年8月8日にB−52Hを使い、2回目のARRW[ AGM-183A ]の発射試験に成功した。

 ARRW 2

図6:(Lockheed Martin)発射後外套が分離し、内蔵のARRW「AGM-183A」本体/弾頭部分 (図先端の黒い矢の部分)が分離して、極超音速滑空に入りマッハ6.5~マッハ8 (10,400 km/hr~12,800 km/hr)の速度で1,600 km離れた敵目標に向かう。この位の高速になると衝突時の運動エネルギーで目標を破壊できる。

 DARPA-Tactical-Boost-Glide-TBG-Hypersonic-Weapon-Concept

図7:(Lockheed Martin) ARRW[ AGM-183A ] ARRW [AGM-183A]には弾頭部分としてDARPA/レイセオンが開発中の「TBG」滑空弾が搭載される。マッハ5以上の高速で大気圏内を飛ぶので前縁部分は3000度の高熱になる。

 

中国の極超音速ミサイル[ DF-17 ]

中国は巨額の資金を投入、迎撃困難な極超音速滑空ミサイル(HGV=hypersonic glide vehicle)の開発を進め、実戦配備を急いでいる。[ HGV ]は弾道ミサイルの大気圏再突入弾頭より速度は遅いが、機動性に優れ低空を飛ぶので対弾道ミサイル用レーダーで捕捉するのが難しい。

中国航空宇宙化学工業 (CASIC=China Aerospace Science Industry Corp)の傘下研究所が開発した極超音速滑空ミサイル[ DF-17 ]は、2014〜2017年間に北京西方の山西省太原の「太原衛星打上げ基地/Taiyuan Satellite Launch Centre in Shanxi」で少なくとも9回の発射試験を行った。

[ DF-17 ]は固体燃料ロケットで、全長 11 m、重量約15,000 kg、別開発の[DF-16 ]弾道ミサイルと同じブースターで発射される。米諜報機関の調べでは射程は1,800~2,500 km、命中精度は数メートル以内、目標接近の最終段階/ターミナル・ステージでは迎撃回避の機動飛行をする。[DF-17 ]は対地攻撃用だが、中国軍の発表では対艦攻撃型を開発中という。

[ DF-17] は世界初の極超音速滑空ミサイルで、中国東部の福建省、広東省に展開する10個以上のロケット旅団に配備されており、台湾侵攻に際して初動攻撃を行う。同時に沖縄、横須賀、呉、佐世保などの自衛隊、米軍基地にも一斉攻撃を掛けてくる可能性がある。

df-17-2

図8:(Missile Threat) 2019年10月1日の北京軍事パレードで公開された[ DF-17 ]極超音速ミサイル。中国軍が2021年1月初旬に発表した写真では、垂直発射式車両全体がカバーで覆われ、発射直前にカバーを外す構造になっている。これで偵察衛星からの早期発見を遅らせるようにした。

 

ロシアの極超音速ミサイル「ツイルコン」

ロシアが開発中の極超音速ミサイル「ツイルコン」2020年までにほぼ完成し、今年(2021)前半には北方艦隊のフリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」で4回の発射試験を行う。また、今年後半には原潜「セベロドビンスク」で少なくとも3回の発射試験を実施する。この発射試験が終了すれば2022年から量産が始まる。

プーチン大統領は、「ツイルコン」ミサイルは速度マッハ9で飛行し、距離1000 km以上の水上目標および地上目標を撃破可能、と述べている。

フリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」は満載排水量5,400 ton、2018年就役の新型艦で、「ツイルコン」を発射できる16基の汎用垂直ミサイル発射装置(VLS)を備え、対艦、対潜、対空のみならず1,500 km離れた対地攻撃能力も持つ多機能戦闘艦である。

ツイルコン

図9:(ロシア海軍情報管理局) 極超音速ミサイル「ツイルコン」は、これまでに長射程超音速有翼ミサイル「バルカン」や「オニークス」の生産をしてきた “機械製造” 部門が開発した。写真から分かることは、白色部が極超音速飛翔体の本体、後方の濃い色部分がブースター部。本体は極超音速飛行のため先端が鋭く尖り、その下に“矢印”のような空気取入れ口/エア・インテークが見える。インテークからの空気は「スクラムジェット」に入り燃料と燃焼、推力を生じる。

 

  1. スペースX “スターシップ” による宇宙飛行

 

月と火星旅行用にスペースXが開発中のスターシップ宇宙船・原型機は今年中に無人宇宙飛行を達成、有人月周回飛行に向け前進しそうだ。

スペースXは、2018年には21回の打上げをしたが、昨年は2週間毎に1回、都合26回の打上げを行った。26回の打上げは全て同社の「ファルコン9」ロケットで行い、そのうちの23回は1段目の回収・再利用に成功している。今年2021年には100回目の宇宙打上げをする予定。

昨年の実績で特筆すべきはスペースXのクルー・ドラゴン(Crew Dragon)宇宙船でISSへの人員輸送を2回行ったこと。競合するNASAの「オライオン宇宙機」はまだ無人の試験飛行段階で、一歩リードしている。

スターシップに関し、CEOのイーロン・マスク氏は、究極の目標は “火星の有人基地実現” と繰り返し述べている。同氏は昨年末、スターシップを宇宙旅行に使うための1段目、スーパー・ヘビー(Super Heavy)の飛行試験(低高度のホップ飛行)を行う、と発表した。

昨年12月9日にスターシップ8号機 [SN 8]は、最後の着地に失敗したものの、高度12.5 kmに上昇し”ベリー・フロップ ”と呼ぶ姿勢変換飛行に成功している。

スターシップは月、火星への有人飛行するための原型機で高さ50 m、直径9 m、筐体はステンレススチール製で、エンジンは自社開発のラプター・ロケットを使っている。[ SN 8 ]はラプター・エンジン3基搭載だが、宇宙空間で使うスターシップは6基搭載になる。

今年初めには、9号機[ SN 9 ]を高度15 km前後に打上げ、回収する予定。SN 9は発射台上で3回のエンジン着火試験を行った。その結果1月15日に2台のエンジンの交換が決まり、現在作業が行われているので打上げは2月になりそう。

NASAでは “アルテミス(Artemis)”計画として2024年までに月の南極に2名の宇宙飛行士を着陸させ、2028年には有人基地を設置したいとしている。NASAは、2020年4月に「スターシップ」を、有人月面着陸の手段の一つに選定した。他に「ダイネチックス(Dynetics)」とジェフ・ベゾス (Jeff Bezos) 氏が率いる「ブルー・オリジン(Blue Origin)」が選ばれている。さらにNASAは昨年10月に「宇宙空間での燃料給油」の実験のためスペースXと53 million USDで契約を結んでいる。

スターシップは、[ SN 9 ]に続き[ SN 10 ~SN17 ]を建造中でいずれも高高度飛行試験に使う予定。その後[ BN 1 ]として「スーパーヘビー」と組合せるモデルの建造作業に入っている。そして現在ISSへの輸送手段として使われている『「ファルコン9」打上げロケットと「ドラゴン」宇宙機』の組合せを、「スターシップ+スーパーヘビー」システムに置き換える予定である。

SN9 2nd test

図10:(Everyday Astronaut) 1月12日に行われたスターシップ [ SN 9 ]の2回目の地上エンジン着火試験。1月15日にエンジン3基のうち2基の交換が決まり作業が始まった。従って打上げは今年2月になりそう。

 

  1. 民間用テイルト・ローター機の開発が進む

 

民間用ヘリコプター/回転翼機の巡航速度は、これまで数十年間150 kt (280 km/hr)辺りで低迷していた。これを打破するため開発中のレオナルド(Leonardo)製「AW609」テイルト・ローター機は275 kt (500 km/hr)の高速で飛行可能、今年中に型式証明を取得する。また、エアバスは220 kt (400 km/hr)級の「レーサー(Racer)」と呼ぶ“コンパウンド・ヘリコプター”実証機の初飛行を行う。

 

レオナルド[AW609 ]

[ AW609 ]は、ベル・ボーイング(Bell Boeing)が製造する軍用の[ V-22 オスプレイ]と似た双発テイルト・ローター機。1996年にベルとボーイングが共同で開発することに合意、しかし1998年にボーイングが脱退、代わりにイタリアの会社、アグウスタ(Agusta)が開発に参加を決めた。両社は合弁企業「ベル/アグウスタ・ウエストランド-エアロスペース社(BAAC =Bell/AgustaWestland Aerospace Company)を設立、民間用[AW609]の開発に取組む。しかしその後市場規模の縮小が懸念され、2008年にベルが合弁から撤退、開発が遅れた。2009年になると現在のイタリア航空宇宙大手「レオナルド(Leonardo)」の前身「フィンメカニカ(Finmmeccanica)」がこの跡に入り、開発促進に踏み出した。

初飛行は2002年末に[BA609]として米国アーリントン(Arlington, Texas)で行われた。2015年3月までに2機の試作機で飛行時間は1,200時間に達した。2015年末には2機が追加され4機体制となったが途中で古い方の機体1機が墜落、今は3機で試験飛行が続いている。FAA / EASAの型式証明交付は、新しく設けられた分類 ”powered lift”に基づいて行われる。証明取得は2021年の予定。

[AW609]の生産は、多くの顧客が見込める米国と、レオナルドの本拠地イタリアで行われる。米国ではフィラデルフィア(Philadelphia, Pennsylvania)工場で作られる。

[ AW 609 ]は、固定翼ターボプロップ機と同じ速度、航続距離、高度25,000 ft、で飛行、同時にヘリコプターと同じように垂直離着陸ができる。

AW609

図11:(Leonardo) [ AW609 ]テイルトローター機。最大離陸重量8 ton、全長14.1 m、ローターを含む幅は18.3 m、エンジンはPWC PT6C-67Aターボプロップ2基、巡航速度510 km/hr、航続距離1,800 km、標準で乗員2名と乗客9名で飛ぶ。

 

エアバス[ RACER ]

エアバス・ヘリコプター(Airbus Helicopters)は、[RACER]と呼ぶユニークな実験機を開発中で、2021年中の初飛行を目指している。[RACER=Rapid and Cost-Effective Rotorcraft ]は、2017年パリ航空ショーで発表された「ユーロコプターX3」を基本にエアバスが開発している。巡航速度400 km/hrと運航経費はヘリコプターより25 %安くすることが目標。EUが主唱する「Clean Sky 2」計画に則ったプログラムである。

[RACER]は、ヘリコプターと同じようにローターで垂直離発着ができ、巡航時は主翼の揚力と2基のプロペラの推力で高速飛行をする。

機体を空中停止/ホバリングさせるには、ヘリコプターの大きなメイン・ローターに勝るものはない。しかし高速での巡航/水平飛行時には、ローター・ブレードの前進側で先端が音速に達し揚力が落ちる。またブレードの後進側では、揚力低下を補うため迎え角を失速寸前まで大きくしている。

この解決にはローター直径を小さくするのが良いが、これでは揚力が落ちる。そこでメイン・ローターの役目を揚力発生に限定し、推力はプロペラで発生、同時に主翼で揚力を得る方式が計画された。メイン・ローターの回転トルクを打ち消すために、ローターを2重反転式にする方法もあるが、[RACER]では推進用プロペラ2基の推力を左右違えてトルクを補正する方式を採っている。

[RACER]のプロペラは、細い「ボックス・ウイング」と呼ぶ主翼の先端に取付けている。主翼は、巡航時では効率良く揚力を生み、ホバリング時にはメイン・ローターの降下気流を邪魔しないよう細くしてある。

エンジンはサフラン(Safran)製[Aneto-1X]ターボシャフト・エンジン 2,500 HPを2基装備する。

Airbus RACER

図12:(Airbus) [RACER] はユーロコプター X3を基本にして開発中で2021年末の初飛行を予定している。

 

  1. 燃料電池動力で飛行する19席級小型旅客機

 

今年のはじめ、英国スコットランド(Scotland)の「ゼロアビア(ZeroAvia)」社は、燃料電池を動力源とする実験機で250 mile (400 km)の飛行を行う。これで水素燃料機への関心を高めるのが狙いだ。そして2023年には19席級のリージョナル機を飛ばそうとしている。

 

「セロアビア」は、世界で最初に燃料電池の動力で民間用小型飛行機を飛ばすことに成功した。昨年9月24日、クランフィールド(Cranfield, England)の同社施設から、燃料電池動力仕様に改造したパイパー・マリブ(Piper Malibu) 6人乗り小型機が離陸、1,000 ft上空を周回飛行して着陸した。20分間に排出したのは水蒸気だけの“ゼロ・エミッション・フライト” だった。これは化石燃料を使わずに飛行した最初の民間機となる。

これは同社の「ハイフライヤー(HyFlyer)」計画の一つで、パイパー・マリブ機のピストン・エンジンを水素燃料電池駆動のモーターに換装しての初飛行、これから250 mile (400 km)の飛行に挑む。この計画は英国政府と産業界が航空宇宙業界を支援するATI計画の一つになっている。

「ゼロアビア」は2023年頃を目標に、水素燃料電池動力で10-20席級で航続距離500 n.m.のリージョナル機を開発、米国と英国で市場に参入することを目指している。

パイパー・マリブ

図13:(ZeroAvia) 「ゼロアビア」が水素燃料電池機に改造した「パイパー・マリブ」がクランフィールド空港を離陸するところ。「ゼロアビア」の創立者兼CEOのバル・ミフタコフ(Val Miftakhov)氏が操縦した。「パイパー・マリブ」PA-46 は1979年から販売されている単発6人乗り、与圧キャビン式の軽飛行機、多くの派生型を含め1,300機ほどが作られた。大半はライコミングTIO-540-AE2A 350馬力ピストンエンジンを装備するが、一部の高級機にはPWC PT6A-42A 500 hpのターボプロップを付けている。

 

  1. オライオン宇宙機打上げ用ロケット「SLS」の開発

 

NASA/Boeingが開発する打上げロケット「スペース・ローンチ・システム( SLS=Space Launch System)」は地上静止着火試験に成功した(2020年末)。これで今年(2021)11月には無人のオライオン宇宙機(Orion Capsule)の月周回飛行が行われるだろう。しかし乗員4名を乗せた有人月往復飛行は2024年まで待つことになる。

NASAの[SLS]は超大型の打上げロケットで、オライオン宇宙機や貨物機を地球周回軌道より遠方に打上げる能力を持つ。打上げ能力をさらに向上させ、月、火星、木星、土星などへの輸送も視野に入れている。[SLS]はNASAのサターンV以来初めての有人宇宙飛行用ロケットとなる。[SLS ]1号機は間も無くケネデイ宇宙センターに搬入され、「アルテミス 1 (Altemis 1)」ミッションとして月探査飛行に使う予定。

スペース・ローンチ・システム(SLS)

[SLS]のコア段/本体はボーイングのハンツビル(Huntsville, Alabama)工場で作られ、ここで飛行制御用のアビオニクス装置が組込まれる。コア段は直径8.3 m、高さ60 m。現在「アルテミスI」が完成、「アルテミスIIおよびIII」用が製造中である。

オライオン宇宙機(Orion Spacecraft)

深宇宙探査用の次世代型宇宙機で、月や火星探査に予定されている。2014年12月に初の宇宙空間(高度5,000 km)での無人飛行を実施、32,000 km/hrの超高速で大気圏へ再突入、パラシュートで太平洋上に着水、回収された。大気圏再突入時、耐熱シールドは2,200 ℃の高温になった。宇宙機本体/クルー・モジュールはロッキード・マーチン製、その下に付くサービス・モジュールはESAが製造する。サービス・モジュールは、クルー・モジュールに常時接続していて、軌道変更用スラスターがあり、また水、酸素、窒素を供給、乗員室の環境維持の役をするほか貨物室も備えている。大気圏突入直前に分離される。

RS-25エンジン

[RS-25]エンジンは、エアロジェット・ロケットダイン社(Aerojet Rocketdyne)が設計製造する。所在地はサクラメント(Sacramento, Calif.)。NASAのスペース・シャトル用に製作した予備の[RS-25] 16台を、このほど[SLS]用に近代化改修して推力51,2000 lbsを出せるようにした。したがって[SLS]コア段に搭載する4基で、合計2,000,000 lbsの推力を出せる。エアロジェットでは、将来に向けて新しい工法で[RS-25]の生産再開を進めている。

固体燃料ブースター

[SLS]コア段の両側に付く2本の固体燃料ブースターは、レドンド・ビーチ(Redondo Beach, Calif.)にあるノースロップ・グラマン社(Northrop Grumman)が製造を担当している。ベースはNASAスペース・シャトル用の4セグメント型ロケットで、これを5セグメントに大型化した。ブースターは同社のユタ工場(Utha, Nevada)でセグメント毎に作られ、鉄道でケネデイ宇宙センターに送り組立てられる。SLS打ち上げ時には2本のブースターで全推力の75 %の力を出す。

アルテミス 1 (Altemis 1)・無人月周回飛行

地球から月までの距離約38万kmは、国際宇宙ステーション(ISS)の低地球周回軌道の高度約400 kmより1,000倍も遠くにあり、オライオンを運ぶには時速39,400 km/hrで飛行する必要がある。

[SLS]コア・ステージは4基の[RS-25]エンジンを搭載、最初の型[ Block 1 ]は27 ton以上の重量を月周回軌道に送ることができる。コアの両側には5セグメント型個体燃料ブースターが取付けられ、発射時には[RS-25]と共に点火、宇宙空間に達する。そこで上段/オライオン宇宙機を分離、エアロジェット・ロケットダイン製[RL10]ロケット1基で月に向かう。月探査アルテミス・ミッションの最初の3回は[ Block 1 ]で行う。

[ SLS ]の[ Block 1B ]は有人宇宙機用で、より強力な「探査用上段(EUS=Exploration Upper Stage)が搭載され、オライオンや貨物など38 tonを輸送でき、月周回飛行など多様なミッションに使える。貨物輸送の場合は、大型のフェアリング内に収めて各種の探査装置を運ぶ。

アルテミスII (Altemis II)・有人月周回飛行

アルテミスIIミッションでは、宇宙飛行士が搭乗、月周回飛行を行う。そして2024年のアルテミスIIIミッションでは月面に着陸、宇宙飛行士が探査を実施する。

SLS 1st Stage

図14:(NASA) 最初の「アルテミス(Altemis)」ロケット[ SLS ]のコア/本体1号機がルイス(Louis, Mississippi)にあるNASA「ステニス宇宙センター(Stennis Space Center)から運び出され、輸送用バージ(Pegasus barge)に積み込まれケネデイ宇宙センターに向かうところ(2021-01-08)。

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図15:(NASA) 「アルテミスI」の完成予想図。[SLS]の両側に2本の固体燃料ブースターが付き、頂部には「オライオン」宇宙機(白い部分)が取付けられる。打上げ時には[SLS]本体の[RS-25]ロケット4基と固体燃料ブースター2基を合わせて8,800,000 lbs (3,960 ton)の推力を発生、上昇する。

オライオン宇宙機

図16:(NASA) オライオン宇宙機の構成。「非常脱出システム(Launch Abort System)」、「クルー・モジュール(Crew Moule)」、「サービス・モジュール(Service Module)」から成り、この後ろに第2段ロケット「RL-10」が付く。クルー・モジュールは直径5 m、高さ3.3 m、乗員最大6名を収容、重量は10 ton。サービス・モジュールは重量15.5 tonになる。

 

―以上―

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week January 10, 2021 “Watchpoints 2021” by Graham Warwick

Boing

U.S. Air Force Research Laboratory February 22, 2020 “SKYBORG”

U.S. Air Force December 10, 2020 “AFLCMC awards contract for Skyborg prototypes”

TokyoExpress 2019-10-8 “無人機用・小型使い捨て型ジェット・エンジンの開発が進む“

 

Congressional Research Service updated December 1, 2020 “Hypersonic Weapons: Background and Issues forCongress”

Flight Global 14 January 2021 “Flight International 8 key hypersonic missile efforts for the US Department of Defense”

The Diplomat December17, 2020 “US Air force to test New Hypersonic Missilee” by Seven Stashwick

Air Force Magazine arch 2, 2020 “Roper: The ARRW Hypersonic Missile better Option for USAF” by John A. Tirpak

Missile Threat June 23, 2020 “ DF-17”

ロシア海軍情報管理局 2020-12-27 “ ロシア海軍の為の極超音速対艦ミサイル”ツィルコン”は2021年に7回の発射試験を行なう

ロシア海軍情報管理局 2020-12-30 “ロシア海軍のための極超音速対艦ミサイル“ツイルコン”の量産は2022に始まる“

Yahoo News 2020-12-7 “スクラムジェット極超音速巡航ミサイル「ツイルコン」の形状と性能の推定” by JSF軍事ブロガー

Space com. December 29, 2020 “ SpaceX’s very big year: A2020 filled with astronaut launches, Statship test and more” by Mike Wall

TokyoExpress 2017-03-14 “レオナルド、次世代型テイルトローター機「NGCTR」の開発へ“

Leonardo Home “AW609 Faster, Further, Higher”

Airbus October 2018 “Racing toward the future: the RACER high-speed Demonstrator”

ZeroAvia 25 September, 2020 “ZeroAvia Completes World First Hydrogen-Electric Passenger Plane Flight”

ZeroAvia 23, June 2020 “ZeroAvia Conducts UK’s First Commercial -Scale Electric Flight”

NASA last updated Sept. 17, 2020 “Space Launch System (SLS) Overview”