2021-06-04(令和3年) 松尾芳郎
令和3年5月、我国周辺における中露両軍、および北朝鮮の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し、それぞれの公的部門から多くの発表があった。以下にその項目と内容を紹介する。今月の注目すべきニュースは次の通り;―
① 5月11日〜17日、日米豪仏4カ国軍による陸・海・空合同演習
② 5月19日米空母「ロナルド・レーガン」空母打撃群は横須賀を出港、アラビア海方面へ
③ 5月3日、中国新空母「山東」が南シナ海で演習
(The military threats from Russo-Chines Forces around Japanese Island and Taiwan were reported active. Following three were noteworthy ;-
- Japan, U.S., Australia and French military conduct joint exercise at Kyushu island and East China Sea on mid. May.
- USS Ronald Reagan and her Carrier Strike Group departed Yokosuka head for Arabian Sea
- China’s 2nd aircraft carrier group lead by Shandong hold first combat exercise in South China Sea.)
防衛省発表
5月11日岸大臣記者会見、日米豪仏の共同訓練
本件は「令和3年4月、我が国周辺における中露両軍の活動と我が国/同盟諸国の対応」(5月2日発行)11ページに記載済み。その後のフランス大使館発表「インド太平洋における日仏防衛協力」(26/05/2021)、海上幕僚監部5月11日公表「日米豪仏共同訓練(ARC 21)について」および米第7艦隊の報道「米海軍“ニュー・オーリンズ”がアーク21に参加」(May 11, 2021)を加えて再度掲載する。
フランス国防軍が練習艦隊「ジャンヌ・ダルク/Jeanne D’Arc」を日本に派遣する機会に、5月11日から17日の間フランス軍、米軍、豪海軍、日本自衛隊がが参加して実動訓練を行い、戦技の向上と連携の強化を図る。
訓練場所は、鹿児島県と宮崎県の境にある陸自霧島演習場で、フランス陸軍、米海兵隊、日本陸上自衛隊が参加して着上陸訓練を実施。東シナ海空海域では4ヶ国海軍艦艇9隻が参加、対空戦、対潜水艦戦、対水上戦を実施する。
「アーク21 / ARC 21」に参加する各国軍は次の通り。
・フランス国防軍:陸軍からは第6軽機甲旅団、海軍からはミストラル級強襲揚陸艦「トネール・Tonnerre(l 9014)」とラファイエット級フリゲート「シュルクーフ」、
・米軍:海兵隊から第3海兵師団、第1海兵航空団。第1海兵航空団(1st MAW)は、沖縄県キャンプ・フォスターに司令部、KC130J輸送機、F-35B STOVL戦闘機およびテイルト・ローター輸送機MV-22Bを普天間基地と岩国基地で運用中。海軍からはドック型揚陸艦“ニュー・オーリンズ・USS New Orleans (LPD 18)”、P-8A哨戒機
・日本:陸自から水陸機動団(CH-47輸送ヘリAH-64ヘリを含む)、空自から西部方面航空隊第8航空団のF-2戦闘機、海自からヘリ空母「いせ」、イージス護衛艦「こんごう」、「あしがら」、ミサイル駆逐艦「あさひ」、揚陸艦「おおすみ」、ミサイル艇2隻「おおたか、しらたか」、哨戒機、潜水艦
防衛省・自衛隊としては、この「ARC21」を通じて、「自由で開かれたインド太平洋」のビジョンを共有する日米豪仏4カ国の協力関係を一層深化させ、島嶼防衛に係る自衛隊の戦術技量や4カ国との連携を強化する。
図1:(フランス大使館)日米仏豪4ヶ国軍、合同訓練「アーク21/ARC 21」開始に向けて準備中の様子、5月9日相浦駐屯地で撮影。
図2:(フランス大使館)強襲揚陸艦「トネール/Tonnerre, L 9014」はミストラル級揚陸艦3隻中の2番艦。満載排水量21,300 ton、全長199 m、最大幅32 m、速力19 kt、上陸用舟艇2隻を搭載、陸軍1個大隊と車両60両を搭載する。搭載ヘリは、AS332シュペール・ピューマ、およびSA341ガゼルなど16機。就役は2007年8月。
図3:(US Navy) 米第7艦隊ドック型揚陸艦「ニュー・オーリンズ / New Orleans (LPD-18)」はサン・アントニオ級揚陸艦の2番艦。2007年就役、第11揚陸隊 (Amphibious Squadron 11)に所属、佐世保が母港。満載排水量25,000 ton、全長200 m、速力22 kts 、H-46輸送ヘリ4機またはMV22Bオスプレイ2機を搭載、エアクッション揚陸艇(LCAC) 2隻も搭載。
図4:(海上自衛隊)海自揚陸艦「おおすみ(LST-4001)」は、満載排水量14,000 ton、全長178 m、最大幅25.8 m、速力22 kts、エアクッション揚陸艇(LCAC) 2隻を搭載、陸自兵員330名、車両60両、戦車18両を輸送する。同型艦3隻中の1番艦で就役は1998年。
統合幕僚監部
5月1日公表 中国軍艦艇の動向について
4月30日(金)午前1時、宮古島の北北東150 kmの海域を南東・太平洋に向け航行する中国海軍フリゲート・ジャンカイII級1隻を発見した。その後同艦は太平洋に進出したが、6月1日(土)に台湾と与那国島の間の海域を北上し東シナ海に立ち去った。発見・追尾したのは海自鹿屋基地第1航空群所属の「P-1」哨戒機、那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機、および呉基地第12護衛隊所属の護衛艦「あぶくま」である。
図5:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲート、2008年に1番艦「舟山・529」が就役。写真[515] は23番艦「濱州 (Ninzou)」で2016年就役、東海艦隊に所属。同型艦は30隻。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを32セルVLSに収める。対艦ミサイルは艦中央にYJ-83型を4連装発射機2基に搭載。
5月1日公表 ロシア海軍艦艇の動向について
4月30日(金)午後9時、対馬の東35 km の海域を南西に進むロシア海軍ウダロイI級駆逐艦1隻およびネフテガス級航洋曳船1隻を発見した。この2隻は対馬海峡を南下、東シナ海に向かい航行した。発見・追尾したのは海自佐世保基地第2掃海隊所属の「ひらしま」である。
図6:(統合幕僚監部)
図:7(統合幕僚監部)
5月6日公表 ロシア海軍艦艇の動向について
5月5日午後4時、対馬の北東220 kmの海域を南に進むロシア海軍スラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ウダロイI級駆逐艦1隻、およびステレグシチー級フリゲート2隻の4隻の艦隊を発見した。同艦隊は対馬海峡を南下東シナ海に向け航行した。発見追尾したのは厚木基地第4航空軍所属の「P-1」哨戒機および佐世保基地第3ミサイル艇隊「おおたか」である。
図8:(統合幕僚監部)ロシア太平洋艦隊旗艦・スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ (011)」。1989年就役、2008年近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。両舷4本ずつの筒には、射程700 km、速度マッハ2「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを各筒に2基ずつ計16基を搭載。
図9:(統合幕僚監部)大型対潜艦・ウダロイ級駆逐艦は、満載排水量7,500 ton、全長163 m、速度35 kt、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年に作られ8隻が就役中で太平洋艦隊には4隻を配備。
図10:(統合幕僚監部)ロシア海軍の“最新鋭コルベット・”ステレグシチー級フリゲート「グロームキー (333)」。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マストは閉囲型で内部に各種レーダーを装備。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲 2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載化して12セルのVLS(垂直発射装置)に装備、対艦用に3M24ウラン・ミサイルを4連装発射筒2基に搭載。艦番号[333]は2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」、太平洋艦隊に配属。同型艦は6隻で追加2隻が艤装中。
図11:(統合幕僚監部)
5月17日公表 ロシア海軍艦艇の動向について
5月15日(土)午後5時、北海道宗谷岬の西北110 kmの海域を東に進むロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻、オビ級病院船1隻、およびユグ級海洋観測艦1隻の合計4隻の艦隊を発見した。同艦隊は宗谷海峡を通りオホーツク海に入った。
5月16日(日)午前7時、宗谷岬北西70 kmの海域を東に進むロシア海軍ウダロイI級駆逐艦1隻、およびドウブナ級補給艦1隻を発見した。これらはその後宗谷海峡を抜けオホーツク海に入った。発見・追尾したのは海自余市基地第1ミサイル艇隊所属「くまたか」である。
図12:(統合幕僚監部)タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇は、超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に装備。現役は25隻、満載排水量462 ton、速力36 kt、兵装はSS-N-22対艦ミサイル4基と76 mm単装砲1門。
図13:(統合幕僚監部)
図14:(統合幕僚監部)
5月17日公表 中国海軍艦艇の動向について
5月16日(日)午前9時、沖縄県久米島の北西120 kmの海域を南に進む中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイI級フリゲート1隻、およびフチ級補給艦1隻を発見した。その後3隻は太平洋に向け航行した。発見・追尾したのは海自沖縄基地第46掃海隊所属「ししじま」および那覇基地第5航空群所属「P-3C」哨戒機である。
図15:(統合幕僚監部)「旅洋III級 / 052D型 昆明級駆逐艦で、中国版イージス艦。同型艦10隻を配備、追加7隻を艤装中。写真 [155] は「南京」、2018年就役東海艦隊に所属。満載排水量7,500 ton、全長156 m、速力29 kts。VLS(垂直ミサイル発射装置)64セルに対空ミサイルを装備。
図16:(統合幕僚監部)
図17:(統合幕僚監部)
海上幕僚監部
5月5日公表 日仏共同訓練について
5月4日(火)沖縄周辺の海域で海自補給艦「ましゅう」はフランス海軍フリゲート「シュルクーフ」と共同訓練を実施した。目的は海自の戦技向上とフランス海軍との連携強化のためで、これを通じて「自由で開かれたインド太平洋」の実現に資する日仏の防衛協力関係を内外に示した。
図18:(海上幕僚監部)海自補給艦「ましゅう/AOE-425」(満載排水量25,000 ton)から燃料補給を受けるフランス海軍フリゲート「シュルクーフ・Surcouf / F711」。「シュルクーフ」は満載排水量3,600 ton、全長125 m、速力25 kts、1997年就役。「ラファイエット」級の2番艦で同型は仏海軍で5隻。中国、サウジアラビア、シンガポールなどに合計15隻を輸出している。
5月17日公表 日米共同訓練について
5月11日(火)〜16日(日)の間関東地方南の太平洋上で海自イージス護衛艦「まや/DDG179」は米第7艦隊空母「ロナルド・レーガン/USS Ronald Reagan (CVN 76)」と共同訓練を行なった。目的は海自の戦技向上と米海軍との相互運用性の向上のため。
図19:(海上幕僚監部)海自イージス護衛艦「まや/DDG179」から見た米空母「ロナルド・レーガン」。
図20:(海上自衛隊)海自護衛艦「まや」は2020年就役の最新型イージス艦、同級「はぐろ」と共に僚艦防衛のみならず弾道ミサイル防衛が任務。満載排水量10,250 ton、全長170 m、推進機関はLM2500IECガスタービン2基を使う電気推進で速力30 kts。イージス・システムはBase Line 9.C2で、対空戦とミサイル防衛(BMD)機能を統合した「IAMD」機能を備え、共同交戦能力(CEC)に対応する海自初の護衛艦。Mk.41 VLS(垂直ミサイル発射装置) 64+32セルにSM-3対弾道ミサイル、SM-6対空ミサイルなどを装備可能。
5月23日公表 日米共同訓練(ILEX21-2)について
5月22日(土)四国南方の太平洋上で海自補給艦「はまな/AOE-424」は米海軍強襲揚陸艦「アメリカ/LHA-6」に対し洋上補給訓練を実施した。目的は海自の戦技向上と日米相互運用性の向上のため。
図21:(海上幕僚監部)米海軍強襲揚陸艦「アメリカ/USS America (LHA-6)」(右)に給油するため接近中の海自補給艦「はまな/AOE-424」(左)
図22:(海上自衛隊)補給艦「はまな/AOE-424」は「とわだ」型補給艦の3番艦。満載排水量12,100 ton、全長167 m、速力22 kts、1990年就役で第1海上補給隊に所属、佐世保が定係港。
5月30日公表 日米共同訓練について
米第7艦隊の発表によると、空母「ロナルド・レーガン/USS Ronald Reagan (CVN 76) 」、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「ハルゼー/USS Halsey (DDG97)」、タイコンデロガ級ミサイル駆逐艦「シャイロー/ Shiloh (CG 67)」、補給艦「ペコス」、および第5空母航空団 (CVW 5=Carrier Air Wing 5) で構成する空母打撃群は、5月19日に横須賀を出港して “自由で開かれたインド太平洋”を確保・維持するための任務に向かった。
この途上5月26日(水)〜29日(土)の間、海自ヘリ空母「いせ/ DDH-182」は同空母打撃群と沖縄東方海域で共同訓練を実施した。目的は海自の戦技向上と米海軍との相互運用性の向上を図るため。
図23:(海上幕僚監部)米空母「ロナルド・レーガン/ USS Ronald Reagan (CVN 76)」を見送るヘリ空母「いせ/DDH-182」の艦長・宮崎好司1等海佐。
図24:(海上自衛隊) ヘリ空母「いせ/DDH-182」は「ひゅうが」型の2番艦。満載排水量19,000 ton、全長197 m、最大幅33 m、速力30 kts、ヘリコプターSH-60J/KやMCH-101など11機を搭載する。
米第7艦隊ニュース
5月18日発表 第7艦隊ミサイル駆逐艦、台湾海峡を通過
アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「カーチス・ウイルバー/USS Curtis Wilbur (DDG 54)」は、5月17日に台湾海峡を通過し“自由で開かれたインド太平洋”作戦に貢献した。
5月20日発表 「ロナルド・レーガン」空母打撃群、 “自由で開かれたインド太平洋” の確保支援のため横須賀を出港
空母「ロナルド・レーガン/USS Ronald Reagan (CVN 76) 」、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「ハルゼー/USS Halsey (DDG97)」、タイコンデロガ級ミサイル駆逐艦「シャイロー/ Shiloh (CG 67)」、補給艦「ペコス」、および第5空母航空団(CVW 5=Carrier Air Wing 5)で構成する第5空母打撃群 (CSG 5) は、5月19日に横須賀を出港して “自由で開かれたインド太平洋”を確保・維持するための任務に向かった。
新任務は公表されていないが、今年2021年9月11日までに米陸軍がアフガニスタンから撤収する作戦を支援するのが目的、と報じられている(USNI News @ May 26, 2021)。このため同打撃群はインド洋東北の北アラビア海(North Arabian Sea)とオーマン湾 (Gulf of Oman)の海域に進出、米軍のアフガニスタン撤退が終わるまで展開する模様。
これで緊張の高まる東アジアに駐留する米空母は不在になるが、CSG 5司令官のウイル・ペニントン(Will Pennington) 海軍少将は声明を発表、「東アジアの同盟諸国は如何なる非常事態にも即応できる態勢にあり、平和を維持できるだろう」と述べている。
図25:(US Navy) 横須賀を出港した空母「ロナルド・レーガン(CVN 76)」が硫黄島の沿岸を通過、インド洋に向かうところ。5月22日撮影。
前述したが、CGS 5はインド洋に向かう途上、5月26日から19日の間、海自ヘリ空母「いせ/DDH 182」と東シナ海で共同訓練を行なった。
5月24日発表 仏、日本、米国の3カ国海軍、戦略ネットワークを設定、連携を強化
フランス海軍ジャンヌダルク練習艦隊が東アジアに派遣された5月の期間中、米海軍、日本海上自衛隊は数回にわたり洋上補給 (RAS) 訓練を実施、相互連携を深めてきた。
5月19日にはフィリピン海海域で米海軍オイルタンカー「ビッグ・ホーン/USNS Big Horn(T-AOE 6)」はフランス海軍強襲揚陸艦「トネール/Tonnerre, L 9014」に洋上給油を実施。5月4日には同じ海域で海自補給艦「ましゅう/AOE-425」(満載排水量25,000 ton)がフランス海軍フリゲート「シュルクーフ・Surcouf / F711」に給油を行なった。
「洋上補給 (RAS=Replenishment At Sea)」とは、「西太平洋兵站軍/CTF 73」司令官ジョイ・テインク(Joey Tynch)海軍少将は次のように説明している;―
「洋上補給(RAS)は、インド太平洋のような広大な海域での作戦では特に重要な業務で、お互いの艦艇同士の間で緊密な連携が必要である。そして常に複雑な操艦技術と短時間で給油・物資補給を遂行する能力が求められる。」
「西太平洋兵站軍/CTF 73」は第7艦隊の傘下にあり、西太平洋からインド洋に展開する第7艦隊の50~70隻の水上艦艇および潜水艦を支援する洋上補給を任務としている。
図26:(US Navy) 5月19日フィリピン海で米海軍補給艦「ビッグ・ホーン/USNS Big Horn(T-AOE 6)」・31,000 ton(左)から補給を受けるフランス海軍強襲揚陸艦「トネール/Tonnerre, L 9014」(右)。後ろはフランス海軍フリゲート「シュルクーフ・Surcouf / F711」。
5月27日発表 駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」で巡航ミサイル「トマホーク」の発射訓練を実施
5月20日から25日にかけて米第7艦隊は日本海で「トマホーク(Tomahawk)」対地攻撃巡航ミサイル (TLAM) の発射訓練を実施した。
「トマホーク」は全天候、長射程(1,300 km)、亜音速巡行ミサイルで水上艦や潜水艦から発射し、敵地奥深くの目標を攻撃する。アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ / USS Rafael Peralta (DDG 115) 」の「トマホーク」発射チームにより発射された。発射チームは技量の維持と艦隊戦術の更新に遅れを取らないよう定期的に発射訓練を行なっている。
「トマホーク」は超低空(高度30~50 m)を音速に近い高速(マッハ0.74 /890 km/hr)で飛行し、複数の誘導装置で航路を変更、敵の迎撃を回避しながら目標に正確に着弾する。最初に使われたのは1991年「砂漠の嵐作戦(Operation Desert Storm)」。2018年には米海軍はシリアが開発する化学兵器を破壊するため合計60発の「トマホーク」を発射した。この時ペルシャ湾上のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦「ヒギンズ /USS Higgins (DDG 76)」からは23発の「トマホーク」が発射され目標の化学兵器製造工場を破壊した。
図27:(US Navy) アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ / USS Rafael Peralta (DDG 115) 」は、2017年7月就役、同級の65番艦で2020年2月から第7艦隊空母打撃群’CSG)に配属、横須賀を母港にする。同艦は対空・対弾道ミサイル統合型システム(IAMD=Integrated Air and Missile Defense)を備える。満載排水量9,200 ton、速力31kts、イージス・システムは最新のフライトIIA。ミサイル垂直発射装置「 VLS Mk 41」は29+61 セルあり、ここからBGM-109トマホークを始めSM 2、SM 6、SM 3対空ミサイル、ASROC対潜ミサイルなどを発射する。
5月20日発表 第7艦隊ミサイル駆逐艦、パラセル諸島海域で自由航行を実施
5月20日、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「カーチス・ウイルバー(USS Curtis Wilbur (DDG 54))は南シナ海「パラセル諸島(Paracel Islands) / 別名“西沙諸島”」で航行の自由作戦を実施した。
パラセル諸島は、中国、台湾、ベトナムが領有権を主張しているが、すでに中国軍が占領、支配下に置いている。中国軍は2016年からここのウッデイー(Woody)島に大型機用滑走路と対艦巡航ミサイルと対空ミサイルを配備している。
図28:(BBC/Google) パラセル諸島の最大の島ウッデイ島、2017年2月撮影で、8両のミサイル・ランチャーと1基のレーダーからなる2個大隊が配備しているのを確認済み。島には中国軍兵士を中心に約1,000人が駐留している。
図29:(BBC) 南シナ海の地図。中国はパラセル諸島・ウッデイ島だけでなく、スプラトリー諸島も占領、スービ礁、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁の3箇所に3,000 m級滑走路とミサイル基地を、その他4島嶼にレーダー基地を建設済み。
中国環球時報
5月2日発表 中国海軍2隻目の空母「山東」を中心とする艦隊が南シナ海で第1回となる訓練を実施
中国海軍は空母「遼寧」の実戦配備に続いて新造の空母「山東」を就役させ、実戦に即した訓練を南シナ海で実施した、と報じた。「山東」海南島三亜基地を4月27日に出航、バシー海峡に向かい訓練を行なった。
しかし米海軍は、出航した「山東」が海南島三亜市の東方海上で停止、1日以上漂泊したのを衛星写真で確認した、と報じた(ツイッター新・二七部隊軍事雑談も同様事象を報道)。さらに空母「遼寧」も母港の山東省青島を出航フィリピン海で演習をし、帰路4月末から5月初めにかけて三亜東方290 kmの海上で1日以上漂泊したことが確認された。この時は、追尾していた米ミサイル駆逐艦「マステイン」艦上で、艦長が両脚を欄干に乗せ「遼寧」を眺めている写真が公開された。
中国海軍報道官は、これらの報道を打ち消し、空母艦隊は今後も常態的に同様の訓練をする、と異例の否定談話を発表した。
中国軍内部では、これら2隻の空母の能力を疑問視する声が上がり、責任者が追求されている模様 ( Radio Free Asiaの報道)。
図30:(jiji.com /環球時報)空母「山東」は002型と呼ばれ、001型「遼寧」と同じスキージャンプ式飛行甲板を備える。2019年12月就役で満載排水量7万トン、全長315 m、速力31 kts、艦載機J-15戦闘機30機とヘリコプター16機を搭載する(ポピュラーサイエンス誌)。カタパルトなし、エレベーターは2基。訓練を積んで技量が高まれば大きな脅威となる。
5月3日発表 中国の原子力潜水艦は米本土を攻撃可能
4月23日に海南島三亜基地で習近平国家主席出席のもと、改良型の「094A」級「晋」型原子力潜水艦、「075」級強襲揚陸艦「海南」、および「055」級ミサイル駆逐艦1隻、の合同就役式が行われた。
このうち、就役した094A型「晋(Jin)」級「弾道ミサイル原子力潜水艦 (SSBN=Strategic Submarine Ballistic Nuclear)」は、射程10,000 km 以上の「JL-3/巨浪3」潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM=sub. launched ballistic missile)を搭載・発射できる。これまでは「JL-2」で北米大陸の北の一部のみを射程に収めていたが、「JL-3」搭載の改修をしたことで北米大陸全域をカバーすることになった。
「JL-3」は「JL-2」と同様、多弾頭型ミサイルで核弾頭を搭載できる。「JL-2」に搭載する核弾頭は3個ないし8個で、それぞれが広島型原爆の67倍の破壊力を持ち、別々の目標を同時に攻撃可能な「MIRV=multiple independently targetable re-entry vehicle」方式になっている。
中国軍高官によると「094A」型原潜が就役したことで、米国から先制核攻撃を受けた場合の報復攻撃能力が著しく高まった。現在中国海軍は「094」級および「094A」級SSBNを6隻保有しているが、さらに2隻を追加する予定。
図31:(Reuters 2021-05-02, /Global Security)「094A」級弾道ミサイル原潜(SSBN)「晋」級潜水艦は4隻が就役済みで更に2隻が艤装中である。間もなく合計6隻になる模様。水中排水量12,000 ton、全長135 m、水中速力20 kts以上。潜水艦発射型弾道ミサイル「SLBM」「JL-2」を12基搭載する。「JL-3」は不明。
「SL-2 /巨浪2」は直径2 m、高さ13 m、は大陸間弾道ミサイル/ ICBM 「DF-31」の潜水艦発射型で、3段式固体燃料ロケット、射程は8,000 km
図32:(Google / Reuters) 中国海軍原子力潜水艦基地は海南島三亜市の亜龍湾東側にある。基地には潜水艦が接岸できる大型埠頭4基と潜水艦が出入できる地下基地に通じる出入り口が1箇所ある。
その他
JBpress 5月13日 「台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた“中国に融和的”な本性」
軍事社会学者北村淳氏記述のJBpress掲載の“台湾に関する記事” は興味深いので概要を紹介する。
「米海軍関係者は、本稿で紹介するように対中強硬路線が主流を占めてるが、かねてよりバイデン政権の対中融和姿勢を危惧してきた。それが徐々に姿を現し始めている。バイデン政権の対中軍事政策を司るインド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は5月初旬に次のような発言をした。「中国が台湾を攻撃した場合、米国が台湾を防衛するという明確な立場を示すことは控えるべき。そのような行動は米国の国益を損なう」。
キャンベル調整官は、オバマ政権時代に南シナ海問題を巡って中国に妥協的政策をとった張本人である。その結果が中国の南シナ海支配となって現実化した。そのキャンベル氏がオバマ時代のように「台湾を巡っては戦略的に曖昧な立場を続けるべし」と主張したのだ。つまり台湾を軍事的に支援し、反中姿勢を露骨に示すと、中国の台湾への姿勢を強硬にしてしまい、米中対決に至る恐れがある。それは米国にとり最悪の事態となるので、現在の「曖昧な安定」を継続するのが良い、と言っている。」
今の所キャンベル調整官の意見が具体化している兆しはないが、注視する必要がある。
これと同じく我が国のマスコミ、政権内部、経済界にも媚中派、親中派によるキャンベル氏と同じ意見が多く存在する。対中国のみならず対ロシアにもなるべく穏やかに刺激しないよう融和的に接するべき、という意見である。中国の新疆、ウイグル、香港、などにおける人権弾圧への国際的な連携非難抗議には及び腰、中国海警局の尖閣諸島領海侵犯に対する海上保安庁の融和的対応、北海道沖でのロシア警察による日本漁船拿捕事件に対する対応など、例示に事欠かない。
―以上―