JAL、大阪万博に向け空飛ぶ車/ eVTOLの実証試験・導入を計画
2021-10-26(令和3年) 松尾芳郎
図1:(Volocopter)東京都心を飛ぶボロコプター製「ボロシチー」エアタクシーの想像図。
JALは、2025年度に「空飛ぶ車/eVTOL」を使ったエアタクシー事業の開始を目指しており、開催予定の[大阪関西万博/Expo 2025 Oska Kansai ]では会場の夢洲を中心に遊覧飛行や関西空港などを結ぶエアタクシー・サービスを始める。
この計画は大阪府が行う「空飛ぶ車の実現に向けた実証試験」に採用され2021年11月から2022年2月の間試験を行うことになった。試験は;―
- 夢洲上空をヘリコプターで飛行し、飛行環境や地上設備に関わる制約を調査する。
- 「空飛ぶ車の実現に向けた実証試験」に参画している「ボロコプター(Volocpter)」社と提携して、大阪上空を飛ぶバーチャルフライト動画を作成、全国自治体に配布、体験してもらう。
大阪府は「空飛ぶ車の実現に向けた実証試験」に対する補助金の交付を決定 (2021-08-27) に基づき、ANA、SkyDrive社、JAL、三井物産など各社に補助金の支給を決めた(1千万円前後ずつ)。
JALは、同社の輸送に関わる有望なスタートアップ企業に投資をする「CVC/corporate venture capital fund」システムを通じて、昨年9月にドイツ・ブラッツエル(Bruchsal, Germany)のベンチャー企業「ボロコプター(Volocopter)」社に投資・業務提携をしている。これに基づきJALはボロコプターが製作する「ボロシチー(VoloCity)」と「ボロドローン(BoloDrone)」を合計100機を仮発注している。
ボロコプター社は、”都市内航空輸送 (UAM=urban air mobility)“用の「空飛ぶ車/eVTOL (electric Vertical Takeoff and Landing)」開発の先頭に立つ企業で、2021年10月1日開催の「大阪円卓会議(Osaka Roundtable)」でExpo 2021への協力を表明済み。
ボロコプターは日本の他にシンガポールで3年以内にエアタクシー事業を開始する、また中国の吉利(Geely)社から150機を受注、5年以内に納入する。
ボロコプターは、欧州航空安全庁(EASA =European Union Aviation Safety Agency)から「設計認証/DOA=Design Organization Approval」および「製造認証/POA=Production organization Approval」を受領している。現在「ボロシチー(VoloCity)」の型式証明取得をEASAに申請中。「ボロドローン(BoloDrone)」は2021年10月12日にハンブルグ(Hamburg)で初の公開飛行を実施した(初飛行は2019年10月)。
図2:(Volocopter) ボロコプター製の2人乗り18ローター駆動の「ボロシチー(Volocity)」は2011年初飛行済み、最大離陸重量900 kg、ペイロード200 kg、航続距離35 km、最大速度110 km/hr。複合材製で高さ2.5 m、ローター外縁までの直径11.3 m、動力源はバッテリー・パック9個、交換は5分で可能。現在欧州航空安全庁/EASAの型式証明認可待ち。
図3:(Volocopter) ボロコプター製無人貨物機「ボロドローン(VloDrone)」が協力会社のDB Schenkerの貨物をロード・ボックス(load box)に収めて飛行する様子。形状、寸法は「ボロシチー」とほぼ同じ。200 kgの貨物を運べる唯一のドローンとして山間部、離島など交通不便な僻地への輸送用、あるいは災害時の緊急輸送用として期待されている。
図4:(Volocopter) ボロコプターが発表した都市内だけでなく都市郊外との連絡に使える4~5人乗り大型機「ボロコネクト(VoloConnect)」。主翼、尾翼を装備し推進用に電動ファン2基、垂直離着陸用にリフトファン6基を備える。これで航続距離100 km、巡航速度180 km/hrを目指す。
アイルランド(Ireland)・タブリン(Dublin) に本拠を置く航空機リース会社「アバロン(Avolon)」は2021年10月20日、「JALは、アバロンが購入権を持つ”バーテイカル・エアロスペース (Vertical aerospace)”社製の[VA-X4] eVTOL機を50機(+オプション50機)を購入/リースし、大阪・関西EXPO 2025でエアタクシー事業を開始する」と発表した。
図5:(Vertical Aerospace) JALは2021年10月、英国のリース会社アバロンを経由してバーテイカル・エアロスペース社製の”VA-X4”を50機(+オプション50機)の導入を決めた。
アバロンCEOドムナル・スラッタリー(Domhnal Slattery)氏のコメント;―
「アバロンはゼロエミッションのeVTOL機で航空交通の革命を目指している。今回航空旅行の脱炭素化を目指してJALが我社と長期契約を締結したのは我々の理念に沿うもの。”VA-X4” は、最も厳しい安全基準で知られる英国民間航空庁/CAA(Civil Aviation Authority-Gov.UKおよび欧州航空安全庁/EASAの型式証明を間も無く取得する。これにより日本でのJCABの型式証明取得への道も開かれる)。
JAL常務執行役員デジタルイノベーション本部長西畑智博氏のコメント;―
「今回の発表は、大阪・関西Expo 2021でエアタクシー業務を開始するための重要な第一歩である。アバロンとの提携で 日本における“空飛ぶタクシー” 事業スタートへの道が開ける。”VA-X4” の導入で環境への影響を抑えることができ、各地での事業展開が容易になる。アバロンと協力して日本の監督官庁/JCABからの “VA-X4”の型式証明取得を円滑に進めたい。
バーテイカル・エアロスペース社CEOステファン・フィッツパトリック(Stephan Fitzpatrick)氏のコメント;―
「”VA-X4”の出現で新しい旅行の形態が生まれる。我社は、アバロンおよび新しいパートナーJALと提携して日本においてゼロエミッション航空機を飛ばすことを誇りに思う。JALの経歴は、JCABの証明取得の大きな助けになるだろうし、またeVTOLの世界的普及の象徴的な意味を持つことになるだろう。」
“VA-X4” eVTOL機についてはTokyoExpress 2021-10-01「丸紅、英国製電動エアタクシー”VA-X4” 200機を仮発注」で解説済みだが、一部を修正して以下に再録する。
バーテイカル・エアロスペース(VA)社は2016年にCEOステファン・フィッツパトリック氏により、航空・エネルギー・自動車の産業で培われた最高の技術を使い航空旅行の脱炭素化を目指す航空機開発を目標してに設立された。本拠地・工場は英国ブリストル(Bristol, England, UK)にある。
VA社の目標に賛同して出資している企業は次の各社、うち数社は開発・製造に協力している;―
- マイクロソフト(Microsoft)
- ハニウエル(Honeywell)
- アメリカン航空(American Airlines)
- アバロン(Avolon)
- ロールスロイス(Rolls-Royce)
- バージン・アトランティック(Virgin Atlantic)
- ソルベイ(Solvay)
- GKNエアロスペース(GKN Aerospace)
ロールス・ロイス(RR)は「VA-X4」の電動推進システムの設計を担当する(2021-03-08発表)。同社が作る最新型の「100 KW級リフト・電動推進装置(100 KW-class lift and push electrical propulsion units)」8基と、付随する「出力調整・監視システム (power distribution and monitoring systems)」を供給する。
「RR」には、「ハニウエル(Honeywell)」社/(Phenix, Ariz. USA)がプロペラを駆動する電動モーター・システムとパワー・コントローラーを製造・供給する。「ハニウエル」は、電動モーターの開発・製造について日本の自動車用電装品の専門メーカー「デンソー」と協定を結び、「デンソー」から製品の供与を受ける。「デンソー」はこれまで強力で信頼性の高いモーターを世界中の自動車向けに供給してきたが、この機会に航空機分野にも進出する。両社が共同開発する「電動推進ユニット/EPU」では、「デンソー」は、独自の磁気回路を使う高出力モーターやSiCを使う高効率・高駆動周波数インバーターを開発する。
胴体や主翼など機体構造は複合材で作るが、2021年2月に世界50カ国に展開するベルギーの大手化学・複合材メーカー「ソルベイ(Solvay)」社を担当に選定した。
主翼の設計・製造とワイヤリング・システムは英国レデイッチ(Redditch, U.K.)にある「GKN Aerospace」社が担当する(2021年9月17日)。「GKN」社は軍民両用の航空機構造設計で世界的に名の知られた企業である
図6:(Denso & Honeywell)「VA-X4」の「電動推進ユニット・EPU (Electric Propulsion Unit)」。自動車電装品メーカー「デンソー」と「ハニウエル」が共同設計・製造したeVTOL機用「電動推進ユニット」。これを「RR」が電動推進装置に纏め「VA-X4」に8個搭載する。
VA社のeVTOL開発は2016年に開始、2018年6月には原型の1人乗り[VA-X1]が初飛行、続いて2019年には同じく2人乗り[VA-X2]、が初飛行に成功した。
そして同年9月26日に「都市内輸送/UAM=Urban-Air-Mobility」用の全く新しい航空機、パイロットを含む五人乗りのeVTOL機「VA-X4」の開発を発表した。
「VA-X4」は、ハニウエルが開発するフライ・バイ・ワイヤー・システムおよび次世代型アビオニクスを装備する。
複合材製の機体構造、3車輪引込み式ランデイングギア、完全電動式で出力1 MW以上、航続距離160 km、巡航速度240 km/hr(最高320 km/hr)、客席の後ろに手荷物室、高翼単葉/高アスペクト比の細長い主翼とV字型尾翼を備える。
電動モーターで駆動されるローター(プロペラ)は主翼前方にリフトおよび巡航用の4基のテイルト・ローター、主翼後縁にはリフト専用ローター4基を備える。主翼後縁のローターは巡航時には抵抗を少なくする位置にセットされる。
パイロット、乗客は自動車と同じように両側のドアから乗降する、
図7:(Vertical Aerospace) !VA-X4”のカットビュー。操縦席は機首に、後ろには乗客4人が座る対面式座席がある。主翼前方に4基のリフト・推進兼用のテイルト・ローター、主翼後縁には巡航時には抵抗の少ない位置にセットされるリフト専用ローター4基が付く。
図8:(Vertical Aerospace) コクピット・アビオニクス。ハニウエル製の次世代型液晶パネルでタッチ・スクリーン方式、操作が容易で直感的表示となる。
図9:(’Honeywell) メイン・パネルの表示例。飛行経路を判りやすく表示する。左には現在の対気速度「78 kts」(144 km/hr)、右には高度「2,826 feet」(850 m) が示される。上中央の表示は読みにくいが、「オートパイロットで飛行中、離陸後25秒、1.1 n.m.(1.9 km)を飛行中、“E Camelback Road” 上空」、と現在の状況が表示されている。
終わりに
JALは大阪・関西Expo 2025の機会に、空飛ぶ車・エアタクシー事業を本格的に開始すべく動き始めた。
第一は、ドイツ・ボロコプター社と提携して「大阪上空を飛ぶバーチャルフライト動画」を作成、全国自治体に向け啓蒙活動を展開する。並行して 2人乗り “ボロシチー”および 無人貨物機“ボロドロー” を入手、都市内航空輸送(UAM)と離島・僻地への貨物輸送を始める。
第二は、アバロン社経由で英国バーテイカル・エアロスペース社製 の乗客4人乗り”VA-X4” を導入、エアタクシー事業を展開する。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- 日本航空プレスリリース2021-10-21 ”JAL、空飛ぶ車の実現に向けた環境調査を大阪で実施“
- 大阪府報道発表資料2021-08-27 “「空飛ぶ車の実現に向けた実証試験」に対する補助金の交付を決定しました”
- 日本航空プレスリリース2020-09-29”JAL、エアモビリテイ分野に関する業務提携をVolocopter GmbHと締結
- Volocopter October 20, 2021 “Volocopter Joines Osaka Toundtable to Bring UAM to Japan”
- Volocopter September 20, 2020 “Japan Airlines and Volocopter Sign Agreement to Develop and Launch Air Mobility Service in Japan Exploring Business Opportunities of Air Mobility Services in Japan Utilizing eVTOL”
- Volocopter home “VoloDrone”
- Volocopter home “VoloCity”
- Volocopter home “Volo Connect”
- Avolon News Release 20, October, 2021 “Japan Airlines selects Vertical Aerospace’s VA-X4 from Avolon’s orderbook. Entry into service planned for Osaka-Kansai EXPO in 2025”
- Electric VTOL News “Vertical Aerospace VA-X4 ”
- Honeywell Aerospace com. “Vertical Aerospace Choosees Honeywell’s Fly-by-Wire System and Next-Gen Avionics for VA-X4 eVTOL” by Chris Hawley
- TokyoExpress 2021-10-01「丸紅、英国製電動エアタクシー”VA-X4” 200機を仮発注」