令和3年12月、我国周辺における中露両軍の動向と我国/同盟諸国の対応


2021-12-9 (令和3年) 松尾芳郎

令和3年12月、我国周辺における中露両軍の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し、それぞれの公的部門から多くの発表があった。以下にその項目と内容を紹介する。注目すべきニュースは次の通り;

  1. 岸防衛大臣記者会見(12月22日)、レールガンおよび高出力マイクロ波照射装置の開発予算案を決定
  2. 防衛省、次期戦闘機(F-X)開発は、ロッキード・マーチン社、ロールス・ロイス社等の協力を得て実施することを決定
  3. 中国海軍空母「遼寧」を中心とする艦隊が、大東島の東方・太平洋上で10日間の演習を実施
  4. ロシア軍情報収集機が2日連続して北海道東部・東北地方東部の沿岸に飛来

(The military threat by Russo-Chinese forces around to Japan and Taiwan are increasing ever. Against the threat, Japan and its allies move to take a farther counter measure. Following four were noteworthy;-

  1. DOD Minister Nobuo Kishi says, the research on Railgun weapon system and High Power Microwave (HPM) system will proceed to coming years.
  2. DOD announced, the next generation fighter developing program will accelerate by coordinating with Lockheed Martin and Rolls-Royce.
  3. Chinese aircraft carrier strike group conducted military maneuver nearby Japan’s isolated islands “Daitojima” in west Pacific for ten days.
  4. Russian intelligence gathering aircraft has flown coastal airspace of east Hokkaido and northern Honshuu for consecutive two days.)

岸防衛大臣記者会見;―

12月22日会見発言要旨: 

令和4年度(2022年度)予算に、次期戦闘機(F-X)開発予算に858億円、レールガンの開発と高出力マイクロ波照射装置の開発に137億円を充てる予算案が決定した。

次期戦闘機開発は、我国防衛にとり航空優勢を確保する上で着実に開発を進める必要がある。このため国際協力を得ながら推進する。(次項参照)

「レールガン」と「高出力マイクロ波照射装置」の研究はゲーム・チェンジャーとなる得る先端技術であり、これを加速していくことが必要不可欠である。

「レールガン」および「高出力マイクロ波照射装置」とは;―

「レールガン」および「高出力マイクロ波照射装置」は共に平成30年12月(2018)閣議決定の「防衛大綱」および「30年度中期防」で開発が決定され、研究がスタートしている。防衛装備庁主催「防衛技術シンポジウム2020」研究資料紹介に掲載された内容を基に簡単に紹介しよう。

「レールガン(rail gun weapon system)」

図1:(サンケイ電子版) 「レールガン」とは、火薬の燃焼ガスでなく電磁力(ローレンツ力)により弾丸を発射する将来砲である。弾丸の初速と射距離を大幅に増大させることが期待できる。平行な2本の導体レール/電極棒の間に飛翔体/弾丸を挟み、電流を流すと、弾丸は「電磁力」で加速され打ち出される。弾丸の速度は、電流/磁場強度とレール/砲身の長さで決まる。通常の火砲の初速は1~2 km/秒だが「レールガン」では2~5 km/秒が得られる。

「レールガン」は、来襲する敵の航空機やミサイル、砲弾、を迎撃・撃破するだけでなく目標を精密攻撃する兵器システムとして有望視されている。現用の火砲は火薬の力で弾丸を発射するが、「レールガン」は「電磁力」で弾丸を発射する。これで火薬発射の2倍以上の初速が得られるので、目標までの時間が短くなり、射程を延ばせ、さらに連続射撃(毎秒10発)が可能になる。

実用化には、大容量の電源が必要なこと、導体レールの摩滅/エロージョンを防ぐこと、などを解決しなければならない。

防衛装備庁の開発状況は2021末に公表済み(次図2枚を参照)。

図2:(防衛装備庁防衛技術シンポジウム2021)口径40 mmレールガンの開発状況。

図3:(防衛装備庁防衛技術シンポジウム2021)試作レールガン。口径40 mm、全長約 6 m、重量8 ton。弾丸初速は2,230 m/秒、レール耐久性は120発以上が目標。電力供給用のコンデンサー・パックは、充電エネルギー5 MJ/メガ・ジュールで、大きさは20 ftコンテナ3台分ほどになる。

米海軍は10年以上500億円を投じて電磁レールガンの開発を続けてきたが、2021年予算では開発費を計上していない。これをもって米海軍は「レールガン」開発を中止、とする見方があるが、実情は異なり「先進火砲システム」の開発と「レールガン」の開発を並行して進めている。

我国防衛省は、開発を継続・推進する立場を継続中で、防衛省の「令和3年度政策事業評価書」の「将来レールガンの研究」にその内容が記載されている。ここでは「極超音速対艦ミサイル迎撃」用だけでなく、対艦攻撃、対地攻撃用として開発することが併記されている。

図4:(防衛省・令和3年度政策事業評価書・将来レールガンの研究)極超音速で飛来する敵ミサイルは、従来の火薬式対空砲や迎撃ミサイルでは迎撃が難しい。しかし、高速度・長射程の「レールガン」が発射する弾丸(赤色)では迎撃が可能である。弾丸は炸薬を使わない直撃破壊型の運動エネルギー弾を想定している。

図5:(防衛省・令和3年度政策事業評価書・将来レールガンの研究)敵艦艇(図の右上)や地上目標を攻撃する「艦載型」および車両「車載型」の「レールガン」砲弾(赤色)を示している。左下は「車載型」発射器用の電源車。砲弾は重さ10-20kg、炸薬は使わない。高速で連射するので、相手は回避が難しい。砲弾は高速度(マッハ8前後)で敵艦を貫通(侵徹)するが、爆発しないので大型艦の撃沈は難しい。小型のエアクッション揚陸艇などを想定しているようだ。

図6:(General Atomics) 米海軍では、最新型のズムウオルト(Zumwalt)級ミサイル駆逐艦に搭載する2基のAGS 155 mm単装砲を、将来「レールガン」に換装する計画で開発してきた。しかし「ズムオルト」級は31隻建造する計画だったが、コスト上昇のため2009年に3隻で打ち切られた。この影響もあって2021年の「レールガン」開発予算をセロにしたようだ。

図7:(General Atomics) 米海軍は2007年から「レールガン」の研究を開始、BAEシステムズ社とゼネラル・アトミックス社が2025年の実用化を目標に試作した。後者が試作した「レールガン」は、重量10.4 kgの砲弾を、初速2.7 km/秒・砲弾運動エネルギー33 MJ(メガジュール)で発射に成功している。

「高出力マイクロ波照射装置 (HPM=high power microwave)」

中国の急速な軍備拡張が続く中で、将来の脅威として厳戒すべき手段は次の二つ;―

  1. 多数の空対地/艦ミサイル(ASM)や巡航ミサイル(CM)による「飽和攻撃」
  2. 多数の無人機(UAS)やドローンによる「非対称脅威」

「飽和攻撃」に対しては、迎撃しなければならない敵の数が多く、これに瞬時かつ同時に対処する必要がある。

「非対称脅威」については、迎撃の対象が安価なシステムのため、高価なミサイルで迎撃するにはコストがかかり過ぎ、低コストな対処システムが必要になる。

この新しい脅威に対処する防空システムとして登場したのが「指向性エネルギー兵器防空システム」である。すなわち「高出力レーザー装置(HEL)」と「高出力マイクロ波照射装置(HPM)」である。

「高出力マイクロ波照射装置(HPM)」は、高エネルギー・マイクロ波を目標に光速で照射、目標が内蔵する電子機器に誤作動を起こさせ、瞬時に撃墜する装置。ビームはフェイズド・アレイ方式で高速走査して、UAV/ドローンの「飽和攻撃」を粉砕する。低コストの電力で運用できる。

陸上では空港、発電所、港湾設備など重要施設の付近に配備、また、海上の艦艇にも照射装置を配備し、来襲する巡航ミサイル、ドローン、無人機の編隊を迎撃・撃破する。

図8:(防衛省・令和3年度政策事業評価書・高出力マイクロ波照射技術の研究)陸上配備の「高出力マイクロ波照射装置(HPM)」によるドローン飽和攻撃を迎撃するイメージ。

図9:(防衛装備庁・電子装備研究所・電子対処研究部・センサ妨害研究室・西岡俊治)艦艇配備および地上配備の「高出力マイクロ波照射装置(HPM)」で巡航ミサイル、ドローン、無人機を迎撃するイメージ。

図10:(防衛装備庁・電子装備研究所・電子対処研究部・センサ妨害研究室・西岡俊治)試作した「高出力マイクロ波照射装置」。今後パワー・モジュールを半導体化して装置全体を小型化・高出力にして、大型車両、艦艇、さらには航空機にも搭載可能にすることが目標。

図11:(令和3年度政策評価書・高出力マイクロ波照射技術の研究)「政策評価書」記載の予定表によると防衛装備庁での試験が完了するまで6年かかる。

防衛省発表・次期戦闘機開発;―

12月22日発表  次期戦闘機(F-X)に関わる国際協力について

防衛省は「次期戦闘機の開発について」と題する報告書で、我国の将来戦闘機体系のイメージとして次のように述べている。

現在我国はF-35、F-15、F-2の3機種の戦闘機、合計309機を保有している。この中でF-2の退役・減勢が始まる2035年頃から、次期戦闘機の導入を開始する必要があり、2020年度から開発に着手した。

図12:(防衛省「次期戦闘機の開発について」)保有機数は2020年3月の値。F-15 非近代化機99機(*2)は旧式なため近く退役する。(*3)にはまだ近代化改修していない8機を含む数。F-35Aは最終組立を国内で実施。F-35Bは完成機を輸入する。次期戦闘機F-Xは、国際協力を得ながら我国主導で早急に開発する。

2020年末における我国周辺の戦闘機配備状況は;―

日本/309機、中国/1080機、ロシア/934機、米国/2263機、である。中でも中国は最新鋭のSu-35、J-10、J-20を急速に拡大、第5世代機であるJ-31の開発を急いでいる。ロシアはSu-35に加え第5世代機Su-57の開発を推進中。米国は世界に先駆け第5世代機F-22、F-35を開発・配備中でその数が増加中である。

この状況下で、我国の次期戦闘機F-Xが出現する2035年において、量に勝る中国・ロシアを相手に航空優勢を確保するには、以下の項目を重点に開発することが重要である。

  1. 新たな戦い方/僚機が探知した情報で戦闘ができる高速ネットワーク戦闘能力
  2. 将来の脅威、技術の進展に柔軟に対応できる拡張性/オープン・アーキテクチャー
  3. 高い稼働率の確保と即応性の向上のため、国内に基盤を保持する

「1」項について図示したのが次の説明図。

図13:(防衛省「次期戦闘機の開発について」)「将来戦闘機/F-Xに必要な能力」を取りまとめた解説。

防衛省は次期戦闘機に関して2010年から2021年12月までの間、多くのニュースを発表してきている。2020年7月に開発体制として、三菱重工を機体担当企業に、その下にエンジン/IHI、ミッション・アビオニク企業を下請けとして参加させる、と発表した。そして、2021年12月に「次期戦闘機に関わる国際協力」についての発表が行われた。要約すると;―

  1. ロッキード・マーチン社をインテグレーション支援の候補企業に選定・協議を進め、日米空軍間の相互運用性(interoperability)確保のため必要な将来のネットワーク・システムの共同検討を開始した。
  2. エンジンについては、日本と英国の防衛当局間で2022年1月から共同実証事業を開始することを決めた。これで我国IHI社と英国ロールス・ロイス社が共同で新エンジン開発をすることになる。

IHI社はF-X搭載用エンジン「XF9」AB時推力15トン以上、の開発を進めており、その概要は防衛装備庁技術シンポジウム2020 「戦闘機用エンジン XF9の研究」に記載されている(次図参照)。新エンジンはこれにロールス・ロイスの技術を加味したものになろう。

  • 搭載電子機器/アビオニクスなどの各システムは、米国、英国と引き続き競技を行う。

図14:(防衛装備庁技術シンポジウム2020 「戦闘機用エンジン XF9の研究」)現用機用エンジンとは「F-2」に搭載しているGEエンジンのライセンス生産型「IHI/GE F110-IHI-129」AB時推力13.4トン、ドライ時推力7.7トンである。

図15:(防衛装備庁技術シンポジウム2020 「戦闘機用エンジン XF9の研究」)大型ジェネレーターで最新電子機器の作動を賄う。

図16:(防衛装備庁技術シンポジウム2020 「戦闘機用エンジン XF9の研究」)最新技術で燃焼室出口ガス温度を「F-2」用エンジンの1,000℃級から1,800℃に高めている。

統合幕僚監部発表;―

  • 12月14日および15日発表  ロシア機の日本海、オホーツク海および太平洋における飛行について

12月14日と同15日、ロシア軍情報収集機「IL-20」が連続して日本海から宗谷海峡を抜け、国後島と択捉島の間を通り、北海道東岸の我国防空識別圏に入り、南下して本州東北地方東岸沿いを飛行、仙台沖で反転、往路と同じ航路で引き返した。空自戦闘機が緊急発進、領空侵犯に備えた。



図17:(統合幕僚監部)12月14日、15日の両日、北海道および東北地方東岸の我国防空識別圏内を飛行したロシア軍情報収集機「IL-20」の航跡。

図18:(統合幕僚監部)「IL-20」型情報収集機。「IL-20SDR クート(Coot) A」とも呼ばれる通信傍受をするCOMINT/ELINT電子戦/情報収集機。胴体下部にあるのは合成開口レーダー・ポッドか。原型は1957年代から600機以上生産されたイリューシン(Ilyusin) IL-18旅客機で、これをベースに開発された機体。IL-18は離陸重量64 ton、航続距離3,700 km、イブチェンコAl-20Mターボプロップ出力4,250 hpを 4基装備する。

  • 12月16日発表 中国海軍艦艇の動向について

12月14日午前8時、宮古島きた22 kmの海域を南東に進む中国海軍ルーヤン(旅洋)III級ミサイル駆逐艦1隻(154)を発見、その後同艦は無弥子海峡を通過、太平洋に進出した。発見・追尾したのは海自佐世保基地第8護衛隊護衛艦「きりさめ」、那覇基地第5航空群所属の「P-3C」哨戒機などである。同艦はその後空母「遼寧」艦隊に合流、大東島の東海域で演習に参加した。

図19:(統合幕僚監部)「ルーヤン/旅洋III級 / 052D型 昆明級」駆逐艦は中国版イージス艦。同型艦は25隻が就役済み、追加5隻が艤装中で間も無く30隻体制になる。写真「廈門 (Xiqmen)/154」は2017年の就役、東海艦隊に所属。満載排水量7,500 ton、全長156 m、速力29 kts。VLS(垂直ミサイル発射装置)64セルに対空/対艦ミサイル(HHQ-9、CY-5、YJ-18など)を装備。海自イージス艦「こんごう」級6隻よりやや小振りだが、総合性能はほぼ同じ。

  • 12月16日発表 ロシア海軍艦艇の動向について

12月15日午前11時、長崎県男女群島の北西80 kmの海域を北西に進み、対馬海峡を通過、日本海に向け航行するロシア海軍ウダロイI級駆逐艦(548)を発見した。この艦は11月18日に日本海から対馬海峡を通り東シナ海に入ったものと同一である。発見・追尾したのは鹿屋基地第1航空群所属の「P-1」哨戒機と佐世保基地第2掃海隊所属の「たかしま」である。

図20:(統合幕僚監部)「ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦」は「1155型大型対潜艦」と呼ばれる。満載排水量8,500 ton、全長163.5 m、速力29.5 kts、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリ2機を搭載、個艦防空ミサイルモス備える。太平洋艦隊には4隻を配備している。

中国海軍「遼寧」空母打撃群の演習;―

TokyoExpress 2022-1-3 「中国海軍空母“遼寧”、太平洋で活発な示威訓練を実施」で解説したので、参照されたい。

―以上―