令和3年度(2021)の緊急発進実施状況


2022-04-27(令和4年) 松尾芳郎

防衛省統合幕僚監部は令和4年4月15日、「2021年度(令和3年度)の緊急発進実施状況について」と題して2021年4月から2022年3月までの1年間の緊急発進回数を発表した。周知の内容だが整理して紹介する。

2021年度の緊急発進回数は1,004回で、過去最高だった2016年度の1,168回に次ぐ記録となった。これは前年度(2020年度)の725回を300回近く上回った。

対象国別では、中国機が72 %で、ロシア機の25 %より大幅に増えた。

航空自衛隊方面隊別では、北部航空方面隊が217回、中部航空方面隊が31回、西部航空方面隊が104回、南西航空方面隊が652回であった。

中国機に対する緊急発進回数は722回で過去2番目の多さ、2020年度対比で260回の増加になった。ロシア機に対しては266回で2020年度とほぼ同水準だった。

今期の特徴は、中国機による相次ぐ沖縄本島と宮古島間の通過飛行の件、11月の中国H-6K爆撃機およびロシアTu-95爆撃機が編隊で我が国周辺を飛行した件、12月に太平洋で行われた中国空母艦載機の離発着訓練の件、新型無人機の飛行、などが挙げれる。

図1:(統合幕僚監部)最近10年間の年度別全緊急発進回数とその中に占める対中国機回数を示すグラフ。2021年度は2番目に多い。中国の急速な軍備増強がここにも表れている。

図2:(統合幕僚監部)2021年度、緊急発進の対象となった中国機とロシア機の経路と空自航空方面隊の担当空域を重ねた図。北部航空方面隊と南西航空方面隊の担当空域への侵犯が突出している。特に中国機の増強は著しく、太平洋への進出飛行が目立って増えている。

図3:(統合幕僚監部)空自航空方面隊別の緊急発進回数を示す図。主として中国機に対する緊急発進を任務とする南西航空方面隊の回数が著しい。

図4:(統合幕僚監部)2021年度の緊急発進1,004回は、我国防空識別圏(ADIZ)への侵入機に対し行われたが、今回その内領空侵犯に至った45件が公表された。いずれも中国機およびロシア機。防衛省は個別について外交ルートで「遺憾の意」を相手に伝えているだけ。

終わりに

防空識別圏(ADIZ)侵入や領空侵犯について、空自戦闘機の緊急発進で対処しているが、「警告射撃」に至った例は1件のみで、他は国際緊急周波数を使って退去を求めるだけである。

領空侵犯対処については、国際法に基づき、自衛隊法第84条が設定されている。すなわち、空自戦闘機による無線警告、従わなかった場合は警告射撃、強制着陸、撃墜などの措置を取ることができる。しかし「警告射撃」を行った例は1987年沖縄本島領空を侵犯したロシア機に対する1件のみ。他はいずれも相手国との摩擦に配慮して、外交ルートで抗議・遺憾の意を表するに止めている。

そこには独立国としての国民に命、財産、領土、領空を守る気概が感じられない。

―以上―