政府、トマホーク巡航ミサイルの大量発注を決定


政府、トマホーク巡航ミサイルの大量発注を決定

2023-02-22(令和5年) 松尾芳郎

日本政府は、日増しに高まる中国の脅威に対抗するために、今年から軍備増強を計画しているが、その一環として米国からトマホーク巡航ミサイルを2023年会計年度中に大量発注することを決めた。2026年度から導入される。2月14日に浜田防衛相が言明した。

(Japan decided to make a bulk-order of Tomahawk cruise missiles from U.S.A. as its begins a rapid military build-up, Minister of DoD Yasukazu Hamada said on Feb.14. The DoD plans to deploy the missile as part of its increasing counterstrike capabilities starting from fiscal 2026.)

今回の発注は、米国政府の「対外軍需品売却プログラム (FMS=foreign military sales program)」を通して、レイセオン・テクノロジー (Raytheon Technologies)からトマホークを購入するもの。

令和5年度(2023)防衛予算案には、主要事項IIとして「スタンド・オフ・ミサイルの整備」項目があり、その中に「12式地対艦誘導弾」、「島嶼防衛用高速滑空弾」等と並んで「トマホークの取得(2,113億円)」および「発射プラットフォームの取得・改修」項目の中に「イージス艦に搭載する関連機材の取得等(1,104億円)(トマホーク)」との記載がある。

つまり「トマホーク」は主にイージス艦などに搭載して対地攻撃や対艦攻撃に使うことを意味している。購入数は明示されてないが、報道によれば500基に達すると言われている。

岸田首相は、発注するトマホークは最新型の「トマホークBlock V」にする、と明らかにしている。

「トマホーク」についてはTokyoExpress 2022-11-21 “反撃力のシンボル BGM-109トマホーク巡航ミサイル”で紹介済みだが、今回の政府決定を受けて関連事項をここに再録して見よう。

「トマホーク」は、長射程、全天候型、ジェット・エンジンで亜音速飛行する巡航ミサイル、米海軍および英国海軍が水上艦や潜水艦から対艦・対地攻撃用に装備している。このミサイルには地上発射型もある。

航法(navigation)と誘導(guidance)は、慣性航法、GPS、地形照合システム、で行われる。「地形照合システム(TERCOM/Terrain Contour Matching)」とは、電子光学センサーとレーダー高度計を使って、慣性航法で通過する地上地形を照合するするシステムである。

図1:(Raytheon Missiles & Defense) トマホーク巡航ミサイル、1983年配備開始、改良を重ね現在はBlock Vを製造中。長さ5.67 m、直径52 cm、円筒形、折畳式主翼・翼幅2.67 mの基本は変わらない。重量は1.5 ton位。エンジンはWilliams製ターボファン、推力は700 lbs以上。巡航速度はマッハ0.8、射程は1,700~3,000 kmと言われる。

「トマホークBlock V」

米海軍は2021年3月から、航法システムと飛行中移動目標追尾可能システムを組入れた「Block Va」型、および分厚い防御壁などを撃破する[JMEWS] 弾頭を付けた「Block Vb」、の2種類を「海軍用打撃トマホーク [MST]/Maritime Strike Tomahawk」として配備を始めた。弾頭は約450 kg、通常炸薬搭載型と多数の子爆弾内蔵型がある。現在米軍が保有する「Block IV」約4,000発は、これから全て「Block V」に改修される。

[JMEWS (Joint Multiple Effects Warhead System)]とは、「トマホークBlock IV」を対地攻撃に使うため開発された貫徹力の強い弾頭を装備したもので、先端部分が分厚いコンクリートの防護壁を突き破り、内部で多数の子爆弾が爆発するシステムのことである。

2016年までにロス・アラモス研究所で、着弾時の残留燃料を活用する研究が行われた。近距離目標を攻撃する場合にはかなりの燃料が残るので、大気中の酸素を使って残留燃料を爆発させる「燃料気化爆弾/Thermobaric weapon」方式が実験され、総合爆発力が2倍以上に増えることが分かった。これが「Block V」に採用されるかは不明。

エンジンはウイリアムス (Williams) 製F107小型2軸式ターボファンで、B-52H戦略爆撃機に搭載する[AGM-86 ALCM]ミサイル、F-15戦闘機に搭載する[AGM-158 JASSM]ミサイル等にも採用されている。このうち[AGM-158 JASSM]ミサイルは、空自F-15J戦闘機改修型に搭載されるので近く発注されるはずである。

「F107」は、長さ61 cm、直径30 cm、重さ30 kg。構造はファン2段、軸流LPコンプレッサー2段、遠心式HPコンプレッサー1段、環状型燃焼室、HPタービン1段、LPタービン2段となっている。燃料はJP-4 / JP-5。推力は「F-107-WR-402」の場合700 lbs。全体の圧力比は「13.8:1」、バイパス比は「1:1」、燃費は0.683 lb/hrだが逐次改良されている。

図2:(Wikipedia)サンデイゴ(San Diego, Calif)航空宇宙博物館に展示されているウイリアムスF107ターボファン。

対地攻撃用トマホークは「TLAM-D」、つまり「BGM-109D Tomahawk Land Attack Missile – Despenser」と呼ばれ、弾頭には166個の子爆弾を収めている。

「トマホークBlock V」は、「Block Vb」で高度50 mを飛び射程は約1,700 km以上で海上移動中の目標を正確に攻撃可能、と言われる。そして保管期限(recertification /使用のための再認証への期間)は、現在の15年から30年に延長される。保管期限に達すると全ての装備品は検査・試験する規定なので、大きな改善になる。

Block Vの単価は200万ドル(2億8000万円)程度。

「Block V」は纏めると次のモデルで構成される。

  • Block V:Block IV / TACTOMの航法・衛星通信装備を改良、精度を向上する。
  • Block Va:洋上の移動目標・艦艇を攻撃する「海洋打撃トマホーク・MST」で、最新の終末誘導用のシーカーで敵艦艇を識別、精密攻撃をする。
  • Block Vb:[JMEWS]弾頭を装備し、強固に防護された地上目標を破壊する。

Block VaとVbに分かれているが、両者はほとんど同じ、違いは搭載する炸薬だけで、実質的に「Block Va」/「MST」は対地・対艦両用の巡航ミサイルと云って良い。

図3:(防衛省“我国の防衛と予算・令和5年度予算の概要”)海自護衛艦が敵のミサイルの射程外から「トマホーク」を発射、島嶼に上陸した敵を攻撃する場面が描かれている。同様に空自F-15からはJASSMを発射、さらに将来の12式地対艦誘導弾能力向上型などの運用イメージが示されている。

米海軍「Block V」を111基発注

昨年(2022) 12月末に米海軍は、パチュージェント・リバー海軍航空基地「海軍航空システム司令部 (Naval Air Systems Command, Patuxent River Naval Air Station)」経由で、レイセオン・ミサイル&デフェンス部門 (Raytheon Missiles & Defense, Tucson, Arizona)に、対地攻撃用と対艦攻撃用の巡航ミサイル「BGM-109トマホークBlock V」を111基、総額1億7120万ドルで発注した。内訳は米陸軍向けに50基、米海軍向けに48基、米海兵隊向けに13基となっている。

終わりに

以上、今年2月14日に日本政府が発表した「トマホーク大量発注決定」の内容を紹介した。令和5年度予算案が成立し、速やかにトマホーク巡航ミサイルの配備がスタートすることを願う。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Defense Industry Daily February 15 2023 “Tomahawk’s Chops: xGM-109 Block IV Cruise Missiles”
  • Reuters February 14, 2023 “Japan plans to bulk order U.S. Tomahawk missiles by March next year”
  • Raytheon Technologies Oct 24, 2010 “U.S. Navy completes first test of new warhead for Tomahawk Block IV missile”
  • Military+Aerospace Electronics Dec 20, 2022 “Raytheon to build 111 Tomahawk land-attack missiles with GPS, inertial, and terrain-matching guidance systems” by John Keller
  • Military+Aerospace Electronics March 5. 2020 “ Raytheon to start full-scale development for bunker-busting Tomahawk missile woth penetrating warhead”
  • 防衛省“我が国の防衛と予算・令和5年度予算の概要”