米空軍、C-130輸送機に新型コリンズ製8翅プロペラを採用


2022-02-28(令和5年) 松尾芳郎

図1:(Collins Aerospace NP2000 Propeller Systems)米空軍はC-130H輸送機にレイセオン・テクノロジー傘下のコリンズ・エアロスペース(Collins Aerospace)が作る「NP2000」プロペラ・システムの採用を決めた。

図2:(U.S. Air Force) 大多数のC-130輸送機にはハミルトン・スタンダード(Hamilton Standard)製「54H60」プロペラ・システムが使われている。

米空軍は2月17日に、保有するC-130ハーキュリーズ( Hercules)輸送機用としてレイセオン・テクノロジー(Raytheon Technologies)に新型プロペラを発注した。価格は総額1億3,500万ドル、レイセオンは電子制御装置、予備部品を含むNP2000プロペラ・システムを供給する。このプロペラは複合材製の8翅プロペラで、機体の性能向上に有効、かつ翅を個別に交換できるので整備も容易になる。

(The US Air Force has contracted Raytheon Technologies to produce new advances propellers for C-130 Hercules aircraft. Valued as $ 135 million, the agreement will require to deliver NP2000 propeller systems, including electronic control systems and spare parts. According to Raytheon, the eight composite-bladed propeller system will improve the performance of the aircraft. Each blade can be replaced without removing the entire system, making efficient maintenance work.)

今回の契約は「IDIQ」つまり「Indefinite-Delivery Indefinite-Quantity / 調達時期・数量未確定契約方式」と呼ばれる“調達時期、数量未確定のままの包括的契約”である。英国にも類似した2フレームワーク合意方式“がある。

図3:(Raytheon Technologies News February 17, 2023)コリンズ・エアロスペースが作る「NP2000」8翅プロペラ。

図4:(Collins Aerospace NP2000 Propeller Systems YouTube)「NP2000」プロペラ・システム。高強度複合材製プロペラ翅(ブレード)は1枚ずつ中心の電子制御装置(Digital Control / Valve Housing)に取付けられる。

図5:(Collins Aerospace NP2000 Propeller Systems YouTube) 「NP2000」の中心にある電子制御装置(EPCS=Digital Electronic Propeller Control / Valve Housing)。

図6:(facebook.com) 「54H60」プロペラの構成。回転するプロペラ翅はアルミ合金製、中心のバレル(barrel)アッセンブリーに結合される。非回転部品には、油圧ロスでもプロペラ迎角が減らないようにするピッチ・ロック・レギュレータ、飛行中プロペラ迎角が勝手に変わるのを防ぐロー・ピッチ・ストップ・アッセンブリ等が付く。

今回の契約でレイセオン・テクノロジー傘下の「コリンズ・エアロスペース(Collins Aerospace)社が、C-130輸送機用として最新型のNP2000プロペラ・システム、すなわち複合材製プロペラ翅と電子制御装置その他を製造することになる。

これまで使われて来たハミルトン・サンドストランド「54H60」と比べて、コリンズ・エアロスペース「NP2000」が優れている点は―

  • 騒音と振動:騒音は「54H60」より「NP2000」は50 %、20デシベル低減される。これで振動が減り乗員の疲労が少なくなる。
  • 機体の信頼性:「NP2000」では機体振動が減るので、機体構造やシステムの信頼性が約55 %向上する。プロペラ翅の比較では素材/製法の違いで信頼性が2倍になる。
  • ミッション即応性:「NP2000」は、同じエンジンでも推力は20 %増加する。このため満載状態での離陸滑走距離が300 mほど短縮する。この結果ミッション即応性が3 %ほど向上する。
  • 整備性の向上:プロペラ交換作業で、「54H60」はプロペラ全体で交換しなければならないが、「NP2000」はプロペラ・システム装着のまま1枚ずつ交換が可能。これで必要工数は半減(15 M/H)する。

「C-130」プロペラ変更のバックグラウンド

図7:(USAF) 米空軍は、昨年「54H60」型プロペラを装備する「C-130H」の飛行停止を決めた(2022-10-01)。

2022年10月初旬、米国軍事専門ニュースは相次いで、「米空軍”航空輸送軍 (US Air Mobility Command)が運用する「C-130H」輸送機で、「54H60」プロペラを取付けるバレル(Barrel)部分にクラックを発見、飛行停止を決定」と報じた。対象となるのは「C-130H」128機のうち116機。残りのC-130JおよびC-130Cには新しい8翅の「NP-2000」が付いているので対象外。

損傷が発見されたのはジョージア州にあるプロペラ整備施設で、搬入された「54H60」型プロペラの分解検査中にバレルにクラックを発見、続いて他の2つのプロペラでも検出した。

図8: (C&S Propeller)「54H60」のプロペラ。中央のバレル部分は、油圧でプロペラ翅付け根のギアを動かしピッチ角を変える構造になっている。

C-130Hがプロペラ問題で飛行停止になるのはこれで2回目。最初の件は2019年2月に「54H60」のプロペラ翅にクラックが発見され、1971年以前に製造されたプロペラ翅全てが数週間で交換された。この時の対象機はC-130Hで60機だった。

これ以前2017年6月に米海兵隊所有のKC-130T輸送機で飛行中にプロペラ翅が破断するという事故があった。これに基づきFAA(米連邦航空局)は2020年12月7日に「54H60」型プロペラ翅の一斉点検を命ずる耐空性改善通報(AD)を発行している。

このような事例の解決策と合わせて大幅な性能向上が期待されるため、米空軍はこれまでの「54H60」プロペラ・システムからレイセオン・テクノロジー傘下のコリンズ・エアロスペース製「NP2000」への換装を決定した(2023年2月17日)。

ハミルトン・サンドストランド(Hamilton-Sundstrand)

図9:(Wikipedia)ハミルトン・スタンダードのロゴ。

問題のプロペラ「54H60」を製造したハミルトン・サンドストランドは、以前ハミルトン・スタンダード(Hamilton Standard)と呼ばれ1929年に創業、ユナイテッド・エアクラフトの傘下でプロペラの専業メーカーだった。1930年に飛行中にプロペラの迎角を変える可変ピッチ・プロペラ[54H60]の原型を完成、これでエンジン停止時に使うフル・フェザリングや着陸時に滑走距離を短くするリバーシブル・プロペラ実現への道を開いた。我国では住友精密がハミルトンからライセンス供与を受け「54H60」の製造を開始、第2次大戦中の我国の航空機に独占的に供給した。

1952年には707やDC-8に使うエンジン燃料管制装置(fuel control unit)を完成、供給するようになった。1968年にはCV-880の空調システムの生産を開始、以後電子装備品に進出、FADECと呼ぶエンジンの電子式燃料管制装置、すなわち「Full Authority Digital Electronic Control」を完成、広く使われるようになった。

1990年にジェネラル・モーターズのプロペラ部門を買収した。

1999年に、親会社ユナイテッド・テクノロジー(UTC)がサンドストランド(Sundstrand)を買収、ハミルトンと合体させ「ハミルトン・サンドストランド(Hamilton Sundstrand)」と改名した。

2012年に、「ハミルトン・サンドストランド」はグッドリッチ(Goodrich Corp)と合併し「UTC エアロスペース(UTC Aerospace Systems)」となった。

2018年に、「UTC」はRockwell Collins買収を完了、「ロックウエル・コリンズ・エアロスペース(Rockwell Collins Aerospace)」となった。

2020年には、「UTC/ Rockwell Collins」は「レイセオン(Raytheon)」と合併、「レイセオン・テクノロジー(Raytheon Technology)」となり、現在に至っている。

つまり現在は、「54H60」を作った「ハミルトン・サンドストランド」と「NP2000」を作る「コリンズ・エアロスペース」は、共に「レイセオン・テクノロジー」傘下の企業と云うことだ。

「54H60」プロペラを使用中の航空機

「C-130H」輸送機

Lockheed Martin C-130は、民間用のL-100、最新型のC130Jを含め、世界各國で使われている汎用性の高い輸送機。1956年に米空軍で使用開始以来、60年以上も生産が続く最も寿命の長い航空機である。

1951年に米空軍は「戦闘兵員72名を収容、胴体後部のローデイング・ランプから出入、不整地滑走路使用可能なターボプロップ4発装備の戦術輸送機」の要件を各メーカーに提示した。これに対応して、ロッキードは試作機YC-130を作った。アリソン(Allison) T56エンジンを4基装備するAおよびBの2機を試作、これが空軍に採用されたのが「C-130」輸送機の始まり。「54H60」プロペラは、B型に採用された。

1964年から1996年に作られ多数使われている「C-130H」は、外翼を設計変更、エンジンをアリソンT-56-A-15出力4,500馬力にし、最大離陸重量70 ton、巡航速度550 km/hr、航続距離3,800 kmになった。この内1992年以降の機体は「C-130H3」と呼ばれ、グラス・コクピット仕様で各種電子装備が近代化された。同型の機体で英空軍およびオーストラリア空軍向けは「C-130K」と呼んでいる。我が空自が保有するのは1984~1998年に引き渡された「C-130H」で、機数は16機。他に海自が、海兵隊が保管中の給油機「KC-130R」6機を購入した。これら「KC-130R」はグラス・コクピット仕様に改修、給油機能を外して海自の輸送機として使っている。

C-130の最新型「C-130Jスーパー・ハーキュリーズ(Super Hercules)」は、新型エンジン(ロールス・ロイスAE 2100 D3ターボプロップ/4,600 shp)、プロペラは[ダウテイ(Dowty) R 391 ]6翅の複合材製、コクピットはヘッドアップ・デイスプレイを装備している。「C-130J」は、航続距離が40 %伸び、最高速度が20 %早くなり、離陸滑走距離が40 %短縮されている。「C-130J」には標準型胴体(30 m)と胴体延長型(+ 4.6 m)の2機種がある。後者は「C-130J-30」と呼ばれている。「C-130J」は現在生産中の唯一のモデルで、1999年から2022年までの間に500機が製造され、米空軍・海兵隊・沿岸警備隊に計約400機が納入され、残りが20ヶ国で使われている。

「E-2C」早期警戒機

米海軍は、空母艦載用の早期警戒機としてノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)製「E-2ホークアイ(Hawkeye)」を運用している。1964年から「E-2A」として配備が始まり、「E-2B」を経て1973年から「E-2C」へと改良されて来た。C-130輸送機と同じく、エンジンはアリソンT56-A-425ターボプロップ、プロペラは4翅のハミルトン「54H60」を装備。米海軍は2004年に「54H60」から8翅の「NP2000」に換装を決めた。2010年から配備開始された最新型「E-2Dアドバンスド・ホークアイ(Advanced Hawkeye)」には空中給油装置がついている。これまでに300機以上が生産され、内88機が「E-2D」になっている。我国航空自衛隊では、早期警戒能力を高めるため「E-2C」を13機を購入、1987年から運用を開始、その後「E-2D」9機の追加購入を決定、現在輸入が始まっている。

図10:(Wikipedia)「E-2Dアドバンスド・ホークアイ」試験飛行の様子。プロペラは8翅「NP2000」が付いている。

「P-3C」哨戒機

ロッキード(Lockheed)製「P-3Cオライオン(Orion)」4発哨戒機も、「C-130」と同じアリソン(Allison) T56-A-14ターボプロップ、ハミルトン「54H60」4翅プロペラを装備した機体である。1961~1990年間にロッキードで650機、川崎重工で約100機が作られた。現在も米海軍では約100機が、我国海自で40機が現役として活躍中。いずれもジェット化された新型の「P-8A」、「P-1」に更新中である。コリンズ・エアロスペースは「NP2000」プロペラへの換装を提案しているが、採否は不明。

図11:(Wikipedia)日本海上自衛隊の「P-3Cオライオン」哨戒機。乗員11名、全長35.6m、翼幅30.4 m、最大離陸重量61 ton、巡航速度607 km/hr、戦闘行動半径2,500 km、滞空時間4エンジン作動で12時間20分。翼下面にハードポイント10箇所があり、AGM-84ハープーンやAGM-84対地攻撃ミサイル(SLAM-ER)を搭載できる。

終わりに

本稿は”Defense Industry Daily”が報じた小さなニュースである。調べてみるとプロペラとは、ミサイル・戦闘機・艦艇など国防の第一線を担う装備ではないが、これを支える輸送機や早期警戒機などの性能を左右する重要な装備品であることを改めて知った。

もう一つ、1930年に生まれた可変ピッチ・プロペラが、多少の改良があったにせよ90年後の今日でも使われているのには驚いた。また1929年創業のハミルトンがレイセオン・テクノロジーの一部門になる経緯は、正に米国では企業が品物のように売買されている例を示しており、興味深い。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Defense Industry Daily Feb.21, 2023 “Raytheon to produce new propellers for USAF C-130 new Hercules”
  • Raytheon News Feb. 17, 2023 “Raytheon Technologies secures $ 135M IDIQ award for C-130 NP2000 propeller systems”
  • Collins Aerospace “Am Upgrade to transform your C0130H”
  • Naval Technology May 20, 2021 “Collins Aerospace begin NP2000 propeller systems supply for E-2D”
  • 空自C-130H
  • Wikipedia “Lockheed Martin C-130 Hercules”
  • FAA AD April 22, 2022 “Airworthiness Directives ; Hamilton Standard Corporation Propellers”
  • Defense News Oct. 1. 2022 “Air Force grounds most C-130Hs due to cracked propeller barrels” by Stephen Losey
  • Aerotime Hub Oct. 20. 2023 “Hercules grounded: USAF discovers problems with C-130 propellers” by Va;ius Venckunas