臓器移植法違反事件 このドナー不足をどうする


2023-3-6(令和5年)木村 良一(ジャーナリスト・作家、元産経新聞論説委員)

■警視庁がNPO法人の理事長を逮捕した

 海外での臓器移植を仲介していたNPO法人の理事長が2月7日、臓器移植法違反容疑で警視庁に逮捕された。昨年9月のメッセージ@penで取り上げ、「臓器売買の疑いがある」と指摘したNPO法人だ。逮捕された理事長は、違法に患者を東欧のベラルーシの病院に案内して多額の現金を受け取り、肝臓の移植手術を受けさせた疑いがある。移植をしなければ余命がない患者の弱みに付け込む行為は許せない。

 報道によると、ベラルーシで肝移植手術を受けた患者はその後亡くなった。理事長は10年以上も前から中国など海外の臓器移植を仲介し、他にも死亡したり、重篤な症状に陥ったりした患者がいる。

 NPO法人の臓器売買疑惑の報道を受け、昨年12月には日本移植学会など関係5学会が海外での不透明で危険な臓器移植の根絶を目指して共同声明を出した。

 臓器移植法は臓器売買のほか、死体(脳死あるいは心停止)からの臓器移植を対象に、厚生労働省の許可を得ずに仲介する行為を禁じている。営利目的の斡旋を排除するためである。日本で斡旋を認められているのは、公益社団法人・日本臓器移植ネットワーク(JOT、移植ネット)だけだ。

 心臓や肝臓、腎臓といった臓器を移植しないと自らの命を保てない患者が存在し、死後自らの臓器を提供したいと希望する人がいる。その両者を結び付けるのが臓器移植法であり、臓器が無償で公平に分配されるよう努めているのが移植ネットである。

■日本のドナーはアメリカの68分の1だ

 なぜ、患者は海外で臓器移植手術をしようとするのか。日本国内でドナー(臓器提供者)が不足しているからである。移植ネットによると、臓器ごとの移植希望患者(今年1月31日時点)は、心臓894人、肺530人、肝臓327人、腎臓1万4043人、膵臓177人、小腸9人だ。これに対し、2022年1年間のドナーは108人(脳死93人、心停止12人)と少ない。

 脳死移植しかできない心臓の場合、単純に計算すると、移植が受けられるまでに10年はかかる。腎臓移植は心停止後でも可能で、ドナー1人から腎臓を2つ摘出して2人の患者に移植することができるが、希望患者が多いために65年以上もかかる計算だ。それゆえ、人工心臓や透析装置(人工腎臓)で命をつなぎながら移植の機会を待っている間に病状が悪化して亡くなるケースが多い。

 次に移植ネットのホームページで「人口100万人当たりの世界のドナー数」のグラフ=写真=を見てみると、アメリカ41.88人、スペイン40.20人、フランス24.68人、イギリス20.12人、ドイツ11.22人、韓国8.56人と続き、日本は0.62人で異常に低い。日本のドナーの人数は移植先進国アメリカの68分の1、お隣の韓国の14分の1に過ぎず、世界の中で最低ランクなのである。

■移植ツーリズムが国際社会で問題になる

 ところで日本の移植医療は苦難の連続だった。1968年8月の和田心臓移植(札幌医大病院で和田寿郎教授が行った日本初の心臓移植手術)がドナーの脳死判定とレシピエント(心臓移植を受けた患者)の病状をめぐって疑惑が持たれて事件となり、脳死移植そのものが社会的に凍結される。その結果、日本は欧米での脳死移植に頼るしかなくなった。

 和田心臓移植から29年後の1997年10月、「臓器提供に限って脳死を人の死とする」臓器移植法が施行され、海外と同じように脳死移植を行うことができるようになる。法施行と同時に移植ネットも発足した。1999年2月には高知赤十字病院で脳死と判定された女性から心臓、肝臓、腎臓の提供があり、法施行後初めての脳死移植が実現した。

 その後、脳死ドナーが現れるようになったものの、年間平均で7人ほどと少く、臓器移植法を2009年7月に改正し、翌年7月から施行して現在に至っている。この改正で欧米と同様に「ドナー本人の意思が不明でも家族の同意だけで臓器が提供できる」ようになった。だが、ドナーは思うようには増えていない。

 この間、2006年10月には愛媛県警が宇和島徳洲会病院での生体腎移植に絡んで移植手術を受けた患者とドナーを斡旋した女性(内縁の妻)を臓器移植法違反(売買の禁止)で逮捕するという、初の臓器売買事件も起きている。

 世界的なドナー不足のなか、先進国の患者が貧困層の多い国を訪れては臓器を買い漁る非合法の移植ツーリズムが国際社会で問題になり、世界保健機関(WHO)と国際移植学会(TTS)が2008年5月、トルコ・イスタンブールで開かれた国際会議で「移植が必要な患者の命は自国で救う努力をすることが求められる」とのイスタンブール宣言を採択し、正当な海外渡航移植もその実現が厳しくなった。

■オプティング・アウトを導入したい

 日本はドナー不足をどう解消していったらいいのだろうか。移植ネットは脳死を人の死として受け入れることへの抵抗感や臓器提供できる病院が限られていることがドナー不足の原因だと分析している。しかし、私は私たち国民が臓器提供への関心が薄いことが原因だと考えている。多くの人に関心を持ってもらうためには「オプティング・アウト(反対意思表示)」の導入が必要である。10年前からこのシステムを主張しているが、臓器を提供したくない場合に公の機関に拒否(反対意思)の届け出をしておく。その届け出がないと、提供の意思があるとみなされる。つまり臓器提供に関心を持たざるをえなくさせ、ドナーを増やしていくのである。半ば強制的にも思えるが、ここまでしないとドナーは増えない。このオプティング・アウトのシステムをベースに欧州では年間数千人ものドナーが現れている。

 生体肝移植で父親の河野洋平氏に肝臓の一部を提供したデジタル大臣の河野太郎氏は当初、脳死移植に反対していた。しかし、自らがドナーとなったことで、健康体を傷つけなければならない生体移植に大きな疑問を感じ、脳死体からの移植を増やすことの重要性に気付き、臓器移植法の改正案の土台まで作り上げた。人は自分の身近なことでないと関心を持たないのである。

 私たちはいつ何時、事故に遭って頭部をケガして脳死に陥るか分からない。自分が脳死になった場合にドナーになるかどうかについて日ごろから家族とよく話し合っておくことも忘れないでほしい。

―以上―

◎慶大旧新聞研究所OB会によるWebマガジン「メッセージ@pen」の3月号(下記URL)から転載しました。

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