米空軍、有人戦闘機に随伴する無人機開発に2社を選定


2024-6-23(令和6年) 松尾芳郎

米国空軍長官フランク・ケンドール(Frank Kendall)氏は今年4月30日、議会国防小委員会 (House Appropriation Defense Subkommittee)で次のように述べた;―

『空軍は2030年代末までに、有人戦闘機に随伴し協力する無人戦闘機「CCA= Collaborative Combat Aircraft(協調無人戦闘機)」を2,000機調達することを計画している。第1段階として2社、アンドリル社(Anduril)およびジェネラル・アトミックス社General Atomics)を選定、2029年までにCCA約100機を製造する。その後2年毎に契約を更新し、更新時には今回選に漏れた企業の参入もあり得る。』

(Air Force Secretary Frank Kendall told lawmakers April 30 at House Appropriation Defense subcommittee, the Air Fore plan to buy 2,000 Collaborative Combat Aircraft (CCA) through the late 2030s, only 100 will be build by 2029 for Increment 1, which awarded Anduril and General Atomics. After an initial award, more new contracts will follow on a roughly two-year tempo, he said.)

第1段階(Increment 1)とは、2029年末までをカバーする将来国防計画(FYDP=Future Years Defense Program)を意味する。ここまでに約100機の無人戦闘機(CCA)を配備したい(ケンドール空軍長官談)。これに充当する予算は2025年度で 5億5700万ドル、2029年度まで合計90億ドルを予定している。1,000機調達の場合の単価は3,000万ドルと想定している。

空軍は4月24日に第1段階としてアンドリル社(Anduril)およびジェネラル・アトミックス社(GA-ASI=General Atomics)を選定したと発表。この選定で落選したボーイング、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマンの各社は第2段階(Increment 2)で再度挑戦できる。空軍は2030年代末までを含む長期計画で2,000機のCCAを配備するとしているが、この数は製造コスト、技術上の汎用性、有人機との整合性、などで増減があり得る。無人戦闘機を随伴・指揮する有人戦闘機は、現在開発が始まった第6世代戦闘機のみならず現用の第5世代戦闘機(F-22、F-35等)がプラットフォームになる。

ケンドール長官は中国の台湾侵攻を念頭に「無人機/CCAプログラムは、とにかく時間がない、切迫している。出来るだけ早く完成・配備したい。」と述べている。

選定されたアンドリルとジェネラル・アトミックス両社の代表のコメントは次の通り;―

アンドリル社CEO兼創立者の一人ブライアン・シンプ(Brian Schimpf)氏は「今回空軍の大規模事業に我社のような新参企業が選ばれたことは極めて名誉なこと。これが契機となり、従来大企業が独占してきた国防関連の大型案件に新規参入の道が開かれよう。」と述べている。

ジェネラル・アトミックス・エアロノーテイカル・システムス(GA-ASI=General Atomics Aeronautical Systems)のデイビッド・アレクサンダー(David Alexander)社長は「我社は無人機で30年以上の経験があり、有人戦闘機を支援する協調無人戦闘機/CCAの開発でも業界をリードしている。空軍が我社を選定した理由はここにあり、我社は、空軍の希望通りの機体を製作、期日内に所要機数を生産、引き渡す。」と語っている。

第1段階(Increment 1)で選定されなかったボーイング(Boeing)のコメントは次の通り。ロッキード・マーチンとノースロップ・グラマンはコメントしていない;―

「ボーイングはこれまでにMQ-25ステイングレイ(Stingray)およびMQ-28 ゴーストバット(Ghost Bat)無人戦闘機を開発してきたが、この技術を基に空軍のCCAプロジェクトに提案した。第2段階ではこれの改良型を提案する。そして米空軍のみならず世界各国での採用を目指す。」

図1:(Anduril)アンドリル社提案のCCAは同社開発の「フューリー(Fury)」ドローンが基本。Lattice softwareを使い、開発・試験・戦闘を含む戦闘機としての運用までを想定、完成させる。構造・システムがモジュール化されユーザーの要件に容易に対応できる。

図2:(General Atomics)ジェネラル・アトミックス(GA-ASI)提案のCCAは同社開発の「ガンビット(Gambit)」ドローンからの派生型。

図3:(GA-ASI)ジェネラル・アトミックス社が2年前に公表した将来の「協調無人戦闘機/CCA」の構想。中央胴体・エンジン・ランデングギアをコアとし「ガンビット/Gambit Core」と呼ぶ。これを中心に要件に応じた無人機を開発する。これで開発コスト、時間、単価を低減する。

CCAの戦闘力は、それを指揮する有人戦闘機のパイロットの技量・意志で大きく変わる。敵の攻撃を受けてCCAが損傷することも許容範囲になる。これで、従来の有人機のみによる戦闘では使えなかった広い範囲の戦術を使い戦えることになる。

有人戦闘機1機が指揮するCCAの機数は最初は1機かもしれないが、将来は2~5機にすることを考えている。このため一人で複数のドローンを指揮できる「ラテイス・ソフトウエア・システム(Lattice Software System)」の使用を検討中。このソフトはオレゴン州にある「ラテイス・セミコンダクター(Lattice Semiconductor Corp. Hillsboro, Oregon)」が提供する設計ツール「Smart Connectivity Solution 」を応用したものと言われる(詳細は提携社東京エレクトロン社)。

CCA機1機の単価は2,500~3,000万ドルを考えている。これは代表的な有人戦闘機F-35の価格、約8,000万ドルのほぼ3分の1に相当する。

空軍は「第2段階(Increment 2)」の開始時期を2025~2026年としているが、どの機種にするかは決めていない。空軍担当者によると、洗練されステルス形状の高価な機体から多数の低価格のCCAまでが提案されているが、紛争が予測される太平洋/台湾侵攻に対処するには多数機が必要なので後者が望ましい、としている。

2029年末完成予定の「将来国防計画(FYDP)」にCCAを組み込むのに2年毎に更新するプログラム「第1段階(Increment 1)」を実行し、早急に試作機の導入をしなくてはならない。これで多くを学びそれを「第2段階(Increment 2)」に反映させねばならない。「第2段階(Increment 2)」では友好国の共同開発参入を予定している。

ボーイングは有人戦闘機に随伴する無人戦闘機オーストラリアと共同で「MQ-28 ゴースト・バット(Ghost Bat)」を開発中。英国や日本など他の友好国もそれぞれ独自の無人戦闘機を開発している。これら諸国と共同開発について協議を進めている。

4月10日の日米首脳会談で、岸田首相は日英伊3ヶ国が共同開発中の第6世代戦闘機(GCAP)に随伴して戦う無人戦闘機として、米空軍が進めるCCA開発に参加する事を表明、バイデン大統領はこれに賛同、その旨共同声明に盛り込まれた。これで我国が「第2段階」の開発に参加することとなった。3ヶ国共同開発のGCAP戦闘機は2035年の配備を目指している。

アンドリル(Anduril Industries)

2017年に創立、国防総省の受注で成功している。革新的な対ドローン迎撃システムから大型の自動航行水中潜水艇までの開発・製造・提供することで、米軍の各部門から高い評価を受けている。さらに現在戦時体制下にあるウクライナやイスラエルから、高度/革新的な技術・ソフトを含むドローンを提供する企業として重要視されている。このような状況を踏まえて昨年末の同社の時価は85億ドルに達した。

ジェネラル・アトミックス(General Atomics)

正式名称は「ジェネラル・アトミックス・エアロノーテイカル・システムス(GA-ASI= General Atomics Aeronautical System)」。同社が提案する無人戦闘機/CCAは、空軍研究所(Air Force Research Laboratory)の「低コスト協調無人機役割プログラム(LCAAPS = Low-Cost Attritable Aircraft Platform Searing)」に準拠し今年2月29日に初飛行したXQ-67A型1号機である。これは共通プラットフォーム/Gambit Core)をベースにし、目的に応じ構造・モジュール・システムを変更・製造する方式の最初の機種となる。これによって大幅なコスト削減を目指している。

自律性とミッション・システムの試験は同社製の「MQ-20」アベンジャー*で行う予定(図6を参照)。

GA-ASI社は、日本の海自、海上保安庁が採用していいる長時間滞空型の無人偵察機「MQ-9B Sky Guardian」,「MQ-9B Sea Guardian」や米空軍が300機以上調達している無人攻撃機「MQ-9A Reaper」等の製造で世界をリードしているメーカーである。

「MQ-9A」はハニウエルTPE331-10出力900 HPターボプロップ付きで、2007年から配備され、2009年からアフガニスタン(Afghanistan)やイラク(Iraq)で使われたが、いずれも地上設置型のパイロット・ステーションで操縦してミッションを遂行している。

図4:(General Atomics / AFRL) 2024229日に初飛行したGA-ASI社のXQ-67A無人戦闘機。画面下欄には空軍研究所の公表許可番号「AFRL-2024-0651」が記してある。

図5:(General Atmics) 2024229日、カリフォルニア州パームデール(Palmdale, Calif.)近郊の同社のグレイバット基地(Grey Butte Flight Operation Facility)から飛び立った「XQ-67A..

図6:(General Atomics)「*MQ-20 Avenger」は次世代型多目的ISR無人機で、2009年初飛行、20時間以上の滞空性能を持つ、改良型のAvenger ER2017年から飛行試験中。PW545Bターボファン推力5,000 lbs1基を装備、機内兵倉庫に1.5 ton、翼ハードポイントを含めると合計3tonの各種誘導弾を搭載できる。翼幅20 m、長さ13 m、離陸重量8.2 ton

終わりに

米インド太平洋軍司令官サミエル・パパロ提督/海軍大将(Admiral Samuel Paparo)は去る6月10日、ワシントン・ポスト紙で次のように述べた。

「中国が台湾に武力侵攻した場合、その初期段階で米インド太平洋軍は多数の無人兵器を使い、台湾海峡を地獄絵図(Hellscape)にする。これで侵攻開始1ヶ月間で中国側に惨めな状況を強い、その間に我々は本格的反攻の準備を整える。」ここで述べている無人兵器とは本稿の有人戦闘機に随伴・支援する「協調無人戦闘機・CCA」を意味する。

既述の空軍長官フランク・ケンドール氏が述べた「無人機/CCAプログラムは、とにかく時間がない、切迫している。出来るだけ早く完成させて配備したい。」は、パパロ提督の発言と整合する。

中国政府は台湾の頼総統の就任演説に激しく反発「台湾独立は戦争に等しく、分離独立に平和はない」と厳しく批判、武力侵攻を整えつつある。これが背景にあり、米国と同盟諸国は早急な対応をを迫られているのが現状だ。

目前に迫った「台湾侵攻」に備えて米国防総省はCCAの実戦配備を急いでいる。恐らくGA-ASI製の機体が選定されるだろう。我国は、CCA開発への関与・支援を積極的に進めると共に、一刻も早い配備が望まれる。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Air & Space Force Magazine April 24, 2024 “Kendall Expects 100 CCAs by 2-30” by John A Tirpak
  • Breaking Defense April 24, 2024 “Air Force picks Andril, General Atomics for next round fo CCA work” by Michael Marrow”
  • “Anduril Industries 4/24/2024 “Anduril Selected for U.S. Air Force Collaborative Combat Aircraft Program”
  • GA-ASI.com 2022-9-19 “GA-ASI’s Gambit Series: The Future of CCA”
  • General Atomics News 24 April 2024 “GA-ASI selected to build CCA for AFLCMC”
  • 日本安全保障戦略研究所2024-6-18 “台湾海峡情勢に関する報道”
  • Yahoo.co.jp 2024-6-13 “中国が台湾侵攻すれば無人兵器で「地獄絵図」に米軍司令官“