2024-7-17(令和6年) 松尾芳郎
図1:(ZeroAvia) ゼロアビアが開発中の水素燃料動力機「ZA2000RJ」の完成予想図。2023年7月パリ航空ショーでリージョナル機CRJ-700を水素燃料電動エンジン機に改造すると発表。2024年7月22日開催のファンボロー航空ショーで2027年就航を目指すと発表する。
アメリカン航空は7月2日、クリーン航空機開発の先駆者「ゼロアビア」が作る水素電動エンジン付きリージョナル旅客機100機を購入するため、「ゼロアビア」に購入覚書(conditional purchase agreement)を交付した、と発表した。
(American Airlines announced July 2, 2024, it has entered into a conditional purchase agreement with clean aviation innovator ZeroAvia for 100 hydrogen -electric engines to power regional jet with zero emissions.)
アメリカン航空は2022年に「ゼロアビア」に対し支援のため資金を供与しているが、今回の購入覚書は2回目の支援となる。
「ゼロアビア」は民間機用の水素電動エンジンの開発中で、これで飛行中の排気エミッションをゼロに近づけようとしている。同社は現在20席級の小型機でエンジンの飛行試験を続けているが、さらに大型のエンジンを開発し、リージョナル路線に多数使われているボンバルデイア(Bombardier) CRJ700型機に装着、実用化を図る。
アメリカン航空は、2050年までに同社が排出するエミッション・ガスをゼロにする目標を掲げており、「ゼロアビア」への支援もこの一環となる。
航空輸送業界が排出するカーボン・エミッションは全世界の排気量の2~3 %に過ぎないが、ジェット燃料を”環境に優しい燃料(SAF=sustainable aviation fuel)変えるなど努力が始まっている。これにリージョナル機のゼロ・エミッション化が進めば、目標に近づくことになる。
「ゼロアビア」が開発中のエンジンは2種;―
- 「ZA600」は20席級用、
2023年1月から「ドルニエ(Dorner) 228型機」に取付け、証明取得のための試験飛行を続けている。
図2:(ZeroAvia)2023年1月19日、英国グローセスターシェア(Gloucestershire, U.K.)で初飛行する「ゼロアビア」の19席型「ドルニエ228」機、左翼エンジンに「ZA600」を取付け試験を続けている。型式証明は2024年に取得の予定。
図2A:(ZeroAvia) コッツウオルド空港(Cotswold Airport)ハンガーで飛行前点検中のドルニエ228型機。左翼5翅プロペラ付きエンジンが「ZA600」、右はハニウエル製TPE331-10、560 KW (770馬力)エンジン。
図2B:(ZeroAvia) コッツウオルド空港(Cotswold Airport)で「ZA600」の地上運転、エンジンカバーは外してある。
- 「ZA2000」は90席級用
こちらは大型で「ボンバルデイア(Bombardier) CRJ700型機」などに装着される。「CRJ700型機」の「型式証明・製造・販売・整備サポート」に係る一切の事項・権利は、2020年6月に「ボンバルデイア」社から三菱重工系列企業「MHI RJエビエーション」社に移管されている。従って「MHI RJエビエーション」社は今後「CRJ700」改め「ZA200RJ」の開発に深く関わることになる。
「ゼロアビア」は「ZA2000RJ」開発と並行して、アラスカ・エアラインズ(Alaska Airlines)とも2022年にアメリカンと同様の購入覚書を締結している。これはデハビランド・カナダ(DHC=De Havilland Canada)製双発の「DHC8-400 (Q400)型機」を「ZA2000」エンジン付きに改造するもので、50機の改造を予定している。
図3:(ZeroAvia) 2023年5月1日、アラスカ・エアラインズは、同社の「ダッシュ8Q400」機、1機をゼロ・アビアに寄贈、ペインフィールド・ハンガー内で左翼にZA2000取付け改修の作業に入った。ダッシュ8は5,000 軸馬力のPWC150Aエンジンを使用中。
「ZA2000」エンジンは2022年末に出力1.8 MW (メガワット)の試運転に成功、これを40-80席級のリージョナル機に装着する。これで2026年ごろに航続距離1200 kmの路線に就航させる計画だ。そして90席級用の導入は2027年になる。
ZA2000エンジンは発表スペックによると;―
出力・軸馬力は2-5 MW(メガ・ワット)、システム全体効率は45-60 %、燃料消費率は60-70 hour/kg、CO2/NOx等エミッションはほぼゼロ、飛行機雲発生は60-80 %低減する。
図4:(ZeroAvia)「ゼロアビア」は「DHC(デハビランド・カナダ)」社の支援を受けて76席級「DHCダッシュ8-400」の水素電動エンジン取付改修を行い型式証明を取得する。装着するエンジンは出力2 MW級の「ZA2000」。全世界で「ダッシュ8-400」は330機以上が就航中で総飛行時間は1,100万時間に及ぶ
ゼロアビア
ゼロアビアはこれまで述べてきたように、航空業界でのゼロ・エミッションに関わるリーダー的企業で水素電動エンジンの開発が目標。2025年までに航続距離500 kmの9−19席級リージョナル機を実現、2027年までに40−80席級機を1200 km路線に就航させる、としている。
同社は、米国(90 Skylane Dr, Hangar 1, Hollister, California)および英国(Hangar C2, Costwold Airport, Kemble, Cirencester, U.K.)にそれぞれ本社機構を置いている。
すでに欧米の航空当局・FAAおよびCAAから、3機種 (DHC ツインオッター、DHC ダッシュ8を含む)について実験飛行証明(experimental certificate)を取得済み。そしてアメリカン航空、アラスカ航空など航空会社から購入覚書で2,000台近いエンジンを受注している。
ゼロアビアは2年前に米国シアトル北部のエベレット・ペインフィールド(Pain Field, Everett, WA)に小規模の研究施設を開設しているが、今回大量の購入覚書を取得したため大拡張を決め、ペインフィールド内に面積136,000平方フィートの「プロパルジョン・センター(Propulsion Center)」を開設した(2024年4月24日)。同社にとり始めての生産工場となる。ここで水素電動モーターの開発・生産・支援をする。近くにはボーイング・エベレット工場がある。
また燃料電池の生産・保守のため「ハイドロジェン・センター(Hydrogen Center)」を新設するべく、場所を検討中である。
ここで開発する部品は;―
- 先進電動モーター(Advanced electric motor):最大出力660 KWの直接駆動方式で回転数は2,200 rpmおよび大型の900 KW出力の回転数20,000 rpm型。
- シリコン・カーバイド・インバーター(Silicon carbide inverter):連続出力200 KWの双方向性インバーターで出力密度(出力比/出力とシステム重量の比率)は20 KW/kgで、シングルで225 KW(ピーク時)/200 KW(連続時)、デユアルで(450 KW/400 KWの性能を持つ。
- 低温型陽子交換膜(LT-PEM=Low temperature Proton Exchange Membrane):パワー・セル(PowerCell)社と共同で開発中の燃料電池内の部品である電解質膜で、ゼロアビアの「スーパースタック・フレックス(SuperStack Flex)」仕様に適合、100~400 KW級燃料電池で使用可能である。
- 高温型陽子交換膜(HT-PEM):燃料電池スタック使用部品で高出力時に有効性を発揮する。ゼロアビアの「HT-PEM燃料電池」はターボ・エア冷却のモジュール形式で出力比は3.5 KW/kg、これはVTOL機などのエンジン要件に適合する。
- 航空用燃料電池コンプレッサー(Aviation Fuel Cell Compressor):15,000 feet (5,000 m)の高空で、燃料電池を900 KW高出力で安定的に維持するため必要な加圧システムである。
4月24日に行われたエベレットの「プロパルジョン・センター(Propulsion Center)」の開所式には、ワシントン州の「ジェイ・インスリー(Jay Inslee)」知事、下院議員の「リック・ラーセン(Rick Larsen)」氏などが参列した。
図5:(ZeroAvia)4月24日の開所式で展示された「ZA600」エンジン。右が電動モーター、左が水素燃料電池スタック。ゼロアビアの方式は、水素を燃料電池で電気エネルギーに変え、モーターを回しプロペラを駆動する方式。エミッションは水蒸気だけで極めてクリーン。
日本企業の協力
伊藤忠商事は2024年7月9日に航空機用水素燃料電池動力エンジンの開発。製造企業「セロアビア」に出資したと発表した。投資額は明らかにしていないが、日本を含む東洋地区で整備、空港設備、水素製造・貯蔵に関わる分野での協力を含む、とされる。
日本航空は2023年11月16日、日本航空とその系列のJALエンジニアリング社と共同で、日本国内のリージョナル路線にゼロアビア製旅客機を運航する場合に関わる調査をする協定を締結した。水素燃料供給施設の新設等の調査も含まれる。日本航空は40-90席級のリージョナル機を50機以上国内で運行している。日本航空は1951年創立の企業で”ワン・ワールド(Oneworld)“連合のメンバー・エアライン、224機で世界の64ヶ国376空港路線を運航している。
終わりに
ゼロアビアは2017年に英国と米国で水素電灯航空機を開発すべく、同社のCEOバレリー・ミフタコフ(Valery Miftakhov)氏により設立された。2020年にはZA250を装備したパイパー・マリブ(Malibu)機で初飛行に成功した。その技術の将来性に着目して多くの方面、すなわち、ビル・ゲイツ支援のファンド、シェル石油、香港のホライゾン・ベンチャー、アマゾン系列ファンド、英国政府、ブリテイシュ航空、ユナイテッド航空、エアバス、等、から出資が集まっている。日本からの支援も含め、開発は順調に推移している。
―以上―
本稿作成の参考にした記事は次のとおり。
- Zeroavia.com July 2, 2024 “American Airlines commits to conditional purchase of 100 ZeroAvia hydrogen-powered engine, increases investment in hydrogen-electric innovator”
- TokyoExpress 2023-08-15 “ゼロアビアとMHI RJ、リージョナル機CRJの水素電動化を進める“
- Customized Energy Solutions 08 July 2024 “American Airlines announces order for 100 H2-electric engines from ZeroAvia”
- Aerospace Testing July 2, 2024 “American Airlines to buy 100 ZeroAvia hydrogen-powered engines” by Web Team
- Hydrogen Central December 15, 2021 “De Havilland Canada and ZeroAvia announce MOU to develop Hydrogen-Electric Engine for Dash 8-400 Aircraft”
- ZeroAvia November 16, 2023 “Japan airlines and ZeroAvia to partner on explorating Hydrogen-Electric Flights in Japan”