ファンボロー航空ショウ、日英伊共同開発機[GCAP]の現況



2024-7-29 (令和6年) 松尾芳郎

図1:(BAE Systems) ファンボロ〜航空ショーで展示された日英伊3カ国共同開発の次世代戦闘機[GCAP]の実物大コンセプト・モデル。これまで公開された形からデルタ翼に変わり、航続性能の増大が図られている。

ファンボロー航空ショウで展示された3カ国共同開発の次世代戦闘機「GCAP (Global Combat Air Program /グローバル戦闘機計画)」のモックアップは、ショウの目玉的な存在。2035年配備を目指している。英国およびイタリアは2003年から配備しているユーロファイター・タイフーン(英国/160機、イタリア/120機) の後継機、また日本は2000年から配備されているF-2戦闘機・91機の後継機となる。2022年12月の3カ国首脳会談で[GCAP]を推進する政府間機関を設立することを決めている。

(A repeat star of the Farnborough air show 2024 is in new-look image, the three-nation Global Combat Air Program (GCAP) is continues its progress towards service entry by 2035. It will replace UK and Italy Air force’s Eurofighter Typhoon, has been service since 2003, and Japan’s F-2 Fighter jet, service since 2000. The three nation’s summit has agreed to start up the development office (GIGO )at December 2022.)

[GCAP]は英国「BAEシステムズ」、イタイリア「レオナルド(Leonardo)」、日本「三菱重工」、の3社が中心となって開発する。

2024年7月22日〜26日、ファンボロー航空ショウ(Farnborough Airshow)が開催されたが、我国の木原稔防衛相は23日、ロンドンで英国ヒーリー国防相 (John Healey, Secretary of Defence)、イタリアクロセット国防相 (Guido Crosetto, Minister of Defence)と[GCAP]の開発について会議を持った。

英国では7月初旬にスターマー(Keir Starmer) 労働党政権が発足したばかり。スターマー新首相は国防支出をGDP比2.5 %まで増やす計画だが、内容は前政権の計画を見直し、高まる危機に対処するためテクノロジー主導の戦争の準備を整える、2025年前半に見直し結果が発表されるが、それまで[GCAP]・[新原子力潜水艦]などの大型プロジェクトについて何も約束出来ない、と語った。

木原、ヒーリー、クロセット、3カ国国防大臣の会談では[GCAP]の推進について概ね次のような合意が決まった。すなわち;―

安全保障環境が一層厳しさを増す中で、欧州・インド太平洋の平和と安定を守る重要性を再確認し、[GCAP]を成功させることで合意、2024年末までに英国に政府間推進機関 [GIGO =GCAP International Government Organization (GCAP国際政府間組織)]、すなわち開発の司令塔となる機関を設立することで合意した。この[GIGO]は、すでに活動をスタートしている「BAEシステムズ」、「レオナルド」、「三菱重工」、3社が作る実務組織「GCAP実施機関」を支援し指示をすることになる。

図2:日本時間7月23日夜、英国国防省で木原・ヒーリー・クロセット3者会談が行われた。

会談後の記者会見で、木原防衛相は「懸念されるようなことはなく2035年配備に向け計画を進めることが確認できた」と説明した。ヒーリー国防省は「3カ国で開発している関連技術の進捗状況を話し合った。計画は次の段階に進むことになる」と述べた。

図3:(防衛省ウエブサイト「次期戦闘機の開発について/2024-3-26」)[GCAP]実施機関と[GIGO]との関係を示す図。

「GCAP」開発に参加する主な企業と分担は次のとおり;―

  • 機体、全体の統括:日本/三菱重工、英国/BAEシステムズ(BAE Systems)、イタリア/レオナルド(Leonardo)、この3社が合弁企業「仮称GCAP実施機関」を設立する。この合弁企業はユーロファイター・タイフーンを開発する際に作られた「Eurofighter GmbH」と同じ形式の組織となる。
  • エンジン:日本/IHI、英国/ロールス・ロイス(Rolls-Royce)、イタリア/アビオ・エアロ(Avio-Aero)が担当する。IHIは推力15 ton (A/B作動時)、発電能力250 KWの[XF9-1]エンジンを試作し、RRに詳細を伝達済み。これを基本に2026年に実証エンジンを作るのが目標。(詳しくは「Tokyoexpress 2022-02-28 日英の次期戦闘機装備のエンジンはRRとIHIの共同開発」および「同2022-08-31 次世代戦闘機テンペストとF-Xは日英伊共同開発へ」を参照)
  • アビオニクス:日本/三菱電機、英国/レオナルドUK(Leonardo UK)、イタリア/レオナルド(Leonardo)およびエレットロニカ(Elettronica)

[GCAP]の開発体制は順調に進みつつある。日本は超音速試作機「三菱X-2」を試作・試験飛行を実施した、英国は2027年に試作超音速機を飛ばす予定、またボーイング757試験機でレオナルドUKが作るセンサー類の飛行試験をする予定になっている。。

しかし未解決の問題も多々ある;―

英国では[GCAPS]に関して複数年度に亘る予算措置を講じていない。このため年度毎に議論が繰り返される可能性が残る。

フランス・ドイツ・スペイン3カ国は2022年122月に[FCAS = European Future Combat Air System](欧州将来戦闘機システム)計画を発足させた。こちらはエアバス、サフラン、タレス、MBDAが参加している。[GCAP]に比べ5年ほど遅れているが、2つの将来戦闘機を同時開発するのは無駄、とする意見が欧州で強まっている。[FCAS]計画の主要メンバー/エアバス防衛部門首脳(Chief Executive Officer Airbus Defence and Space)マイケル・ショールホーン(Michael Schoellhorn)氏は「スターマー新政権は欧州大陸との関係強化の姿勢を見せており、2つの戦闘機計画に協力関係が生まれるかもしれない。GCAPから打診があれば喜んで対応する」と述べている。

また、レオナルドのCEOロベルト・シンゴラニ(Roberto Cingolani)氏はメデイアに「GCAPの仕事配分が日英に偏っている、3者均等にすべきだ」と不満を公けにしている。

サウジアラビアは第6世代戦闘機[GCAP]への参加を強く希望している。サウジが参加することで資金面では強固になるが、その反面議論が多くなり開発が遅れる恐れがある。サウジのハメッド・アラムリ(Hamed Alamri)空軍大将は「対等なパートナーになることを求める、サウジは単なるカストマーではなく革新技術の推進国となるべきだ」と述べている、

これらを総合すると[GCAP]の前途は多難だが、仏独西が作る[FCAP]チームとの統合、あるいは部分的な参加を得て、何とか実現に漕ぎ着けるのではないか。しかし日本が強く望んでいる2035年の配備開始には極めてスケジュールがきつい。F35では、試作の概念実証機X-35の初飛行が2000年、空軍へのF-35A配備開始が2016年、その間16年以上を要している。[GCAP]では試作機の初飛行が2027年予定となっている。設計手法の電子化が進んでいるものの試作機初飛行と配備の間は8年足らずで済むのか、各国の本気度が試されることになる。

[GCAP]はF-35戦闘機と同じく超音速機だが、人工頭脳ウエポン・システム(intelligence weapon system)と、現在のレーダーの1万倍の情報を探知できる次世代レーダーを装備する。大きさはテニスコート(23.8 m x 10.1 m)ほどになる。

参考に[F-2]および[Eurofighter]の大きさを示す;―

  • 「F-2戦闘機」:長さ15.5 m x 翼幅11.1 m、翼面積34.8 m2、最大離陸重量22.1 ton、エンジンはIHI/GE F110-IHI-129ターボファン推力13,400 lbs(A/B時)2基。
  • 「ユーロファイター・タイフーン(Eurofighter Typhoon)戦闘機:長さ16 m、翼幅11 m、翼面積51 m2、最大離陸重量23.5 ton、エンジンはEurojet EJ 200 推力13,000 lbs 2基。

米国をはじめ西側諸国で運用が始まった最新の戦闘機[F-35]は「第5世代機」、これ以前の第4世代機との違いはステルス性の有無である。では[GCAP]など「第6世代機」はどうなるか。

[GCAP]は、空戦向きの小回りが効く空戦向きの戦闘機ではなく、複数の無人機を従え (Air Teaming)戦闘の中核となり、空戦は随伴する無人機が実施し、自機は自身のレーダーで得た情報と友軍から送られていくる情報を集約、無人機の戦闘を指揮・統制する役目をする戦闘機となる。

現在空自は、第5世代戦闘機[F-35]を142機、F15の近代化改修型[F-15MS]を100機取得中、それに[F-2]を91機保有しているが、いずれも自身が敵と戦う機体である。[GCAP]として導入する仮称[F-3]はこれと異なり自身が接敵して空戦を行うことは稀で、主として随伴する無人機を指揮・統制する指揮官的役悪を務める。

図4:(BAE Systems) 英空軍マークを付けた[GCAP]コンセプト・モデル。従来モデルからデルタ翼に変更・翼幅を大きくすることで、翼面積を増やし燃料搭載量を大きくし、航続距離を延伸、空力抵抗の減少で揚力が増加、ペイロードの増大を図っている。

図5:(BAE Systems) 日の丸付き[GCAP]のモックアップ。BAEの説明によると、世界で最先端の戦闘機で、戦闘機同士あるいは随伴機との相互運用性に優れた機体、レーダーは現在システムの1万倍のデータを収録・使用でき、予想される航空戦で圧倒的な優位性を誇る。

図6:(BAE Systems) 上が従来モデル、下が新しいモデル。翼の平面形が、後縁が屈曲する形からデルタ翼に変更されている。

終わりに

我が国の次期戦闘機開発への取組みは、防衛省ウエブサイトに述べてある通り2010年から始まり、2020年にはエンジン、機体、アビオニクス担当企業を決め、全体を担当する三菱重工と契約している。そして国際協力の可能性を検討、2022年に日英伊3カ国の共同開発を決めた。我国の取り組みが始まってから今年で14年。木原防衛相が3ヶ国国防相会合で熱心にGCAPの推進を主張した背景にはこのような入念な取り組みがある。今後英国、イタリアと一層連携を密にして障害を克服[GCAP]の実現に努めてほしい。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Aviation Week July 15-28, 2024 ”GCAP Industry Partners Aligning for 2025 Development Contact Milestone” by Tony Osborne
  • Aviation Week July 15-28, 2024 “Future Europian Combat Aircraft Moves Toward Demonstrator Flights” by Robert Wall and Tony Osboorne
  • Farnborough News “GCAP partners reveal new look bulked up future fighter” 
  • 防衛省ウエブサイト2024-3-26 “次期戦闘機の開発について
  • 防衛省2024-7-23 “日英伊防衛相会合について“
  • Yahooニュース“英航空ショー開幕 軍用機からeVTOLまで” by AFP BB News
  • Yahoo ニュース“世界最大級の英航空ショー、日英伊共同開発の時期戦闘機の実物大最新模型を公開#専門家のまとめ” by 高橋浩佑
  • Flightglobal 2024-7-21 “GCAP partners reveal new look for bulked up future fighter
  • Independent July 23 2024 “Multibillion-pound RAF fighter jet Tempest unveiled ahead of strategic defense review” by Jabed Ahmed
  • 乗り物ニュース 2024.07.22 “より強く!航空自衛隊の次期戦闘機・新たな姿イギリスで公開・ポイントは翼だ” By 乗り物ニュース編集部
  • 航空万能論GF 2024.7.22 “BAEがGCAPの新コンセプトモデルを公開、ラムダ翼からデルタ翼に変更“
  • 時事通信2024.5.31 イメージはA.T.フィールド?すっきりわかる!日英伊共同開発・時期戦闘機の全貌“ By 小峯隆生
  • Tokyoexpress 2022-02-28 “日英の次期戦闘機装備のエンジンはRRとIHIの共同開発”
  • TokyoExpress 2022-08-31 “次世代戦闘機テンペストとF-Xは日英伊共同開発へ”