2024(令和6年)-8-8 松尾芳郎
令和6年7月、我国周辺における中露両軍および北朝鮮の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し各方面から多くの発表があった。今月の注目すべきニュースは次の通り。
(Military threats from Chinese, Russian Forces and North Korean are tensed up in July 2024. Japan and Allies conducted multiple large scale exercises for retaliation. Following are main issues. )
以下に主要項目を説明する。
中国軍の動向
- 沖ノ鳥島北の我国大陸棚にブイ設置
今年6月、日本最南端の沖の鳥島(東京都小笠原村)の北にある、国際法上日本の「延長大陸棚」と認定された海域(2012年)に、中国の海洋調査船“向陽紅22”がブイを設置した。このブイは発光器付きで近くを航行する船から視認できる。
この延長大陸棚および沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)の海底には、メタンハイドレートやマンガンなど鉱物資源が存在する。
中国は、沖の鳥島は「島ではなく岩で、日本の大陸棚やEEZの基点にはならない」と主張、同島周辺で軍事演習や海洋調査を繰り返している。今回のブイ設置は「公海上であり日本が干渉する権利はない」と主張している。
林官房長官は7月5日「設置場所は日本の大陸棚であり、目的を示さないままブイが設置されたのは遺憾、日本の海洋権益を侵害することないように」と中国に申し入れた。
その後も中国の付近海域での活動が続いており、7月9日〜18日間および同24日には、海洋調査船「大洋」が沖ノ鳥島のEEZ内に侵入、調査を行なった。海上保安庁巡視船が警戒監視している。
図1:(京浜河川事務所)日本の領海と排他的経済水域(EEZ)を示す図。沖ノ鳥島は、東京都小笠原村の一つで日本最南端、北回帰線(北緯23度26分)より南にある。周囲には40万平方kmのEEZがある。沖の鳥島は環礁で東西4.5km、南北1.7 km。国際法上満潮時でも水没しない「北小島」と「東小島」は日本の領土と認定されており、両島はコンクリート製護岸で補強されている。また沖ノ鳥島環礁の中央には観測所が設置されている。
図2:(東京大学海洋アライアンス)沖の鳥島は、満潮時でも水没しない東小島、北小島のとその周囲の礁嶺で囲まれた40万平方kmの環礁をいう。
- 7月4日、中国フリゲート1隻ミサイル駆逐艦1隻およびロシア補給艦1隻とフリゲート1隻、計4隻が鹿児島県草垣群島南を経由大隈海峡を通り太平洋へ
7月4日夕刻、ロシア海軍ドウブナ級補給艦およびステレグシチー級フリゲート(333)、中国海軍ジャンカイII級フリゲート(572)およびルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(175)の4隻が相次いで鹿児島県草垣群島の南40 kmから大隈海峡を通過、太平洋に向け航行した。
図3:(統合幕僚監部)
図4:(統合幕僚監部)
図5:(統合幕僚監部)
図6:(統合幕僚監部)
- 7月8日、中国偵察/攻撃型無人機が宮古海峡を通り太平洋へ進出、往路と同じ経路で戻る
7月8日昼間、中国の偵察/攻撃型無人機「TB-001」が東シナ海から宮古海峡を通過太平洋上で旋回飛行ののち、再び同じ経路で東シナ海に戻った。
図7:(統合幕僚監部)偵察/攻撃型無人機「TB-001」。長さ10 m、翼幅20 m、離陸重量2.8 ton、ペイロード1 ton、爆弾・ミサイルを搭載可能。航続距離6,000 km、ペイロード1 tonで35時間飛行可能、上昇限度8,000 m。米国・日本が使うRQ-4Aグローバルホーク無人機より多少小型。
- 7月9日〜15日、空母「山東」を含む5隻の艦隊が太平洋上の宮古島南東約400 kmの海域に進出、艦載機の離発着訓練を含む演習を実施、同17日―18日には宮古島南の海域を南シナ海に向け航行
7月9日〜10日、空母山東(17)、レンハイ級ミサイル駆逐艦(106)、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(164)、ジャンカイII級フリゲート(571)、フユ級高速戦闘支援艦(905)の5隻が、宮古島南東400 kmの海域に進出、艦載機の発着訓練を含む演習を実施した。演習は同15日まで続き、艦載戦闘機の発着艦240回、艦載ヘリの発着艦140回が行われた。艦隊は演習後17日から18日にかけて宮古島の南400 km付近を西に向かい、バシー海峡経由南シナ海に戻った。
図8:(統合幕僚監部)空母「山東(17)」と発艦するJ-15戦闘機。山東は2019年末就役、南海艦隊所属、海南島三亜が母港。満載排水量67,000 ton、全長315.5 m、飛行甲板最大幅75.5 m、速力30 kts、J-15戦闘機32~36機、Z-9ヘリ2機を搭載。発艦は12度勾配のスキージャンプ甲板から、着艦はアレステイング・ワイヤ4本で停止。「遼寧」より大型化・効率化している。
- 7月12日、中国偵察/攻撃型無人機が宮古海峡を通り、太平洋に進出、台湾東を南下、バシー海峡を通過中国本土へ
7月12日昼中国軍偵察/攻撃型無人機[TB 001]が東シナ海から宮古海峡を通り、太平洋に出、南西に向かい台湾を周回する形でバシー海峡・中国本土に立ち去った。
図9:(統合幕僚監部)空自戦闘機が撮影した[TB-001]無人機。最近頻繁に現れる。
- 7月11日、フリゲート1隻・ミサイル駆逐艦1隻が尖閣諸島魚釣島西を通り与那国島と台湾の間を抜け太平洋に、同16日に宮古海峡を通り東シナ海へ
中国海軍ジャンカイII級フリゲート(548)とルーヤンII級ミサイル駆逐艦(152)が尖閣諸島魚釣島の西を通り与那国島-台湾間の海峡を抜け、太平洋に進出、台湾の東を遊弋したのち北上、16日に宮古海峡を通り東シナ海に戻った。
図10:(統合幕僚監部)
図11:(統合幕僚監部)
- 7月21日、無人機1機が太平洋から与那国島と台湾の間を飛行、途中滞空後東シナ海へ
7月21日午後、中国軍無人機(機種不明)が台湾東の太平洋を北上、与那国島と台湾の海峡付近で滞空後東シナ海に向け立ち去った。同機は中国南部から出発、バシー海峡を経て台湾東岸に沿い北上したものと思われる。
- 7月21日、中国海軍ミサイル駆逐艦と補給艦は北欧バルト海を通り、ロシアのサンクトペテルブルグに入港(Newsweek 7月22日報道)
7月20日、中国海軍艦艇2隻が北ヨーロッパ・バルト海を通り、ロシアのバルチック艦隊の本拠サンクトペテルブルグ(St. Petersburg)に入港した。2隻はロシア海軍記念日(7月21日)式典に参加するため訪問した。海軍記念日の祝典は規模を縮小して行われた。中露両国は戦略的に足並みを揃え、軍事協力を一層強化しつつある。
バルト海に入るには多数の島々を結ぶデンマークの“グレートベルト橋”の下を通過するのでNATO艦艇が護衛し誘導した。
図12:(Newsweek)デンマーク・グレートベルト橋の下を通過する 052D型ルーヤン(旅洋)III型ミサイル駆逐艦。本級は昆明級駆逐艦、満載排水量7,500 ton、同級は25隻。写真は「厦門(154)」のようだが「焦作(163)」と説明している。
図13:(Newsweek)同じく903型フチ級補給艦、満載排水量20,000 ton(903型)もしくは23,000 ton (903A型)、艦番号は[960]と読めるが艦名は不詳。「906」なら「洪湖」である。
図14:( Google)バルト海の地図。
- 7月28日、情報収集艦1隻が太平洋から与那国島と西表島の間を通り尖閣諸島魚釣島の西を通過、東シナ海へ
7月28日午前、ドンデイアオ級情報収集艦(799)が太平洋から与那国島と西表島の間の海域を太平洋から東シナ海に向け航行、尖閣諸島魚釣島西を通り東シナ海に入った。
図15:(統合幕僚監部)「ドンデイアオ/東調」級情報収集艦。排水量6,000 ton、全長130 m、速力20 kts、艦尾にヘリ用甲板、中央に弾道ミサイル追跡レーダー、艦橋上部に巡航ミサイル短距離追跡レーダーおよび電子情報傍受アンテナ、などを装備する。同級は9隻配備。
- 7月29日、ミサイル駆逐艦1隻、フリゲート1隻、与那国島・台湾間の海峡を北上、尖閣諸島魚釣島近くを通過。また別のミサイル駆逐艦1隻、補給艦1隻が宮古海峡を北東に進み、東シナ海へ
7月29日深夜早朝、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(124)ジャンカイII級フリゲート(538)が与那国島と台湾の海峡を北に進み魚釣島の西を通り、東シナ海に向け航行した。この2隻は6月26日に大隈海峡を抜け太平洋に進出、27日に東シナ海に戻り対馬海峡を北上7月1日に津軽海峡を通り太平洋に出ている。
また同時刻にレンハイ級ミサイル駆逐艦(102)とフチ級補給艦(903)が太平洋から宮古海峡を通過、東シナ海に入った。この2隻は6月27日に対馬海峡を通過日本海に入り、7月1日に宗谷海峡を通過、オホーツク海でロシア海軍と共同演習を行っている。
このように中国艦艇の動きは非常に活発になっている。
図16:(統合幕僚監部)
図17:(統合幕僚監部)
図18:(統合幕僚監部)
図19:(統合幕僚監部)
- 7月30日、偵察型無人機が東シナ海から奄美大島近くに飛来、旋回飛行、東シナ海に戻る
7月30日午前、偵察型無人機[WZ-7]が九州西の東シナ海に飛来、奄美大島北西沖まで飛行、その後反転し九州西の海上で旋回飛行をした後、西に去った。
図20:(統合幕僚監部)空自機が撮影した[WZ-7]無人偵察機。
ロシア海空軍の動向
- 7月3日ミサイル護衛哨戒艇3隻が宗谷海峡を通過、オホーツク海へ
7月3日午前ロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻(991)、(971)が宗谷海峡を通過、オホーツク海に入った。
図21:(統合幕僚監部)満載排水量約500 ton、速力40 kts、対艦ミサイル [3M-80モスキート]2連装発射機を両舷に装備する対艦攻撃用コルベット。1970年代から多数の派生型が生産された。太平洋艦隊には「タランタルIII」別名12411型が配備されている。[3M-80]ミサイルは、弾頭炸薬300 kg、射程200 km前後。
7月4日フリゲート1隻が対馬海峡を通過東シナ海に入りドウブナ級補給艦と合流、中国海軍フリゲートおよびミサイル駆逐艦を含む4隻艦隊が大隈海峡を通過、太平洋に進出
7月4日夕刻ロシア海軍ステレグシチー級フリゲート(333)が日本海から対馬海峡を通り、東シナ海に入り、同時刻に草垣群島南西の海域を東進するドウブナ級補給艦と合流。それから中国海軍ジャンカイII級フリゲート(572)とルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(175)と一緒になり、4隻の艦隊は4日から5日にかけて大隈海峡を通過太平洋に進出した。
図22:(統合幕僚監部)7月4日から5日にかけて大隈海峡から太平洋に出た中露海軍艦艇、上から、ジャンカイII級フリゲート(572)、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(175)、ステレグシチー級フリゲート(333)。
図23(統合幕僚監部)ドウブナ級補給艦は満載排水量11,500 ton、長さ130 m、燃料・食料など8,000 tonを積載、洋上補給が可能。4隻建造され2隻が太平洋艦隊に所属。本艦は「マーシャル・シャポシニコフ」か?
- 7月6日、情報収集艦1隻が太平洋から宮古海峡を通り東シナ海へ、そして同10日に対馬海峡を北上し日本海へ
7月6日夕刻ロシア海軍ビシニヤ級情報収集艦(535)が太平洋から宮古島―沖縄本島の海峡を通過、東シナ海に入った。
図24:(統合幕僚監部)ビシニヤ級情報収集艦は[862型2等中型偵察艦]と呼び、満載排水量3,400 ton、長さ94 m、速力16 kts。同型艦は7隻あり、太平洋艦隊には[SSV-535カレリヤ]が配備されている。1986年就役。
- 7月8日ロシア海軍フリゲート2隻が対馬海峡を通り東シナ海へ、同9日には与那国島と西表島の間を抜けて太平洋に進出、19日には3隻となり、東シナ海に戻り、対馬経由日本海へ
7月7日から8日にかけてステレグシチー級フリゲート(335)および(343)が日本海から対馬海峡を通り東シナ海に入った。そして2隻は9日から10日にかけて、与那国島と西表島の間の海峡を通過、太平洋に向かった。
この時期には中国海軍空母「山東」の艦隊が宮古島の南方で演習を実施中で、2隻の行動は演習と関係があるのかも知れない。
その後、19日から20日にかけて、(335)および(343)は、別に太平洋に進出していた(333)と合流、与那国島と台湾の海峡を北に進み魚釣島の西70 km付近を東シナ海に向け航行した。そして同21日には対馬海峡を通り、日本海に入り、ウラジオストクに帰港したと思われる。
図25:(統合幕僚監部)ステレグシチー級フリゲートは[20380型警備艦]。以後は改良型の[20381型]で沿海用汎用警備艦で2007年から配備が始まった。満載排水量2,200 ton、長さ105 m、速力27 kts、ステルス形状で先進閉囲型マストを装備する。電子装備、武器システムも近代化され、対艦兵器は[3M24ウラン]対艦ミサイル4連装発射筒2基を搭載、艦尾甲板にはKa-27PL哨戒ヘリ1基を搭載する。(335)は「グロムキー」で2018年就役。太平洋艦隊には5隻配備されている。
図26:(統合幕僚監部)(343)は「レーズキイ」で2023年就役。
図27:(統合幕僚監部)(333)は「ソベルシェンヌイ」で2017年就役。
- 7月24日、中国・ロシア空軍爆撃機4機編隊がアラスカ防空識別圏に侵入、米加軍「NORAD」戦闘機が対応
7月24日ロシア空軍Tu-95爆撃機2機と中国空軍H-6爆撃機2機が、アラスカ州の防空識別圏(ADIZ=Air Defense Identification Zone)に飛来、これに対しアメリカとカナダで構成する[NORAD] (North American Aerospace Defense Command)の戦闘機が直ちに対応、[ADIZ]外に退去させた。
[NORAD]によると、中露両軍の爆撃機が同時にアラスカ州に接近するのは初めて。
迎撃のため発進したのは米空軍のF-16およびF-35戦闘機とカナダ空軍CF-18戦闘機。中露両軍の爆撃機は米国の領空には入らず公海の空域を飛行して退去した。
ロシアと中国は、2022年ロシアのウクライナ侵攻開始以来協力関係を強め、米国・同盟諸国に圧力を加えるようになっている。中国はロシア軍需産業へ支援を強めている。半導体ではロシアが必要とする量の90 %を供給している。半導体はミサイル、戦車、航空機の生産に欠かせない部品である。
昨年2023年8月には、ロシア・中国の艦隊がアラスカ沖に現れ米艦隊と睨み合いをする事態もあった。
図28:(Wikipedia)Tu-95爆撃機は1956年から配備開始、一旦生産を中止したが1983年から改良型Tu-95MS爆撃機とTu-142対潜哨戒機が製造されている。乗員7名、長さ49.5 m、翼幅51.1 m、最大離陸重量188 ton、航続距離15,000 km、エンジンはクズネツオフ製ターボプロップ出力15,000 SHPを4基で2重反転プロペラを駆動する。胴体内に6連装巡航ミサイル・ランチャーを備え、翼下面のパイロンに同ミサイル10発を携行できる。
図29:(統合幕僚監部)H-6はロシアTu-16バジャー爆撃機をライセンス生産した機体。以後改良が進みH-6Kとなり、翼下面にDF-26D巡航ミサイル6発を搭載する。乗員4名、長さ35 m、翼幅33 m、最大離陸重量76 ton、爆弾搭載量9 ton、航続距離6,000 km、エンジンはロシア製ソロビヨフ・ターボファン推力10 tonを2基。ロシアTu-95に比べると小さい。
我国自衛隊の対応
- 2024年第一四半期(4月―6月)の緊急発進、昨年同期より減少するも高水準
2024年度4月〜6月の第一四半期における緊急発進は159回、昨年同期より80回減少したものの依然として高水準にある。対象国別では中国が66 %、残りはロシア機。空自・方面隊別では沖縄に展開する南西航空方面隊が82回で最も多く、次がロシア機相手の北部航空方面隊の44回である。
東シナ海―太平洋で中国無人機の飛行が著しく増えたこと、ロシア機・中国機ともに情報収集機の飛行が増えたことが、この期間の特異事項である。また中国機の台湾東岸に沿う飛行が活発になっているのは、台湾侵攻作戦が近いことことを窺わせる。
図30:(統合幕僚監部)2024年4月―6月の第一四半期における中露軍航空機の活動状況。日本海・オホーツク海と太平洋、さらに東シナ海と太平洋、それに台湾東海岸付近の飛行が示されている。
- 7月1−2日、海自は南太平洋で英豪海軍と3カ国合同訓練を実施
7月1日-2日の両日、海自護衛艦/フリゲート「のしろ/FFM-3」満載排水量5,500 tonは、南太平洋のフィージー共和国とその隣トンガ王国の沖合海域でイギリス海軍哨戒艦「テイマー/HMS Tamar (P-233」満載排水量2,000 tonおよびオーストラリア海軍揚陸艦「チョールズ/Choules」と共同訓練を行なった。
太平洋に散財する島嶼国には中国が様々な手段で接近を試み、キリバスには滑走路建設、ソロモン諸島とは安全保障協定、バヌツアでは港湾整備、などをしている。「フィージー」と「トンガ」は旧英連邦に属していた関係で、英国・オーストラリア・ニュージランドおよび日本と友好関係を持続している。
図31:オーストラリアの北東、太平洋にある多数の島嶼国家群。近年中国が経済・軍事面で進出を図り、日米を含む西側諸国は警戒を強めている。
図32:(海上自衛隊)7月1日、南太平洋フィージー付近で演習を行う豪海軍揚陸艦「チョールズ」(左)、英海軍哨戒艦「テイマー」(右奥)と海自フリゲート「のしろ」(右手前)。
- 7月10―11日、海自は南太平洋ヌメア沖でフランス海軍と共同訓練「オグリ・ベルニー24-3」を実施
7月10-11日の両日、フィージー諸島沖で英豪艦と3カ国共同訓練を終えた海自フリゲート「のしろ/FFM-3」は、オーストラリア方面に向かい、途中にある仏領ニューカレドニアの首都ヌメア(Noumea)沖でフランス海軍フリゲート「バンデミール/Vendemiaire F 734」と共同訓練「オグリ・ベルニー24-3」を行った。
図33:(海上自衛隊)フランス海軍フリゲート「バンデミール」、海自「のしろ」から撮影。「バンデミール/F-734」は満載排水量3,000 ton、長さ95.5 m、速力20 kts、1993年就役でヌーメアに配備され領土保全や経済水域の警備に当たっている。
- 6月27日-8月2日の間、海自艦艇及び航空機は太平洋ハワイ諸島周辺海域で米海軍主催の多国間共同訓練 (RIMPAC 2024)に参加
6月27日、パールハーバー・ヒッカム統合基地(Joint Base Pearl Harbor -Hickam, Hawaii)で多国間共同訓練RIMPAC 2024の開催式が行われた。29カ国から40隻の水上艦艇、3隻の潜水艦、14個の陸上部隊、150機の航空機、人員25,000名が参加してハワイ諸島周辺の海空域で行われた。
「RIMPAC=Rim of the Pacific」演習は、回を重ねる毎に規模が大きくなり、今では世界最大の演習になっている。
我国から「リムパック(RIMPAC) 2024」に参加するのは;―
輸送艦「くにさき」、護衛艦「はぐろ」、第1航空群第1航空部隊「P-1」哨戒機1機、
訓練項目は、対潜訓練、ミサイル射撃訓練、救難訓練、災害救援訓練など。
「RIMPAC」は2年毎に実施され、我国海自は1980年から参加、今回で23回目となる。
図34:(U.S. Navy)パールハーバー桟橋に接岸した海自輸送艦「くにさき」とミサイル駆逐艦「はぐろ」。輸送艦「くにさき/LST-4003」は2003年就役、呉基地第1輸送隊所属、満載排水量13,000 ton、長さ178 m、揚陸要員330名を収容する。7月12日には米海軍作戦部長(CNO) リサ・フランケッテイ(Lisa Marie Franchetti) 海軍大将が乗艦視察した。ミサイル駆逐艦「はぐろ/DDG-180」2019年就役佐世保基地第8護衛隊所属、海自が保有するミサイル駆逐艦/イージス艦の8隻中では最新型「まや」級の2番艦。満載排水量10,250 ton、長さ170 m。
今回のRIMPACでは、ドイツ空軍のユーロファイター戦闘機3機が、北海道千年基地を7月26日午前9時(日本時間)離陸、途中7回の空中給油を受け飛行を続け同日午後7時半過ぎ(日本時間)にヒッカム統合基地に着陸した。飛行時間は10時間半を超え戦闘機の長距離飛行の世界記録を更新した。
図35:(German Air Force)ハワイに向け飛行するドイツ空軍ユーロファイター・タイフーン戦闘機3機のうちの1機、空中給油を受けているところ。
また7月19日、米空軍B-2爆撃機が退役した強襲揚陸艦「タラワ(USS Tarawa /LHA 1)」39,000 ton、長さ250 m、を標的に安価な誘導爆弾攻撃「クイックシンク(Quick Sink)」で撃沈した。これは海上を威圧する大型水上艦艇でも僅かなコストで無力化できること実証した試験で、関係者の注目を集めている。B−2爆撃機はステルス性に優れ、察知されることなく敵の防空網を突破、目標を攻撃できる。動きの遅い潜水艦より遥かに高速で広範囲を低コストで対艦攻撃が可能だ。台湾・フィリピン・日本で紛争を目論む世界最大の海軍国・中国は対応を見直さざるを得なくなる。
「クイックシンク(Quick Sink)」攻撃で使った爆弾は、既存の無誘導爆弾の尾部にJDAM誘導キットを取付け精密誘導爆弾に改造したした爆弾。「JDAM=Joint Direct Attack Munition/統合直接攻撃爆弾」はGPSとINS情報で爆弾の尾翼を動かし目標に向かう。目標の情報は飛行前に機体側から入力する必要がある。JDAMの射程距離は24 kmと言われる。
図36:(U.S. Air Force photo by Tech Sgt Anthony Hetlage) 写真は米ミゾーリ州(Missouri)ホワイトマン空軍基地(Whiteman Air Force Base)全地球攻撃軍団(AFGSC=Air Force Global Strike Command)・509爆撃連隊(509thBomb Wing) 所属のB-2爆撃機で7月10日に撮影したもの。B-2スピリット(Spirit)はノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)製、尾翼のない全翼機構造で21機が製造された。最大離陸重量171 ton、航続距離12,000 km、翼幅53 m、エンジンはGE F118-GE-100ターボファン推力15,000 lbsを4基。2,000ポンドJDAM精密誘導爆弾16発を搭載する。
- 7月12日-8月2日の間、空自戦闘機はオーストラリアで多国籍共同訓練「ピッチ・ブラック(Pitch Black) 2024」に参加
「ピッチ・ブラック」演習はオーストラリア空軍が主催し2年毎に行われる演習で、今回はオーストラリア北部に20カ国から140機と4,000名以上が参加して行われた。オーストラリア空軍ダーウイン(Darwin)基地、テインダル(Tindal)基地とクイーンズランド州アンバーリー(Amberley)基地で行われた。訓練にはヨーロッパ各国や近くではフィリピンも参加している。7月24日には参加中のイタリア空軍ユーロファイター戦闘機1機が墜落する事故が発生したがパイロットは無事脱出に成功した。
空自からはF-2戦闘機6機とE-767早期警戒管制機1機が参加した。F-2戦闘機は今回初めて精密誘導爆弾の模擬弾を投下、目標に着弾させた。「ピッチ・ブラック」演習には、航空幕僚長 内蔵浩昭 空将が参加、7月29日から8月1日の間、ダーウイン空軍基地等を訪問・視察を行い、オーストラリア空軍および3カ国空軍の幹部と会談、相互理解を深めた。
図37:(航空自衛隊)ピッチ・ブラック」演習でF-2戦闘機は初めて模擬爆弾を投下、目標に正確に着弾させた。爆弾は「GBU-38B」/500ポンド(250 kg)精密誘導爆弾
- 7月19日、空自戦闘機は西太平洋・フィリピン海空域で日仏米3カ国共同訓練「ペガス (PEGASE)」に参加
「ペガス(PEGAS)」はフランス空軍がインド・太平洋空域で毎年実施する演習で、今回は7月19日に空自戦闘機と米海軍航空部隊が参加して西太平洋・フィリピン海空域で行われた。
参加したのは;―
米海軍:E/A-18グローラー(Growler)電子戦機2機、P-8A哨戒機、
航空自衛隊:F-2戦闘機
フランス空軍:ラファール(Rafale)戦闘機2機、A330 MRTT(Multi roll Tanker Transport/多目的タンカー輸送機)
訓練は、編隊飛行、目標探知、A330 MRRTからの空中給油、について行われた。
図38:(US Navy 7th Fleet)7月19日、フランス空軍エアバスA330多目的タンカーを先頭に続く米海軍P-8A哨戒機。両側には米海軍E/A-18 Growler電子戦機2機、フランス空軍Rafale戦闘機2機、それに濃紺塗装の空自F-2戦闘機が飛行している。
- 7月19日から8月8日の間、空自戦闘機部隊は来日したNATO空軍/フランス、ドイツ、イタリア、スペインの空軍と日本周辺空域で共同訓練を実施
NATOと日本は、共通の脅威ロシアに対抗するため軍事力を強化している。2年前にロシアがウクライナに侵攻を開始してからNATOは一致してウクライナ支援を続け、日本はロシアとの間に領土問題を抱えている。こうした中、共通の仮想敵ロシアの背後を脅かすのが今回の演習と言える。演習空域は北海道宗谷岬から日本海中央に広がる空域である。
ロシア外務省は6月28日、日本の駐ロシア大使館に抗議文書を送付、ロシア極東地域の沿岸でNATOと共同演習をすることは容認できない、と主張した。
7月19日から2日間、フランス空軍ラファール(Rafales)戦闘機4機、支援機2機が百里基地に到着、空自F-2戦闘機2機と日本海空域を含むエリアで共同訓練を実施。同時期にドイツとスペイン空軍のユーロファイター(Eurofighter)戦闘機12機と支援機10機が北海道千年基地に到着、空自のF-15戦闘機4機と日独西3カ国共同訓練を実施した。これは「ニッポン・スカイズ24」演習で22日から4日間、ドイツ空軍のユーロファイター戦闘機3機、同支援機3機と空自F-15戦闘機が参加した。この演習では航空幕僚長 内蔵浩昭 空将がF-15戦闘機に、ドイツ空軍総監 インゴ・ゲルハルツ空軍中将がユーロファイター戦闘機にそれぞれ搭乗して、共同で視察飛行を行った。
8月6日から3日間「ライジング・サン24」演習では、イタリア空軍からF-35AライトニングII戦闘機4機とユーロファイター戦闘機4機、それに支援機3機、空自からは三沢基地F-35A戦闘機4機が参加する。
日本での共同訓練終了後は、欧州各国の戦闘機群は支援要員を含めて、ハワイとオーストラリアに行き、さらに二つの共同訓練に参加する予定である。
これに対して中国も、外交部林剣報道官を通じて7月12日「NATOはアジアでの緊張を煽り、中露との対立を誘発して、アジア太平洋地域に深く関与するための口実を作り出している」と批判した。
図39:(航空自衛隊) 「ニッポン・スカイズ24」演習で、ドイツ空軍エアバスA330多目的タンカー(A330 MRTT)から給油を受ける空自F-2戦闘機(濃紺色)とドイツ空軍ユーロファイアター戦闘機。
図40:NATO空軍・空自の共同訓練は千年基地、三沢基地、百里基地をベースに行われ、ロシア空軍の侵攻を想定し日本海側の空域を主体に7月12日から20日間実施された。“赤丸”は我が国の航空基地を示す。
7月31日統合幕僚本部の発表によると、ロシア空軍は空自・NATOの共同演習に対応して、7月30日にTu-95爆撃機複数を含む多数の空軍機を動員、我国の北海道沿岸・本州沿岸に接近飛行を行い、威嚇を繰り返した。
図41:(統合幕僚監部)7月30日、多数のロシア空軍機が北海道及び本州日本海側の飛来接近し、NATO-空自の共同訓練に抗議の意図を示した。
米軍の対応
- 米空軍、F-15EXおよびF-35戦闘機の日本配備を拡大
米国防総省は7月3日、今後1年半以内で日本に配備する戦闘機を、F-35AおよびF-15EXなどで更新し、大幅な戦力アップを図る、と発表した。
これに伴い、現在嘉手納基地に配備中のF-15C/D戦闘機計48機は逐次本国に帰還され、交代としてF-15EXが36機が配備される。
F-15EXは現在のF-15を大幅に改良した新型機で「イーグルII (Eagle II)」と呼ぶ空戦・爆撃・偵察ができる「マルチロール」性能を備える、2024年6月から部隊配備が始まった最新鋭機。AIM-120 AMRAAM長射程空対空ミサイルを12発携行できる。エンジンはこれまでのP&W製F100からGE製F110に換装、出力・形状は同じながら燃費が向上している。
青森県三沢基地にはF-16戦闘機が配備されているが、こちらはF-35A戦闘機と交代しつつある。これまでF-35Aの海外配備は、英国のラケンヒース(Lakenheath)だけだったが三沢は2番目となる。これで現在三沢に駐留している36機のF-16はF-35A部隊の48機で更新される。三沢は、主にロシアと北朝鮮に対処する基地で、中国・台湾への行動は補完的なものとなる。
嘉手納/F-15EXおよび三沢/F35の更新完了時期は未公表だが、2年以内と予想される。
沖縄本島にある嘉手納基地は、台湾から640 kmにあり、有事の際は戦闘機ですぐに到達できる戦略的要衝だ。最近ではF-22戦闘機がハワイのヒッカム基地とバージニア州ラングレー基地からローテーションで飛来しており、またF-16戦闘機がサウスダコタとミネソタのエア・ナショナルガードから飛来している。
米国防総省は、岩国基地に駐留する海兵隊航空隊のF-35B STOVL(短距離離陸垂直着陸)戦闘機の増強にも言及している。
さらに7月15日に、米海軍第147戦闘攻撃飛行隊(VFA-147)所属のF-35C戦闘攻撃機を岩国基地に配備すると発表した。これは空母「ジョージ・ワシントンの艦載機部隊である。
この結果、空軍のF-35Aが三沢基地、海兵隊のF-35Bが岩国基地、海軍空母艦載機のF-35Cが岩国基地、と全てのE-35機種が日本に展開することになる。これは米本土以外では初めての事で、如何に中国ロシアの侵攻開始時期が切迫しているかの証左と言える。
図42:(U.S. Air Force)[F-15EX]はF-15Eから発展したマルチロール戦闘機でF-15C/Dの後継機となる。米空軍は104機を調達する予定。エンジンはGE製F110-GE-129、BAEシステムズALQ-250デジタル電子戦装置(EPAWSS)、主翼構造材を強化・長寿命化、デジタル・フライ・バイ・ワイヤ、主翼にパイロン2ヶ所を新設、APG-82(V)1 AESAレーダー、対敵センサー・ポッド等、を装備する。兵装は任務により異なるが、代表例として、AIM-120 AMRAAM対空ミサイル16発+AIM-9サイドワインダー4発+対地攻撃用AGM-88 HARMミサイル1発、合計22発のミサイルを携行できる。また必要の応じて2000ポンドJDAM精密誘導爆弾も搭載可能。
写真尾翼に”ET”とあるのは、フロリダ州エグリン(Eglin AFB)の試験飛行連隊(Test Wing)所属であることを示している。
図43:(U.S. Air force photo by Staff Sgt. Jessi Roth) ユタ州ヒル空軍基地(Hill Air Force Base, Utah) 第4戦闘機隊 (4th Fighter Squadron) 所属のF-35A戦闘機が嘉手納基地に飛来、すでに展開済みのアラスカ州イールソン空軍基地(Eielson AFB)の第356戦闘機隊に合流した。
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