日本、対空ミサイル[AMRAAM]の国内生産と、BMDミサイル[PAC-3]の対米輸出を決定


2024-8-13(令和6年)松尾芳郎

図1:(U.S. Air Force photo) F-15EX下面に12発のAIM-120 AMRAAMとスナイパー・ターゲッテイング・ポッド(Sniper Targeting pod)およびAGM-158 JASSMミサイルを装備した写真。尾翼の”ET”は、エグリン空軍基地(Eglin AFB, Florida)の試験飛行連隊(Test Wing)所属を示す。

日米両国政府は7月28日、中距離空対空ミサイルAIM-120 AMRAAM (アムラーム)の日本国内生産の開始と、すでに国産化している弾道ミサイル迎撃ミサイルPAC-3の対米輸出について、合意に達したと発表した。

(Japan will produce munitions supplies, under agreement with the United States to co-produce AMRAAM anti-air-missiles and PAC-3 BMD missiles, the two countries announced July 28.)

両国政府はさらに、中国の脅威を念頭に日本における日米両軍の指揮命令系統の改訂についても合意した。米国は在日米軍を指揮下に置く「統合軍司令部」を日本に新設、これで在日米軍は、遠く離れたハワイ(5,600 km)にある「インド太平洋軍司令部」の指示を待たずに行動できる。防衛省は3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を来年1月に新設するが、これは「在日米軍統合軍司令部」のカウンターパートに位置付けられ、有事の際に両国間の軍事的協力が一層緊密かつ迅速化される。

ロイド・オースチン(Lloyd J. Austin)国防長官は28日東京で次のように語った。「日米両国が侵攻に備えて反撃能力を強化する決定をしたことを誇りに思う。両国はミサイル製造を含む国防産業の強化を推し進め、協力して(石垣島・与那国島を含む)南西諸島の防衛を強化する。」

図2:(DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alex Kubitza) 7月29日、防衛大臣室で,木原稔防衛相とロイド・オースチン国防長官が会談した。

米政府はオースチン国防長官とアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官、日本側は上川陽子外務大臣と木原稔防衛相が出席して2+2会談が行われた。共同声明で「ミサイルの共同生産は、供給源を拡大することになり両国にとり共通の利益になり、歓迎すべきこと」と発表した。

オースチン長官は「米国としてはウクライナや他の同盟諸国(NATO諸国や台湾)へのミサイル供与が容易となり、威圧的で不安定な世界情勢への対応能力を高めるのに有効だ」と述べた。

  • AIM-120 AMRAAM中射程空対空ミサイル

AIM-120 AMRAAMミサイルはヒューズ (Hughes Aircraft)の子会社ヒューズ・ミサイル・システムズ(Hughes Missile Systems)が開発、1991年から配備されている中距離空対空ミサイル。同社はレイセオン(RTX=Raytheon Technology)に吸収されたので今では[RTX]社が生産・改良を続けている。最新モデルは[AIM-120D-3]で2023年に完成、F-16およびF-15C戦闘機で発射試験済み。AIM-120Cを含め全てのモデルは、F-15、F-16、F/A-18、F-22、F-35に装備され、 “打ち放し(fire and forget)”能力を備え有効射程は105 kmとされている。

日本は1990年代からAMRAAMの少数購入を続けていたが、昨年(2023)12月には空自が整備中のF-35用としてAIM-120C を120発購入する契約を結んだ。今回の会談合意で最新型の[AIM-120D]の国内生産が間も無く始まる。完成品の対米輸出は決まっていないがPAC-3の例もありいずれ輸出され米国の備蓄の下支えをすることになろう。日本側の担当は未公表だがこれまでの実績から三菱電機になると思われる。

我国ではAIM-120 AMRAAMとは別に、三菱電機が主担当で同等以上の性能を持つ[AAM-4]/99式空対空誘導弾を開発、1999年から配備開始、現在では改良型の[AAM-4B]がF-2改修機およびF-15改修機に搭載されている。

[AIM-4/-4B]は[AIM-120]に比べ、直径で2.5 cm、翼幅で2.9 cm、重さで65 kg大きいのでF-35のウエポンベイ(weapon bay)には収納困難、また機体側の電子装備・ソフトの改訂が必要のため、F-35には搭載しない。

[AIM-120C] AMRAAMミサイルは、直径は17.8 cm、長さは3.65 m、翼幅は48.46 cm、重さは153 kg、固体燃料ロケットで飛び速度はマッハ4、誘導は途中までは慣性航法(INS)+指令誘導で飛行し、終末航程は搭載レーダーを使い目標に着弾する[ARH= Active Radar Homing]方式で飛ぶ。

ノルウエーのコングスバーグ社(Kongsberg Defence & Aerospace)はRTX社と共同で地上発射型の[SL-AMRAAM]を開発、6連装発射筒付き地対空ミサイル・システム[NASAMS]として2007年から配備を始めている。2022年11月からウクライナに供与している。

図3:(RTX) AIM-120 AMRAAM中距離空対空ミサイル。先頭から、ノーズコーンにアンテナ、その後ろにエレクトロニクスと操縦装置、固定フィン部に炸薬、その後ろは固体燃料、最後尾にノズルと操舵フィン、が付く。

図4:(U.S. Air Force) AIM-120 AMRAAMは、直径17.8 cm、長さ3.65 m、翼幅48.46 cm、重さ153 kg、固体燃料ロケット、速度はマッハ4、誘導は途中まで慣性航法(INS)+指令誘導で飛行、終末航程は搭載レーダーで目標に着弾する[ARH= Active Radar Homing]方式で飛ぶ。

MIM-104 [PAC-3]ペトリオット

MIM-104 [PAC-3]ペトリオットはレイセオン(Raytheon)社、ロッキード・マーチン(Lockheed Martin)社それにボーイングが協力して開発・生産、1981年米陸軍に最初の運用部隊が編成された。我国では航空自衛隊が導入、三菱重工が主契約となりライセンス生産している。

1976年製造開始以来米国で1,100輌のランチャーとミサイル1万発が生産された。18カ国に250輌以上のランチャーと共に輸出されている。

  • PAC-3ペトリオット(Patriot)地対空BMDミサイル

図5:(航空自衛隊)PAC-3ペトリオット地対空ミサイルの発射の様子。

図6:(航空自衛隊)空自のPAC-2ペトリオット・システム。ランチャーはPAC-2では各発射筒に1発ずつ合計4発収納する。写真のレーダーは旧式のMPQ-53、新しい[PAC-3 MSE]ではMPQ-65A AESAに変わる。

図7:(U.S. Army photo) PAC-3ミサイルのランチャー、各発射筒(canister)に4発ずつ合計16発を装填する。

PAC-3ペトリオット・システムは[MIM-104 (Mobile Interceptor Missile 104) ]と呼ばれ、地対空誘導弾の中で最も優れたシステムである。システムは4つの機能を持つ:通信(communications)、指揮・命令(command and control)、レーダー監視(radar surveillance)、ミサイル誘導(missile guidance)がそれだ。4機能が統合化され移動式対空防衛システムを構成している。

システム構成は、レーダー装置、射撃管制装置、ミサイル・ランチャー (Missile Launcher) 5輌を含み、アンテナマスト・グループ、電源車、など10台以上の車輌で編成される。

PAC-3ペトリオット・ミサイル本体は、全長5.3 m、直径29 cm、重さ300 kgプラス、飛翔速度はマッハ3.5以上、最高高度は36,000 m。射程距離は;航空機や巡航ミサイルの場合/120 km、弾道ミサイルの場合/60 kmとされる。

心臓部は「射撃管制装置(fire control section)」で、多機能フェイズド・アレイ・レーダー(GaN AESA radar set)、TVM誘導サブシステム(track-via-missile guidance)などで構成される。コンピュータの大幅活用で各種機能の自動化、迅速化、高精度化が図られている。超低高度から高高度まで飛来する複数目標に同時対処が可能で、高い撃墜能力を持っている。

我国では弾道ミサイル防衛 (BMD) 能力の強化を目指し段階的に整備を拡充している。すなわち、PAC-3を16個高射隊体制(2010~2013年)、17個高射隊体制(2014~2020年)、続いて2021年から28個高射隊体制に増強すると共に能力向上型「PAC-3 MSE (Missile Segment Enhancement)」の製造・導入」を開始している。2024年3月現在のBMD体制は次図の通り。

図8:(防衛省・総合防空ミサイル防衛について)2024年3月までに空自の28個高射隊へのPAC-3配備は全て完了し、現在PAC-3 MSEへの改修が進行中である。1個高射隊の防御範囲は限定的なのでこれでも十分でない。

我国では空自向けにPAC-3を年間30発程度生産中、多少の追加投資で二倍程度に増産可能としている。しかしこれでは不十分で更なる増産が期待されている。米国のロッキード・マーチン(Lockheed Martin)社は年間生産500発程度だが、需要の高まりから650発に引き上げる。米国防総省はできるだけ早く年間で世界全体で年間750発以上に増やしたい、としている。PAC-3生産に携わっているのは日米だけなので我国に対する期待も大きい。

増産の障害になっているのはPAC-3ミサイル本体の部品、目標を識別・追跡・着弾させるための重要部品「シーカー(seeker)」の増産が遅れていること。これはボーイングのアラバマ工場(Huntsville, Alabama)工場で製造されており、これまでに5000個がロッキード納入されている。PAC-3の需要はウクライナへの支援増大に伴い増え続けている。ボーイングは今年1月に工場の9,000平方フィート拡張を決め、2027年初めに完成させる。

図:2022年8月撮影、M903 LSランチャー(launch station)に搭載されたPAC-3(緑色)8発とPAC-3 MSE(土色)4発の珍しい組合わせ。PAC-3 MSEミサイルは直径29 cm、PAC-3は25.5 cm、長さも5.3 m対5.2 mなので同じキャニスターは使えない。

終わりに

ロシアのウクライナ侵攻、中国の東シナ海・南シナ海における領土拡張政策で国際情勢が緊迫度を増す中、7月28日行われた日米2+2会談で[AIM-120 AMRAAM]空対空ミサイルの日本でのライセンス生産開始と、日本がライセンス生産中の[PAC-3]ペトリオット地対空ミサイルの米国への輸出が決まった。

[AIM-120]および[PAC-3]の両ミサイルを米国以外で生産する国は日本が唯一。いずれも生産には高度な工業力、技術力がないと製造できないためだ。その意味で我国の力は相当なレベルにあると言えよう。

―以上―

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

  • Air & Space Forces Magazine July 29, 2024 “Japan to start making AMRAAMs and Export PAC-3 Missiles” by Unshin Lee Harpley
  • Airforce Technology Sept. 15 2023 “AIM-120 Advanced Medium Range Air-to-Air missile”
  • Reuters 2024-7-22 “日米の防空ミサイル増産協力、ボーイングの部品供給が障害=関係者” By 久保伸宏、Tim Kelly
  • Fabcross for Engineer ”米軍向けミサイルシステム「PAC-3 MSE」、巡航ミサイルの迎撃実験に成功“
  • Lockheed Martin News Releases “PAC-3 MSE integrated with Aegis Seapon System Defeats Target in flight test”
  • Alabama Daily News Nov. 14, 2023 “Boeing expanding Huntsville missile sensor facility” by Mary Sell