令和6年8月、我国周辺での中露両軍および北朝鮮の活動と我国/同盟諸国の対応


2024(令和6年)-9-10 松尾芳郎

令和6年8月、我国周辺における中露両軍および北朝鮮の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し各方面から多くの発表があった。今月の注目すべきニュースは次の通り。

(Military threats by Chinese, Russian Forces are tensed up more in August 2024. Japan and Allies conducted multiple large scale exercises for retaliation. Following are main issues. )

以下に主要項目を説明する。

  • 8月3日、Y-9情報収集機と無人機が与那国島と台湾東に飛来、

同9日には偵察型無人機が沖縄本島南の空域に飛来、

同13日に機種不詳無人機が与那国島と台湾の間を往復、

同26日にはY-9が長崎県西部で領空侵犯、

同23日及び同30日の両日に機種不詳無人機2機が別々に与那国島と台湾間を通過、台湾東海岸沿いを飛行、

8月3日午後、中国軍Y-9情報収集機が東シナ海から沖縄本島―宮古島間の宮古海峡を通り太平洋に進出、与那国島沖で旋回飛行、反転して往路と同じ経路で東シナ海に戻った。また同日午後、中国無人機2機が別々に東シナ海から与那国島と台湾の間を通過、先島諸島沖で旋回飛行をして東シナ海に戻った。

図1:(統合幕僚監部)8月3日Y-9情報収集機と無人機2機の飛行経路。

図2:(統合幕僚監部)[Y-9]情報収集機。Y-9JB」、機首・胴体側面の前・後にアンテナを装備する、尾部の潜水艦探知用のMADブームはない。

8月9日昼間、中国軍無人偵察機[BZK-005]1機が東シナ海から宮古海峡を通過、太平洋に出て沖縄本島南で旋回飛行をした後、東シナ海に戻った。

図3:(統合幕僚監部)8月9日昼間、沖縄本島南に飛来した無人偵察機[BZK005]の飛行経路。

図4:(統合幕僚監部)8月9日、沖縄本島南で飛行する無人偵察機[BZK-005].

8月13日機種不詳無人機が東シナ海から与那国島・台湾間を通過、太平洋に進出、旋回飛行ののち往路と同じ航路で東シナ海に戻った。

8月23日及び同30日の両日、機種不詳の中国無人機2機がいずれも別々に与那国島・台湾間の海域を飛行した。

図5:(統合幕僚監部)823日の中国無人機2機の飛行経路。

図6:(統合幕僚監部)830日の中国無人機2機の飛行経路。

8月26日午前11時半、[Y-9]情報収集機1機が、長崎県男女群島沖の我国領空を侵犯した。侵犯の時間は3分間。中国共産党系サイト「中国網」は、侵犯した[Y-9]は電波傍受や電子戦用機器を搭載した[Y-9JB]、と報じた。

米サイト[Air &Space Forces Magazine Aug. 29, 2024]は、本件に関し大要次のように報じた。

 『東シナ海、南シナ海における中国軍の行動は著しく挑発的になっている。8月26日飛来の[Y-9DZ](米軍の呼称)は通信傍受、電子情報受信、電子戦を任務とする機体だ。佐世保海軍基地から180 kmの空域で旋回飛行を繰り返し、日米海軍の通信を傍受、情報を収集し、その過程で領空侵犯をした。日本外務省の抗議に対し、中国側は「領空侵犯の意図はなかった」と回答、謝罪はしていない。中国軍は2019年以降、情報収集機の改良と増産を進め、多くの機を配備しつつある。その中で練度不足の乗員が領空侵犯をした可能性は否定できない。

しかし意図的であったかもしれない。8月27日、28日に米国の安全保障担当高官ジャック・サリバン氏が北京を訪問、中国側と米国による台湾支援問題を討議する予定だったので、それを牽制する目的だった可能性がある。同様の中国側の強硬策は南シナ海におけるフィリピンに対する攻撃的行動でもわかる。中国政府は、対応が弱い箇所には軍事衝突の危険を犯して強い行動を行い、そうでない所では、強行策を控える傾向がある。』

図7:(統合幕僚監部)8月26日、午前11時半長崎県男女群島南東に飛来した[Y-9]情報収集機の航跡。

図8:(統合幕僚監部)前図の拡大図。[Y-9]は男女群島南東の空域で旋回を繰り返しその中で領空侵犯をした。緊急発進した空自戦闘機は、無線で警告したのみで警告射撃はしなかった。

  • 8月7日第7艦隊発表、オーストラリア、カナダ、フィリピン、米国は南シナ海で航行の自由作戦を実施

8月7日第7艦隊によれば、オーストラリア、カナダ、フィリピン、米国の4カ国海空軍は、8月7日・同8日の両日、南シナ海のフィリピンが領有する島嶼付近のEEZ海空域で、航行の自由・飛行の自由作戦を実施した。

図9:(第7艦隊) 8月7日南シナ海で米ミサイル駆逐艦[レイク・エリー(USS Lake Erie /CG70) ]からカナダ海軍フリゲート[モントリオール(HMCS Montreal) ]を見た写真。

  • 8月8日第3海兵遠征軍発表「レゾリュート・ドラゴン 24」演習

日本の自衛隊と米第3海兵遠征軍が主催する2国間演習の第4回目「レゾリュート・ドラゴン24 (RD24=Resolute Dragon 24)」は、2024年7月28日から8月7日まで、日本の中国地方、九州、沖縄県を含む各地で実施された。

詳しくは「TokyoExpress [令和6年6月、我が国周辺での中露両軍および北朝鮮の活動と我国/同盟諸国の対応] 21ページに記載済み。

図10:(読売新聞online)「レゾリュート・ドラゴン24」に参加した陸自のV-22 オスプレイ輸送機。

第3海兵遠征軍司令官ロジャー・ターナー中将は[RD 24]の閉会式で演説し「この演習で陸上自衛隊と米海兵隊は、相互連携と補完能力をさらに強化できた。これで我々は予想される紛争で勝利する準備が整った」と述べた。演習には第3海兵遠征軍の兵士約3,000名が参加、陸自西部方面隊各部隊と共同訓練を実施、多領域(muti-domain)にまたがる機動力と統合兵器の運用強化の訓練を行なった。

[RD24]演習では、海兵隊の最新型レーダー[AN/TPS-80]を台湾の至近距離(120 km)にある与那国島へ展開、日米両軍の[V-22 オスプレイ]による低空輸送訓練、12式地対艦ミサイルの展開、複数の演習場での対抗戦、実弾射撃訓練などが行われた。

最新型レーダー[AN/TPS-80]は海兵隊第12沿岸連隊に配備されたもので、空自の [C-2]輸送機に搭載7月29日に与那国島に輸送された。

[AN/TPS-80]レーダーは多機能レーダー[Ground/Air Task Oriented Radar =G/ATOR]でSバンドを使用、ノースロップ・グラマン製。これまでは、対砲兵レーダー[TPQ-46]、2次元対空捜索レーダー[UPS-3]、航空交通管制レーダー[TPS-63]、防空システムレーダー[MPQ-62]、広域航空管制レーダー[TPS-73]と目的別にレーダーを多数を揃えて行動しなければならなかった。[AN/TPS-80]の実戦配備で、これらを一纏めにすることができた。これなら電源車、他システムとの通信車を含めC-2やC-130輸送機で一括輸送できる。あるいは3つに分割してV-22やCH-53で運搬できる。

沖縄には第3海兵遠征軍の18,000名と空軍所属の7,000名が駐留して、主として中国軍の不測の攻撃に対処する任務についている。

図11:(Northrop Grumman) ノースロップ・グラマン製G/ATORレーダー・システムは米海兵隊から46基を受注、昨年末まで21基を納入している。

  • 8月12日および同14日、空母「山東」など4隻、宮古島・与那国島南海域を航行、南シナ海へ

8月12日および14日、空母「山東」(17)、レンハイ級ミサイル駆逐艦(106)、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(165)、ジャンカイII級フリゲート(571)の4隻が宮古島の南420 kmから与那国島の南530 kmの海域を通過、台湾とフィリピンの間のバシー海峡を抜けて南シナ海に入った。この間、空母「山東」で艦載機が約20回の離発着訓練を行った。

図12:(統合幕僚監部)「山東」の艦載戦闘機[J-15]、不鮮明なので次図を参照。

図13:(Wikipedia) ロシア製Su-33型機をベースに瀋陽航空機が国産化したのが[J-15]2013年から配備開始した艦上戦闘機、約65機がある。米海軍のF/A-18E/F戦闘機に匹敵すると称している。TokyoExpress 2015-01-19 「中国空母遼寧J-15戦闘機を搭載し訓練に励む」を参照。

  • 8月31日 防衛省発表 中国海軍測量艦が口永良部島付近の領海に侵入

8月31日早朝、中国海軍シュパン級測量艦(25)が、鹿児島県口永良部島西の海域の我国領海に侵入した。領海内に2時間近く滞留したのち、同海域から南に立ち去った。

外務省鯰博行アジア大洋州局長は、8月29日のY-9情報収集機の領空侵犯事件も踏まえ中国の施泳臨時代理大使に「強い懸念を伝え抗議した」という。

2021年10月岸田内閣が発足してからこれまでシュパン級測量艦が口永良部島付近の領海(トカラ海峡)に侵入したのはこれで5件に達する。この付近は水深1000 m以上あり中国海軍は潜水艦の航行ルートとして探査を繰り返している。中国側は「トカラ海峡」は国際海峡なので通過通行権がある、と主張している。

海上保安庁によると、尖閣諸島への中国海警局艦艇の領海侵入は8月だけで5回を数えるが、これに外務省が抗議したと言う話は聞かない。

領空や領海侵犯に対する日本の対応は単に「遺憾の意」や「抗議」に止どまり、「警告射撃」や「大使の召喚」などを行ったことはない。相手にしてみれば痛くも痒くもない対応で、すっかり舐められている。NATO諸国はロシア機の領空侵犯に対し警告射撃をするなど遥かに毅然とした対応をしている。

図14:(防衛省)「シュパン」級測量艦(25)は排水量5,900 ton、全長130 m、同級艦は9隻ある。

図15:(防衛省)シュパン級測量艦(25)の航跡、2時間近く口永良部島・屋久島と口之島の間の我が国領海内を航行、海底の地形、潮流の速さ、水温などを調べ、潜水艦の航路作成のためのデータを収集した。黒線で囲まれた範囲が領海、その外側ピンク色の海域は接続水域。

  • 中国海軍艦艇の活動

8月2日〜7日、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻

8月2日から7日にかけて、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻(155)及び(157)が、尖閣諸島魚釣島の西70 kmを南へ進み与那国島と台湾の間を通過、太平洋に進出し、宮古島・沖縄本島の南沿いに北東へ太平洋を航行し、鹿児島県の奄美大島と横当島の間の海峡を経て東シナ海に戻った。

図16:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」は「052D / 昆明」級ミサイル駆逐艦で満載排水量7,500 ton、米海軍アーレイ・バーク級を範にしたイージス艦。32セルの対空ミサイル発射装置VLSを前後に合計64セルを配備する。同型艦は25隻が就役済み。(155)は「南京」2018の年就役。

図17:(統合幕僚監部)(157)は「麗水」、052DL型で「ルーヤンIII級」で最も新しい型式。20228月就役の新造艦。

図18:(統合幕僚監部)82日及び同7日のルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻の航跡。

  • 8月19日ルーヤン級ミサイル駆逐艦とユーシェン級揚陸艦

8月19日、ルーヤン級ミサイル駆逐艦1隻とユーシェン級揚陸艦1隻が沖縄本島と宮古島の間を通過、太平洋に進出した。

ロシア海軍艦艇の活動

  • 8月19日、グリシャV級小型フリゲート他3隻

8月19日夕刻ロシア海軍グリシャV級小型フリゲート2隻とアレクサンドリー級掃海艇1隻が、オホーツク海から北海道宗谷海峡を通過、日本海に向け西へ進んだ。

グリシャV級小型フリゲートは、満載排水量1,200 ton、長さ71.6 mの小型だが最大速力34 ktsの高速艦で、主砲はAK-176型76 mm単装砲1門、対空用短SAM (20発)発射機、対潜用ロケット砲2基などを装備する。28隻がロシア海軍で就役中。

図19:(統合幕僚監部)図は819日の撮影ではなく91日に宗谷海峡を西進、日本海に入ったグリシャV級小型フリゲート2隻の写真。76 mm単装砲は艦尾にあり、艦橋前の高い甲板に円筒形の対空SAM発射筒を装備する。

  • 8月20日〜22日、スラバ級ミサイル巡洋艦ほか1隻

8月20日〜22日の間、ロシア太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦ヴァリヤーグ(011)と随伴するウダロイI級駆逐艦(543)の2隻が、沖縄県与那国島と西表島の間の海峡を太平洋から東シナ海に入り北上、同21日から22日に掛けて対馬海峡を通り、日本海に入った。

この2隻は、今年1月23日から同26日にかけて、日本海から対馬海峡を抜け東シナ海、そして与那国島・台湾の海峡を通り太平洋に出ている。南シナ海に面するロシアと関係がある諸国を歴訪し、今回帰途についたもの。

図20:(統合幕僚監部)1976-1990年間に4隻建造。満載排水量11,300 ton、全長186 m、最大測量32 kts。3番艦「ヴァリヤーグ」は1989年竣工、太平洋艦隊旗艦を務める。1番艦「モスクワ」黒海艦隊旗艦は2022-4-14にウクライナ軍により撃沈された。

図21:(統合幕僚監部)大型対潜艦・ウダロイ級駆逐艦、満載排水量7,500 ton、全長163 m、速度35 kts強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年建造で8隻が就役中、太平洋艦隊に4隻が配備。

中国軍の南シナ海での活動

  • 南シナ海サビナ礁で中国海警局艦がフィリピン巡視船に衝突

8月31日、南シナ海南沙諸島、英語名スプラトリー諸島の東部にあるサビナ礁でフィリピン沿岸警備隊巡視船が、中国海警局艦に衝突された。このフィリピン沿岸警備隊巡視船は日本が一昨年供与した船である。

フィリピン沿岸警備隊が公開した衝突時の映像を見ると、巡視船の前方を中国艦が横切り接触した後の数分後に、同艦が巡視船の後方に回り再び接触している。そして一旦離れ、今度は巡視船の側面に舳先から突っ込み、巡視船に損傷を与えた。フィリピン側は中国を強く非難した。

これに対し中国海警局は「フィリピン側が危険な方法で中国側の正当な法執行を行っていた海警局艦に故意に衝突した。責任はフィリピン側にある」と反論している。

フィリピン当局はサビナ礁で中国側が埋め立て工事を始める兆候があるとして、巡視船による監視を強めており、今後も続けると主張している、

図22:(防衛省)南沙諸島とサビナ礁の位置。フィリピン・パラワン島に近い位置にある。

図23:「(PCG) フィリピン沿岸警備隊(PCG)巡視船の後部に衝突する中国海警局艦(5205).

  • 中国海警局の新型艦「南沙(5901)」

カナダ海軍は、米第7艦隊や日本海自艦艇と合同で、あるいは単独で南シナ海をパトロールしているが、このほど中国が埋立造成した人工島付近を航行中に中国海警局のモンスター艦に遭遇した。米海軍協会発行のUSNニュースが8月19日に起きた出来事として伝えた。

カナダのフリゲート「HMCSモントリオール( HMCS Montreal / FFH 336)」排水量5,000 ton、全長134 m、速力30 kts、が、中国が軍事基地化を進めるスプラトリー諸島(南沙諸島)のスービ礁、ファイアリークロス礁、ミスチーフ礁付近を航行・通過した。これらの島嶼には中国が3,000 m級滑走路、対空兵器、戦闘機用格納庫、地下埋没型倉庫などを急速に整備しつつある。

「モントリオール」フリゲートがミスチーフ礁近くを通過する際にモンスター艦「海警5901」[南沙] が「モントリオール」に接近してきた。双方の艦は冷静に行動してトラブルを回避した。

中国は、東シナ海、南シナ海で日本やフィリピンの巡視船を蹴散らし、自国の権益と称するものを守るために、この威圧的な大型艦[南沙]を建造したもの。[南沙]は満載排水量12,000 ton、全長165 m、速力25 kts、速射砲、対空機関砲などを装備している。これに比べると米沿岸警備隊の大型カッター、排水量4,700 ton、全長127 mは、全く小さく見える。

「モントリオール」は、6月16、17日には、米海軍、日本の海上自衛隊、フィリピン海軍と南シナ海で共同訓練を行い、そのあと3日間は米海軍と共同活動、それから北に向かい、7月30日には米ミサイル駆逐艦[USS ラルフ・ジョンソン]と共同訓練、7月31日は台湾海峡を通過航行の自由作戦を実施して、南シナ海に戻った。8月7、8日には米、オーストラリア、フィリピンの海空軍との共同訓練に参加した。

「モントリオール」は、カナダの[インド・太平洋安定化] に寄与する前方展開ミッション“オペレーション・ホライズン”の一環として、東アジアで活動を続けている。

図24:(Philippine Coast Guard) フィリピン沿岸警備隊が撮影した中国海警局の新型艦「モンスター」こと[CCG5901南沙]。排水量12,000 ton、全長165 m、の大型艦で米国沿岸警備隊の主力艦「パーソルフ級カッター」の3倍ある。

我が海上保安庁が保有する最大の巡視船は、「あきつしま」や「れいめい」など、総トン数6,500 ton級のヘリコプター2機を搭載する[PLH]型である。

海保は2024年6月の発表で、中国海警局の増強・拡大に対抗するため、大型の多目的巡視船を建造する方針を固めた、と発表した。新造船は総トン数3万トン、全長200 m、海上基地の機能を持たせ、島嶼への上陸阻止、数十隻の高速ゴムボートとヘリコプター3機を搭載し相手の上陸阻止、それから有事では住民1,000人以上を避難させることができる船で、2029年の取得を目指す。2隻の建造を予定している。

図25:(海上保安庁/NHK News827日発表された2029年就役を目指す海保最大の巡視船の概念図。建造費は1680億円と見込む。

自衛隊、米国・欧州各国海空軍および南シナ海沿岸国軍との共同訓練

前月分の報告で「7月19日から8月8日の間、空自戦闘機部隊は来日したNATO空軍/フランス、ドイツ、イタリア、スペインの空軍と日本周辺空域で共同訓練を実施」と題して記述したが、その後も同様の共同訓練を続けている。概要は以下の通り。

  • 8月2日、空自戦闘機、米空軍B-1B爆撃機2機などと日本海で共同訓練を実施

8月2日 航空自衛隊小松基地第6航空団所属F-15J戦闘機4機は、山口県北方から韓国に広がる日本海空域で、米空軍B-1Bランサー爆撃機2機およびF-16戦闘機2機と共同訓練を行なった。これには空自入間基地の中部航空警戒管制団のレーダーも参加した。

B-1B爆撃機は、米本土サウスダコタ州エルスウオース空軍基地(Ellsworth Air Force Base, South Dakota) 第34爆撃中隊の所属機で、途中KC-135給油機から燃料を受けながら、我が国・日本海まで飛来し訓練終了後そのままエルスウオース基地に帰還した。これでB-1Bは世界中どこでも・どんな目標でも直ちに攻撃できる能力を示したことになる。

米戦闘機F-16 ファイテイング・ファルコンの2機は、第7航空軍麾下の第8戦闘機連隊・第35戦闘機中隊所属の機体。

訓練は、スタンド・オフ攻撃を行うB-1Bを日米両軍の戦闘機が護衛する状況を想定して、空対空戦闘、空中給油、対地攻撃、そして指揮・管制の分野で行われ、大きな成果を収めた。

空自との共同訓練で、米空軍の、不測の攻撃あるいはその兆候に対する対処攻撃能力が一層高まった。

図26:(U.S. Air Force photo by Airman Alec Carlberg) 34爆撃中隊のB-1B爆撃機。81日に今回の長距離飛行[CONUS to CONUS]ミッション出発前の点検を受けているところ。B-1Bは長距離・多目的爆撃機で精密誘導弾など大量の兵装を搭載できる米国最大の爆撃機。

図27:(U.S. Air force photo) 81日、KC-135から給油を受けるB-1B

  • 8月6日〜8日の間、空自とイタリア空軍の共同訓練 [ライジング・サン24 (Rising Sun 24)]を実施

8月6日〜8日の間、空自三沢基地第3航空団はイタリア空軍と三沢基地を含む日本海・太平洋を含む空域で双方のF-35Aなど戦闘機12機が参加する大規模な戦闘訓練を行なった。訓練には米空軍も参加した。

参加したのは;―

航空自衛隊:第3航空団F-35A戦闘機4機、小牧基地第1輸送航空隊KC-767給油機1機

イタリア空軍:F-35A戦闘機4機、ユーロファイター戦闘機4機、KC-767給油機1機、G550 早期警戒機(GAEW) 1機、C-130輸送機1機

図28:(航空自衛隊)日本・イタリア両空軍のF-35A戦闘機。

図29:(航空自衛隊)空自KC-767給油機から給油を受けるF-35A戦闘機。

図30:(Israel Aerospace Industries) イタリア空軍の早期警戒機 [G550 CAEW] は、ビジネス機 [ガルフストリーム(Gulfstream) G 550] をベースにイスラエル・エアロスペース(IAI=Israel Aerospace Industries)が、AESA 4次元レーダー、電子戦支援システム、NATO互換通信システムなどを搭載・完成した早期警戒機である。イスラエル、シンガポール、イタリアの各空軍がそれぞれ数機ずつ採用している。[CAEW]とはConformal Airborne Early Warningの略。米海軍では、これを改良し[NC-37B]として採用した。全長30 m、翼幅28.5 m、最大離陸重量41 ton、エンジンはロールス・ロイスBR710推力15,000 lbsを2基装備する。

  • 8月2日発表、海自艦艇とフィリピン海軍は南シナ海で共同訓練を実施

8月2日、海自護衛艦「さざなみ」はフィリピン海軍フリゲート「ホセ・リサール」と南シナ海で共同訓練を行なった。

図31:(海上自衛隊)手前がフリゲート「ホセ・リサール(Jose Rizal)」、同艦は韓国現代重工製、2020年の就役、満載排水量2,600 ton、全長107.5 m、速力25kts。兵装は、76 mm単装砲1門、8セルVLS 1基など。フィリピン海軍は同型艦2隻を保有している。

  • 8月14日発表、海自練習艦隊はイタリア海軍とエーゲ海で親善訓練を実施

令和6年度遠洋練習航海部隊所属の練習艦「かしま」および「しまかぜ」は、地中海東部のエーゲ海で、8月13日に、イタリア海軍フリゲート「マルゴッテイー二 (F-592)」と親善訓練を実施した。

図32:(海上自衛隊)海自練習艦隊と親善訓練をしたイタリア海軍フリゲート「マルゴッテイー二―(Carlo Margottini F 592)」。満載排水量6000 ton、全長145 m、速力27 kts。兵装は、76 mm速射砲2基、16セルVLS 1基、25 mm対空機関砲2基、NFH90哨戒へリコプター2機を搭載する。イタリア海軍は、同型艦を対潜型4隻を含め12隻建造予定。

  • 8月15日発表、海自練習艦隊はNATO常設海上部隊と地中海で共同訓練を実施

8月14日に前述の海自練習艦隊2隻は、地中海でNATO常設海上部隊と戦技向上を目的として共同訓練を実施した。訓練に参加したのは次の通り。

NATO第2常設海上部隊

カナダ海軍   :フリゲート「シャルロットタウン」

トルコ海軍   :フリゲート「ガズイアンテプ」

NATO第二常設機雷対策部隊

ルーマニア海軍 :掃海艇「コンスタンテイン・バレスク」

  • 8月15日発表、米海軍艦艇はフランス海軍と西太平洋/フィリピン海で共同訓練を実施

8月13日米海軍第71機動艦隊・第15駆逐艦隊所属のミサイル駆逐艦「デーウエイ/USS Dewey (DDG 105)」はフランス海軍アキテーヌ級(Aquitane-class)フリゲート「ブルターニュ( FS Bretagne /D655)と共同訓練を行なった。内容は編隊航行、通信連絡訓練、模擬燃料補給訓練など。

図33:(第7艦隊photo) 左フランス海軍フリゲート[ブルターニュ]右が米海軍ミサイル駆逐艦[デーウエイ]

  • 8月15日発表、海自艦艇はフランス海軍と関東東方の太平洋上で共同訓練を実施

8月14日、海自護衛艦「むらさめ」は関東地方南の太平洋でフランス海軍フリゲート「ブルターニュ」と戦技向上のため共同訓練を行った。

図34:(Wikipedia) 「ブルターニュ(Bretagne)」は、「アキテーヌ(Aquitaine)」級フリゲートの5番艦、2010年就役、満載排水量6,100 ton、全長142 m、速力27 ktsの多機能フリゲート(FREMM)である。写真は横須賀入港時に撮影したもの。斜めのマストは奥に停泊している米駆逐艦。

  • 8月22日発表、海自艦艇は米海軍揚陸指揮艦とフィリピン東方の太平洋上で共同訓練を実施

8月16日、フィリピン東方の太平洋上で「令和6年度インド太平洋派遣部[IPD24}]」に所属する護衛艦「ありあけ」は、米海軍との相互運用製を向上させるため、米海軍揚陸指揮艦「ブルー・リッジ(LCC 19」」と共同訓練を行なった。

これに先立ち「ブルー・リッジ」は8月10~14日、太平洋の島嶼国家パラオ共和国コロール(Koror, Palau)を訪問、艦隊副司令官ジョナサン・ウイル海軍少将は政府要人と会談、“自由で開かれたインド太平洋”の維持強化について意見を交換、翌日には乗組員が上陸、住民と交流親善を深めた。

8月20日第7艦隊旗艦を務める「ブルー・リッジ (LCC-19)」は、6月4日に出港してから予定されたインド・太平洋のパトロールを終えて2ヶ月半ぶりに横須賀に帰還した。同艦は多国間・多領域にまたがる共同訓練「バリアント・シールド」に参加したのを始めとし、フィリピンのマニラ訪問、タイ国のラムチャバン訪問、ベトナムのカムラン湾訪問、シンガポールのチャンギ港訪問、そしてパラオのコロール訪問をして、帰路に海自「ありあけ」と訓練を行なった。艦長のニコラス・デレロ大佐は、今回の航海は9,842海里 (約1万6千キロ)に達し、無事に任務を遂行できたのは1,200名の乗組員の努力の賜物だ、と語った。

図35:(海上自衛隊)奥が「ブルー・リッジ」、左「ありあけ DD-109」は、2002年の就役、排水量6,100 ton、全長151 m、「むらさめ」の9番艦。

図36:(第7艦隊photo)8月20日長途の航海を終えて横須賀に戻った「ブルー・リッジ揚陸指揮艦(Blue Ridge class command ship / LCC-19)」。同艦は第7艦隊旗艦を務める。重武装ではないが充実した指揮・通信設備を持つ。満載排水量18,400 ton、速力23 kts、1970年就役だが艦齢延長工事により2039年まで使う予定。甲板上には各種通信アンテナが設置されている。兵装は、Mk.15 20 mm CIWS 2基、Mk.36 SRBOCチャフ・ロケット等。同型艦「マウント・ホイットニー・LCC-20」はイタリアを母港にしている。

  • 8月30日発表、海自艦艇は、日本南方の太平洋上で日豪伊独仏と共同訓練「ノーブル・レイブン24-3 (Noble Raven 24-3 )」を実施

海自ヘリ空母「いずも」、護衛艦「おおなみ」、P-1哨戒機、および潜水艦は関東南方から沖縄東方の太平洋上で日豪伊独仏と共同訓練「ノーブル・レイブン24-3」を実施し、技量向上と連携強化を図った。

訓練に参加した外国海軍艦艇は次の通り;―

オーストラリア海軍:ミサイル駆逐艦「シドニー(HMAS Sydney)」

イタリア海軍   :空母「カブール(ITS Cavour)」、フリゲート「アルビーノ (ITS Alpino)」、哨戒艦「モンテクッコリ(ITS Monte-Cuccoli)」、

ドイツ海軍    :フリゲート「バーデン・ヴェルデンベルグ(GS Baden-Wurttemberg)」、補給艦「フランクフルト・アム・アイン(GS Frankfurt Am Main)」、

フランス海軍   :フリゲート「ブルターニュ(FS Bretagne)」

海自第1護衛隊群司令 沢田俊彦 海将補は、「基本的価値や戦略的利益を共有する各国海軍と共同訓練を実施できたことは光栄だ。今後とも自由で開かれたインド太平洋の実現に向け努力したい」と述べた。

図37:(海上自衛隊)海自ヘリ空母「いずも」を先頭にイタリア空母「カブール」、フランス海軍フリゲート「ブルターニュ」などが続く。

図38:(海上自衛隊)護衛艦「おおなみ」に着艦したフランス海軍ヘリコプター AS 565型? AS 565は現エアバス・ヘリコプター製の中型双発機。

  • 8月26日〜9月6日、陸上自衛隊は、米軍・インドネシア軍と共同訓練 [スーパー・ガルーダ・シールド24 (Super Garuda Shield 24) ]を実施

8月22日陸上自衛隊発表で、陸上自衛隊は、令和6年度米軍・インドネシア軍等との実働訓練 [スーパー・ガルーダ・シールド24]に参加する。目的は「自由で開かれたインド・太平洋」の実現に寄与するため、共同での島嶼奪回に関わる戦闘訓練を実施し、戦闘能力を高めようというもの。

参加部隊は;―

陸上自衛隊   :第1空挺団、水陸機動団、その他

米軍      :第25歩兵師団、第11空挺師団、第1海兵機動展開部隊、その他

インドネシア軍 :第2師団、第2海兵旅団、その他

オーストラリア軍:第1旅団、その他

イギリス軍   :グルカ旅団

シンガポール軍 :緊急即応部隊、その他

場所は;―

インドネシア・ジャワ島アセンバクス演習場、スマトラ島パトラジャ演習場、その他

期間は;―

8月26日〜9月6日の約10日間

図39:(陸上自衛隊)ジャワ島東部のアセンバクス演習場にボートで上陸する陸自偵察部隊

図40:(陸上自衛隊)スマトラ島パトラジャ演習場で、インドネシア軍と米軍のC-130輸送機4機が参加して、両軍と陸自第1空挺団からそれぞれ1個中隊が参加し、合計180名がパラシュート降下訓練を実施した。

  • 8月29日発表、米海兵隊・嘉手納に無人機MQ-9リーパーを配備

中国軍機が沖縄列島周辺の空域に偵察機、情報収集機などを繰り出し、日米両国の軍事情報の収集を務め、地域の緊張を高めている。これに対処するため、米海兵隊は偵察・攻撃両用の無人機[MQ-9A]リーパーの配備拡充に乗り出した。第1海兵航空団の報道官は、これで日本防衛の能力が一段と向上する、と述べた。

[MQ-9]リーパー(Reaper)はゼネラル・アトミックス (GA-ASI = General Atomics Aeronautical Systems) 製。エンジンはハニウエルTPE331-10ターボプロップ950馬力を装備、巡航速度315 km/hr、航続距離1,900 km、巡航高度は25,000 ft (7,500 m)。最大離陸重量は4,700 kg、ペイロードは機内に360 kg、翼下面に1,400 kgの各種精密誘導ミサイルを搭載、攻撃作戦でも能力を発揮する。2023年現在の単価は3,200万ドル。

離着陸を含む操縦、偵察、攻撃は地上操縦装置を操作するパイロットが行うが自律飛行も可能。米空軍は2023年現在で約400機を保有している。

海兵隊の採用は比較的遅く、2021年9月に2機を導入、無人機中隊VMU-1を編成したのが最初、現在は3個中隊を運用している。今回は8月13日に空軍のC-17輸送機で嘉手納基地に搬入された。これらは海兵隊第3無人航空機隊[VMU-3]の保有する6機のうちの一部となる。これとは別に、嘉手納基地には2023年10月以降、空軍の[MQ-9A]が8機と海軍の[MQ-4C]トライトンが2機配備されている。

図41:(Military.com) MQ-9Aリーパー無人攻撃・偵察機。翼幅約20 m、全長約11 m、最大滞空時間は27時間、遠隔操縦あるいは完全自律飛行が可能。

[MQ-9A]を改良したのが[MQ-9B] スカイガーデイアン(SkyGuardian)あるいはシーガーデイアン(SeaGuardian)で、後者は海上保安庁が2022年10月から海自八戸基地に3機を配備・海上警備などをしているが、2025年度から追加2機と共に北九州空港に移転配備予定。詳しくは「TokyoExpress 2021-05-25 海上保安庁MQ-9Bシーガーデイアン無人の導入を検討」に記載済み。海上自衛隊もP-1哨戒機の一部機能をMQ-9Bで代替するべく導入を検討している。

―以上―