2024-11-21 (令和6年) 松尾芳郎
2024-11-22改定(日本のEEZ地図を追加)
防衛省は海上自衛隊の哨戒能力を向上させるために、ジェネラル・アトミクス社(GA-ASI =General Atomics Aeronautical systems)製の滞空型無人哨戒機MQ-9B シーガーデイアン(SeaGuardian)を選定した、と発表した(令和6年11月15日)。2028年から2038年までに23機を取得する。
(Japan’s Ministry of Defense announced, MQ-9B SeaGaudian has been selected for Maritime Self Defense Force, on November 15. The MQ-9B is remotely piloted aircraft systems made by General Atomics Aeronautical Systems Inc. (GA-AIS), it is a next generation long endurance unmanned patrol plane. Total procurement expected 23 systems by 2038.)
図1:(GA-ASI)「 MQ-9Bシーガーデイアン (SeaGuardian)」は胴体下に「シーガーデイアン・ミッション・キット」を搭載している。
図2:(GA-ASI) MQ-9B SkayGuardian(スカイガーデイアン)がSeaGuardian(シーガーデイアン)の基本型。
MQ-9リーパー(Reaper)
MQ-9Bの前身であるMQ-9リーパーは、MQ-9Aと呼ばれGA-ASI社製の無人機である。長大な航続距離と高い監視能力および高い攻撃能力を備えている。地上設置遠隔操縦システム(GCS= Ground Control Station)でパイロットとセンサー要員の2名で操縦する。米空軍は2021年5月現在300機以上を運用している。国境監視やNASA、海兵隊、さらにフランス、イタリア、オランダなど各国で採用されている。
MQ-9Aリーパーは、翼幅20 m、速度は最大480 km/hr、巡航310 km/hr、ペイロードは1,700 kgで、ヘリファイヤー・ミサイルや精密誘導爆弾を搭載するので、対地攻撃を主任務とする。滞空時間は23~30時間、航続距離は1,850 km、巡航高度25,000 ft (7,600 m)。2006年5月にFAAから民間航空路の使用を認可されている。
MQ-9Aには多くの任務に対処出来るよう様々なミッション・キットが用意されている。例示すると;―
- レイセオンAAS-52マルチ・スペクトラル・ターゲテイング・センサー装置(multi -targeting sensor suite)はレーザーミサイル用の誘導装置で、その中にはレーザー距離計/レーザー、目標捕捉用のカラーTV、赤外線TV、撮像増強型TV、などを組込んでいる。
- GA-ASI製リンクス・マルチモード・レーダー(Lynx Multi-Mode Radar)を搭載できる。これは、合成開口レーダー(SAR=synthetic aperture radar)を含み、鮮明な地表画像を広範囲あるいはスポットと、切り替えて、天候・昼夜に関係なく撮影する装置である。
図3:(GA-ASI) GA-ASI製リンクス・マルチモード・レーダー(Lynx Multi-Mode Radar)は、合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar)、地表/洋上の移動目標の追尾、洋上広範囲の偵察、の各モードに切り替え、捜索範囲の狭い電子・光学赤外線センサー(EO/IR)の情報と併せて合成画像を得る装置。
- 移動目標視認装置(GMTI=ground moving target indication)を搭載できる。これには、地上移動目標分離機能と洋上広域探査機能が付いている。
- 2012年にメイン・ランデイングギアを強化し最大離陸重量を4.8 tonから5.3 tonに増やした。2015年8月には、空軍の要求に応えて、外付け燃料タンク(100ガロン)2個を増設、滞空時間を37時間にし、プロペラを4枚羽根にし、さらに翼幅を27 mにし滞空時間を42時間にした。空軍はこれをMQ-9A ERとして採用している。
- MQ-9Aの最終版 (MQ-9 Block 5) では、機種下面にあるセンサー・ボールを高解像度のカメラに変え、両翼端にARC-210 VHF/UHFアンテナを装備・通信機能を向上させ、ソフトを改良して最大12の移動目標を同時に追跡出来るようにした。
これら改良点を搭載したモデルをプレデイター(Predator)B型、つまり[MQ-9B]として発表した(2016-2-25)。[MQ-9B]は、翼幅が24 m、滞空時間は40時間となり、離着陸滑走距離が短く、主翼にはスポイラーが付き前縁に防氷装置と低/高周波帯RFアンテナを付け、操縦性を向上している。
MQ-9リーパーは、MQ-1プレデイター(Predator)を基本に大型化した機体なので、[MQ-9プレデイターB]とも呼ばれる。MQ-9の初飛行は23年前の2001年、配備開始は2007年、改良が続き[MQ-9A]から[MQ-9A Block 5]となり、これが数年前から[MQ-9Bスカイガーデイアン(Sky Guardian)]、海洋監視機能を向上したのが[MQ-9Bシーガーデイアン(Sea Guardian)]となっている。
図4:(GA-ASI)MQ-9Bスカイガーデイアン/シーガーデイアン用として「Certifiable Ground Control Station (CGCS)」(証明取得用・地上操縦装置)が発表された。これは国際的な遠隔操縦型無人機に関わる規制を考慮して、いずれにも対応可能なシステムとして構成してある。パイロットとセンサー・モニターの2名が座る方式で、デイスプレイは民間機に使われているコリンズ製「プロライン・フュージョン(Pro Line Fusion)」アビオニクスを中心にまとめてある。これとは別に、米空軍用としてパイロット1名操縦用システム(図の右部分のみ)が試験されている。
図5:(GA-ASI)シーガーデイアンが撮影した船舶の映像。
MQ-9Bスカイガーデイアン/シーガーデイアン
MQ-9Bは次世代型の遠隔操縦機で、いわゆる「情報・監視・偵察」つまり「ISR= Intelligence, surveillance, and reconnaissance」を常時遂行する航空機である。12,000 mの高高度を40時間継続して飛行、遙か遠方の地表の状況を天候に関わりなく探索、衛星を通じてリアルタイムで友軍や民間情報機関に通報する能力を持つ。
MQ-9Bは、翼幅は24 m、長さは11.7 m。性能は、滞空時間40時間以上、飛行高度40,000 Ft (12,200 m)以上、速度は210 kts (315 km/hr)、飛行距離は6,000 n.m.以上となっている。ハニウエルTPE331-10ターボプロップ950馬力を装備、最大離陸重量は5,670 kg、ペイロードは機内は363 kg、機外はハードポイント翼下面8箇所と胴体下1箇所に合計で2,155 kgを搭載できる。ペイロードには、対空・対地・対艦用各種誘導弾、用途に応じた各種装備などを搭載できる。これら諸元はシーガーデイアンも同じ。
MQ-9Bの採用を決めているのは、カナダ/11機、インド/31機、日本/5+23機、ポーランド、台湾/4機、イギリス/20機など。
シーガーデイアンは、滞空時間18時間、半径2,200 km (1,200 n.m.)の広大な洋上を8時間かけて隈なく哨戒する能力を持つ。
シーガーデイアン特有の装備(SeaGuardian mission kit)には、次の3種がある;―
- 対水上艦戦闘装備 (Anti-Surface Warfars)
中核となるのは胴体下の大型ポッド内に収納するレオナルド(Leonardo)製「シースプレイ(Seaspray)対水上AESAレーダー7500V2」である。これは逆合成開口レーダー(inverse synthetic aperture radar)で洋上を移動する船舶・艦艇、それに潜水艦の潜望鏡、あるいは洋上に浮遊する遭難者を検知、識別できる。さらに自動船舶識別装置(AIS=Automatic Identification System)情報の受信装置、電子・光学赤外線センサー(EO/IR)などを搭載している。
- 対潜水艦戦闘装備 (Anti-Submarine Warfare)
潜水艦探知用としてソノブイ投下用ポッドがある。ポッドはAサイズ・ブイ10発を収納でき、翼下面ハードポイント2箇所に搭載できる。
- 空中投下機雷処分装置(Airborne Mine Counter Measures)
内容不明
我が国の状況
- 海上保安庁:日本の国土面積は38万平方キロだが、海上保安庁が警備する日本の排他的経済水域(EEZ=Exclusive Economic Zone))は国土面積の12倍、447万平方キロで世界第8位になる。延長大陸棚を含めると総面積は477万平方キロに達する。この広大な海域の警備を担当するのが海上保安庁である。
このため海保は、2022年10月にMQ-9Bシーガーデイアンを導入、海上自衛隊の八戸航空基地で運用を開始、2023年5月に3機体制になった。2024年8月には追加2機を双日株式会社経由でGA-ASIに発注した。これら2機は2025年に導入され、福岡県北九州空港を拠点に運用される。
GA-ASIは、日本向けの海洋広域監視を強化するために、パイロットに監視情報全体像をを表示するソフト「Optix+」を追加した。これは前述の各種センサーから得られる情報を迅速に収集・整理統合し、他のソースから得られたデータと照合、海上での異常な状況を自動的に検出する。
- 海上自衛隊:2023年5月から八戸航空基地で運用中の海上保安庁のシーガーデイアンの1機を使って評価試験を開始、2024年9月までに約2000時間飛行試験を行ったと言われる。試験は八戸基地と鹿児島県鹿屋基地を使って行われた。そして今回の「シーガーデイアン」採用決定の発表になった。これは2022年12月発表の「防衛力整備計画」に “おおむね10年以内に無人機部隊2個隊を編成する”との記載があり、」これに沿い決定・発表したものと見られる。
- 米空軍:第319遠征偵察中隊(319th Expeditionary Reconnaissance Squadron)所属のMQ-9Aリーパーの8機は2023年10月に一旦鹿児島県鹿屋基地に進出、緊張高まる南西太平洋上で偵察(ISR)業務を開始した。その後同年11月には沖縄県嘉手納基地に移り、東シナ海・南シナ海の偵察・監視を強化している。
- 米海兵隊:海兵隊のMQ-9導入は2021年9月からで、現在は3個紐帯を運用している。2024年8月に第3無人航空機隊所属MQ-9Aの一部を嘉手納基地に移動、配備されている。
図6:(GA-ASI)海上保安庁が運用しているMQ-9Bシーガーデイアン。胴体したの大型ポッドは、「シースプレイ(Seaspray)対水上AESAレーダー7500V2」を中心とする広域洋上監視システムを収納している。
図7:(GA-ASI)防衛省が選定した海上自衛隊用MQ-9Bシーガーデイアン。装備内容は未公表だが、GA-ASI社公表のモデルには、対潜水艦用戦闘装備、ソノブイ・ポッドやソノブイ・モニター・システムなどが記載されている。
終わりに
冒頭に述べたが、今年(2024) !!月15日、防衛省は海上自衛隊の滞空型無人哨戒機としてジェネラル・アトミクス(GA-ASI9製のMQ-9Bシーガーデイアン型機を選定、10年以内(2034年)に配備する、と発表した。配備数は未公表だが2個飛行隊分23機と言われる。これで北はオホーツク海、日本海を含む北太平洋全域、南は東シナ海、南シナ海を含む南西太平洋の広大な海域の監視能力を強化する予定だ。これが実現すれば、現在嘉手納基地に展開している米軍のMQ-9部隊の補完・肩代わりも可能となり、またP-3C、P-1、P-8Aなどの有人哨戒機の負担も軽減される。日本周辺の安全保障環境は緊張の度合いを増している。10年と言わず、できるだけ早いMQ-9Bの実戦配備を望みたい。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次のとおり。
- 防衛省令和6年11月15日”滞空型無人機(UAV)の機種選定について“
- Aviation Wire 2024-11-15“海自の滞空型無人機、MQ-9B「シーガーデイアン」選定、洋上監視を強化”
- 航空万能論2024-11-16 “防衛省、海上自衛隊の滞空型無人機にMQ-9B SeaGuardianを選定“
- General Atomics Aeronautical “MQ-9B SkyGuardian”
- General Atomics Aeronautical “New Block 50 Ground Control Station Flies MQ-9 Reaper”
- General Atomics Aeronautical “Certifiable Ground Control Station (CGCS)”
- Wikipedia “MQ-9 Reaper”
- TokyoExpress 2023-10-19 “トマホークと12式地体感巡航ミサイルの配備を急ぐ“(MQ-9B無人偵察機を含む)