iSpace 月面着陸機 [HAKUTO-R ミッション2]、1月17日現在[Success 4]まで成功
2024年1月22日(令和7年) 松尾芳郎
日本の宇宙企業 [iSpace]、2回目の月面着陸機「レジリエンス/Resilience」を搭載した[HAKUTO-Rミッション2]が、1月15日NASAケネデイ宇宙センターからスペースXのファルコン9 (Falcon 9)で打上げられた。
(Japan’s space startup iSpace launched its second lunar lander “Resilience” as HAKURO-R mission2 program, early January 15 from NASA Kennedy Space Center by SpaceX’s Falcon 9 launch rocket.)
ケープカナベラルから1月15日早朝に月面着陸に向け、[iSpace]社の「レジリエンス/Resilience」と[ファイアフライ(Firefly)]社の「ブルー・ゴースト/Blue Ghost」の2台のランダー(lander)が、ファルコン9ロケットで出発した。
着陸機2台を乗せたファルコン9 Block 5は、9台のマーリン 1Dロケット(合計推力7.6 MN/1,700,000 lbs)を噴射し午前1時11分(EST)星空に向けて上昇を開始した。ペイロード室にランダー2機を収納した第2段は地球周回軌道に乗り、ここでランダーを分離。第1段ロケットは3基のエンジンだけ使い目標に向けてエントリー・バーン(entry burn)、続いて真ん中のの1基のみでランデイング・バーン(landing burn)をしながら、予定通り8分30秒後にフロリダ半島大西洋上の沖合で待機中のドローンシップ(droneship)上に着陸、回収された。
図1:(NASA)ドローンシップに着船したファルコン9第1段ロケット。着陸脚4本を開き、9台のマリーン・ロケットのうち1基を使用して降りた。
図2:(iSpace)ファルコン9ペイロード室(直径5.2 m、高さ13.1 m)に搭載されるiSpace社製「HAKURO-Rミッション2」の月着陸機「レジリエンス/Resilience」ランダー。ペイロード室は複合材製で発射後3分で分離・落下、回収され再利用される。
図3:(iSpace)HAKITO-Rミッション2 /「レジリエンス」ランダーのマイルストーン(行程)を示す図。「図6」を参照しながら見ると分かりやすい。レジリエンス・ランダーは米東部時間午前2時45分にファルコン9ペイロード室から分離「サクセス 2」を完了、1月17日には “初回の軌道修正マヌーバ” を終わり「サクセス 4」まで終了している。
図4:(AFP-JIJI) NASAケネデイ宇宙センター39A発射台から「HAKTO-Rミッション2」と「ブルーゴースト」の2機のランダーを載せて上昇するスペースXファルコン9 Block 5ロケット。2段式ロケットで全長70 m、直径3.66 m、ペイロード部分の直径は5.2 m、エンジンはマーリン1D、1段目は9基、2段目は1基をそれぞれ装備する。マーリン1Dは地上推力845 kN (真空中推力190,000 lbs)、可変スロットルで100 %から40 %の範囲で推力調節ができる。これまでに372回打上げ371回成功している。
ミッション2マイルストーン「サクセス4 (Success 4)」段階まで成功
1月15日午前4時40分(日本時間)、地球から25万キロの地点でメインエンジンを16秒間噴射「初回の軌道修正マヌーバ(maneuver)」を行い「「レジリエンス/Resilience」ランダー(lander)/月着陸機をを予定軌道に投入した。この際同時にメインエンジンと誘導制御システムの動作状況に異常のないことを確認した。これで「サクセス4 (Success 4)」段階まで成功した。
図5で「レジリエンス」ランダーは、現在オレンジ色の「①地球周回軌道上(Earth orbiting phase)」に入り3回ほど周回する。次の「サクセス5 (Success 5)」は、ピンク色で示す「月フライバイ」で月の重力を利用してエネルギーを節約しながら飛行する「②低エネルギー遷移軌道」に入り、地球から最大110万キロまで離れる。それから「③月周回軌道」に到達[サクセス7/Success 7]に入る。
図5:(iSpace)レジリエンス・ランダー/HAKUTO-Rミッション2の予定航路。直線航路で月に行くのではなく、燃料を節約するため月の重力を使ってフライバイして月周回軌道に入る。月面着陸は5月末か6月初めになる。
HAKUTO-Rミッション2の「マイルストーン(milestone)/行程」
「レジリエンス/Resilience」ランダーの打上げから月面着陸まで10段階のマイルストーンを設定し、各マイルストーンには判定基準/クライテリア(criteria)を設け、それぞれの達成を予定する。各マイルストーンは「打上げ準備完了」の[サクセス1/Success 1]から「月面着陸後の安定状態の確立」の[サクセス10 /Success 10]まで10段階を設定してある。1月17日現在は[サクセス4/Success 4]すなわち「初回軌道修正マヌーバ(maneuver)」まで完了した。次は打上げ後1ヶ月後の「サクセス5」、「月フライバイの完了」になる。
図6:(iSpace)ミッション2の10段階行程表。次は2月中旬の[Success 5]になる。
月着陸機「レジリエンス/Resilience」ランダー
前回の「ミッション1」で横向きに着地した失敗は、ソフトウエアの問題で、今回は着地点に合わせパラメータを変更し「正しい姿勢での月面着陸」を目指す。
前回の着陸地点は大きなクレーターの内側で、外縁部の急斜面上空を通過した際に、レーザー高度計/コンピューターが高度の急変を誤作動と判断したために起きた。「ミッション2」では着陸地点を前回からかなり離れた「氷の海(Mare Frigoris)」の中央付近の平坦な箇所に変更している。
ランダーのサイズは、2.5 m X 2.3 m、重量は推進剤なしのドライ時で340 kg、ペイロードは30 kg。前回はドイツで組立て、米国フロリダに輸送したが、今回は、日本JAXA筑波宇宙センターで組立てた。
「ミッション2」で搭載するペイロードは次の通り。
- 高砂熱学工業の月面で使用する水電解装置
- ユーグレナ社の藻類培養実験モジュール
- 台湾国立 中央大学の深宇宙放射線プローブ
- バンダイナムコ研究所のGOI宇宙世紀憲章プレート
- iSpace EUROPE製Tenacious ローバー
- スエーデン、ミカエル・ゲンバーグ氏のムーンハウス
テネシアス(Tenacious)・マイクロ・ローバー(Micro Rover)
「テネシアス・マイクロ・ローバー」は、iSpaceの欧州子会社 [iSpace Europe S.A.]で開発した月面車両である。4輪仕様で高さ26 cm、幅31.5 cm、長さ54 cm、重さ5 kg、CFRP製。前方にHDカメラを搭載・撮影する。
ランダーに搭載して月面に運び、月面を走行するこのローバーは、昨年(2024) 4月12日までに、iSpace Europe S.A.の手で欧州宇宙機構(ESA)で環境試験を完了した。これで打上げ時の激しい振動や月面での過酷な環境に耐えることが確認された。
図7:(iSpace) 「ミッション2」の 月着陸機「レジリエンス/Resilience」ランダーは、前回ミッション1と同型で外観もほぼ同じ。
図8:(iSpace)ランダーの全体像。上の2つの小さな輪は、搭載するテネシアス・月面ローバーの車輪。
図9:(iSpace)ランダーの下からの写真。中央がメインスラスタ推力400 N、周囲に推力200 Nの補助スラスタが6個が付いている。
図10:ランダーに格納されたテネシアス・ローバー、打上げ時は上のカバーで覆われる。着陸後、ランダー側の腕を伸ばしランダーを月面に落とす。
図11:(iSpace)テネシアス・ローバー。後部に8 m長のアンテナがあり、上部には展張式ソーラー・パネルがある。高さ26 cm、幅31.5 cm、長さ54 cm、重さ5 kg、CFRP製。両手で抱えられる大きさだ。前方にHDカメラを搭載・撮影する。
地球との送受信はローバー経由でルクセンブルグのミッション・コントロール/管制室と行う。後方にはスコップがありこれで月面の砂/レゴリスを採取。その所有権をNASAに譲渡する。今回は地球に持ち帰る予定はないが、次回以降のための演習をする。
図12:(iSpace) HAKUTO-Rミッション2の月面探査「ローバー」の行程図。「Venture 1ペイロード運用の開始」から始まって「Venture 5 すべてのペイロードの運用完了」までを示した図。「Venture 4 ローバー搭載のスコップによる月レゴリスの採取」が最大の目的。
株式会社iSpace
「[Expand our planet, Expand our future]人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界へ」をビジョンに掲げ、月資源開発に取組むスタートアップ企業。日本、ルクセンブルグ、アメリカの3拠点で活動中の300人規模の企業である。設立は2010年、月への高頻度・低価格の輸送サービスをする小型ランダー/着陸機と月面探査用の小型ローバーを開発している。2022年12月11日の最初の「ミッション1」を打上げ部分的に成功、今回2025年1月15日に「ミッション2」を打上げた。2026年予定のミッション3でNASAが取組む「アルテミス計画」にも貢献する。
HAKUTO-R月面探査プログラムには、三井住友銀行、日本航空、三井住友海上火災保険、日本特殊陶業、シチズン時計、スズキ自動車、高砂熱学工業、SMBC日興証券、Sky株式会社、Epiroc AB、K Kジンズ、栗田工業、の各社が出資等で参加している。「レジエンス・ランダー」および「テネシアス・ローバー」の壁面にはこれら企業のロゴが表示されている。
[Firefly Aerospace(ファイアフライ)]社の月着陸機[Blue Ghost(ブルーゴースト)]
iSpaceの月着陸機「レジリエンス」と相乗りでファルコン9で打上げられたFireflyの月着陸機[Blue Ghost]は、地球周回軌道を25日間、それから月を16日間周回して月面に着陸する。着陸地点は[Mare Crisium(危機の海)]で、3月2日予定の着陸後に月の画像を地球に送信する。これはNASAの「商業月面サービス(CLPS)」の一つとして、NASAが選んだ10個の計測装置を搭載している。その一つの「LEXI=Lunar Environment Heliospheric X-ray Imager」は太陽風エネルギー粒子で地球の磁場が変動する様子を観測する。
図13:(NASA/Firefly)月面に着陸したFireflyの月着陸機[Blue Ghost]の想像図。着陸後NASA選定の10個の観測機器で月面を調査、地球に送信する。
終わりに
「ミッション2」は現在進行形だが、2026年には米国法人が主導する「ミッション3」、2027年には日本で開発中の[シリーズ3ランダー]を搭載する「ミッション6」を予定している。その後も月着陸を繰り返し行い、増え続ける世界各国の政府、企業、教育機関からの需要に対応する。
iSpaceのCEO袴田武史氏は「ミッション2」の打ち上げに関して1月15日の記者会見で「将来は年2~3回月輸送できるシステムを構築する予定だが、その大きな1歩だ」と語った。
月面探査ビジネスの市場は、2040年までに累計で1,700億ドルになる、と言う予測もある。
iSpaceのHAKUTO-R Mission 2が成功すれば、日本の民間主導宇宙開発に大きな弾みがつきそうだ。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- iSpace PRTIMES 2024-12-18 “iSpace, HAKUTO-Rミッション2の打上げは1ヶ月後、最速2025年1月中旬(6日間の打ち上げウインドウ)を予定“
- TECH 2024-9-17 “iSpaceが「RESILIENCE」ランダーを報道公開、月面に[家]を建てるペイロードも” by 大塚 実
- TECH 2024-4-16 ”「HAKUTO-R」ミッション2で月に輸送するローバーの試験を完了“ by 波留久泉
- iSpace News 2025年1月17日 “iSpace、ミッション2マイルストーンSuccess 4 [初回軌道制御マヌーバ]に成功!“
- Impress Watch 2024-1-16 “日本の民間月面着陸機、打ち上げ成功 HAKUTO-Rミッション2“
- Japan Times Jan 15, 2025 “Japanese space startup launches second bit for historic moon landing” by Jessica Speed
- Space.com Jan.16, 2025 “SpaceX launches 2 private lunar landers to the moon” by Iosh Dinner
- Space.com Jan.17, 2025 “What’s next for 2 private landers SpaceX just launched toward the moon?” by Mike Wall
- SPACE DOOR 2025-1-16 “月を目指すFirefly Aerospace社の[ブルーゴースト計画]”by Space Master