2025-1-27(令和7年) 松尾芳郎
スターシップの7回目の飛行試験は2025年1月16日に行われ、前回と同じ地球周回軌道に乗せ飛行する予定だった。スーパーヘビー・ブースター(B14)は前回に続き帰還・回収に成功した。しかし、上段のスターシップ(S33)は、エンジンを点火正常に分離し、軌道に向け上昇を続けたが爆発した。
(Starship Flight Test 7 was the seventh Starship test flight, was launched at January 16th, 2025 and tried another suborbital fight as the previous one. It became the second successful catch of a Super Heavy Booster(B14). The upper stage Starship (S33) hotstaged as normal and separated, continued to climb to orbit, however, then exploded.)
図1:(SpaceX) 2025年1月16日、テキサス州スターベースから打上げた[スターシップ14/33]。左下にスーパーへビー・ブースター[B14]のマーリン・エンジン33基が全出力状態にある事を示している。
「スターシップ7」は、スターシップ33号機 [S33] or [Starship 33]とブースター14号機 [B14] or [Booster 14]の組合せなので「スターシップ 14/33 (Starship 14/33)」とも呼ばれる。
今回のスターシップ7、つまり「14/33」では、初めて上段を「スターシップBlock 2」にして試験した。これまでは1号機から6号機まで全て「Block 1」であった。
今回の第 7回試験飛行では、打上げ後17分半頃にスターシップ[S33]から次世代型スターリンク広帯域通信衛星と同じダミー衛星10枚を発射する予定だったが、爆発のため出来なかった。スペースX社のスターリンク衛星は現在7,000基が地球を周回しているが、将来これを40,000基に増やす予定で、発射機も現在使用中のファルコン9から効率の高いスターシップに変える事を目指している。
図2:(SpaceX)「スターシップ7」、つまり第7回試験飛行でブースター[B14]は、スターシップ[S33]を分離後、発射タワーに戻り「箸」でに掴み回収された。今回は初めて無傷で完璧な状態で帰還できた。
スターシップ14/33は予定通り離陸開始したが、第2段「スターシップS33」は、分離(hotstage) 前に燃料の液体メタン(MH4)と液体酸素 (LOX)が3 %ほど減っていた。分離を「ホットステージ(hotstage)」と言うのは、慣性力で分離するのではなくロケットを噴射して行う方式のためである。S33の分離/hotstageは正常だった。
図3:(SpaceX) 2025-1-16、スターシップ7が打上げ2分43秒後、分離(hotstage)に成功。白い部分がスターシップ(S33)、暗い筒状部分がブースター(B14)。右下にはスターシップ(S33)のエンジン6基が正常に作動している事を示している。
一方「ブースター B14」は帰還開始のブーストバック(boostback)時に内側の13基のエンジンのうち1基が点火しなかったが、その次のランデイング・バーン(landing burn)時には13基全部が正常に作動した。着地の最終段階では中央の3基のエンジンで減速、発射タワーのアーム「箸」に全く無傷でキャッチされ地上に降ろされた。前回では外套部4箇所にわずかな傷が生じた。
「スターシップS33」は、分離後軌道に向け上昇を続けたが、フラップのヒンジ部分に小さな火災が見え始めた。直ぐにテレメーターが数台のエンジンが停止したことを示し、燃料CH4が急速に減っていることがわかった。打上げ8分半後にテレメーター経由の連絡が途絶え、その3分後に爆発した。スペースXは、スターシップS33の後部で火災が発生したのが爆発の原因、と発表した。
イーロン・マスク(Elon Musk) CEOは「エンジン防火壁(firewall)の上部の隙間に液体酸素・液体メタン(LOX/CH4)の混合気が滞留、その部分のベント能力を超えるほど圧力が高まり、エンジンの輻射熱で着火したのが原因だ」と語った。
既述したように「スターシップ7」では初めて大型の「Block 2」を使った。これまでの「Block 1」との違いを簡単に述べる。
- 地球周回軌道への輸送能力:Block 1では示されていなかったがBlock 2では100 ton以上と明記
- スターシップの重量:1,200 tonから1,500 tonへ増加。
- 上部フラップを小型化:大気圏再突入時の高温化を減らすため上部フラップを小型にし上部に移動。
- スターシップ分離時の合計推力:1,250 tonから1,600 tonに増加。これはラプター・エンジンの改良型にしたため。
- スターシップの高さ:約6.5 feet増加 (50.3 mから52.1 mに)。これは主として燃料の「液体メタン(MH4)・液体酸素(LOX)」のタンク容量をそれぞれ25 %増やすため。
- 燃料供給ライン:燃料タンク大型化に伴い燃料供給用配管を改良。
- 推力コントロール用アビオニクス:燃料バルブの調整・流量センサーを改良し、長時間フライトに対応するよう改良。
- ペイロード区域に「スターリンク衛星」発射用スリットを新設:ダミー衛星10基を射出するためのスリット/発射用窓を新設。
図4:(SpaceX)スターシップ大型化の系譜。Block 1はフライト1〜6、Block 2はフライト7から使用する。Block 3は高さ69.8 mに大型化、NASAアルテミス計画・月面着陸で使用予定。
図5:(SpaceX) スターシップの概要。直径は変わらないが、高さはBlock 1/50.3 m、Block 2/52.1 m、Block 3/69.8 m、とミッションが変わるに伴い大型になる。火災が発生したのは後端のエンジン室上の防火壁と液体燃料タンクの間の隙間/空隙。
スターシップの試験飛行は、2023年4月、同11月、2024年3月、同6月、同10月、同11月、と過去6回行われてきた。スーパーヘビー・ブースターの回収は発射タワーの「箸」を使って昨年11月に初めて成功した。しかしこの時は、着陸直前に発射タワーとの通信に問題が生じ「着陸を拒否・メキシコ湾に降りろ」の指令がタワーから発せられた。
終わりに
今年はスターシップにとって画期的な年になるだろう。全体のシステム再利用化が進み、発射回数が一段と増え、地球周回軌道に人員・貨物輸送が定例的に行われ、月さらに火星探査への道が開けるだろう。
次回の打上げはスターシップ15/34で2月に行われる予定。スペースXは、FAAに対し2025年中に同社のボカチカ宇宙基地から25回のスターシップ・メガロケット(全長120 m以上)の打上げ許可を申請している。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次のとおり。
- Starship Space WiKi 17 January 2025 “Starship Flight Test 7”
- Space.com. Starship 7 Jan 20, 2025 “SpaceX catches Super Heavy Booster on Starship Flight 7 test but loses upper stage”
- Space.com. January 17, 2025 “SpaceX Starship explosion likely caused by propellant leak, Elon Musk says” by Mike Wall