令和7年1月、我国周辺での中露軍活動と我国/同盟諸国の対応


2025年2月9日(令和7年) 松尾芳郎

令和7年1月の我が国周辺における中露両軍の活動は前年12月までの活発な動きに比べ著しく低下している。これに対し我国および同盟諸国は、警戒を緩めることなく抑止力強化に努めている。

(Chinese and Russian’s military maneuvers around Japanese territorial air and sea spaces were suddenly fall since last December. Even the change of circumstance, Japan and allies are putting up same level of defensive moves as previous. Following are the details of major issues.) 

1月10日日経記事;―

「防衛省の発表によると、2024年12月迄の1年間における中国・ロシア海軍艦艇の日本周辺での活動は総計300隻で、およそ140回 (中国/90回、ロシア/50回)だった。このうち鹿児島県南端から沖縄県与那国島付近を通過した件数は80回に達した。これは2023年に比べ5割増になる。300隻のうち中国艦は70 %を占めていた。中国が我国南西諸島付近で活動するのは台湾に圧力を加えるためで、頼清徳総統の就任(2024年5月)以降特に活発になった。」

しかし2025年1月になると様相が一変する。ロシア軍は、31日のTu-95爆撃機2機編隊の北海道・本州沿岸への接近飛行だけ。中国軍の動きも不活発で海軍艦艇の大隈海峡・宮古海峡通過はそれぞれ1件ずつ、航空機の領空接近も無人機によるものが2件のみ。ロシア、中国の国内事情の影響と思われる;―

ロシア軍は、4年前からのウクライナ侵攻で、予期に反して強い抵抗に遭い、甚大な兵力損耗を続けている。またG7による経済制裁で経済的苦境が高まっている。加えて米国トランプ政権から停戦を求められている。

中国では、習近平主席は国内の景気低迷対策に追われると共に中国軍統制力を失いつつある。中国問題評論家 石平 氏によると(Will誌3月号)「習近平の腹心で軍の指導と人事を掌握していた共産党中央軍事委員会委員 苗華 氏が失脚した、中国国防省は「苗 氏を業務停止/規律違反で捜査中」と報じた。苗 氏は陸軍出身で習近平氏と同じ福建省派閥。習政権で2014年12月に海軍政治委員に任命、習の2期目(2017年9月)には中央軍事委員会政治工作部主任に抜擢され、習の代理として7年間国防軍を統制指導し、海軍の増強を行い、台湾併合を主張する習の期待に応えてきた。人事面では海軍を優遇、陸軍系の首脳を次々と汚職嫌疑で逮捕・追放してきた。これで陸軍との間で確執を生じた。陸軍の「反 苗華」の中心は、中央軍事委員会筆頭副主席の張叉俠 氏。国防軍の機関紙「開放軍報」は2024年12月以降習近平批判の記事を頻繁に掲載している。人民解放軍は陸軍中心で発展してきた組織なので、海軍と海軍が主導するロケット軍の増強に不満を抱いている。さらに中国軍幹部の間には、“中国軍の実力に照らし、無謀な台湾侵攻などで日米豪に勝利することは困難、従って不測の衝突はなるべく避けたい”とする心が見える。

1月3日香港の英字紙[South China morning Post]は、中国国内の学術誌「指揮系統とシミュレーション」11月29日に掲載された論文を紹介した。これは国防軍に演習用シミュレーション・プログラムを納入する国有企業「華北コンピューター研究所」が書いた記事だ。内容は南シナ海で米中の空母機動部隊が衝突する場面を想定、ここで中国海軍は米軍が発射する最新型対艦ミサイルAGM158C LRASM(射程1,500 km)の精密攻撃に耐えられず敗北する、と言うシナリオ。従来はこの種の敗北論が公になることななかった。

これら(不穏な)情報が、前年12月我国周辺での活動が急減した理由かも知れない。

防衛省統合幕僚監部、米第7艦隊などが公表した1月における我が国周辺の中露両軍の軍事活動は以下の通り。注目すべき事案については後半に述べる。

中露両軍、北朝鮮の主な活動

1月6日:北朝鮮、弾道ミサイル発射

1月6日:1月2日、中国艦2隻が宮古海峡経由太平洋へ

1月6日:1月5日、中国艦1隻が大隈海峡経由東シナ海へ

1月8日:中国海警局、モンスター艦を南シナ海のフィリピン領スカボロー礁に派遣

1月9日:米ハドソン研究所報告 “日本・フィリピンの米軍基地、中国軍の飽和攻撃に弱い”

1月14日:1月14日、中国軍無人機1機が与那国島と台湾間の海峡を往復、同日午後別の無人機1機が同海峡を南下・台湾東岸に沿い太平洋へ

1月22日:台湾軍の退役陸軍中将、中国のスパイ容疑で起訴

1月22日:1月22日午後、中国軍無人機1機が与那国島―台湾間の海峡を南下・台湾東岸に沿い太平洋へ

1月23日:2024年度第3四半期までの緊急発進実施状況

1月30日:1月30日ロシア軍Tu-95爆撃機2機ずつ、午前と午後に北海道オホーツク海沿岸とと本州日本海沿岸に接近

1月31日:1月31日台湾周辺に中国軍機7機と軍艦5隻、台湾を威嚇

我が国、同盟諸国の対応

1月7日:米政府、AMRAAM AIM-120空対空ミサイル1,200発の対日輸出承認

1月8日:米法務省Office of Public Affairs、日本人ヤクザ組長を「兵器用核物質の入手・転売容疑」で逮捕

1月22日:中谷防衛相、与那国島を視察

1月22日:海上自衛隊、小型UAV/無人航空機 [V-BAT]6機を発注

中露両軍、北朝鮮の主な活動

  • 1月6日:北朝鮮、弾道ミサイル発射

1月7日北朝鮮ミサイル総局は「6日に新型極超音速中長距離弾道ミサイルの発射実験を行い、成功した」と伝えた。弾頭の速度はマッハ12に達し、変則軌道で1,500 km先の目標に着弾した、と発表した。モニターで実験を見守った金正恩総書記は「今回のミサイルはどんな防御システムも突破でき、相手に甚大な打撃を加えられる」と述べ、太平洋地域の軍拠点グアム島を標的にしていることを示唆した。

ミサイルは高度約100 kmまで上昇してから一旦下降し、再び上昇に転じ42.5 kmに再浮上する変則軌道で飛行したため探知が難しくなる。日韓国防当局はこれで1,100 km飛翔したと分析している。

図1:(朝鮮中央通信)1月6日、北朝鮮ミサイル総局が発射した極超音速中長距離弾道ミサイル。

図2:(朝鮮中央通信)上空から写した同ミサイル。

  • 1月6日:1月2日、中国艦2隻が宮古海峡経由太平洋へ、および1月5日、中国艦1隻が大隈海峡経由東シナ海へ

2025年1月の中国海軍艦艇の動きは1月6日発表されたこの2件のみ。すなわち:–

2日夜間に沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通り東シナ海から太平洋に出たルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(134)およびソブレメンヌイ・ミサイル駆逐艦(136)の2隻。

図3:(統合幕僚監部)ルーヤン(旅洋)III級は「昆明級・052D型」駆逐艦で中国版イージス艦。満載排水量7,500 ton、全長157 m、VLSは前後に32セルのセットを配備、各級合わせて20隻が配備中で5隻が建造中。

図4:(統合幕僚監部)ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦は、ロシア海軍956型を輸入した艦。中国海軍では956E型および956EM型の4隻が就役中で「杭州」級と呼んでいる。満載排水量8,000 ton、全長156 m、速力32 kts、写真は夜間撮影のため不鮮明だが「杭州(136)」で1999年12月に就役。

図5:(中国海軍)ソブレメンヌイ級/杭州級ミサイル駆逐艦の鮮明な写真。艦橋左右にはYJ-12対艦ミサイル4連装発射筒、前後甲板にはAK-630M連装砲を装備。さらに対空ミサイルHQ16は32発を搭載可能。

5日早朝に大隈海峡を太平洋から東シナ海に向け航行するドンデイアオ情報収集艦(796)を発見した。

図6:(統合幕僚監部)「ドンデイアオ(東調)級情報収集艦 (815A)」は電子偵察艦と呼ばれ、9隻が就役中。満載排水量6,000 ton、全長130 m。中央に大型追跡レーダー/探知距離1,000 km、前部艦橋には小型レーダー、後部環境にはHF波からX波までの通信電波検出アンテナがある。

  • 1月9日:米ハドソン研究所報告 “日本・フィリピンの米軍基地、中国軍の飽和攻撃に弱い”

1月7日ワシントンの保守系シンクタンク「ハドソン研究所」は、「西太平洋にある米空軍基地は、中国軍の深刻な攻撃脅威に晒されており、米国は空軍基地を拡張・強化する必要がある」と警告する論文を発表した。内容は次の通り;―

中国軍は中距離弾道ミサイル(MRBM)の配備を僅か1年で300発に増やした。これで中国は、日本・台湾・フィリピンを結ぶ区域に展開する米軍基地を攻撃できる。中国は、紛争で自国の空軍基地が攻撃されるのに備え、これまで10年に渡り基地の拡張、堅牢化に取り組み、航空機を格納するシェルター建設を進め、コンクリート製シェルター(HAS)を800箇所以上、鋼製など2,300基以上に増やしている。中国軍は台湾海峡から1,000 n.m. (1,850 km)以内の地域に134箇所の空軍基地を運用するが、これらには総計2,600箇所以上のシェルターを設置している。

米軍は、日本、フィリピンにある軍用飛行場を合計しても、その能力は中国の3分の1に過ぎない。

沖縄本島にある嘉手納空軍基地は、台湾から600 kmの距離にある。中国政府軍事ドクトリンには「奇襲攻撃で嘉手納基地の地上施設を破壊し、航空戦力を麻痺させ、制空権を確保する」と述べており、一連の攻撃を遂行するため能力を構築してきた、としている。

岩国基地は、防御能力が低く僅か10発のミサイルで戦闘能力を失う恐れがある。航空機のシェルターの不足と燃料貯蔵施設の防護不足で脆弱な状態にある。

国防総省は、中国ロケット軍は連日「飛行場、シェルター、航空機、さらに航行中の船舶に対する攻撃訓練を実施」しており、紛争への対応能力を高めてきている、と分析している。

中国ロケット軍が配備する主なミサイルは;―

  • DF-16(射程1,500 km)MRBM/通常弾頭
  • DF-21D(射程3,100 km)MRBM/核弾頭 空母キラー
  • DF-26(射程4,000 km)IRBM/核弾頭・通常弾頭 グアムキラー
  • DF-31A(射程10,000 km)ICBM/核弾頭
  • CJ-10A(射程1,000 km)対地攻撃巡航ミサイル

図7:(防衛省航空研究センター“中国におけるロケット軍建設・シリーズ3 防衛戦略研究室防衛事務官 千綿るり子氏作成/2025-1-22)中国軍南部戦区の組織と部隊所在地を示す図。ロケット軍旅団基地、ミサイル種別が分かる。第62基地や第63基地は大部分が近年新設または拡張された。

  • 1月22日:台湾軍の退役陸軍中将、中国のスパイ容疑で起訴

台湾高等検察署は1月22日、台湾陸軍の退役中将 高 安国 ら6人を国家安全法違反で1月20日に起訴した、と発表した。6人は中国軍から日本円で4,600万円を受取り、中国が台湾侵攻する際に、台湾内部で協力する武装組織を設立した罪を問われている。

高被告らは2018年~2024年にしばしば中国に渡り、中国軍関係者から資金援助と指示を受け、台湾軍の現役および退役軍人を組織化した。台湾高等検察署は高被告に懲役10年以上を求刑する。

台湾国家安全局によると、台湾に対する中国の浸透工作は激しさを増している。スパイ行為に関与したとして起訴されたものは2023年に48人、2024年に64人に達している。2024年の逮捕起訴者のうち退役軍人15名、現役軍人28名で、退役者から現役軍人へ接触する手口が増えている。

さらに、地方団体や宗教団体への資金提供をするなどして、親中勢力を育成している。中国は、台湾の暴力団を採用、借金を免除するなどして軍人に接近、機密情報を収集している。借金に悩む新北市の寺院関係者ら10名に資金を提供・協力者にし親中派にした。これら10名は昨年10月に起訴されている。

中国による「台湾統一」のための浸透工作がそのまま日本に当てはまるとは考え難い。しかし、政界への浸透工作には十分警戒する必要がある。

岩谷外務大臣は昨年12月に北京を訪問 “訪日ビザ免除”を約束した、自民党の森山幹事長、公明党の西田幹事長も今年1月に訪中した。これら媚中外交の目的は「王毅」外相の2月訪日を実現させるためと言われる。日中間には様々な問題、尖閣海域侵犯、邦人逮捕、駐在邦人襲撃など、が存在する。これらの解決なくして日中友好は有り得ない。

  • 1月23日:2024年度第3四半期までの緊急発進実施状況

2024年度第3四半期(4月1日〜12月31日)の緊急発進回数は521回、昨年同期の555回より減少したが引き続き高い水準にある。対中国機が66 %、対ロシア機が33 %の割合。

航空方面隊別では、北部航空方面隊が122回、中部方面隊が25回、西部方面隊が71回、沖縄の南西航空方面隊は303回で突出している。

特徴は、中国機に対する回数が345回で昨年同期対比で50回減少したこと、中国軍H-6爆撃機・ロシア軍Tu-95爆撃機による2日間にわたる共同飛行があったこと、太平洋で中国空母遼寧、山東での艦載機の離発着訓練が頻繁にあったこと、などが挙げられる。

図8:(統合幕僚監部)主として対中国機を担当する沖縄県南西航空方面隊の回数が突出している。

図9:(統合幕僚監部)緊急発進の対象となった中露軍機の飛行パターン。中国機の沖縄本島―宮古島間の海峡通過と与那国島―台湾間の海峡通過が目立つ。

図10:(統合幕僚監部)緊急発進した月別の対中露軍機回数の割合。

  • 1月30日:1月30日ロシア軍Tu-95爆撃機2機ずつ、午前と午後に北海道オホーツク海沿岸とと本州日本海沿岸に接近

1月30日午前から午後にかけてロシア軍爆撃機Tu-95が2機、Su-35戦闘機1機を護衛にして北海道オホーツク海沿岸を飛行、知床岬沖で変針、宗谷海峡を通過、大陸に立ち去った。

同日午後に、Tu-95爆撃機2機、Su-30戦闘機1機が北海道の日本海側奥尻島近くに飛来、秋田県男鹿半島沖まで飛行、変針して大陸方面に立ち去った。

さらにこれら爆撃機が飛行する間、Il-38哨戒機1機が爆撃機が飛行する日本海空域で飛行を続けた。

タス通信(30日)は、2回のTu-95爆撃機2機は同一機で8時間以上にわたり日本海上空を飛行、途中で日本軍戦闘機と遭遇した、と伝えた。

Tu-95は1956~1994年間に生産され、現在最終型Tu-95MSがウクラインカ基地に30機配備されている。戦闘行動半径6,400 km、胴体内に空対地亜音速巡航ミサイルKh-101(射程4,500 km)を8発搭載する。

Kh-101は空中発射型で、ウクライナ戦線で大量に使われており、2024年11月28日には艦艇発射型のカリブルと合わせ88発が発射され、うち76発がウクライナ軍の防空システムで撃墜されている。

ウクラインカ空軍基地(Ukrainka Air Base)は極東シベリア最大の基地の一つ。第326重爆撃機師団がありTu-95MS重爆撃機連隊2つが駐留する。旧満洲国黒河市に近く、シベリアとの境界を流れる黒龍江(アムール河)東岸にある。

図11:(統合幕僚監部)Tu-95MS爆撃機2機は、午前中シベリア・ウクラインカ空軍基地を離陸、樺太上空から北海道オホーツク海沿岸に沿って往復、一旦はシベリヤ上空に戻り、午後に北海道奥尻島おきに進出南下して男鹿半島沖に飛来、そして基地に戻った。飛行中午前はSu-35戦闘機、午後はSu-30戦闘機がそれぞれ護衛した。

図:(統合幕僚監部)Tu-95MS爆撃機は改良型で1983年から製造された。乗員7名、長さ49.5 m、翼幅51.1 m、最大離陸重量188 ton、航続距離15,000 km、エンジンはクズネツオフ製ターボプロップ出力15,000 SHPを4基。胴体内に6連装Kh-101巡航ミサイル・ランチャーがあり、翼下面のパイロンにも同ミサイル10発を携行できる。

図12:(統合幕僚監部)1月30日午後撮影したTu-95SM爆撃機と護衛するSu-30戦闘機。

図13:(統合幕僚監部)Il-38哨戒機。原型はIl-18ターボプロップ4発旅客機で、改造して対潜哨戒機とした機体。1970年から配備が進んだ。現在配備されているのは[Il-38N]型。全長39.6 m、翼幅37.4 m、全微重量63.5 ton、4,250馬力ターボプロップ4基を装備する。昨年9月23日に礼文島近くの我が国領空を侵犯した。

  • 1月31日:1月31日台湾周辺に中国軍機7機と軍艦5隻、台湾を威嚇

台湾国防部(国防省)は1月31日午前6時までの24時間に中国軍機7機と艦艇5隻が台湾海峡で活動している、と発表した。中国軍機のうち5機は台湾海峡の中間線を越え台湾側空域に侵入した。

今回の台湾に対する威圧行動は、2024年間に行われた大規模演習「連合利剣2024A」および「連合利剣2024B」に比べると遥かに小規模で申し訳程度に思える。

図14:(台湾国防部)1月30日、31日における台湾海峡中間線付近での中国軍の活動。

我が国、同盟諸国の対応

  • 1月7日:米政府、AMRAAM AIM-120中射程空対空ミサイル1,200発の対日輸出を承認

図15:(Wikipedia)米航空宇宙博物館に展示してあるAIM-120 AMRAAM空対空ミサイル。これまで14,000発以上が作られ、米海・空軍をはじめ33カ国で使われている。

2025年1月7日に米政府は、日本が要求する中射程空対空ミサイルAMRAAM AIM-120の最新型、AIM-120C-8と、AIM-120D-3を合計で1,200発、価格で36億4000万ドルで供給することを承認した。

AIM-120 AMRAAM は全天候、昼夜を問わずに、視程より遠距離の目標を攻撃できる固体燃料ロケットのミサイルで、1991年から使われている。開発製造は当初ヒューズ(Hughes)が行ったが、1997年以降はレイセオン(Raytheon)が担当、単価は約100万ドル。改良が続き現在はAIM-120C-8とAIM-120D-3が製造中。

今回の契約にはミサイルとは別に、AIM-120D-3の誘導セクション20個、AIM-120C-8の誘導セクション4個、訓練ミサイル、制御部予備部品、その他諸々の支援策(技術サポート、ソフト・サポートなど)が含まれている(日本国内生産プログラムのための一環か?)。

スペックは;―重量162 kg、長さ3.65 m、直径18 cm、翼幅49cm、弾頭重量は20 kg、近接信管で炸裂する多数の断片を含む炸薬が入っている。飛翔速度はマッハ4の超音速、有効射程は、AIM-120C-8は160 km、AIM-120D-3は180 kmになる。目標への誘導システムは、初期は慣性誘導、目標に近づくとミサイル本体のレーダーで行う。途中必要に応じデータ・リンクでで修正することもできる。方向の修正は胴体前後の小翼/カナードで行い、耐Gは40Gである。

防衛装備庁は、これより先、2024年9月20日付けで「AIM-120 AMRAAMの日米共同生産に参加希望の企業を募集」するとして公募を始めた。

航空自衛隊では同様の性能を持つ「99式空対空誘導弾/ AAM-4」を、F-2、F-15Jなどで使ってきたが、新たに導入中のF-35戦闘機のウエポン・ベイには収納できないためAIM-120 AMRAAMの調達を進めてきた。[AAM-4]は、重さ220 kg、直径 20.3 cm、長さ3.67 mで、前述のAIM-120より大型。

改良型のAAM-4Bに装備するシーカーは、日英共同開発の空対空ミサイル[ JNAAM ](MBDA Meteorがベース)のシーカーに採用された。

図16:(防衛装備庁・新たな空対空ミサイルに係る日英共同研究)このミサイル開発は2015年にスタート、2023年の試射をもって終了している。

国産化については「TokyoExpress 2024-8-13 ”日本、対空ミサイルAMRAAMの国内生産とBMDミサイルPAC3の対米輸出を決定」に記述してあるので参照されたい。

図17:(US Air Force) 開いた状態のF-35A戦闘機のウエポン・ベイ。ここにAIM-120 AMRAAMが二発ずつ左右に搭載される。

防衛省は将来の我が国が運用する中射程空対空ミサイルは、今後国産化する[AIM-120D AMRAAM]を主力とし、それに純国産の[AAM-4B]改良型を併用することを考えているようだ。

  • 8日:米法務省Office of Public Affairs、日本人ヤクザ組長を「兵器用核物質の入手・転売容疑」で逮捕

図18:(Magistrate Judge/Southern District of New York)コペンハーゲンのDEA覆面エージェントとの会合で、対戦車ミサイルを構える海老沢 剛。

1月8日、ニューヨーク・マンハッタン(Manhattan, New York)で日本人ヤクザ「海老沢 剛 (EBISAWA Takeshi)」60歳が「兵器用核物質・ウラニウムおよびプルトニウムをビルマから入手転売を試みた件、麻薬の国際取引の件、および武器取引の件、で逮捕された。

犯罪組織が絡む兵器用核物質・麻薬・武器の取引は米国の安全を脅かすものであり、断じて許せない(法務省国家安全局次席検事Matthew Olsen氏)。

海老沢一味は、国際的麻薬ネットワークを使って核物質を入手したもので、「麻薬取締局(DEA=Drug Enforcement Administration)」の綿密な追跡により全容を解明し米国民の安全確保に貢献した。

事件担当検事エドワード・キム(Edward Y. Kim)氏は経緯を次のように話している;―

海老沢らは、ビルマから米国に兵器用核物質・ウラニウム/プルトニウムを運び込む際、ビルマ内戦で使うための地対空ミサイルなど重火器を供与し、その代償として大量のヘロインと覚醒剤(メタンフェタミン/methamphetamine)を米国に輸入し、密売しようとしていた。これでニューヨークと東京の間で麻薬マネーの洗浄をするつもりだった。

DEA(麻薬取締局)は、海老沢の追跡を2019年ごろから開始、大量の麻薬と武器取引を監視し始めた。DEAの覆面エージェント(UC-1)に、海老沢はそれとは知らずに麻薬と武器取引の情報を伝えた。組織は日本、タイ、ビルマ、スリランカ、米国、その他にまたがっており、麻薬と武器の取引をしている、と話した。

海老沢は、(UC-1)経由で米国製の地対空ミサイルなど重火器を入手、ビルマ国内の反政府グループに引き渡し、大量のヘロイン、覚醒剤を受け取る手筈を整えていた。海老沢は、米国製重火器はアフガニスタンの米軍基地から入手、ヘロイン、覚醒剤はニューヨークで売り捌く予定だった。

さらに海老沢は2021年6月16日から9月27日の間、別の取引も進めていた、(UC-1)にヘロイン500 kgと覚醒剤500 kgをニューヨークで売るよう勧めた。配下の一人は覚醒剤サンプル1 kgとヘロイン・サンプル1.5 kgを所持、10万ドル相当の麻薬を米国から日本に運ぶ準備をしていた。

2020年になると海老沢は(UC-1)とDEAのエージェント(CS-1)に、大量の放射性物質を売り捌くよう依頼、同年末に(UC-1)宛に高濃度の放射性物質を含む岩石とガイガー計測器の指示値を示した写真を送った。海老沢は共犯者(CC-1とCC-2) 2名と共に、イラン軍の核兵器担当将軍に「最高のプルトリウム」を売れると(UC-1)に連絡、これを武器入手の資金にする予定だった。

2022年2月4日、ビデオ会議で海老沢と共犯者(CC-2)は、DEAの(UC-1)に、ビルマで製造したイエロー・ケーキと呼ばれる濃縮ウランとトリウム232の混合粉末を2,000 kg以上を入手できる、5 ton位までは入手可能、と伝えた。数回の関係会議の後、(CC-2)はタイのホテルに(UC-1)を呼び、粉末状のイエロー・ケーキを入れたプラスチック製容器2個(ウラニウムU308とトリウム232)を提示した。

ここでタイ政府の協力を得て、「イエロー・ケーキ」サンプルを押収、(CC-2)を含む海老沢一味を拘束した。米国の核物質犯罪捜査研究所 (nuclear forensic laboratory)で検査した結果、サンプルにはウラニウム(uranium)、トリウム(thorium)、プルトニウム(plutonium)が含まれており、特にプルトニウムの含有量は兵器級(weapon grade)で、十分な量があれば核爆弾製造が可能、と判定された。

海老沢 剛 容疑者は栃県出身、高校中退後、日本とタイを往復して暮らしていた。武器、麻薬取引謀議の罪は禁錮10年以上になる。

  • 1月22日:中谷防衛相、与那国島を視察

図19:(読売新聞)沖縄県与那国島、陸自駐屯地を視察する中谷元防衛相。

1月22日、中谷元 防衛相は沖縄県与那国島の陸自与那国駐屯地を視察した。視察後「南西地域の防衛体制の強化は喫緊の課題だ、駐屯地への地対空誘導弾部隊の配備に向けた整備や、住民の避難体制の強化を進める」と記者団に語った。

与那国島は我国の最西端にあり台湾との距離は僅か110 km、住民は中国の台湾侵攻に強い危機感を持っている。陸自は2016年に駐屯地を開設したが、艦艇や航空機を監視する沿岸監視部隊「電子戦部隊」が配置されているだけ。視察当日も午後に中国軍無人機が東シナ海から台湾―与那国島間の海峡上空を通過、台湾の東岸沿いに太平洋を南下している。これに対し那覇基地の空自戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。

防衛省は、「電子戦部隊」を中国軍の攻撃から守るため、陸自「03式中距離対空誘導弾(中SAM)能力向上型」を配備すべく用地の取得手続きを進めている。

駐屯地視察の後、中谷防衛相は与那国島糸数健一町長と面会、[対空ミサイル]配備への理解を求めた。これに対し糸数町長は「しっかりやって頂きたい、合わせて住民避難用シェルターの整備で協力してほしい」と述べた。防衛省は離島での住民避難のため「特定臨時避難施設」の整備を進めており、与那国島、石垣島、宮古島に施設整備助成するため費用を2025年度予算に計上している。

中谷防衛相は、与那国島訪問の後隣接する波照間島、竹富島を訪問港湾施設や空港を視察した。

図20:(2024年度防衛白書第III部第1章九州・南西地域のおける主要部隊新編状況)

  • 1月22日:海上自衛隊、小型UAV/無人航空機 [V-BAT]6機を発注

海上自衛隊は2023年度から日本近海・排他的経済水域の警戒監視のため基準排水量1,900 ton型哨戒艦12隻[OPV]の取得を決め、ジャパン・マリン・ユナイテッド社に発注した。

図21:(防衛省/海洋国防アカデミー)1,900 ton型哨戒艦。長さ95 m、速力20 kts+、兵装30 mm機関砲1門。コンテナに収納された対艦ミサイル発射装置「コンテナ式SSM」を搭載。艦尾にはヘリや無人機の発着可能な多目的甲板を装備する。

1月22日[OPV]哨戒艦に搭載する無人航空機[UAV]として米国「シールドAI」社製の「V-BAT」を6機発注した。価格は合計で40億円。

「V-BAT」は垂直離発着可能で全長2.7 m、翼幅3 m、重さ56.7 kg、で飛行時間は10時間、遠隔操作やGPSに頼らず、内蔵されたセンサーによりAI自律飛行をする。これで、ドローンを無力はする高度な電子戦でも影響を受けなくなる。海上の偵察監視情報収集(ISR)ミッションが主な任務となる。

[シールドAI]社はサンデイゴ(San Diego, California)にある国防技術開発のベンチャー企業で、2015年にBrando Tseng、Ryan Tseng、Andrew Reiter氏らにより、2030年に使われる軍用AI自律機能を開発するべく、設立された。

図22:(Shield AI)[V-BAT] UAVとシールドAIの社員たち。

図23:(Shield AI)飛行中の[V-BAT]

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