「ひびき」型音響測定艦、4番艦「びんご」が進水


2025年2月22日(令和7年) 松尾芳郎

図1:(三菱重工マリタイム システムズ)[三菱重工マリタイム システムズ]が玉野工場で建造中だった音響測定艦「びんご」の命名・進水式が2025年2月17日に実施された。

三菱重工子会社[三菱重工マリタイム システムズ]は、海上自衛隊向けに同社玉野工場で建造中だった音響測定艦「ひびき」型4番艦「びんご」の進水式および命名式を2025年2月17日に行なった。「びんご」とは瀬戸内海の「備後灘」に由来する名称。これから船体、エンジン、電装システムなどの艤装工事を済ませ、2025年度内に防衛省に引き渡す。

(Mitsubishi Heavy Industries Maritime Systems, a subsidiary of MHI, has held a Launching and naming ceremony for the fourth Hibiki-class ocean surveillance ship build for the Japanese Navy. The ceremony was held on February 17, 2025, at Tamano Shipyard. The ship was named Bingo, derived from a maritime district of “Bingo-nada”. After outfitting work on the hull, engine, electrical systems, is completed, the vessel will be handed over to Japan’s Navy.)

図2:(海上自衛隊ホームページ)AOS-5201「ひびき」型音響測定艦の3番艦AOS-5203「あき」を斜め後ろから見たところ。「ひびき」型3,800 tonは双胴・幅広、艦尾にはソナー・ケーブルの繰り出し口が見える。

AOS-5201「ひびき」型音響測定艦は4番艦の進水で次の4隻体制となる。

  • AOS 5201「ひびき」:1991年1月就役、三井造船玉野工場
  • AOS-5202「はりま」:1992年3月就役、三井造船玉野工場
  • AOS-5203「あき」 :2021年3月就役、三井造船玉野工場
  • AOS-5204「びんご」:2025年2月進水、三菱重工マリタイムシステムズ玉野工場

三菱重工マリタイム・システムズは、2021年10月に三菱重工(MHI)が三井造船から玉野工場を譲り受け設立したMHIの子会社。

「ひびき」型は、1991~1992年に就役した2艦と、10年後に建造された2艦との間に多少の違いがあるが、基本は同じ。すなわち;―

基準排水量:初めの2艦/2,850 ton、後の2艦/2,900 ton

満載排水量:3,800 ton

船型   :SWATH (Small Waterplane Area Twin Hull)型 双胴船

大きさ  :全長 67 m、最大幅 29.9 m、喫水 7.5 m、乗員40名、ヘリコプター発着甲板付き

主機関  :三菱S6U-MPTKデイーゼル発電機4基および推進電動機 2基、

推進機  :スクリュー2軸、出力3,000馬力、

速力   :11 kts、航続距離3,800 n.m.

レーダー :OPS-18-1対水上捜索用(日本無線製2次元レーダー)、

      OPS-29 航海用レーダー

ソナー  :AN/UQQ-2 SURTASS曳航式

SWATH型双胴船(小水線面積双胴船)とは、2つの船体の上に艦橋・甲板・構造物を載せた形の船で、スクリュー・錨も両舷に1つずつある。双胴なので、荒天下で揺れが少なく、また幅が広くなり甲板面積を大きくとれる。上部構造は、前方にレーダーアンテナ、衛星通信アンテナ、主機用煙突などを含む艦橋構造、その後はソナー・ケーブル巻取ドラムなどを搭載する甲板があり、その上は飛行甲板でMH-52E大型ヘリコプターの離発艦が可能。

「ひびき」型音響測定艦の役目は、仮想敵国の潜水艦から生じる音を測定し、データー化し保管する。これと新たに収集した潜水艦の音とを照合して、艦種・艦名を特定する。潜水艦に限らず一般に船は造船所の違い、スクリューの加工の違いなどで生ずる音「音紋」が微妙に異なる。「ひびき」型は、仮想敵国の潜水艦の「音紋」収集のため日本海・東シナ海・南シナ海・太平洋など我国周辺海域を日夜遊弋している。

自艦が発する騒音を抑えるために、主機関デイーゼル発電機4基は喫水線上の高い位置にある。ここからの電力で、喫水線下に沈んでいる2つの船体に収めた推進電動機2基と直結スクリュー2基を回し推進する。

ソナー:AN/UQQ-2 SURTASS (Surveillance Towed Array Sensor System)/監視用曳航アレイ・ソナー(以後“SURTASS orサータス”と略す)

“SURTASS/サータス”は、アメリカ海軍の音響測定艦 (T-AGOS)級に搭載されている曳航ソナー。ソナー・アレイは長さ800 m、それを引っ張る曳航ケーブルは1,800 m以上、曳航深度は150-460 m、そして曳航速度は3 kts、と言われる。曳航ケーブルが長いのはソナーが感知する自艦の騒音をできるだけ減らすため。船体後部には巨大なケーブル巻取装置・ウインチを搭載している。1991年以降、光ファイバー製の細いケーブル・RDA (reduced diameter fiber-optics array)と低周波帯域を広げたLFA (low-frequency adjunct)、を使う方式に改良された。RDA/LEA付き“サータス”の探知距離能力は数百 km以上と言われる。

SURTASSシステムは2つの部分で構成される、すなわち;―

  • 受信ソナー/Passive Sonar; SURTASS

受信ソナーは、潜水艦からの音を受信する部分で、「監視用曳航アレイ・ソナー」頭文字を取り「SURTASS」と呼ぶ。SURTASSにより、静粛な原子力潜水艦や通常動力潜水艦を探知する。これをAN/UYS-2音響信号処理装置を通し、衛星通信経由でリアルタイムで艦隊司令部(潜水艦作戦センター)に通報する。SURTASSは音響測定艦の艦尾から約2 kmのケーブルの先に水平に伸びる長い(800 m)”Y”字型の受信アレイで潜水艦の音を受感する。通常の対潜水艦音響監視業務は受信ソナー/SURTASSのみで行う。

  • 発信ソナー/Active Sonar; LFA

発信ソナーは、水中目標/潜水艦に向けてパルス音を発射する装置である。潜水艦の発する騒音が微弱で受信ソナー/SURTASSで感知できない場合は、発信ソナー/LFAで低周波パルスを発信、その反射音を受信ソナー/SURTASSで受信、検知する。

発信ソナー/LFAは、艦底から垂直に伸びるケーブル、垂直線型アレイ/VLA (vertical line array)に18個の音響発信器が付いていて、これから発信する低周波パルスが目標潜水艦で反射する。

発信ソナー/LFAには2種類あり、大型で基本形LFAは米海軍「インペッカブル (Impeccable)」1隻のみで使用されている。もう一つは改良型の主に沿海域用とされるコンパクトLEA (CLFA= compact LFA)、これは小型軽量で、米海軍「ビクトリアス(Victorious-class)」級と海上自衛隊「ひびき」級に搭載されている。

  • 発信ソナー/LFAシステムの運用特性は次の通り(新旧同じ);―

使用周波数帯:100~500 Hz (hertz)

(音とは固体・液体・気体を伝わる振動。1秒間に何回振動するかを表すのが周波数で、単位はヘルツ(Hz)。振動数が多いほど高音、低ければ低音になる。人の耳が聴き取れる周波数は20 Hz~20,000 Hzの範囲)

各音響発信器の発信レベルは1 m離れた点で215 dB以下

発信ソナーからの音は常時、周波数、方向、パルス、発信時間、を変えて送信する。例えば連続送信時間は、6秒から100秒の間、平均は60秒

連続して行う発信時間は6分〜15分

図3:(U.S. Navy / SURTASS LFA sonar program)目標探知はSURTASS受信アレイで目標が出す音を感知して行う。目標の音が微弱で探知困難な場合は、低周波発信アレイから低周波パルスを出し、目標からの反射信号を受信アレイで受信する。

アメリカ海軍の現有音響測定艦 (T-AGOS)級は、1991~1992年に就役した「ビクトリアス(Victorious-class)」級4隻と、次級(T-AGOS-23)は2001年就役の「インペッカブル (Impeccable)」1隻の合計5隻。これで太平洋・大西洋を含む広大な海域を監視している。

終わりに

艦名AOS-5204「びんご」は、瀬戸内海中央に広がる「備後灘」に由来している。建造費は196億円、進水式後艤装を行いSURTASSシステムを搭載(米国で実施?)・完成する。就役は2026年3月以前で、配備先は呉基地、第1音響測定隊なる予定。

近年我国周辺の安全保障環境が厳しさを増し、中国・ロシアの潜水艦の動きが一段と活発化している。潜水艦の行動監視はもっぱら有人機の対潜哨戒機 P-1、P-3C、P-8Aや無人哨戒機MQ-9Bなどに頼っている。しかし深深度潜航の潜水艦の探知・追尾には限度がある。これを補完するのが「音響測定艦」。我国国防の頼りとする米海軍は、監視域がインド洋・大西洋・太平洋に広がっている。しかし運用する「音響測定艦」は僅か4隻。我国は同じ4隻体制ながら監視海域は、西太平洋と我国周辺なので比較的限定されている。「びんご」の就役は、今後の日米共同作戦に大きく寄与するのは間違いない。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • U.S. Navy NEPA Projects “SURTASS LEA Sonar Supplemental Environmental Impact Statement”
  • Naval News Feb. 17, 2025 “Japan launches fourth Hibiki-class auxiliary pecan surveillance ship for the JMSDF” by Kosuke Takahashi
  • Naval Today.com February 17, 2025 “MHI launches JMSDF’s fourth Hibiki-class ocean surveillance ship” by Fatima Bahtic
  • 乗り物ニュース2025 2-17 “異形の自衛艦[びんご]進水! 音響測定が任務のレア船 どこに配備される?”
  • Wikipedia “AN/UQQ-2 SURTASS”
  • 乗り物ニュース“中露が最も警戒する自衛艦?[びんご]進水で注目!非武装だけど機密の塊[音響測定艦]とは”