2025-3-13(令和7年) 松尾芳郎
防衛省は2024年12月に公表した2025年度予算案で、イージス・システム搭載艦(ASEV=Aegis System Equipped Vessel)の建造に関わる費用として865億円を計上した。これにより2027年度および2028年度に各1隻ずつの取得が確実になった。
(Japan’s Ministry of Defense announced the 2025 ‘s defense budget request in December 2024, including a fund of 86.5 billion-yen (500 million US $), for two of Aegis System Equipped Vessels (AESV) build by 2028.)
「イージス・システム搭載艦」は、2020年に配備が中止された「陸上配備型イージス・アショア」の代替となる艦である。イージス・アショアは山口、秋田両県に配備予定で進んでいたが、2020年6月15日河野太郎防衛相(当時)の突然の指示で中止になった。
イージス・システム搭載艦(以後ASEVと略称)2隻の建造計画は2022年8月に決定、予想費用は2,200億円とされた。2023年には三菱重工とジャパン・マリン・ユナイテッドと、基礎設計など建造準備の資料作成の契約を締結。2024年度予算で2隻分の建造費として3,731億円が計上された。1番艦は三菱重工が担当2027年完成、2番艦はジャパン・マリン・ユナイテッドが担当2028年完成、と決定した。いずれも基準排水量12,000 ton (満載排水量は未公表だが米側報道では20,000 tonと推定)。
これで海自が保有する既存のイージス艦/ミサイル駆逐艦8隻は水上作戦の中枢艦として運用し、「イージス・システム搭載艦/ASEV」は2029年度から主として弾道ミサイル迎撃任務(BMD)を担当する。
「ASEV」に搭載する「イージス武器システム(AWS=Aegis Weapon System)」は「ベースライン9」、組合わせるレーダーはロッキード・マーチン製「AN/SPY-7」となる。
米海軍は最新型ミサイル駆逐艦「アーレイバーク級フライトIII」を含めて「ベースライン10」と「AN/SPY-6」レーダーの組合わせを採用している。「SPY-6」はRTXレイセオン社が開発するレーダーで、「SPY-7」と同様、アンテナの送受信モジュールに窒化ガリウム(GaN)素子を採用し、一片60 cmの立方体モジュール「RMA=Radar Module Assembly」を構成単位とし積み重ねてアンテナ面とする。これでミサイル駆逐艦、揚陸艦、空母、旧型駆逐艦改修に対応する。
我国がイージスシステム搭載艦に「ベースライン9」+「「SPY-7」レーダーを選択したのは、ベースライン9、10には機能上の差がない事、および「ベースライン10」+「SPY-6」にした場合は導入時期が遅れることによる。

図1:(防衛省)防衛省が2024年9月18日に公表したイージス・システム搭載艦(ASEV)の予想図。基準排水量12,000 ton、速力30 kts、動揺に強く、長期間の任務に就くため居住性を向上している。乗員は240名、在来型イージス艦より20 %以上省力化される。開発中の「12式地対艦誘導弾能力向上型」や「超音速滑空ミサイル(HGV = Hypersonic Glide Vehicle)迎撃ミサイル(SM-6)」などは、就役後に搭載する。

図2:(防衛省)2024年9月18日に公表の[ASEV]の工事予定表。1番艦三菱重工製は2027年度に完成、2番艦ジャパン・マリン・ユナイテッド製は2028年度中期に完成する。
イージス・システム搭載艦[ASEV]の核心装備「SPY-7レーダー」
AN/SPY-7レーダーはロッキード・マーチン社製「長距離識別レーダー(LRDR=Long Range Discrimination Radar)」で、早期警戒レーダーとして開発された。すでにロシア・中国などのICBM攻撃に対処するため地上設置型対空探索レーダーとしてアラスカ州に配備されている。また艦載用多機能レーダーとして日本、カナダ、スペインから受注済み。窒化ガリウム(GaN)製半導体素子使用のアクテイブ・フェイズド・アレイ・アンテナを使い、垂直・水平両方向のパルスを送受信する3次元レーダーである。
ジェーン誌によると、SPY-7の基本型「SPY-7(V)1」の性能、目標探知能力は「地表飛翔体(terrestrial objects)では4,800 km、宇宙空間飛翔体(space based target)では46,000 kmになる。防衛省発表では、現用イージス艦/ミサイル駆逐艦用の新型Sバンド「SPY-1D(V)」の探知距離500 km対比で、5倍以上の能力とされる。
SPY-7の基本はサブアレイ・スイートと呼ばれるSバンド使用の小型レーダー・モジュールで、これを要件に応じて組合せる構造、したがって、大小様々に作ることができる。

図3:(Lockheed Martin) SPY-7のベースとなるサブアレイ・スイート「LMSSR (Lockheed Martin Solid State Radar)」。積み重ねてSPY-7各バージョンを作る。
SPY-7を採用するのは、カナダ海軍とスペイン海軍。カナダ海軍では15隻建造予定のリバー級(River class)ミサイル駆逐艦にSPY-7(V)3搭載を決め、2028年から納入が始まる。スペイン海軍では5隻建造予定のF-110ボニファス級フリゲートに小型化したSPY-7(V)2が搭載される、2026年から納入予定。

図4:(2024年版防衛白書)2024年度防衛白書に掲載された「イージス・システム搭載艦」のイメージ。
イージス・システム搭載艦(ASEV)と在来のイージス艦の代表「まや」型と比較してみよう;―
「まや/DDG-179」級護衛艦/ミサイル駆逐艦は、2020年就役の最新型イージス艦、同型は「はぐろ/DDG-180」がある。
全長 :「ASEV 」190 m、「まや」170 m
幅 :「ASEV」25 m、「まや」21 m
基準排水量 :「ASEV」12,000 ton、「まや」8,200 ton
満載排水量 :「ASEV」未公表。「まや」10,250 ton
乗員 :「ASEV」240名、「まや」300名
最大速力 :両者同じ 約30 kts
主機関 :両者同じ Rolls Royce MT30 ハイブリッド推進システム(川崎重工が組立・試験・コンパクト・エンクロージャーへの組込みを担当)
レーダー :「ASEV」SPY-7(V1)型、「まや」SPY-1D(V)型
VLS/垂直発射装置:「ASEV」128セル、「まや」96セル、いずれも対弾道ミサイル用「SM-3 Block IIA」ミサイル、および対巡航ミサイル兼対超音速滑空ミサイル(HGV)対処用「SM-6」ミサイルを搭載
電子戦装置 :「ASEV」来襲する敵ミサイルの脅威評価を行う最新型「SEWIP」AN/SLQ-32(V)6を搭載
「ASEV」には、2032年以降準備が整い次第次の兵装を搭載する
対艦・対地攻撃用「12式対艦ミサイル能力向上型」、射程1,000 km以上
対艦・対地攻撃用「トマホーク巡航ミサイル」、射程1,600 km
対ドローン・スオーム攻撃用「高出力レーザー・ガン」
対弾道ミサイル用「SM-3 Block IIA」ミサイル
「スタンダード・ミサイル(SM=Standard Missile)-3」迎撃ミサイルは来襲する短中距離弾道ミサイルを破壊するための防御兵器。RTX傘下のレイセオン・ミサイルス&デフェンス(Raytheon Missiles & Defense)社が製造する。この迎撃ミサイルは弾頭の爆発ではなく衝突して目標を破壊する「hit to kill」方式。陸上配備、艦載配備、いずれも可能。SM-3は大気圏外での迎撃試験に30回以上成功済みで、日米両海軍に400発以上が納入されている。「SM-3」を改良し中長距離弾道ミサイルも迎撃可能な「SM-3 Block IIA」の開発には日本も参加している。「B lock IIA」は胴体直径が53 cmに太くなり迎撃範囲、高度が「Block 1B」に比べ格段に向上している。
- 迎撃可能範囲;「SM-3 Block IA/B」は約700 km、高度約500 km、「SM-3 Block IIA」は1200 km、高度900-1,050 km
- 最高速度;「SM-3 Block IA/B」はマッハ8.8、「SM-3 Block IIA」はマッハ13.2
ポーランド(Poland)およびルーマニア(Romania) では陸上配備型「イージス・アショア(Aegis Ashore)」を計画中で、「SM-3 Block IIA」型の配備が予定されている。実現すればヨーロッパ全域のミサイル防衛体制が強化される。

図5:(2024年度防衛白書)「SM-3 Block IIA」開発担当部位。
対巡航ミサイル兼対超音速滑空ミサイル(HGV)対処用「SM-6」ミサイル
「スタンダード・ミサイル 6 (SM-6)」は、「SM-3」と同じくレイセオン(Raytheon)が製造する艦載用対空ミサイルである。来襲する「有人航空機、無人航空機、巡航ミサイル、高速対艦ミサイル、ターミナル段階に入った弾道ミサイル、」を迎撃する。基本は「SM-2 ER Block IV」対空ミサイルに戦闘機が装備する中射程空対空ミサイル「AIM-120C AMRAAM」のシーカー「アクテイブ・レーダー・ホーミング(Active Radar Homing)」を取付けたミサイルだ。米海軍では2013年から配備を始めている。有効射程は240 km、高度460 kmをカバーする。
米国防総省は「SM-6 Block I」を総額9億ドルで日本に売却する。これには、VLS Mk. 21 Mod 3キャニスター、部品、支援装置、訓練と、本体150発を含む(2025年1月31日発表)。
「VLS Mk.41垂直発射装置 (Mk.41 VLS /Vertical Launching System)」は、世界的に使われているミサイル発射装置の総称。ロッキード・マーチン製、三菱重工がライセンス生産中。SM-3、トマホーク、SM-2、SM-6、アスロック対潜ミサイル、などを専用のキャニスターに入れ、セルに装填し使用する。「SM-6」用VLSはMk.21で高さ約7.7 m、この高さは「SM-3」や「トマホーク」と同じ。

図6:(Lockheed Martin/U.S. Navy) Mk.41 VLSの上面、ミサイル・セルの蓋が並ぶ。
対艦・対地攻撃用「12式対艦ミサイル能力向上型」
2021年度から陸上発射型、2022~2026年度に艦上発射型、2022~2028年度に空中発射型をそれぞれ開発、総事業費費は約1,000億円、主契約は三菱重工。長射程化のため、大型の展開主翼、新型ターボファン、RCS(Radar Cross Section)低減のため胴体のエッジ処理、などを採用している。射程は、当初は900 km、最終的にはトマホークと同じ1500 km を目指す。陸上自衛隊向けの地発型12式対艦ミサイル能力向上型は今年/2025年度から配備が始まる。発射試験は2024年10月・11月に東京新島の航空装備研究所新島支所で5回実施(地発型を3回、艦発型を2回)、いずれも成功した。

図7:(2024年版防衛白書)2024年度防衛白書に掲載された「12式地対艦誘導弾能力向上型」の試作機、写真はブースター無しの空発型。地発・艦発型ではブースターが付く。
対艦・対地攻撃用「トマホーク巡航ミサイル」
2023年11月17日、米国政府は日本からの要求に応じ、巡航ミサイル「トマホーク」400発と関連装備などを含め総額23億5000万ドル(約3,520億円)で売却をることを決定、議会に通知した。防衛省が購入するのは最新型の「Block 5」とその前の「Block 4」をそれぞれ200発ずつ。日本政府は400発全部を「Block5」にすることを望んだが、取得時期を2025年度に早めた事で間に合わず、半分を「B lock4」に変更した。
- 「xMG-109トマホークBlock IV」:
Block IVは米海軍で2004年から配備が始まった。価格は、製造コストの低減で「Block III」の半分になり、2004年から2015年まで生産された。4,000発以上が調達されたが現在の配備数は3,600発程度である。
「Block IV」では「双方向UHF SATCOMデータ・リンク」が搭載されたので、発射母体から衛星リンク経由で、発射後でも素早く目標を変更したり、途中で待機飛行をするなど、指示可能になった。
「Block IV」は、弾頭は「Block III」と同じ(炸薬454 kg)だが、構造軽量化で燃料搭載量が増え、射程は1,600 km+、発射準備に要する時間(目標の選定、飛行経路の指定などのソフト搭載に要する時間)が1時間以内になり、実戦対応力が向上している。弾頭は、貫徹力の高い二重構造で、着弾すると一次爆発で破口を開け、そこに炸薬弾頭が飛び込み2時爆発を起こし目標を完全に破壊する「JMEWS(Joint Multi -Effect Warhead System)」の搭載が可能。移動目標攻撃のため、パッシブ・レーダー・シーカー(passive radar seeker)で目標が発する電波を受感追跡する。
水上艦発射型「RGM-109 VLS」と潜水艦発射型「UGM-109」がある。
誘導には、「TERCOM (Terrain Contour Matching)/地形照合システム」、「DSMAC (Digital Scene Matching Area Correlator)/デジタル映像照合システム」、「INS (慣性航法システム)」および「GPS(全地球測位システム)」の4つのシステムを使う。
- 「xMG-109トマホークBlock V」:
2020年から「トマホーク」のさらなる近代化を開始、保管期限を現在の15年から30年に延長する新たな「Block V」シリーズの開発が始まった。保管期限に達すると全ての装備品の検査・試験が必要なので、大きな改善になる。射程はBlock IVより多少延びる。Block Vの単価は200万ドル(2億8000万円)。
「Block V」は次のモデルで構成される。
Block V:Block IV / TACTOMの航法・衛星通信システムを改良、精度が向上している。
・Block Va:洋上を航行する移動目標・艦艇を攻撃する型式。「海洋打撃トマホーク(MST=Maritime Strike Tomahawk)」で、最新の終末誘導用シーカーで敵艦艇を識別、精密攻撃ができる。
・Block Vb:高強度の炸薬を搭載し、厳重に防護された地上目標を攻撃・破壊できる。

図8:(US Navy) MG-109 トマホークの概要。
- 対ドローン・スオーム攻撃用「高出力レーザー・ガン」
TokyoExpress 2024-2-13 “米海軍、レーザー兵器[HELIOS/heriosu]発射映像を公開“、および
TokyoExpress 2025-3-7 “令和7年2月、我国周辺での中露両軍の活動と我国/同盟諸国の対応“12ページに「1月30日、防衛装備庁、ドローン群を無力化する高出力マイクロ波兵器開発を発表”の記事があるので、参照されたい。
終わりに
秋田県、山口県に設置予定だった陸上配備型弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」が2020年にキャンセルされ、替わりに登場した「イージス・システム搭載艦」の現状をまとめてみた。
あれから僅か5年、中国などの軍事力は年率7%の増え方で益々増強され、我国周辺の安全保障環境は著しく緊迫の度を高めている。防衛省が弾道ミサイル防衛用に建造を始めた「イージス・システム搭載艦(ASEV)の早急な配備は喫緊の対策と言えよう。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- 防衛省2024-9-18 “イージス・システム搭載艦の建造契約締結について”
- Lockheed Martin News January 15, 2025 “Lockheed Martin delivers the first Aegis System Equipped Vessel AN/SPY-7(V)1 Radar Antenna to Japan Ministry or Defense”
- Yahooニュース2024/7/12 ”2024年版防衛白書、海自イージス・システム搭載艦の最新イメージ図を掲載” by 高橋浩佑
- TokyoExpress 2023-10-19 “トマホークと12式地対艦巡航ミサイルの配備を急ぐ“