彗星の巣“オールトの雲”は銀河と同じ渦巻き状と判明



2025-3-22 (令和7年) 松尾芳郎

太陽系には、海王星の外に冥王星を含む小惑星の集り「カイパー・ベルト (Kuiper Belt)」があることは知られている。その外側、太陽系の引力の限界域には、無数の氷塊の集団「オールトの雲(Oort Cloud)」がある。スーパー・コンピューターを使った研究で「オールトの雲の内側領域は銀河と同じような渦巻き状であることが判った。

(Beyond Neptune, a crowd of small planets like Uranus in the Kuiper Belt, are well known in public. Farther out, 1,000 AU through 100,000 AU, exist the Oort Cloud, outermost boundary of the Solar System. The region is believed to hold countless icy objects. According to a recent study, the icy objects sits on surprising spiral pattern, similar to the Milky Way, in the inner Oort Cloud.)

図1:( Nesvorny et al.)スーパー・コンピューターが描いたオールトの雲「内側領域」の渦巻き構造。上下の広がりは約15,000 AUに達する。中心には太陽系がある。参考に「銀河面 (Galactic Plane)と「黄道光面(Ecliptic Plane)」を示す。

「オールトの雲」概要

「オールトの雲」は、大小様々な汚れた氷塊の集まりで、太陽からの距離2,000 AUから200,000 AU (0.03~3.2光年)の領域にある。オールトの雲は2つに分けられる。「外側領域」は球状で太陽からの距離およそ10,000 AU から外側で氷塊がまばらに散在する領域を言う。

[AU]とは[ 天文単位/Astronomical Unit]の略で、1 AUは太陽・地球間の距離・1億5000万キロに相当する。

「内側領域」は円盤状で太陽系回転面とに対しやや傾いている。「外側領域」はカイパー・ベルトを含む太陽系全体を包み込む球状をしている。

科学者達は、長い間「外側領域」の氷塊は近くを通過する恒星の影響を受け、その僅かな重力で氷塊が離れて太陽に向かい、やがて彗星として観測される、そして「内側領域」の氷塊は太陽の重力で繋ぎ止められている、と考えていた。

これら氷塊/彗星は極めて遠方にあり直接観測することは出来ず、宇宙探査機「ボエジャー2号」が「内側領域」の入口付近にやっと到達したところだ。

米国の研究機関「SWRI=Southwest Research Institute」のデイビット・ネスボーニ(David Nesvorny)氏率いる研究チームがオールトの雲の解析に乗り出した。

「SWRI」はテキサス州サンアントニオ(San Antonio, Texas)にある非営利研究機関で1947年にオイル・ビジネスマンのトム・スリック(Tom slick)氏により設立された。政府機関や工業界から依頼を受けて色々な研究をしている。年収は9億1千万ドル、従業員は3,200人以上の規模。

「SWRI」の研究者達は、オールトの雲から飛来する多数の彗星の軌道と太陽系内部・外部の重力(gravitational force)データをスーパー・コンピューターで解析し、「オールトの雲」の構造を導き出した。そして「オールトの雲は銀河に似た渦巻き状をしている」と結論付けた。銀河の場合は、中心核に巨大ブラックホールと恒星の密集領域があるが、オールトの雲では太陽が中心になっている。解析に使用したスーパー・コンピューターはNASAの「プレアデス(Pleiades)」。

結論は「オールトの雲の星々が密集する内側領域(太陽から1,000 AU~10,000 AUの領域)は銀河に似た渦巻き構造をしている」。この「内側領域」の端から端までの広がりはおよそ15,000 AU、そして太陽系の回転面に対し約30度傾いている。

図2:(NASA Solar System Exploration Division 690 “Oort Cloud”)「カイパー・ベルト」は、海王星(Neptune)の外側に平板状に広がる小惑星群で、「冥王星(Uranus)」や「連星”1998 WW31”」など多数の小惑星がある。「オールトの雲」は、太陽・惑星・カイパー・ベルトを中心に、それを包む無数の「氷塊/彗星」の球状の集まり。

太陽系内側領域に飛来する彗星はいずれもオールトの雲の渦巻き構造から飛来

彗星(comets)は、太陽圏内で作られた塵・岩石・氷、惑星になれなかった残りの「氷塊」である。大きさは数kmから数十kmにもなるが、太陽に近付くと蒸発し光を発し、小さくなり、消滅するものもある。

短周期の彗星は、オールトの雲の内側部分から飛来するものが多く、長周期の彗星はオールとの雲の外縁部から飛来するらしい。これらの彗星は、太陽や大きな惑星、他の恒星の重力の影響を受けて軌道が変わることが多い。

最近の事例では2024年10月12日に地球に7,000 kmまで接近した彗星がある。この彗星は2023年に中国のTsuchinshan天文台および南アフリカのATLAS天文台によって発見され「C/2023 A3 Tsuchinshan-ATLAS」と名付けられた。長大な楕円軌道で飛来、2024年9月27日に太陽に最も接近した。太陽の熱でかなりの部分が蒸発したが、10月12日の地球に最接近してから再び遠ざかりオールトの雲に向かっている。彗星は太陽に近づくと熱で氷や1酸化炭素2酸化炭素が蒸発し消滅することが多い。

図3:(NASA/BBC)太陽からの距離を示す図。地球/1 AU、惑星系/30 AU、カイパー・ベルト/50 AU、オールトの雲/150,000 AU、最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリ/25万AU、と描かれている。

太陽から出た光が地球に届くまで8分少々掛かる。海王星軌道に届くには4時間半かかる。それからカイパー・ベルトの外縁を通過するのにはさらに3時間を要する。そして太陽風の限界「ヘリオポーズ(heliopause)」に到達する。

「太陽風」は太陽か放出する電解粒子の流れで、時速160万km(秒速400 km)で進み、宇宙空間に漂う星間物質と衝突、急減速する。ここが「衝撃波圏(Termination Shock)」・「へリオポーズ(Heliopause)」と呼ぶ区域で、太陽光が到達する迄に約17時間かかる。

さらに太陽光がオールトの雲の最も内側に達するには10日〜28日かかる、オールトの雲を通過してその外縁に達するには1年〜1年半かかり、ここから先は恒星の世界になる。

光速で一年かかる距離を「1光年」と言い、9.46兆kmに相当する。

太陽から最も近い恒星は、ケンタウルス座アルファ星系の「プロキシマ・ケンタウリ(Proxima Centauri)」」で4.24光年の距離にある。これは赤色矮星で光度が微弱で肉眼では見えない。

「ロス 248」は、太陽から10.3光年の距離にある赤色矮星、質量は太陽の14 %、非常に暗い変光星。1950年に恒星として初めて黒点による光度の変化が確認された。ここに「ボエジャー2」が到達するのは4万年後になる。

図4:(NASA)太陽系・惑星系を中心に描いたオールトの雲の位置。「土星」は太陽―地球間の距離1AUの10倍の距離 10 AUにある。48年前に出発した宇宙探査機「ボエジャー2」は「ヘリオスフェア」を通過中である。

ボエジャー2(Voyager 2)とボエジャー1は同じ宇宙探査機で、現在は、太陽からの太陽風と磁力線で作る領域「太陽圏(Heliosphere)」を通過している。

ボエジャー2は1977年8月にボエジャー1は共に木星以遠の惑星探査のため出発した。木星/1979年・土星/1981年・天王星/1986年・海王星/1989年にそれぞれ接近、それぞれの写真撮影など探査に成功した。

ボエジャーは「惑星探査」を完了後、現在は新しい任務「恒星間空間の探査 (VIM =Voyager Interstellar Mission)」に就いている。すなわち、太陽風が星間物質で減速されゼロになる「Termination Shock(衝撃波圏)」、太陽圏と星間物質の境界面外縁「ヘリオスフェア(Heliosphere)」および「恒星間空間 (Interstellar Space)」の3つの探査を行う。

ボエジャー1は「衝撃波圏」を太陽からの距離94 AUで2004年12月に、ボエジャー2は84 AUで2007年7月2日にそれぞれ通過した。そしてボエジャー2は2018年11月に太陽圏の外縁約120 AU、2020年には150 AUを通過、時速55,000 km/hr(年速3.2 AU)で慣性飛行を続けている。残りの寿命は電力と燃料の残量で決まるが、2026年ごろまでは探査を継続出来る模様。ボエジャーの電源は、放射性同位元素(アイソトープ)」と熱電対を組合わせた「原子力発電装置(RTG=Radioisotope Thermoelectric Generator)」を3個使っている。これはアイソトープの崩壊熱で電力を発生させる原子力電池である。ボエジャーの推進には電力は不要だが、測定機器や通信機器には電力が必要である。熱源のラジオアイソトープ燃料(radioisotopic fuel)にはプルトニウム238 (Plutonium 235)を使っている。

図5:(NASA Science)ボエジャー宇宙探査機の外観

図6:(Johns Hopkins Univ. Applied Phisics)1977年8月に出発した宇宙探査機「ボエジャー1および2」は、現在太陽圏の外縁「ヘリオポーズ(Heliopause)」を通過したところ。

終わりに

太陽系の探査は、月・火星に無人探査機を着陸させ表面の様子がわかり、数年後には有人探査が始まろうとしている。火星より遠い小惑星帯や木星・土星・海王星のガス惑星とその周辺はまだ調査が始まったばかり。その先のカイパー・ベルトは冥王星など小型惑星の集まりであることが明らかになった。これらは観測技術の向上、特に今も情報を送り続けてくれている宇宙探査機」ボエジャー」や「ニュー・ホライゾン」の活躍によるところが大きい。しかし人類が保有する現在の技術では「太陽圏」外縁に広がる「オールトの雲」直接探査するのは極めて困難である。

48年前に太陽系の巨大ガス惑星、木星・土星・海王星の探査に出発、現在太陽圏の外縁を通過した「ボエジャー」探査機は、NASAの「ジェット推進研究所 (JPL=Jet Propulsion Laboratory)が開発した宇宙探査機である。開発に携わった幹部に故「西村敏充」氏が居たことを知る人は少ない。

西村氏は1930年生まれ、東京大学理学部を卒業、カリフォルニア大学バークレー校大学院でPhDを取得し、NASA JPLに就職、そこでボエジャー・プロジェクトに初期から加わり活躍した。「ボエジャー」が「惑星探査」業務を遂行するのを見届けて職を辞し、帰国してJAXA相模原研究所に勤務した。私事になるが同じ頃バークレー校の工学部に在籍したので西村氏と知り合い、交友が続いたことが記憶にある。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • SPACE.com February 28, 2025 “NASA supercomputer fined billions of comets mimicking the Milky Way’s shape: The universe seems to like spirals!” by Robert Lea
  • NASA Solar System Exploration Division 690 “Oort Cloud”
  • NASA Science 2025/1/2 “Explore “Oort Cloud Facts”
  • NASA Watch the Skies October 2, 2024 “Ancient Oort Cloud Comet to Make First Documented Pass by Earth in Mid-October”
  • Live SCIENCE February 24, 2025 “NASA supercomputer reveals strange spiral structure at the edge of our solar system” by Ben Turner 
  • Earth.com 03-16-2025 “Spiral structure discovered at the edge of our solar system can’t be explained” By Eric Ralls