海自新型フリゲート、南シナ海で英伊両国艦と共同訓練


2025-5-14(令和7年) 松尾芳郎

図1:(Italian Navy/海上自衛隊)南シナ海で演習中の、手前から海自フリゲート「やはぎ /FFM 5」、イギリス海軍哨戒艦「スペイ/HMS Spey」、イタリア海軍フリゲート「アントニオ・マルチェリア/IN ITS Antonio Marceglia」の順。

海上自衛隊は2025年5月7日、中国が海洋進出を拡大・強化する南シナ海で、最新型フリゲート「やはぎ/FFM 5」が、イギリス海軍の哨戒艦「スペイ/HMS Spey」、イタリア海軍フリゲート「アントニオ・マルチェリア/IN ITS Antonio Marceglia」と共同訓練を行った。訓練は「自由で開かれたインド太平洋」の維持・実現のために行われた。

(The Indo-Pacific Deployment 2025 (IPD25)’s frigate Yahage/FFM 5 conducted a multinational naval exercise with the Italian Navy IN ITS Antonio Marceglia and the Royal Navy HMS Spey. The three nations Naval exercise aimed to strengthen cooperation to maintain “Free and Open Indo-Pacific”.)

日英伊3カ国は2022年7月に次期戦闘機開発を共同で行うことを決め、同年12月9日に「GCAP/グローバル・戦闘機プログラム」として開発をスタート、2024年12月には3カ国合弁会社を設立することで合意した。2030年に製造開始、2035年に配備開始を目標にプログラムが進んでいる。

図2:(防衛省)防衛省が公表した日英伊3カ国共同開発中の次期戦闘機[GCAP]のイメージ。英BAEシステムズ構想の「テンペスト/Tempest」が基本型。

「GCAP/グローバル・戦闘機プログラム」で3ヶ国の協力関係がある中で、3カ国海軍が共同訓練を行ったことは、お互いの絆を一層強化するものとして注目される。

今回の訓練に参加した艦艇の概要を紹介しよう;―

  • 海自フリゲート「やはぎ/FFM 5」

図3:(海上自衛隊)海自フリゲート「やはぎ/FFM 5」は「もがみ」型フリゲートの5番艦、真鶴基地の第14護衛隊に所属。現在「令和7年度インド太平洋方面派遣(IPD 25)」の第1水上部隊として派遣されている中で今回の訓練に参加した。。

「もがみ」型フリゲートは、2022年4月就役の1番艦「もがみ/FFM 1」と同年4月就役の2番艦「くまの/FFM 2」が横須賀基地第11護衛隊に、3番艦「のしろ/FFM 3」、4番艦「みくま/FFM 4」が佐世保基地第13護衛隊にそれぞれ配備中。舞鶴基地には同型艦として初めて今年5月21日就役の「やはぎ/FFM 5」が配属された。

「もがみ」型は基準排水量3,900 ton、満載排水量5,500 ton、長さ133 m、乗員60-90名、対潜戦、対空戦、対水上戦が可能な多機能護衛艦(FFM)である。「FF」フリゲート/frigateに続く「M」は[多目的/multi-purpose]と[機雷戦/mine warfare]を意味する。機雷戦は掃海艦/掃海艇が担当していたが「もがみ/FFM」型ではこれも任務となる。

「もがみ」型は、現在7番艦「によど/FFM 7」までが就役(2025年3月)済みで、2027年3月までに合計12隻になる予定。

その後は「能力向上型」の新型FFM (満載排水量6,200 ton、長さ142 m)、 を12隻建造する。能力向上型は、現在オーストラリア海軍が導入計画中の次期フリゲートに、候補として防衛省が提案中の型である。

「もがみ」型は、レーダーに探知されにくいステルス形状で、魚雷発射管や対艦ミサイルなど凹凸のある機器は艦内に格納してある。

最大速度30 kts以上を出すため、海自艦としては初めてガスタービンとデイーゼルを併用する複合機関「CODAG (Combined Diesel and Gas Turbine)を主機としている。ガスタービンはロールスロイス・マリン・トレント(Marine Trent)の川崎重工がライセンス生産する[MT30] 1基で、加速機として使用する。デイーゼルは、MAN社製12v28/33D STCを2基・巡航時など低速機として使う。出力は70,000 hp。

兵装は、62口径5 inch砲1門、三菱重工製17式対艦ミサイル(SSM-2)4連装発射筒2基、対艦ミサイル防御ミサイルとしてはレイセオン製11連装[Sea RAM (RIM116)]を 1基、を装備する。そしてロッキード・マーチン製・三菱重工ライセンス生産の16セルMk.41 VLS垂直発射装置は後日に装備する(によど/FFM 7以降からは就航時に装備)。VLSには対空、対艦、対潜用の各種ミサイル/ロケットを搭載する。「能力向上型」ではMk.41 VLSのセル数を倍増して32セルとする。

艦橋頂部には。リンク22に対応する戦術データ・リンク用アンテナを含む棒状の複合通信アンテナ「UNICORN=United Combined Radio Antenna」が装備されている。センサーとしてはXバンドのOPY-2多機能レーダーを、ユニコーン・アンテナの下部・艦橋上部の側面に装備する。

対機雷戦用には、日立製ソナー・システム[OQQ-11]を搭載するほか、機雷が敷設してある危険な海域に進入せずに済むように、機雷を排除する機能を持つ無人水上航走艇(USV)・[OZZ-5]と無人水中航走艇(UUV)を搭載する。

このように「もがみ」型および「能力向上型」フリゲートは、軍事力増強を続ける中国の海洋進出を睨み、全長3,000 kmに及ぶ日本列島の海上防衛を担う次世代の主力艦となる予定だ。

  • イギリス海軍哨戒艦「スペイ/HMS Spey」

図4:(Royal Navy)インド太平洋海域の警備にあたる「スペイ/ HMS Spey/ P234」。排水量2,200 ton、長さ90.5 m。兵装は艦首に30 mmブッシュマスター機関砲1門など。

「スペイ/HMS Spey」は、イギリス海軍「リバー/River」級の沿海域哨戒艦(Patrol Vessel)9隻のうちの1隻。「リバー」級は、バッチ1が4隻と新しくBAEシステムズが建造するバッチ2の5隻がある。バッチ1の「クライド/HMS Clyde」はフォークランド/Falklands警備艦隊に所属していたが、バーレン海軍/Royal Bahrain Naval Forceに譲渡されたので、イギリス海軍が現在運用中の本級は8隻になる。

「スペイ/HMS Spey/ P-234」は、バッチ2の5番艦で2021年6月の就役。バッチ2はバッチ1の能力向上型で、排水量2,200 ton、長さ90.5 m、最高速力25 kts、艦尾甲板は、「アグスタ・ウエストランド(AgustaWestland )ヘリコプターが離発着できる(格納庫はない)。航法用にケルビン・ヒューズ(Kelvin Hughes)製シャープ・アイ・レーダー、対空・対水上艦探索用にターマ製スキャナー4100 2Dレーダー、それにBAE製CMS-1戦闘管理システムを装備している。装備するMk 44ブッシュマスターII機関砲30 mm口径チェーンガンは米国のATK (Alliant Teck Systems)が製造する汎用機関砲の艦載型になる。日本でも海保巡視船、陸自24式装輪装甲戦闘車などに使っている。

2021年9月に「スペイ/ HMS Spey/P234」と僚艦「タマー/HMS Tamar/P233」は、イギリス南部の母港ポーツマス(Portsmouth)を出航、インド太平洋海域警備の任務に就いた、期間は5年以上とされる。イギリスは、インド太平洋地域が安全保障面で重要性が増しているとして、外交政策の恒久的な柱に引き上げている。その一環としてイギリス海軍の旗艦である空母「プリンス・オブ・ウエールズ(Prince of Wales)」を中心とする空母打撃群をポーツマスから2025年4月22日に出航させ、途中演習を繰り返しながらインド・太平洋海域を巡航、夏には日本を訪れ大規模な演習を実施する予定である。

バッチ1は改良型がブラジル海軍に3隻、タイ海軍に2隻、それぞれ使われている。

  • イタリア海軍フリゲート「アントニオ・マルチェリア/IN ITS Antonio Marceglia」

図5:(Naval News)イタリア海軍フリゲート「アントニオ・マルチェリア/IN ITS Antonio Marceglia/F 597」は2025年1月20日母港ラ・スペツア(La Spezia)を出発、インド太平洋海域に向かった。

「アントニオ・マルチェリア」は、イタリア海軍の主力水上戦闘艦[カルロ・ベルガミーニ(Carlo Bergamini)]級多目的フリゲートの8番艦で、満載排水量6,700 ton、長さ144.6 mで、日本の「もがみ」型フリゲートより一回り大きい。。

2019年4月就役後はタラント(Taranto)を母港にしている。2021年5月には[Formidable Shield]演習でアスター30 (Aster 30)対空ミサイルの発射試験に成功、2021年6月には、バルチック海で行われた米海軍主催の多国間演習[BALTOPS 2021]に参加。同艦は、インド太平洋地域への長期展開のための「プロジェクション」作戦実施のため、2025年1月20日イタリアを出発、2月にはインド洋のスリランカ(Sri Lanka)のコロンボ港に寄航、それから同3月27日には横須賀基地に入港した。

近年、イタリアはインド・太平洋への関与を強めており、昨年2024年8月には空母「カブール」を日本に寄航させるなど、日本との連携強化を進めている。

兵装は、艦首前方にレオナルド(Leonardo) オトブレダ(Otobreda) 127 mm砲1門、その直ぐ後ろにアスター30対空ミサイル発射用のMBDA製の垂直発射装置16セルのSYLVER A50 VLSを1基、艦尾ヘリコプター格納庫の上にはレオナルドOTOメララ(Melara) 76 mm砲1門、を装備している。また艦中央部には対艦・対地攻撃用ミサイルMBDA製[Teseo/Otomat Mk.2/A]の発射筒8本を搭載している。搭載ヘリコプターはNHインダストリー製の双発NH90ヘリ2機。かなりの重武装である。

終わりに

近年東シナ海・南シナ海で版図海大の意図を露骨化する中国に対し、イギリス、イタリア両国は危機感を募らせ「インド太平洋地域の平和と安定」の維持・強化に意欲を示すようになってきた。イギリス・イタリアは、ロシアのウクライナ侵攻に直面し、インド太平洋地域でも力のバランスが崩れると同じことが再現する恐れあり、と痛感しているためである。度々報告するように、日本は現実に日々圧力・脅威を受けていることもあり、イギリス・イタリアを含むNATO諸国との軍事的協力を一層強化して地域の平和確保に努めねばなるまい。

―以上―

本稿作成に参照した主な記事は次のとおり。

  • 海上幕僚監部2025年5月7日“日英伊共同訓練について”
  • 乗り物ニュース2025年5月8日“海自の最新ステルス艦が南シナ海へ!日英伊3ヶ国艦隊が実現、貴重なショット公開”
  • エキスパート2024年5月21日“海自もがみ型護衛艦(FFM)5番艦「やはぎ」が就役、京都舞鶴に配備” by 高橋浩佑
  • エキスパート2025年3月23日“もがみ型護衛艦のVLS、7番艦@によど」から就役時に設置”by 高橋浩佑
  • Royal Navy MOD UK “River Class Offshore Patrol Vessel”
  • J Defense News 2025-3-29 “イタリア海軍フリゲート「アントニオ・マルチェリア」が横須賀来訪“by 稲葉義泰
  • Naval News. Com 2025-1-31 “Italian navy Deploy Marceglia FREMM Frigate to the Indo-Pacific” by Luca Peruzzi