SUBARU、防衛装備庁へ無人支援機技術研究用の実験機を納入



2025-7-18(令和7年) 松尾芳郎

図1:(SUBAEU) SUBARUが防衛装備庁に納入した実験機。

2025年7月9日SUBAEUは、防衛装備庁に遠隔操作型支援機技術の研究に使うための実験機を納入した。この研究を通して、[CCA=Collaborative Combat Aircraft](“共同戦闘無人機”の意)、すなわち、有人戦闘機と連携して飛行するのに必要な自律飛行技術や有人機からの指示で飛ぶ遠隔操作技術などの開発を進め、2027年の実用化を目指す。

(SUBARU delivered newly developed UAVs to ATLA (Acquisition, Technology & Logistic Agency of the Department of Defense) aiming to further research and development of CCA system for Japan’s Air Force by 2027.)

SUBARUはこれまで実験機の設計・製造と試験飛行を担当してきたが、納入後も引き続き飛行試験に関わる業務を行い、防衛装備庁の研究を支援し、[CCA]の早期実用化を図る。今回防衛装備庁とSUBARUが発表したのは、以上の簡単な説明と試験飛行の動画だけである。

実験機の開発製造は「株式会社SUBARU」の「航空宇宙カンパニー」が担当している。栃木県宇都宮市に「管理棟」を持ち、宇都宮製作所および愛知県半田工場で航空機関連事業を行っている。

「航空宇宙カンパニー」の主な製品は、「SUBARU BELL 412EPXヘリコプター」、「UH-2多用途ヘリコプター」、「初等練習機T-5、T-7」、「哨戒機P-1および輸送機C-2の主翼」、「ボーイング787、777、777Xの中央翼」、「各種無人機システム」である。「半田工場」での中央翼生産は、累計で3,000台を超えている。

防衛装備庁は、岐阜県各務原にある航空自衛隊岐阜基地に岐阜試験場を設置しており、ここで航空機および航空機用機器の試験を行っている。今回発表の無人機飛行試験は別の飛行場で行われたが、今後の試験は設備の整った岐阜試験場で行われることになろう。

図2:(SUBAEU)離陸準備中の2機の実験機。1機目が離陸、続いて2機目が離陸し編隊飛行を実施して着陸した。スペックは未公表だが、写真で翼幅は2 m程度、双発ターボファンと分かる。

図3:(SUBAEU)1機目がこれから離陸するところ。

図4:(SUBAEU)2機目離陸を後方から撮影。

図5:(SUBAEU)1機目の離陸。

図6:(SUBAEU)2機で編隊飛行する様子。

図7:(SUBAEU)1機目の着陸。続いて2機目も着陸した。

図8:(防衛装備庁/ATLA)今回SUBARUが納入した無人実験機は8機。

図9:(国土交通省国土地理院2008年)各務原(かがみがはら)飛行場。運用は航空自衛隊/陸上自衛隊。滑走路は10/28(北は左側)で長さ2,710 m 幅46 m。滑走路北側に並行して不整地滑走区域を設けている。敷地内に防衛装備庁岐阜試験場、川崎重工岐阜工場、航空自衛隊飛行開発実験団、第4高射群、自衛隊岐阜病院などがある。開設は1917年(大正6年)で日本最古の飛行場。

「防衛装備庁シンポジウム2024」

遠隔操作型支援機技術に関する取組みは、昨年11月に開催された「防衛装備庁シンポジウム2024」で防衛装備庁が発表した。防衛装備庁・第1開発室室長・1等陸佐 池田通隆氏が「戦闘支援無人機へのAI実装に向けての取り組み」と題して講演した。概要は次の通り。

図10:(「防衛装備庁シンポジウム2024」)来襲する敵戦闘機、艦艇、潜水艦を迎撃する友軍(青色)の無人部隊。この中で「戦闘支援無人機(UAV)」(文中ではCCAと記述しているが同義語)は有人戦闘機の前面に展開して敵戦闘機と交戦するのが任務。

図11:(「防衛装備庁シンポジウム2024」)「戦闘支援無人機(UAV)」は搭載センサーの情報、有人戦闘機の指示、地上友軍のデータ、等をデータリンクで統合・自律戦闘をする。

図12:(「防衛装備庁シンポジウム2024」)データリンクでの情報の流れ。

図13:(「防衛装備庁シンポジウム2024」)「戦闘支援無人機(UAV)」の開発スケジュール。初飛行予定はFY2025(令和)第三四半期となっているが、今回発表のように7月初旬に実施済み。予定より先行している。

図14:(「防衛装備庁シンポジウム2024」)「戦闘支援無人機(UAV)」実験機はモジュール構造で、戦闘機型と偵察型でエンジン・胴体等は共通にして、偵察型では航続距離を伸ばすよう細長い翼に付け替え、センサーを高性能な合成開口レーダー(SAR= Synthetic Aperture Radar)に変更する。

米空軍のCCA開発状況

米国ではAI実装の研究開発に有人戦闘機を使い、AIシステムを搭載し試験をしている。ロッキードマーチン(Lockheed Martin)社の研究部門「スカンク・ワークス(Skunk Works)が、米空軍「テストパイロット・スクール」(Edwards AFB, Calif.)で機体の改造業務を担当している「カルスパン・コープ(Calspan Corp.)」と共同で開発した「X-62A VISTA = Variable In-Flight Simulation Test Aircraft(可変飛行シミュレーション試験機の意)」がそれだ。

「X-62A VISTA」は「F-16」戦闘機をベースに改造、2021年6月に完成した。AIを組み込んであるが、F-16戦闘機だけでなく他機種の性能/飛行特性を容易に組み込めるオープン・アーキテクチャーになっているのが特徴。すなわち基本の機体(この場合はF-16)の自動操縦システムはそのまま使い、それにAI自動操縦ソフトを搭載・使用するやり方である。

2025年3月に空軍がCCA (collaborative combat aircraft)評価のため2年間で100機試作する対象としてジェネラル・アトミックス(General Atomics)製「YTQ-42A」、アンドリル(Anduril)製「YFQ-44A」の2機種を選定している。これに「X-62A」で開発されたAI自律操縦ソフトが寄与することになる。

米空軍長官フランク・ケンドール(USAF Secretary Flank Kendall)氏は2024年5月3日、エドワーズ空軍基地のテストパイロット・スクールを訪問、「X-62A VISTA」の前席に搭乗、後席にはセーフテイ・パイロットが座り、敵戦闘機に模した他機と模擬空戦を行い、AIによる自律飛行や最先端機能の試験を体験した。

図15:(Lockheed Martin.com. )2024年-5月3 日、エドワーズ空軍基地空域で、ケンドール米空軍長官はAI操縦の「X-62A VISTA」に搭乗、無人操縦を体験した。

図16:(U.S. Air Force)X-62A VISTAに乗り込むケンドール長官とセーフテイ・パイロット。機体には”USAF Test Pilot School”の文字が描かれている。

SUBARUは、1917年に群馬県で創設された飛行機研究所(のちの中島飛行機)の後継企業で、戦後1953年に富士重工業として再建、自動車と航空機を事業の中心とした。中島飛行機は、第二次大戦中「1式戦闘機隼」、「四式戦闘機疾風」、、「100式中爆撃機呑龍」、「97式艦上攻撃機」、「艦上攻撃機天山」などを製造した。2017年に創立から100年経過した機会に、社名を「SUBARU」に変更した。既述したが「航空宇宙カンパニー」は「SUBARU」航空宇宙ビジネスを担当している部門である。

終わりに

我が国の遠隔操作型無人支援機 (CCA=Collaborative Combat Aircraft)の研究は米国に比べ周回遅れの感があるが、防衛装備庁/SUBARUの努力でAI技術を基盤とした自律飛行と遠隔操作技術の実用化が近づいている。数日前に発表された「令和7年版防衛白書」にも技術開発の重点項目として次期戦闘機GCAPと共に戦闘する無人機(CCA)の実現が特記してある。早急な実用化を期待したい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • SUBARUニュース 2025年7月9日 ”SUBARU 防衛装備庁へ遠隔操作型支援機技術の研究における実験機を納入“
  • 防衛装備庁 航空装備研究所 2025年7月9日 “遠隔操作型支援機技術の研究について”
  • Aviation Wire 2025年7月10日 ”SUBARU、無人支援機の実験機納入 有人機と連携、防衛装備庁が研究by Tadayuki YOSHIKAWA”
  • 「防衛装備庁シンポジウム2024」2024-11月開催 ”戦闘支援無人機へのAI実装に向けての取り組み” by 第1開発室室長 1等陸佐 池田通隆
  • Lockheed Martin.com. “X-62A VISTA AI Pathfinder”
  • Air force News May 3, 2024 “SecAF Kendall experiences VISTA of future flight test at Edwards AFB” by Gary Hatch and Mary Kozaitis
  • Lockheed Martin.com. 2025-5-3 “U.S. Air Force Secretary Kendall flies in AI-piloted X-62A VISTA”
  • Drone.jp News 2024年4月20日 ”DARPA、AI戦闘機と有人戦闘機の史上初のドッグファイトに成功“