2025年8月6日(令和7年) 松尾芳郎
令和7年7月、我が国および台湾周辺における中露軍の活動は高い水準のまま。中国軍はこれに対し我国および同盟諸国は、警戒を緩めることなく抑止力強化に努めている。
(China’s PLA and Russian Forces military drill around Japan and Taiwan maintain higher level as used tobe in July 2025. Japan and allies are putting defensive move against the both nations. Following are the details of major issues.)
防衛省各幕僚監部、米第7艦隊などが発表した7月における我国周辺の中露両軍の軍事活動および我国と同盟諸国軍の対応は以下の通り。発表日に発表機関の記載がないのは全て「統合幕僚監部」発表の案件である。
- 7月2日発表:
7月2日午前中国軍無人機1機が東シナ海から与那国島―台湾の海峡を通過太平洋に出て台湾東方洋上で反転、同じ経路で戻った。同日午後に別の無人機1機が同じ経路で台湾東方海上を飛行南下して台湾南部会場を通過して中国本土に向かった。
- 7月4日 海上幕僚監部発表
7月3日日本海佐渡島東方の海空域で海上自衛隊と海上保安庁の部隊は、我が国重要施設に侵攻する不審船を想定、これに対抗して追跡、監視、停船命令を出すなどの訓練を行った。参加部隊は;―
海上保安庁;第九管区海上保安本部の巡視船「ひだ」(2000 ton型)、「はくさん」(1000トン型)、「のりくら」(220 ton型)、巡視艇「たつぎり」(23 m型)、固定翼機「MA863」。
海上自衛隊:舞鶴基地所属フリゲート「あがの(FFM-6)」、「あがの」は、「もがみ」型フリゲートの6番艦。満載排水量5,500 ton、長さ133 m、速力30 kts、2024年就役で舞鶴基地に配備された初のフリゲート。.

図1:(海上幕僚監部)日本海で共同訓練中の海自・海保の艦艇。手前大型艦は海自「あがの(FFM-6)」、海保艦艇は左から「のりくら」、「はくさん」、「ひだ」。「あがの」の後ろは巡視艇「たつぎり」。
- 7月7日発表 海上幕僚監部
6月30日〜7月4日の間、海自「インド太平洋派遣(IPD25)部隊は南太平洋の島嶼国「ナウル(Nauru)共和国」のナウル警察海洋部と、立入検査などに関わる共同訓練を実施した。

図2:ナウル共和国の位置とナウル島拡大図。共同訓練はヤレン空港の沖合海上で行われた。
- 7月7日発表;
7月7日昼間中国海軍ジャンカイII級フリゲート(533)が尖閣諸島魚釣島西を通り与那国島―台湾の海峡を南下した。同日夕刻には別のジャンカイII級フリゲート(530)が同じ航路を南下、いずれも台湾東の太平洋上で遊弋、そして同月6日に宮古海峡を通り東シナ海に戻った。

図3:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱) II級フリゲート(054型)は、満載排水量4,000 ton、全長134 m、32セルVLSに対空・対潜ミサイルを搭載する。同型は40隻ほどが就役。写真は「南通(533)」」2018年12月就役。

図4:(統合幕僚監部)写真は「徐州 (530)」2008年1月の就役。
- 7月10日発表・防衛省
7月9日昼前、東シナ海上空で警戒監視に当たっていた航空自衛隊YS-11EB情報収集機に対し、中国軍JH-7戦闘爆撃機が後方から接近、水平距離30 m、高度差60 mで飛行し威圧を試みた。また翌日10日昼前にも警戒監視飛行中の空自YS-11Bに対し中国JH-7が水平距離60 m、高度差30 mまで接近し威圧飛行を行った。このような中国軍機の異常接近飛行は偶発的な衝突を起こす恐れがあり極めて危険。中国側に外交ルートを通じ抗議した。
これまでも東シナ海、南シナ海で情報収集中の米軍機、オーストラリア空軍機に対し異常接近するケースが多くあり、中国軍機の危険な威圧行動は収まる様子はない。。

図5:(防衛省)空自YS-11EB電子情報収集機から撮影した中国軍JH-7戦闘爆撃機。

図6:(Wikipedia) JH-7戦闘爆撃機は西安飛機工業製、海空軍で合計250機ほどが使われている。複座で長さ21 m、翼幅12.8 m、離陸重量28.5 ton、RR製スペイ・ターボファン2基、最大速度マッハ1.7、高速距離1,000 km以上。兵装搭載量は4.5 ton。対艦・対地攻撃が主任務。

図7:(YouTube) 空自YS-11EB電子情報収集機。ELINT機として敵艦艇・潜水艦の電波信号・通信情報を収集するのが任務。現役は3機、数年後にはC-2電子情報収集機に更新される。外見上の特徴は胴体上下に2個ずつあるアンテナ・ドーム。
詳しくはTokyoExpress 2018-05-18 “防衛省、新型電子情報収集機の開発に取り組む“を参照する。
- 7月11日発表:防衛省
7月11日韓国ソウルで、韓国合同参謀議長キム・ミョンス(金明秀)海軍大将、米国統合参謀本部議長ダニエル・ケイン(Daniel Caine)空軍大将、我が自衛隊統合幕僚長吉田圭秀陸将が、第22回日米韓参謀総長等会議 (TriCHOD)を開催した。
席上、3カ国は北朝鮮の不法な核ミサイルの開発計画を非難し、完全な非核化を求めることで一致。また北朝鮮のロシアへの地上部隊の派遣、およびロシアからの軍事技術移転についても非難、引き続き3カ国で協力する事を約束した。
自衛隊制服組トップが韓国を訪問するのは2010年以来15年振りのことで、吉田統合幕僚長は「3カ国の防衛協力がそれぞれの国の政治状況に左右されないよう、制度化を求める」と語った。
次回2026 Tri-CHODは米国で開催される。

図8:(防衛省)7月11日ソウルで行われた日米韓3カ国参謀総長等会議の写真。左から米国統合参謀本部議長ダニエル・ケイン(Daniel Caine)空軍大将、韓国合同参謀議長キム・ミョンス(金明秀)海軍大将、自衛隊統合幕僚長吉田圭秀陸将。
- 7月11日発表
7月7日アラビア海で海自護衛艦「はるさめ(DD-102)」は、EU (スペイン)海軍フリゲート「ナバラ(Navarra-F-85)と海賊対処のための共同訓練を実施した。
「ナバラ/F-85」は「サンタ・マリア」級の5番艦、1994年就役。2002年には「不朽の自由作戦」に参加し、イエメン南東の海上で国旗不掲揚の貨物線に対し威嚇射撃で停船させたことがある。臨検で北朝鮮籍と判り、スカッド・ミサイル15発と付属品を発見、押収した、という実績を持つ。
「サンタ・マリア」級フリゲートは6隻あり、満載排水量4,000 ton、速力29 kts、76 mm単装砲、ハープン巡航ミサイルなどを装備する。
「はるさめ(DD-102)」は、「むらさめ(DD-101)」型9隻の2番艦、1997年就役で、満載排水量6,100 ton、速力30 kts、127 mm単装砲、Mk.41 VLS 16セルに各種ミサイル、90式対艦ミサイル4連装発射筒2基を装備する。

図9:(海上自衛隊)アラビア海西の海域で演習するスペイン海軍フリゲート「ナバラ(Navarra-F-85)」(手前)と海自護衛艦「はるさめ(DD-102)」。
- 7月12日発表
7月11日九州西の東シナ海空域で、日米韓3カ国空軍は、北朝鮮の核弾頭搭載の弾道ミサイル発射訓練、中国軍の第1列島線を超える大規模演習の実施等に対処するため、B-52戦略爆撃機を護衛する訓練を実施した。参加部隊は次の通り。
空自:第8航空団(福岡県築城基地)所属F-2戦闘機2機、第1輸送航空隊所属KC-767空中給油・輸送機1機
米空軍:ミノット空軍基地(Minot Air Force Base, North Dakota )第5爆撃航空団(5th Bomb Wing)所属で現在グアム空軍基地に展開中のB-52H戦略爆撃機2機
韓国空軍:F-15K戦闘機1機、KF-16戦闘機2機、KC-330空中給油機1機、
7月11日は、ソウルで第22回日米韓参謀総長等会議 (TriCHOD)が行われた当日で、この訓練実施でTriCHODの合意事項はいつでも実行出来るとの姿勢を、中露北朝鮮に示した。
戦略爆撃機を中心とする3カ国共同訓練は2025年でこれが3回目、中にはB-1Bランサー(Lancerr)と行った例もある。
B-52Hは高度15,000 mを高速で長距離飛行する爆撃機。通常爆弾・核爆弾あるいは機雷を搭載可能な戦略爆撃機、海軍のための洋上監視能力も高く2機で14万平方マイル(36万平方キロ)を監視できる。自機防御のため電子光学センサー(EO sensor)、前方監視用の赤外線装置と先進目標追跡装置を備えている。パイロットは夜間視認用ゴーグル(NVG=Night vision Boggle)を常時着用して任務に就く。
原型のB-52が戦略爆撃機として1955年に就役してから60年以上経つが、改良を重ね、2050年代まで使う予定になっている。これまでに744機が生産され、その内で「B-52H」は102機。巡航ミサイル20発を搭載でき、砂漠の嵐作戦などで功績を収めた。
翼幅56.4 m、長さ48.5 m、最大離陸重量219.6 ton、搭載量31.5 ton、エンジンはP&W TF33-P-3/103ターボファン推力17,000 lbsを8台装備する。

図10:(USAF Sr. Airman Alyssa Bankston) 第5爆撃航空団・第23遠征爆撃航空団所属のB-52H爆撃機は、7月7日にグアム島アンダーソン空軍基地に到着していた。

図11:(統合幕僚監部)7月11日、東シナ海空域で行われた米戦略爆撃機を中心とする3カ国共同訓練。B-52H爆撃機2機を護衛する日本・韓国の戦闘機。

図12:(統合幕僚監部)3カ国空軍の共同訓練の様子。B-52H爆撃機2機を先頭に手前空自F-2戦闘機と奥に韓国軍戦闘機2機。
- 7月14日発表 海上幕僚監部
7月7日〜11日の間、海自インド太平洋方面派遣(IPD25)部隊は太平洋上の島嶼国家「マーシャル諸島共和国」の海上警察と船舶立入検査および数艇整備等について共同訓練を行った。場所は首都マジュロとその周辺海域。
マーシャル諸島共和国は、29のサンゴ礁と5つの島で構成され、グアム・サイパンの東、ウエーク島の南に位置する。首都マジュロMajuro)のあるマジュロ環礁は64個の島々で構成されている。
南太平洋島嶼国家のうち「マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦、パラオ共和国」などは、かつて日本の統治下にあり当時は「南洋群島」と呼ばれていた。中国の海洋進出政策が激しくなるに伴い、今ではこれらの島嶼国にも中国の手が伸びてきている。これを防ぐため、我が国・同盟諸国は様々な対抗策を行っており、海自の共同訓練もその一つである。

図13:(旅行のとも、ZenTech)マーシャル諸島の位置。
- 7月14日発表 Air & Space Forces magazine
米太平洋空軍は、嘉手納基地に新型のF-15EXイーグルII戦闘機を来年(2026年)春に配備するのに先立ち、7月12日に習熟用として2機を派遣した。
2機のF-15EXは、フロリダ州エグリン空軍基地(Eglin Air Force Base, Fla.,)の第85試験・評価中隊(85th Test & Evaluation Squadron)所属で、嘉手納基地の第18戦闘航空団 (18th Wing)に派遣された。
2022年以降嘉手納基地の戦闘機を、第4世代機F-15E、F-16、第5世代機F-35、F-22などでローテーション配備してきた。空軍は、2026年春までに現在配備中のF-15C/D戦闘機48機を全て退役させ、最新のF-15EXイーグルIIの36機と交代することを決めた。完了すれば嘉手納から400マイル(700 km)西に位置する台湾の防衛力が一段と強化される。
空軍は嘉手納に限らず日本にある基地の近代化も進めている。今年6月から三沢基地に駐留する第35戦闘航空団(35thFighter Wing)のF-16戦闘機36機を、韓国烏山空軍基地に駐留する米第51戦闘航空団へ移転を開始している。これで三沢基地は、来年春までに最新型のF-35戦闘機48機に更新される。烏山空軍基地に配備中のA-10サンダーボルトII対地攻撃機は退役し、三沢からのF-16で更新される。
米海兵隊岩国航空基地には、2025年5月に、第12海兵飛行大隊・第121海兵戦闘攻撃中隊所属のF-35BライトニングII戦闘機がアリゾナ州ユマの基地から到着した。岩国基地には、すでにF-35B飛行隊が2個とローテーション派遣の第214戦闘攻撃中隊が駐留しているので岩国基地のF-35Bは合計4個中隊となる。
「F-15EX」は双発複座の多目的戦闘機。原型のF-15制空戦闘機はマクダネル・ダグラス(現在ボーイング)製で1972年から配備、1,200機が製造、米国、イスラエル、日本等に納入されてきた。その後「F-15E」多目的戦闘機に改良され、1988年から米、サウジアラビア、イスラエル、韓国の空軍に採用され500機ほど生産された。
「F-15EX」は最新のF-15Eとほぼ同様、フライバイワイヤ操縦システム、最新型アビオニクスの搭載、ハードポイントの増設などをした機体で、米空軍が採用、2021年初飛行、2025年発注分を含め104機を調達し、全てを空軍州兵部隊に配備する予定。エンジンはGE製F110-GE-129E推力29,000 lbsを2基搭載。コクピットはACS (Advanced Cockpit System)で10 x 19 inchサイズのタッチパネル・デイスプレイ
、パイロットはBAEシステムス製Lite HUDゴーグルを装着する。レーダーはレイセオン製APG-82(V)1を搭載、ハードポイントは23箇所に増え、10 ton以上のミサイルを搭載できる。胴体側面に左右6ヶ所ずつのコンフォーマル燃料タンクが増設され航続距離が伸ている。
日本航空自衛隊のF-15Jは制空戦闘機として200機ほどがライセンス生産された。そのうち約半数が「F-15JSI」([F-15J改]とも呼ぶ)へ改修を進めている。内容はグラス・コクピット化、APG-82レーダーへの換装、電子戦システムEPAWSSの搭載、などを含み、対地攻撃能力が付加される。エンジンはP&W/IHI製F100-IHI-220E推力15,000 lbsで変わりない。したがって総合性能はF-15Eの初期型に相当する。

図14:(U.S. Air National Guard / Tch. Sgt. Andrew Schumann) ミシガン州セルフリッジ・エアナショナルガード基地(Selfridge Air National Guard Base, Michigan) 上空を飛ぶF-15EX戦闘機。
- 7月16日発表 海上幕僚監部、米第7艦隊
7月11日〜12日の両日、海自潜水艦と米海軍潜水艦は房総沖の太平洋上で、相互運用性の向上のため共同で対潜水艦戦の訓練 (SUBEX=Submarine Exercise 25-1)を行った。
米第7艦隊によると、米海軍から参加した潜水艦は、サンデイゴ基地(San Diego, Calif.)を母港とする第7潜水艦群(CSG7= Submarine Group 7) 所属の「サンタフェ (SSN 763)」である。「サンタフェ」は現在米第7艦隊担当海域に展開する第11潜水艦隊に派遣され任務についている。7月1日横須賀基地に寄港、「SUBEX 25-1に参加、それから7月22日には佐世保基地に立ち寄り補給をしている。第7艦隊担当の範囲は西太平洋、インド洋、アラビア海を含む広大な海域になっている。。
「サンタフェ(SSN 763)」は、ロサンゼルス級原子力潜水艦の52番艦で就役は1994年。満載排水量7,000 ton、長さ110.3 m、最大速力水中31 kts、潜航深度460 m、乗員約130名、Mk. 67533 mm魚雷発射管4基、Mk.48魚雷、ハープン、を発射、またトマホーク発射用のVLS 12基を備える。推進機関は、原子力ギアード・タービン・推力30,000 shp、原子炉はGE製S6G加圧水型1基、蒸気タービン2基で7翅プロペラ1軸を駆動する。
海自潜水艦については発表はないが、写真から「おやしお」型・水中排水量3,500 tonに見える。

図15:(海上幕僚監部)訓練に参加した海自SH-60Kヘリコプターが撮影した海自潜水艦(手前)と米海軍潜水艦「サンタフェ(SSN 763)」。
- 7月16日発表
7月15日午後、中国無人機1機が台湾東方太平洋上から与那国島―台湾の海峡を通過、東シナ海から大陸方面へ飛行した。同日午後Y-9情報収集機1機が東シナ海から宮古海峡を通過、台湾東の太平洋上で旋回飛行を行い、往路と同じ経路で東シナ海に戻った。
Y-9情報収集機は、アントノフ設計局のAn-12旅客機を中国がライセンス生産した「Y-8」を基本に陜西飛機工業が作った「Y-9中型旅客機」がベースの機体。グラスコクピット、エンジンはFW6JCターボプロップ出力5,100 馬力を4基。6翅プロペラを備える。最大離陸重量65 ton、航続距離5,200 km。2010年以降80機以上が製造された。多くの派生型があり、情報収集機には「Y-9JB」、「Y-9DZ」がある。今回飛来したのは「Y-9JB」型と言われる。
「Y-9JB」型は、SIGIT/ELINT型で海軍と空軍が使用中、機首、前部胴体側面、後部胴体側面にアンテナがあるのが外見上の特徴。

図16:(統合幕僚監部)7月15日午前、中国無人機1機の航路と、午後Y-9情報収集機の航路。

図17:(統合幕僚監部)7月15日午後宮古海峡通過し太平洋上、台湾東部海域を飛行したY-9情報収集機。
- 7月17日発表
陸海空自衛隊は、米国が主催するパシフィック・パートナーシップ2025 (Pacific Partnership 2025)に参加して国際緊急援助活動に関わる技量向上を図るとともに、地域内関係国と理解・協力の促進を進める。場所と日時は、パプア・ニューギニア(Papua New Guinea)/7月28日-8月7日、およびパラオ (Palau)/9月22日-10月2日。期間中医療活動、施設の補修や整備、セミナー、文化交流などを行う。自衛隊からの参加は陸上自衛隊東北方面隊、自衛隊中央病院、自衛艦隊、自衛隊横須賀病院、空自中央音楽隊など。

図18:南太平洋の島々。「ニューギニア独立国」はニューギニア島の東半分を占める。「パラオ共和国」は地図上の左側に示す。「パラオ共和国」、「ミクロネシア連邦」、「マーシャル諸島共和国」は、かつて日本の統治下にあった。
- 7月17日 米太平洋空軍(PACAF=U.S. Pacific Air Forces) 発表
米太平洋空軍(U.S. Pacific Air Forces)は、7月6日から10日間インド太平洋地域での戦闘を想定して最大規模の演習「レゾリュート・フォース・パシフイック(Exercise Resolute Force Pacific 2025)」(“太平洋における断固とした軍事行動”の意)を実施、成功裡に終了した。内容は大量の航空機、支援機材、参加兵員を迅速に輸送・展開するというもの。
演習を指揮した太平洋空軍司令官ケビン・シュナイダー大将(Gen. Kevin Schneider)は「空軍の将兵は困難な目標を乗り越え、インド太平洋の各地に決定的な規模の航空戦力を展開するのに成功した」と評価した。
米空軍と日本を含む同盟諸国の空軍は。その後も「空軍組織レベルの演習(DLE= Department Level Exercise)」として太平洋戦域で訓練を続行している。参加しているのは米国・同盟諸国の航空機約400機、人員12,000名で東西5,000 kmに広がる50ヶ所の基地で行われている。

図19:(U.S. Pacific Air Forces) 7月14日、「空軍組織レベルの演習(DLE= Department Level Exercise)」に参加、横田基地に進出した第374遠征航空団(374th Air Expeditionary Wing)・第36航空輸送隊(36th Airlift Sqd)所属のC-130J輸送機群。
- 6月27日発表
7月13日〜8月4日の間、陸海空3自衛隊は米豪主催で開催のタリスマン・セイバー25 (Talisman Sabre 25)に参加した。隔年実施の演習で今回は11回目、参加したのは日米豪など19カ国から約3万5千人。インド太平洋で軍事的行動を活発化させている中国を牽制する狙いがある。演習は、オーストラリア北部準州からクイーンズランド州にかけて、ダーウインからブリスベンまでの広大な地域と海域で行われた。
我国からの参加部隊は人員1,500名。海自からヘリ空母「いせ」、護衛艦「すずなみ」および輸送艦「おおすみ」など。陸自からは、水陸機動団を中心として第2高射特科団・第7地対艦ミサイル連隊(宮古島・石垣島駐屯)などを派遣、FH70 155 mm榴弾砲、03式地対空ミサイル、12式地対艦ミサイルの実弾射撃を行った。
イギリスのジョン・ヒーリー国防相は「前例のない大規模の演習だ。共通の課題/増大著しい中国の脅威、に対処するため同盟国の協力の重要性が増している証拠を示すもの」と語っている。
中国軍は期間中情報収集艦を演習海域に派遣、通信傍受など情報収集を行った。

図20:(海上自衛隊掃海隊群)タリスマン・セイバー25で編隊を組んで航行する各国軍の艦艇、日、米、豪、英、韓国、ニュージランド、フランスの7カ国の艦14隻が艦隊行動をする様子。中心は米海軍の強襲揚陸艦「アメリカ」、周囲には海自の「いせ」、オーストラリア海軍の「キャンベラ」、韓国海軍の「マラド」、海自の「おおすみ」など、いずれも飛行甲板を備える。

図21:((U.K. Navy) 演習には、米空母「ジョージ・ワシントン」と英空母「プリンス・オブ・ウエルズ」も参加している。

図22:(オーストラリア国防省)2025年7月14日、クイーンズランド州ショール・ウオーターベイ演習場で上空を飛行する無人標的機を射撃する陸自「03式中SAM」(能力向上型?)、撃墜に成功した。「03式中SAM」は射程60 km以上と言われる。

図23:(オーストラリア国防省)7月15日、タリスマン・セイバー2025で、クイーンズランド州演習場から、アメリカ陸軍、オーストラリア陸軍、シンガポール陸軍が所有する「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」の実弾射撃。HIMARS発射車両は射程50 km程度の「GMLRS」6発、あるいは長射程の「ATACMS」1発を搭載する。
- 7月22日発表
7月22日午前、中国海軍ドンデイアオ級情報収集艦 (794)は、太平洋から沖縄本島と宮古島の間、宮古海峡を通り東シナ海に入った。
この艦は6月10日大隅海峡を通過して太平洋に進出、同時期に行われていたオーストラリア北東部での「タリスマン・セイバー2025」演習の電子情報収集を行っていた。

図24:(統合幕僚監部)「東調」級情報収集艦。満載排水量6,000 ton、長さ130 m、速力20 kts、艦尾にヘリコプター発着甲板を備える。中央に大型レーダーがあり1000 km範囲の弾道ミサイルや衛星の追跡が可能。艦橋にある高さ46 mの4角錐マストには、HFからX波帯までの無線通信傍受、レーダー波受信など40種以上の各種アンテナがありあらゆる電子信号を傍受できる。「815型」1隻と改良型の「815A型」(6,600 ton) 4隻、「815A-II型」4隻がある。
- 7月24日発表
2025年度第1四半期(4月〜6月)での緊急発進は157回で前年同期とほぼ同じ、対象国は中国が8割、ロシアが2割で、中国機に対するものが著しく多い。
航空自衛隊方面隊別では沖縄を担当する南西航空方面隊が118回で最も多く、ロシア機に対峙する北部航空方面隊の27回が続く。
中国機に対する緊急発進は122回で2013年からほぼ同じ水準にある。ロシア機に対する発進回数は32回で、昨年同期の52回よりかなり減っている(ウクライナ戦線の影響か?)。
期間中、中国海警局艦からのヘリコプターによる尖閣諸島領空の侵犯、中国空母艦載機の大規模発着艦訓練、無人機の頻繁な宮古海峡通過、が目立った。
中国機・ロシア機共に情報収集機に対する緊急発進が多かったのも特異現象と言える。

図25:(統合幕僚監部)2025年度第一四半期(4月〜6月)3ヶ月間の中露軍機に対する空自機緊急発進のパターン。
- 7月24日発表
7月24日早朝中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻(134)、(118)およびフチ級補給艦(886) の3隻が東シナ海から津島の九州側の対馬海峡を北東に進み日本海に向かった。

図26:(統合幕僚監部)写真は「紹興 (134)」2022年就役。ルーヤンIII級(旅洋III)は「052D」型駆逐艦、あるいは「昆明」級駆逐艦と呼ばれる最新型イージス艦。満載排水量7,500 ton、長さ161 m、速力30 kts、ミサイル発射用VLS 32セル型を2基。2014年から就役が始まりバッチ1からバッチ4まで合計29隻が配備されている。さらに8隻の建造を予定。

図27:(統合幕僚監部)写真は「烏魯木斉(ウルムチ)(118)」2018年の就役。

図28:(統合幕僚監部)「903」型補給艦とも呼ぶ。「903」型は満載排水量2,0500 ton、改良型の「903A」型は23,000 ton。長さは178.5 m、速力20 kts。門型ポストが前後に2基ずつあり、前が燃料用、後ろがドライカーゴ用、後部はヘリコプター甲板になっている。写真の「千鳥湖 (886)」は「903」型。「903」型は2隻、「903A」型は7隻が就役中である。
- 7月25日発表
7月22日、第51次派遣海賊対処行動水上部隊として行動中の海自護衛艦「はるさめ (DD-102)」は、アラビア海の西アデン湾東部海域でEU所属ギリシャ海軍フリゲート「プサラ(PSARA / F454)」と海賊対処のための共同戦技訓練を行った。
「プサラ(PSARA / F454)はドイツ・ブロム&フォス(Blohm & Voss)製のMEKO 200型フリゲートで、イドラ級フリゲート3番艦としてギリシャ・ヘレニック造船所で建造された。就役は1998年、満載排水量3,300 ton、速力31 kts、Mk.48 VLS 16セルとハープンSSM4連装発射筒を備える。同型艦は4隻ある。

図29:(海上自衛隊)7月22日アデン湾で海賊対処共同訓練中の「はるさめ(DD-102)」(手前)とギリシャ海軍フリゲート「プサラ(F 454).
- 7月25日発表
7月24日昼、中国海軍「ダカイ級潜水艦救難艦 (841)」が東シナ海を北東進、対馬海峡を抜けて日本海に入った。海自第1航空群と第4航空群の「P-1」哨戒機が追尾、監視した。「ダカイ級潜水艦救難艦」が姿を見せたのはこれが初めてである。
「ダカイ級潜水艦救難艦」は満載排水量13,500 ton、長さ158 m、幅23mの大型艦で今回確認したのは2番艦「西湖(841)」、1番艦「鏡泊湖(830)」は2023年の就役。
既述したが、同日早朝にはルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻とフチ級補給艦が対馬海峡を通過、日本海に入っている。

図30:(統合幕僚監部)7月24日東シナ海から対馬海峡経由で日本海に入った「ダカイ級潜水艦救難艦」・「西湖(841)」。
- 7月29日発表
7月29日午前ロシア海軍哨戒機「IL-38」がシベリアから飛来、日本海上空を旋回飛行し、再び大陸方面に立ち去った。
「IL-38」哨戒機は、イリューシン設計局製の「IL-18」ターボプロップ旅客機が原型で、対潜哨戒機とした機体。尾部には磁気探知用のMADブーム、機首下面に水面監視用レドームが付く。今回現れたのは機首上部に「ノベッラ海上探知システム」を搭載した「Il-38N」型。「ノベッラ海上探知システム」は、熱映像システムでMADやIR光学センサーなどの情報を統合し、半径300 km以内の数中、水上、水中目標を探知する。
「IL-36」は、長さ39.6 m、翼幅37.4 m、全微重量63.5 ton、エンジンはイフチェンコAl-20Mターボプロップ4,250 hp を4基、航続距離9,500 km。

図31:(統合幕僚監部)7月29日日本海上空で旋回飛行を行ったロシア海軍哨戒機「IL-38N」。航空自衛隊戦闘機が撮影。

図32;(統合幕僚監部)7月29日、日本海上で旋回飛行をしたロシア海軍哨戒機「IL-38N」の航跡。
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