2025-10-16 (令和7年) 松尾芳郎
2025年10月13日午後6時23分(CT/中部標準時)、スペースXスターシップはテキサス州宇宙基地から打ち上げられた。11回目の打上げで2代目のスターシップとしては最後のフライトになる。試験飛行の主な目的は全て達成され、成果は次の世代のスターシップ、スーパーヘビーに受け継がれる。
(On October 13, 2025, at 6:23 p.m. CT, Starship lifted off from Starbase, Texas as its eleventh flight test. This was final flight of the second generation Starship and first generation Super Heavy Booster, as the final launch from the current configuration of Pad 1. Every major objective of the flight test was achieved providing valuable data for the next generation Starship and Super Heavy.)

図1:(SpaceX)10月13日夕刻、テキサス州宇宙基地から11回目の試験飛行として出発、予定した全ミッションを完了して、スターシップはインド洋、ブースターはメキシコ湾、それぞれの予定点に軟着水、帰還した。
スターシップ11回目の試験飛行は、スーパーヘビー・ブースター「15号」とスターシップ「38号」の組合わせで行われた。
ブースターとシップには、それぞれ33台と6台の「ラプター(Raptor)エンジンを搭載し、いずれも再使用可能なように作られている。
今回使われたブースター「15号」は、2025年3月6日のスターシップ8回目の試験飛行で使われたもの。この時はシップ分離は正常で、ブースターはローンチパッドに帰還、整備後再使用された。しかしシップは分離後飛行不能となり失敗した。
ブースターはスターシップを載せて、今回を含め2023年4月から11回発射され、6回成功し、5回失敗している。改良が加えられ、バージョン1 (V1)から今回の15号の(V2)となり、次回からは大型の(V3)になる。
スターシップは、2019年4月から(V1)モデルで単独試験を7回実施、その後(V2)をブースターに搭載して試験してきた。今回は38号機で(V2)での飛行の最後となり次回からは本格的宇宙船(V3)になる。
スターシップ11回目の試験飛行の概要は次の通り。
- スーパーヘビー・ブースターのラプター・エンジン33台の噴射でメキシコ湾上空に向けて上昇、2分37秒後、殆どのエンジン停止(MECO=most engine cutoff)。2分39秒後、スターシップ・エンジン6台が始動(hot-staging maneuver)、ブースターから分離して宇宙へ上昇を開始した。
- スターシップを分離したブースターは2分49秒後、帰還に向けエンジン再着火(boost back burn)して降下を開始、着水予定点に向かい、エンジン13台の出力を上げる予定だったが1台が不作動、12台の高出力運転で前回と同じ降下姿勢を保ちながら湾上の予定点に接近、精緻なエンジン出力調整でホバリングをし、6分36秒後、着水直前に全エンジンを停止し計画通り軟着水に成功した。このプログラムは次世代ブースターに搭載予定のソフトで、今回は実証試験に成功した。
- ブースターから分離し上昇を続けるスターシップは、予定通りの速度で軌道に乗り8分58秒後に全エンジンを停止。18分28分後軌道上で模擬スターリンク衛星8枚の射出を開始、25分33秒後に全てを予定軌道に乗せ成功した。37分49秒後、エンジン1台の3回作動・停止を繰返し飛行継続に成功した。宇宙空間では精密な軌道修正操作が欠かせない(他の宇宙機/衛星と接近・ドッキングが必要なため)。今回、軌道修正に必要な精緻なエンジン作動/停止に成功したことで将来の宇宙飛行の確実性が立証できた。
- 47分43分後スターシップは帰還を開始。大気圏再突入時に遭遇する耐熱シールドに関する多くのデータを取得できた。再突入時にはシップの温度が耐熱限界近くになるよう姿勢を操作して耐熱性能を試験した。将来、スターベースに帰還する最後の段階でスターシップは姿勢を大きく変える必要がある。これを模して、最終段階では4枚のフラップを操作しながらロケットを噴射(3台から2台へ)して降下、1時間3分30秒後に亜音速に減速、正確な姿勢制御、着地出力の調整をして1時間6分25秒後に予定点への軟着水に成功した。
- 次世代型スターシップとスーパーヘビーは、現在数台が組立て段階にあり、試験飛行の準備に入っている。次の試験はスターシップ初の地球周回・宇宙軌道飛行になる。地球周回軌道飛行、月、火星、その先を目指す。宇宙飛行に必要な装置類を搭載し、燃料移送・給油をし、スターベース帰還後短時間で再使用可能な機体にする。

図2:(SpaceX)スターシップ11回目試験飛行の飛行経路を示す。

図3:(SpaceX/Supercluster, by Jenny Hautmann) テキサス州ボカチカのスターベースで、2023年4月発射を待つ「スーパーへビー・ブースター7号機とスターシップ24号機(いずれもV2型)。この飛行は失敗に終わったが、今回の11回目試験飛行と同じ構成なので掲載する。
スターシップの構成
ブースターとスターシップは2段で、打上げ時総質量は4,400 ton、全長123.1 m、直径9m、軌道投入能力は、低地球周回、火星周回、月周回、いずれの場合も軌道上でタンカーとドッキングし燃料補給をするので100 ton以上になる。
次回は2026年スペースポートの第2発射台から打上げる。2026年にはブースター/シップ共に(V3)バージョンで2回打上げを予定、続けてバージョン未定だが同年中に5回追加を予定している。
ブースター/シップ・(V3)は、軌道への投入荷重100 ton、ブースター離昇推力8,240 ton、シップ推力1,600 ton、ブースター高さ72,3 m、シップ高さ52,1 m、全長124.4 m、に大型化する。続く(v4)ではペイロードが200 ton2倍になり大型化が進む。
ブースター/33台、シップ/6台,合計39台搭載のRaptorエンジンも改良が続き「ラプター1」、「ラプター2」、最新は「ラプター3」となり、地上推力はそれぞれ185 ton、258 ton、280 tonにそれぞれ向上している。
ラプター・エンジン
- ブースターには底部に33台のラプター・エンジンが装着されている。外周の20台は固定式で再着火できない。内側の13台には電動式ジンバル・アクチュエーター(gimbal actuators)付きで降下時と着地時に再着火を繰り返し、ブースターの降下速度と姿勢を制御する。
ラプター・エンジンについては「TokyoEpress 2022-02-20 ”スペースX、スターシップ・スーパーヘビーの打上げ近づく“」の7〜11ページに記述したので参照されたい。

図4:(SpaceX)ブースターのラプター・エンジン取付外観。外周20台のエンジンは固定式で重量軽減のため発射台の装置で点火され、停止・再着火はできない。

図5:(SpaceX) 離昇開始したブースターのラプター・エンジン。内側の13台は速度・姿勢制御のため推力偏向ができ、電動式ジンバル・アクチュエーターが付いている。
- スターシップは6台のラプターを装備、3台は海面上(sea level)エンジン・3台は真空用(RVacs)エンジン。海面上エンジン3台には電動式ジンバル・アクチュエーターが付いていて着地時に再着火して速度と姿勢制御をする。スターシップ(V4)では真空用エンジンが3台追加される予定。

図6:(SpaceX)スターシップ側のラプター・エンジン取り付け状況。外側3台が海面上エンジン、内側3台は真空用エンジン。
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終わりに
10月13日(米中部標準時)夕刻、打ち上げに成功したスターシップ11回目が完全な成功裡に終り、イーロン・マスクCEOはテスラのXで次のコメントを発表した。
『スターシップ11回目の飛行試験成功にも関わらず、大半のメデイアは報道しなった。これはメデイアの報道が「負の選択/ネガテイブ・バイアス(negative bias)」傾向なことを示しており、自動車の「テスラ」の場合と同様、その偏向的な姿勢に留意する必要がある。
今回の飛行は、模擬スターリンク衛星の展開、大気圏再突入に際しては新しい耐熱タイルの試験を行って、オーストラリア西方のインド洋上に着水した。NASA長官のショーン・ダフイ(Sean Duffy)氏はXで「このミッションは月の南極にアメリカ人を着陸させるための大きな一歩」と評価した。
2026年中には2機のスターシップで空中給油を予定している。今後の長期ミッションに不可欠な改良を盛り込んだ新型スターシップを打上げる。軌道上給油には、ドッキング・アダプターなどのハードの改善が含まれる。軌道上給油は、2機が結合し数百トンの極超低温の燃料「液体メタン(CH4)沸点沸点-162 ℃」と「液体酸素(LOX)沸点/-183 ℃」を移送する複雑なプロセスになる。
「テスラ」と[SpaceX]は技術・経営面で関連している。両社は共に株式非公開企業だが[テスラ]への投資が[SpaceX]に繋がっていることを忘れないで欲しい。』
来年2026年の「スターシップ」打上げ、宇宙での給油に注目しよう。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- SpaceX October 13, 2025 “Starship’s Eleventh Flight test”
- Tesla X
- Wikipedia “Starship”
TokyoExpress 2024-10-23 “スターシップ・ブースター打上げ後再び発射台に戻すのに成功“
TokyoEpress 2022-02-20 ”スペースX、スターシップスーパーヘビーの打上げ近づく“