2025-10-22(令和7年)松尾芳郎
米国最大のリージョナル航空「スカイウエスト航空」と「デルタ航空」はオランダのスタートアップ「マエブ(MAEVE)」が開発中の「MJ500」リージョナル旅客機の支援を発表した。
(SkyWest, largest regional carrier in U.S, along with Delta Airlines, announced to support MAEVE MJ500 Regional airliner program.)

図1:(MAEVE Aerospace)マエブ [MJ 500]リージョナル機の完成予想図。スカイウエスト航空がマエブに投資をし、多数の[MJ 500]の優先購入権を取得する協約を締結した。これで[MJ 500]の生産は確実になった。
- スカイウエスト・マエブの新型リージョナル機開発で協約締結 (2025-6-17発表)
スカイウエストはボンバルデイア(Bombardier)製CRJ系列機を約250機保有しているが、すでに生産が終了し平均20年以上に渡り使用中。それに加えてエンブラエル(Embraer) 175を約260機を使っている。2025年6月17日同社は長期的な経営戦略として、オランダ/ドイツのスタートアップ企業「マエブ(MAEVE Aerospace)」に投資し、同社が開発中のハイブリッド電動旅客機「MJ500」の優先購入権を取得する協約を締結した。
スカイウエストは、地方の中小都市を結ぶ路線を運航しており、その経験から需要は拡大を続けると見ている。そして同じことがインドや中国などでも起きると予測する。スカイウエストは、機体のサイズ、搭載エンジンの技術面、などでマエブに助言し、協力をする。
マエブの社長兼CEOチップ・チャイルド(Chip Childs)氏は、「リージョナル航空最大手のスカイウエスト航空がマエブに投資を決め、我々の最新型リージョナル機の実現へ大きく道を開いてくれた」と述べた。
MHI RJ社(三菱重工子会社)はマエブのリージョナル・ジェット開発に協力しているが、副社長ロス・ミッチェル(Ross Mitchel)氏は「スカイウエストがマエブに全面支援を決めた事でハイブリッド電動リージョナル機は大きく前進した、実現に向けて共に協力を進めたい」と語った。
- デルタ航空、マエブのハイブリッド・リージョナル機開発に協力(2025-9-17発表)
デルタ航空は、マエブのハイブリッド電動リージョナル機開発に協力を約束した。マエブの新型機は現用機に比べ燃費、エミッションは40 %低減する。マエブ計画に参画することで、デルタが進めている低燃費航空機への転換がさらに進む。デルタは2025年3月5日にJetZero製、翼胴一体型(BWB=Blended Wing-Body)輸送機[ Z4]開発を支援する協定をJetZero社と締結し2027年の初飛行を目指している。デルタは[Z4]を主要路線に投入される予定だ。
- JALとJALエンジニアリング(JALEC)、マエブの次世代航空機開発に協力(2025-6-17発表)
J2025年6月17日、JALとJALエンジニアリング(JALEC)は、マエブ(MAEVE Aerospace)が開発するハイブリッド電動オープンローター・エンジン付き旅客機[MJ500]の開発に協力する協定に署名した。詳しくは「TokyoExpress 2025-6-29 “JAL、マエブ社オープン・ローター付きリージョナル機開発に協力」を参照されたい。
- MHI RJ社(三菱重工の子会社)、マエブと次世代航空機開発で協力(2024-11-14発表)
2024年11月14日、MHI RJ社は、マエブが開発をる次世代リージョナル機80席級の[M80]の開発案に協力する協定を結んだ。しかし後日[M80]開発は中止となり、変わって改良・大型化した[MJ500]の開発が進んでいる。
MHI RJ社は、リージョナル機業界を支援する企業で、運航・整備・エンジニアリング、機体の改修、技術マニュアルの発行から機体の販売まで、広い範囲のサポートをするのがが業務である。
これまでリージョナル機業界で最も成功したのはボンバルデイア(Bombardier)の [CRJ]系列機である。2020年6月1日に三菱重工がボンバルデイアからCRJ系列機に関わるプログラム全てを買取り、この担当部門としてMHI RJが発足した。この経緯でマエブのMJ 500開発に、機体、関連システム、整備、アフターサービス、等で深く関わっている。
スカイウエスト航空(SkyWest Airlines)
「スカイウエスト航空」は1972年創立のリージョナル・エアラインで、本社はユタ州セント・ジョージ(St. George, Utah)。定期路線の傍ら大手航空会社4社のリージョナル路線を運営してる。アラスカ航空には「アラスカ・スカイウエスト(Alaska SkyWest)」、アメリカン航空には「アメリカン・イーグル(American Eagle)」、デルタ航空には「デルタ・コネクション(Delta Connection)」、ユナイテッド航空には「ユナイテッド・エクスプレス(United Express)」、の名称でそれぞれのリージョナル路線を運航している。北米中米の257の都市を結び、2024年には4,200万人以上の乗客を輸送している。リージョナル航空では最大の約500機を保有、毎日平均2.190便を運航している。
保有機材は、ボンバルデイア(Bombardier) CRJ200/80機、CRJ700/121機(CRJ550を含む)、CRJ900/36機、およびエンブラエル(Embraer) E175/265機、で合計502機。しかし他社へのリース、地上係留、部品取り等のため機数は絶えず変わっている。
- マエブ[MJ 500]の概要
最大離陸重量 34 ton、最大ペイロード 9.7 ton、航続距離は3クラス乗客76人の場合2,685 km、2クラス乗客90人の場合は1,759 km、巡航速度はマッハ0.78、飛行高度は最高の場合37,000 ft。エンジンは後述のハイブリッド電動ターボプロップでスイール・リカバリー・ベーン付きを2台装備する。


図2:(MAEVE Aerospace)MJ 500の側面と正面。次図に示すCRJ700と比べ全体は似ているが、胴体直径が太く、翼幅が伸びている。

図3:(Wikipedia) デルタ航空仕様(デルタ・コネクションが運航)のボンバルデイアCRJ 700の側面図。CRJ700は最大78席、全長32.3m、翼幅23.2m、胴体直径は2.69 mで客席は4列である。

図4:(MAEVE Aerospace)マエブMJ 500の座席配置図。100席全エコノミー仕様と3クラス76席仕様を示す。胴体直径はCRJ系列機より大きくなる。

図5:(MAEVE Aerospace)MJ500と現用の70-100席級のリージョナル機(CRJを指す)との座席あたりの運航コストの比較。
尾部に搭載するハイブリッド電動エンジン
[MJ500]はエンジンを尾部に搭載し、客室騒音を低減して快適性を向上する。尾部搭載で新たに「スイール・リカバリー・ベーン (SRV=Swirl Recovery Vane)」と呼ぶシステムを取り付ける。
エンジンの回転力でプロペラが回り推力を出すが、その際推力にならない回転方向の流れが生じる。プロペラの下流に迎角10度くらいの固定ベーンを置き、この旋回流れを軸流に変えて推力にし、推進効率を数%程度改善する。最適解を得るには、プロペラの形や枚数およびベーンの形や枚数、それにプロペラとベーンの間隔を調整する必要がある。RTX/MAEVEが公表した図から、プロペラは後退翼付きの12翅、スイール・リカバリー・ベーン(SRV)は直線翼で10枚と判る。

図6:(MAEVE Aerospace)MJ 500のハイブリッド電動エンジンの外観。電動モーター付きPW127XTエンジンでプロペラを駆動、その後ろにスイール・リカバリー・ベーン(Swirl Recovery Vane)10枚を取付ける。

図7:(MAEVE Aerospace)MJ 500の尾部。
P&WC、[PW127XT]を基にハイブリッド電動エンジンを開発
EUの「クリーン・アビエーション(Clean Aviation)」プログラムに[ PHARES] / Powerplant Hybrid Application Regional Segment(地域航空用ハイブリッド・エンジン開発)の項目がある。これにプラット&ホイットニーのカナダ子会社「P&WC」がコリンズ・エアロスペース、ATR、エアバス、その他の研究機関と共に選ばれた。
P&WCは、リージョナル機の燃料効率を20 %改善することを目標にハイブリッド電動エンジン・システムを設計・製作する。生産が始まっている[PW127XT]エンジンを基本にして、コリンズが開発する250 kW電動モーターを組込みプロペラ・ギヤボックスを介して、プロペラを回す仕組み。プロペラは同じRTXの傘下企業コリンズが開発する先進システムで燃費を改善し、騒音を減らる。

図8:(RTX) EUの[PHARES]計画に対応するP&WC 「PW127XT」改良のハイブリッド電動エンジン。左の「青色」はプロペラ駆動用の減速ギヤボックス。これに「赤色」コリンズ製250 kW電動モーターを取付け発電する。後ろの四角い箱はコントローラー・パックで、バッテリーなどを内蔵している。
[P&WC PW127XT]は、以前PT7と呼ばれた「PW100」系列の最新型エンジンで、珍しい3軸構造である。[PW100]には多くの型式があり1,800~5,000軸馬力の範囲をカバー、リージョナル機の9割近くに採用されている。
低圧系(LP)は遠心インペラー1段をLPタービン1段で駆動する。高圧系(HP)は逆方向回転で遠心インペラー2段をHPタービン1段で駆動する。プロペラ駆動は、HPシャフトとLPシャフトの中を通す3本目のシャフトで行う。フリー(出力)タービン2段で第3のシャフト(プロペラ軸)を回し、減速ギヤを経由してプロペラを駆動する。減速ギヤボックス2段で[ 15.7~17.16]減速比。

図9:(P&WC) PW100系列の基本構成。3軸構造で、コリンズ製ハイブリッド電動モーターは減速ギヤボックスの後面に付く。

図10:(Wikipedia) P&WC 製「PW127XT-M」ターボプロップ。左からプロペラ取付け軸、ギヤボックス(かなり大きい)コンプレッサー周りには補機類、燃焼室、タービン、排気口の順。
終わりに
マエブ・エアロスペース社は、ヨーロッパで革新的かつ経済的な航空機の製作を目指している企業、2021の創業でオランダとドイツに拠点がある。航空機設計に関し、柔軟な考え方と活力を持つ起業家精神のある人々で構成されている。マエブは、地方の中小都市で生活する人々の利便性を向上するため、低価格・低公害で飛ぶ50-100席級の革新的航空機を世に送り出すのが目標。MHI RJの協力を得てスタート、次いでJAL/JALECの支援を獲る。それからスカイウエストから大型投資と大量(250機)の優先予約権に関わる協定を結んだ。また、スカイウエストに地域路線を委託するデルタ航空と包括的な支援の協定を締結した。これでマエブ開発のMJ 500リージョナル機の展望は確実になった。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次のとおり。
- Aviation Week Sept. 29-Oct. 12, 2025 “Regional Airline plan fleet for the future” by Christine Boynton and Jens Flottau
- SkyWest Home “About Facts”
- Wikipedia “SkyWest Airlines”
- Maeve News Sept. 17, 2025 “Delta partners with Maeve Aerospace to advance hybrid regional aircraft”
- Maeve News June 17, 2025 “SkyWest sighs Stratgic Investment Agreement woth Maeve Aerospace
- Maeve News June 17, 2025 “JAL and JALEC sigh MOU with Maeve on Next Sustainable Aircraft Development”
- RTX Home News Sept. 9, 2025 “RTX’s Pratt & Whitney Canada selected by Clean Aviation to lead PHARES hybrid-electric propulsion consortium”
- Aviation Week June 17, 2025 “ATR and P&W Canada Partner on Future Engine Technologies” by Victoria Moores
- Wikipedia “Pratt & Whiney Canada PW100”
- TokyoExpress 2025-6-29 “マエブ社オープン・ローター付きリージョナル機開発に協力“