米政府、台湾に最大の武器売却、8項目111億ドルを承認



2025-12-31(令和7年) 松尾芳郎

トランプ政権は12月17日、台湾に対しこれまでで最大となる111億ドル(1.7兆円)規模の武器売却を決定した。この中には最新型のロケット発射機(HIMARS)、自走榴弾砲、および各種ミサイルが含まれている。これに対し中国習近平政権は強く反発している。

(The Trump administration announced a huge arms sale worth $11 billion to Taiwan, includes advanced rocket launcher “HIMARS”, self-propelled howitzers and various of missiles , drones, drawing an angry response from China.)

今回の武器売却は、2025年1月に第2次トランプ政権が発足してから2度目で、これまでの最大規模となる台湾への売却である。議会が承認した後に発動される。111億ドルは、バイデン政権時代に行われた19回の売却・総額84億ドルよりも多い。

図1:(US Army)M142 HINARS(High Mobility Artillery Rocket System/ハイマース)

図2:(US Army photo)M 142 HIMARSランチャーから発射されるM57A1 ATACMS(アタクムス)ミサイル。マッハ3で飛翔し射程は300 km。

図3:(Associated Press)台湾で行われたハイマース(HIMARS)の実弾射撃演習。

これに対し中国政府は「台湾は一体不可分の領土であり、中国の主権を侵害する行為だ、中止を要求する」と声明を出した。トランプ大統領は17日深夜のテレビ番組で、米国が直面する対外政策全般について語ったが、中国vs台湾問題に関しては全く触れなかった。

12月17日発表の台湾への武器売却の主要点は次の8項目;―

  • 「M142 ハイマース」「高機動ロケット砲システム/HIMARS (high-mobility artillery rocket system)」82輌
  • 「M57アタクムス」「陸軍戦術ミサイル・システム/ATACMS (Army Tactical Missile systems)」

・「M31A2多種誘導ロケット弾発射用の共通発射ポッド」「M31A2 GMLRS-U (M31A2 Guided Multiple Launch Rocket System-Unitary pods)」420個、

・「M30A2多種誘導ロケット弾システム弾頭の変更用発射ポッド」「M30A2 GMLRS-AW (Guided Multiple Launch Rocket System-Unitary pods)」447個

これらと「M142 ハイマース」を合計して40億5000万ドル

2020年10月米国務省はM 57 ATACMSを64輌を台湾に売却を承認、昨年から引き渡しが始まっている。

  • 「M 109A7自走榴弾砲」「M 109A7 Self-propelled Howitzer system」60輌、「M992A3弾薬輸送車両」[M992A3Carrier Ammunition Tracked Vehicles(CAT)] 60輌、「M88A2回収車両」「M88A2 Recovery Vehicle(RV)」13輌と関連装備で合計40億ドル
  • 各種「ドローン」 10億ドル
  • 軍用ソフト (military software) 10億ドル
  • 対戦車ミサイル「ジャベリン (Javelin)」 1,050発、および 「TOW」ミサイル 7億ドル以上
  • ヘリコプター補用部品費 9,600万ドル
  • 長射程巡航ミサイル「ハープーン (Harpoon)」近代化改修費 9,100万ドル

以上8項目で合計111億5,000万ドルになる。

米国務省は、「今回の武器売却で受取側(台湾を指す)軍の近代化が促進され、防衛力の信頼性が向上する、さらに軍事力の均衡に役立ち地域の経済発展に寄与する」とその効用を発表した。

以下に主な売却項目について解説する;―

「ハイマース」と「アタクムス」

「M142 ハイマース」は82輌、

M142 HIMARS(High Mobility Artillery Rocket System/ハイマース)は、「多連装ロケット・システム」[ M 270 MLRS (Multiple Launch Rocket Systems)] 重量25 tonの軽量化・改良版。[M 270 MLRS]はキャタピラー付き車輌にロケット弾を乗せる型式だったが[M 142 ハイマース]はトラックと同じ装輪式、搭載ロケット弾数が少なく、重さ16.3 tonと小型化した。これでC-130輸送機で空輸が可能になり迅速に展開できるようになった。

「ハイマース」・「アタクムス」は、米軍内で2005年・1991年から配備され、アフガニスタン、シリア、イラク、ウクライナ戦線で使用されてきた。乗員は3名。米陸軍の中型戦術トラックM1140 5 ton型に次の発射ポッド(ammunition pod)のいずれかを搭載している。すなわち;―

・「Guided Multiple Launch Rocket System rocket(多種誘導ロケット弾系列)」のロケット6発搭載ポッドを装備するのが「M270 MLRS」。射程は100 km前後。(図1)

・超音速/マッハ3・長射程/射程300 km・ミサイル「ATACMS (Army Tactical Missile systems /陸軍戦術ミサイル・システム/アタクムス)」なら1発搭載ポッドを装備するのが「MGM 140 ATACMS(アタクムス)」(図2)。

自走榴弾砲 

図4:(BAE Systems)最新のM109A7キャタピラー付き車両にL52 155mm口径砲を搭載した「M109-L52」自走榴弾砲。

「M109-L52」自走榴弾砲 (M 109-L52 Self-propelled Howitzer system)は、米陸軍とBAE Systems社が共同開発、2023年に発表した。ラインメタル(Rheinmetall)製155 mm 52キャリバー(calibre)砲は砲身の長さが8 m以上、1973年に導入した旧型39キャリバー砲より2 m長い。

「M109-L52」では砲身を長くしたため、「L 39」砲より射程が伸び、155 mm NATO標準弾で24 kmから36 kmへ、ロケット援助弾では30kmから67 kmへ伸びた。「L 52」砲はドイツの「PzH2000」、フランスの「KNDS Caesar」、スエーデンの「BAE Archer」、韓国の「K-9 Thunder」などに使われている。いずれも自動装填装置を備えている。

エンジン、トランスミッション、駆動車輪を含むシャーシーは、米陸軍の歩兵戦闘車「M2 ブラッドレー( M2 Bradley tracked fighting vehicle)と同じものを使っている。これで卓越した走行距離、信頼性、攻撃性能を誇る。

「M109 L52」の前身「M109A6」パラデイン(Paladin)は、バイデン政権時代2021年8月に台湾に40輌を売却済み。

ジャベリンおよび TOW対戦車ミサイル

「FGM 148ジャベリン (Javelin missile system)は1,050発。3億7,500万ドル

「BGM 71 TOW」(Tube-launched, Optically tracked, Wire-guided missile system)(チューブ発射型・光学追跡・有線誘導ミサイル)は1,545発。3億5,300万ドル

「FGM 148ジャベリン」は、歩兵携行式対戦車ミサイル(man portable anti-tank system)で1996年から使われている。赤外線誘導方式で敵戦車の熱源を感知しながら接近(fire and forget)、頭上でHEAT(high explosive anti-tank)炸薬を爆発、破壊する(top-down attack)。発射後の誘導は不要。ウクライナは8,000発以上を導入、対ロシア戦線で使用、効果を上げている。

ランチャーにミサイルを装填した状態で、重さは15.9 kg、ミサイル本体は、長さ1.1 m、直径12.7 cm、射程は4,000 m、炸薬重量は8.4 kg、飛翔高度は頭上攻撃の場合は150 m、直接攻撃では60 m。

これまでに、ミサイル本体は5万発、携行発射筒は12,000個が生産され、米陸軍・海兵隊が2万5千発ほど保有している。ロッキード・マーチン製。

図5:(U.S. Marine Dorp)富士演習場で第3海兵師団第3連隊所属の兵士が「ジャベリン」対戦車ミサイルを発射したところ。ジャベリンは発射後すぐに主翼・尾翼を展張して飛行する。

「BGM 71 TOW」(Tube-launched, Optically tracked, Wire-guided missile system)(チューブ発射型・光学追跡・有線誘導ミサイル)は、1970年から最も広く使われている対戦車ミサイル。携行型、小型車輌搭載型、ヘリコプター搭載型があり、ヒューズ・エアクラフト製で現在はRTX社が製造している。ヘリコプター搭載型は、新しいレーザー誘導のAGM 114 Helifire(ヘリファイヤー)に更新されている。

誘導は、TOWロケット排気を赤外線望遠鏡で追尾する方式。これは[SACLOS] (Semi-automatic command to line /半自動経路指令方式)と言い、兵士は照準望遠鏡に目標を合わせるだけで良く、後は装置の電子装備が航路を計算して飛行中のミサイルに(ワイヤーまたはワイヤー不要のラジオ周波数使用で)指令する方式である。ミサイルの後端に明るい赤外線ランプが点灯するのでこれを望遠鏡の中心に保持するだけ。射程は3,000 mから改良型では3,750 m。

TOWロケットは、長さ1.2 mから1.5 m、直径15 cm、翼幅46 cm、射程は標準型で3,000 m、改良型で3,750 m。これまでに70万発が作られた。「BGM 71 TOW」には「BGM 71A」から「71H」まで8種類があり、対戦車水平攻撃、頭上攻撃、2重炸薬型、バンカー・バスター型などが生産されている。

今回台湾に供与されるのは「TOW 2B」・「BGM 71F-RF」型対戦車ミサイル/1,545発、改良型目標捕捉システム(ITAS)/24基、など約3億5400万ドル、「TOW 2B」「BGM 71F-RF」は、6.14 kg高性能炸薬付きの頭上攻撃型ミサイルで長さ152 cm、有効射程は200 m~4,500 m。

図6:(U.S. Army) 2009年5月9日、アフガニスタン戦線で使われた「BGM 71 TOW」ミサイル。

中国の言い分

これに対し中国外務省は「米中間の了解に反する行為だ。決して許すことはできない。中国の主権、安全、領有権を侵害するもので、地域の安定性を根底から覆す。」と口を極めて非難。続けて「台湾独立派に対する支援は、必ずや大きな反撃に遭うだろう。実行すれば、大きな危険、大損害が待ち受けている」と米国に足し強く抗議した。

図7:(尖閣諸島研究・解説サイト/坂本茂樹 神戸大学名誉教授))2023年8月28日、中国自然資源省が「2023年版標準地図」として公表した。これで中国は、南シナ海に描いた「九段線」に加え台湾を囲った「十段線」を加えて尖閣諸島・台湾を自国領だと主張し始めた。

米国の考え

トランプ大統領は11月初めに行われたCBSとの独占インタビュー(1時間)で次のように述べている;―

「10月末に習近平主席と会談したが、台湾問題は話し合わなかった。彼は台湾に対する武力行使をすれば重大な事になると判っている。CBS記者が「もし中国軍が台湾に侵攻したら、米軍に台湾防衛の命令を下すか?」と聞いたところ、トランプ氏は「答えられない (I can’t give away my secrets)」と言った。

台湾政府は

12月18日、台湾国防省は、米政府による武器売却の決定に謝意を表し、今回の武器導入で、十分な国防能力を維持でき、強固な抑止力を持つ事になるとし、地域の平和と安定性に貢献できる、と発表した。

台湾政府は、2026年度国防予算をGDP(国民総生産)対比で3.3 %に引き上げ、2030年度までに5%以上に増やし武器売却に対応する。さらにGDP比10 %も視野に入れている。米国の国防費対GDP比率は5.5 %程度なので、台湾国防費は将来米国を上回る事になる。(日本は2025年度補正予算で2 %に到達した)

米国は、公式には北京政府を承認し国交を結んでおり、台湾を承認していない。しかし台湾は強固な同盟国であり最大の武器購入先でもある。

台湾の頼清徳総統は今年11月に、2026〜2033年の8年間で400億ドルを投じ、米国からの武器購入に加え、高度な防空システム「台湾ドーム」を構築、主要都市、施設を防衛する、と発表した。

今回の決定は、台湾に対する中国の軍事演習、領海や領空への侵入などの威嚇行為が激しさを増していること、に対する米国政府の強い警戒の表れと言って良い。

中国の威圧姿勢

中国は、地域での軍事行動を激化させ、しばしば空母を中心とした艦隊を日本近海に行動させ台湾/日本に圧力を加えている。高市早苗新内閣が発足してからは、戦略爆撃機編隊を東京方向へ近づけたり、空母打撃群を太平洋に展開したり、など日本に対する威嚇行為が目立つ。そして空自戦闘機に対し射撃レーダーをロックオンするなど暴挙を繰り返している。

12月29日ー31日、台湾周辺で「正義使命25」と名付けた大規模演習を実施、台湾頼清徳政権、米トランプ政権、日本高市政権、に抗議した。中国軍は、K-6爆撃機を含む航空機71機、ミサイル駆逐艦など13隻、海警局軍艦15隻を周辺に展開、実弾射撃を含む演習を行い、一部は台湾の接続水域内に侵入した。また水陸両用強襲揚陸艦4隻が台湾東部から160 n.m. (約300 km)沖合の太平洋上に展開した。

図8:(AFP時事/中国軍東部先駆発表)中国軍が行った実弾射撃演習で目標の至近距離で複数の弾が着弾する様子。命中精度の高さを誇示する像。

これらを総合すると、今回の演習は経済不況に悩む国内向けの宣伝効果を狙った意味合いが強い。2020年8月2日にナンシー・ペロシ(Nancy Patricia Pelosi)米下院議長(民主党)は台湾訪問/蔡英文総統と会談した。この時中国軍は8月4日午後に中国本土が弾道ミサイルを台湾周辺に発射、そのうちの五発が我が国の排他的経済水域内に着弾した。この時の中国軍の対応に比べると今回の演習は、やや抑制的と見える。

図9:(フォーカス台湾/台湾国防部)2025年12月30日台湾周辺での中国軍演習」、ピンク色・紫色/区域は実弾射撃を実施するので立入禁止。

終わりに

米国から台湾への大型武器売却は第1次トランプ政権(2017〜2021)、ジョー・バイデン政権(2021~2025)、第2次トランプ政権(2025~ )の間、絶えず続いてきた。

2019年には最新型戦闘機「F-16 Block 70 (F-16 Vとも呼ぶ)」を66機、合計88億ドル、と「M1A2エイブラムス戦車」を108両の売却を決定。「F-16 Block 70」の引渡しは遅れていたが2025年3月末に初号機が納入され、2026年末までに66機全部の引きわしが完了する。これと並行して台湾空軍が保有する「F-16 Block 20」型機約140機を「Block70」に改修するための部品も2024年6月(バイデン政権時代)に売却を決定している。この改修で台湾空軍は200機を超える最新型「F-16 V」を保有することになる。「ハイマース」と「アタクムス」大量配備で幅110kmの台湾海峡を超えて中国本土の沿岸拠点を攻撃可能になった。

このように台湾政府は中国の武力統一の試みを拒否する体制を固めつつある。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Taiwan Today 2025年12月19日“トランプ政権、台湾に対して合計約111億米ドルの武器売却を承認”
  • ロイター通信2025年12月19日“米、台湾への武器売却を承認、ハイマースなど過去最大の111億ドル規模”
  • 産経新聞2025/12/18 “トランプ政権、台湾に過去最大の武器売却、ウクライナ抗戦で威力のジャベリンやハイマース”
  • 日経新聞2025年12月17日“米、台湾に武器売却1.7兆円、最大規模、中国は反発”
  • BBC News December 19, 2025 “US announce $11 bn weapons sale to Taiwan” by Kelly Ngand and Lan Tang
  • Defense Weekly December 19, 2025 “US arms sale to Taiwan sends strategic signal to China” by Yuchen Li
  • CBS News December 18, 2025 “Trump administration plan to sell Taiwan a records $10 billion in aims draws angry response from China”
  • フォーカス台湾2025年12月30日”中国軍がロケット団27発を発射、台湾周辺での軍事演習、民間機にも影響=台湾国防部“ by 田中宏樹