2026年1月18日(令和26年) 松尾芳郎
インターステラ・テクノロジズ(IST=Interstellar Technologies)は、日本の民間宇宙輸送の先進企業の一つ。観測ロケット「MOMO」で日本の民間企業として単独で初めて宇宙空間到達を達成した。現在は小型衛星打上用のロケット「ZERO」を開発中で、国内初のロケット事業と通信衛星事業の統合ビジネスを目指している。
(Interstellar Technologies (IST) is a space startup vertically developing integrated launch service and satellite solutions . With three successful MOMO flights, its became the first private company to reach space in Japan. The company is now developing orbital launch vehicle ZERO aiming space transportation service.)

図1:(Interstellar Technologies) 超小型人工衛星を打上げるロケット[ZERO]の想像図。[ZERO]は、低地球周回軌道(LEO)にペイロード1,000 kgを投入できる。低価格で衛星を「北海道スペースポート」から打上げる。
世界の小型衛星打上げ需要は急増中
世界の小型衛星打上げ需要は、安全保障面での重要性の高まり、衛星網の構築等を背景に、打上げ数が2016年の141基から2023年には2,860基へと20倍に急増している。2023年には米国では116回打上げ、中国も63回打上げている。しかし我国は僅か3回にとどまる。日本政府では「宇宙戦略基金・基本方針」で、2030年代前半までに基幹ロケット(H-3等を指す)と民間ロケットによる打上げを年間30回程度まで増やし、国内外の需要に対応することを目標にしている。「インターステラ・テクノロジズ[IST]は国家目標に対応して2030年代中に[ZERO]等で年間10基打上げをすべく活動している。[IST]は、文部科学省の[SBIR=Small Business Innovation Research]に認定され、80億7,000万円の交付金を受領した(2025年2月21日)。
インターステラ・テクノロジズ(IST)
インターステラ・テクノロジズ(IST)は北海道広尾郡大樹町に本社があり、代表取締役CEOは稲川貴大氏、2013年に事業開始、低価格で便利な宇宙のインフラを構築することで、多くの企業・組織が容易に利用できる環境の実現を目指すスタートアップ企業である。大樹町本社の他に東京支社、福島支社、帯広支社、室蘭工業大学内の室蘭技術研究所がある。2019〜2021年に大樹町にある北海道スペースポート(HOSPO)の発射場(LC-0)から観測ロケット[MOMO]を7回打ち上げ、内3回が宇宙空間に到達するのに成功した。現在は次世代機となる超小型人工衛星打上げロケット[ZERO]の開発を本格化している。
[IST]は2025年1月7日に、研究・先行開発領域の加速化を任務とするトヨタグループの企業「ウーブン・バイ・トヨタ(Woven by Toyota)」社と70億円の出資・業務提携に関わる契約を締結、トヨタ車体などから要員約30名の参加を得た。トヨタの知見を取り入れ、低コスト、高品質、量産可能なロケット作りを目指している。

図2:(Interstellar Technologies)[ZERO]の組立てにはトヨタをはじめホンダからも先端技術関連の技術者が参加して、低価格・量産化の支援をしている。写真は[ZERO]胴体部分の組立て作業。
イーロン・マスク氏が率いる米国の[SpaceX]社は、数千機に及ぶ通信衛星を地球周回軌道に打上げ[Starlink]と呼ぶインターネット・サービス事業を展開、今や時価総額55兆円の企業に成長した。インターステラ・テクノロジズ[IST]は、[ZERO]ロケットでこの分野に参入、自社開発の超小型衛星網を東アジア上空に展開、[Starlink]網の一部を肩代わりすることを目指している。この衛星は、スマートフォン等の地上端末と直接接続できる高速・大容量の次世代ブロードバンド通信になる。
[ZERO]ロケット初号機は、2026年に北海道スペースポートの発射場[LC-1]が完成すれば速やかに打上げる予定で現在製造が本格化している。エンジンの開発も最終段階にあり、順調に進んでいる。次にやるべきことは[ZERO]を高頻度で打上げること、年間10機を製造する体制を構築することである。
[ZERO] 製造体制強化のため東北支社を開設
2025年12月、福島県南相馬市に東北支社を開設、北海道大樹町本社、東京支社、帯広支社に続く工場機能を備える拠点とする。福島県南相馬市を含む浜通地区は航空関連の製造業が集まっており、何かと好都合。ここに電気・機構関係部品の製造、打上げ射場システムの開発・試験を集約、強化していく予定。2025年12月18日に開所式を行った。敷地面積18,000平方メートル、建築面積2,600平方メートル。

図3:(Interstellar Technologies)福島県南相馬市に開設した東北支社。鉄骨構造地上1階建て。
北海道スペースポート(HOSPO)
[ZERO]を打上げる「北海道スペースポート(HOSPO)は北海道大樹町にあり、東と南に打上げ可能で、ロケット打上げに好適な発射場である。[IST]はこれまでに観測ロケット[MOMO]の高度100 kmの宇宙圏打上げに計3回成功している。発射場の他に、エンジン燃焼試験棟、燃料タンク、酸化剤タンク等を備える。2025年6月12日、[IST]は北海道スペースポート(HOSPO)を所有する北海道大樹町と、人工衛星打上げ用発射場(Launch Complex 1 / LC1)の優先事業者とする基本合意書を締結している。

図4:(Interstellar Technologies)北海道スペースポートの完成予想図。

図5:(Google Map)北海道大樹町の位置。帯広の南60 kmにある。「大樹町多目的航空公園」内の「北海道スペースポート(HOSPO)」は南/東の方向が海に面しておりロケット発射場として好適な場所。
性能や調達性に優れ環境に適した燃料「液化バイオメタン(LMB)」
液化メタン(Liquid Methane)は価格、性能、取扱性、入手性、環境適合性、に優れた燃料でSpaceX [Starship]をはじめ欧米中国のロケットで多く使われ始めている。[IST]は2020年に液化メタンの採用を決めた。
北海道札幌市の「エアウオーター北海道」社は、北海道十勝を中心に酪農家畜の糞尿からでるバイオガスを、液化天然ガス(LNG)の代替となる液化バイオメタン(LBM)に加工、域内で消費をする循環型サプライチェーンの構築に取組んできた。[IST]はこれに着目、燃料に採用した。LBMは、バイオガスの主成分メタンを分離[-160℃]で液化したもので、LNG由来の液化メタンと同様純度 99 % になる。
メタンは二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスで、家畜から排泄される糞尿は地域の負担になっている。[ZERO]の燃料として使われることで地域の環境に貢献する。

図6:(Interstellar Technologies) 帯広市に設置されている「エアウオーター北海道」社の液化天然ガス/液化バイオガス関連のタンク。
[ZERO]の概要

図7:(Interstellar Technologies) [ZERO]は二段ロケット、全長32m、直径2.3 m、全微重量71 ton、[COSMOS]エンジンを一段ステージは9基、二段ステージは1基搭載する。[COSMOS]の推力は130 kNになる。
[ZERO]は小型衛星専用の宇宙輸送サービスを提供する二段式ロケットで、専用打上げからライドシェア(相乗り)まで、小型衛星を行きたい軌道へ、顧客の希望のスケジュールに応じて柔軟な宇宙輸送サービスをする。[ZERO]の価格は量産段階で8億円にしたい、これができれば業界の価格破壊になる。2030年代前半には通信事業に参入したい、としている。
性能は、最大衛星搭載重量は800 kgを低地球周回軌道(LEO)へ傾斜角42.2度で、また衛星重量250 kgを太陽同期静止軌道(SSO)に輸送できる。
大きさは、全長32 m、直径2.3 m、フェアリング高さ5 m、全備重量71 ton。
エンジンは荏原製作所、室蘭工大などと協力して作る[COSMOS]。燃料に液化バイオメタン(LBM)、酸化剤に液体酸素(LOX)を使う。[LBM]は、既述のように家畜糞尿から採取するバイオガスから製造する。
エンジン・サイクルはガス・ジェネレーター・サイクル、燃焼器冷却には再生冷却方式、
2024年8月23日{IST}社は、[ZERO]用エンジン[COSMOS]に使うターボポンプのサブスケール・モデルの最終試験に成功、開発が完了した、と発表した。
ターボポンプ(Turbopump)とは、燃料と酸化剤を高圧で燃焼器に送り込むロケットの「心臓部」である。ターボポンプの組立てはトヨタ自動車北海道が担当している。

図8:(Interstellar Technologies) [COSMOS]エンジンの概要。液体酸素(LOX)と燃料/液体メタン(LBM)をガス・ジェネレーター(CG)で気化・燃焼しターボポンプのタービンに送る。ターボポンプはタービンを挟んで両サイドに液体酸素(LOX)用ポンプと液体メタン(LBM)用ポンプがあり、同軸で高速回転(毎秒数万回転)してLOXとLBMを燃焼器に送り燃焼し推力を発生する。「ガス・ジェネレーター・サイクル」方式である。

図9:(Interstellar Technologies) [COSMOS]エンジンの外観、すべて自社設計で、燃料を噴射するインジェクタは、米国SpaceXも使っている「ピンドル型」を採用、高い効率を達成している。今回の試験は推力60 kNのサブスケール・モデルだったが、これを基に推力130 kN(13 ton)の実機モデルの開発・製造に取組んでいる。

図10:(Interstellar Technologies) [COSMOS]サブスケール・モデルの試験状況。北海道スペースポート(HOSPO)内[LaunchiComplex-0]で試験する映像。
複数衛星で高性能アレイ・アンテナを構成する地上原理実験に成功

図11:(Interstellar Technologies) [IST]は多数の超小型衛星を低地球周回軌道[LEO]に打上げ高性能アレイ・アンテナを構築、地上端末と直接通信することを目標にしている。
[IST]は、東京科学大学/白根研究室、岩手大学/本間・村田研究室、マイクロウエーブ・ファクトリー社と共同で、複数の衛星を無線結合したアレイ・アンテナ構成の地上原理実験に成功した。これは、スマートフォン等との直接通信(D2D=Direct to Device)を可能にする重要な基盤技術の実験である。その革新性が評価され半導体技術に関する世界最大規模の会議[IEEE ISSCC]で2026年2月発表することになった。
[IST]は、超小型の人工衛星群が互いの位置・姿勢を制御しながら宇宙空間で高精度で協調し編隊飛行(formation flight)をし、地上端末と直接接続する高速大容量のブロードバンド衛星通信の実現を目指している。2024年から総務省の委託研究「電波資源拡大の研究開発(JPJ 000254)」を受託し、前述の国内大学と研究を進めている。
「編隊飛行」では、1万〜10万機の超超小型衛星を整列協調させ一つの巨大なアレイ・アンテナとして機能させる。
アレイ・アンテナ(array antenna)とは、多数の小型アンテナ素子を規則的に並べ接続し、微弱な受信電波を励振、大きな信号に変換して受信・送信する高性能アンテナである。航空機や飛翔体の捕捉・追尾に広く使われている。地上で大型アンテナを多数結線して一つのアレイアンテナとする事例ではチリ・アタカマ砂漠に設置されたアルマ望遠鏡が知られている。
[ITS]が実現を目指す「編隊飛行」で作るアレイ・アンテナは、遥かに大きく高利得化出来るが、アンテナ素子衛星が分散しているので有線ではなく無線で接続する。このため、各素子を連携して作動させる統合技術が必要になる。これを「非結線型フェイズド・アレイ・アンテナ」と呼ぶ。
今回の実験では、衛星間での情報伝送方法やタイミング調整方法を検討し、衛星に搭載する超小型の信号処理集積回路およびアンテナを試作した。そして複数の超小型アレイ・アンテナ間で電波の送受信に成功した。実験は小規模だったが衛星数の拡大に対応可能で、今後スケールアップに取組んでいく。
「非結線型フェイズド・アレイ・アンテナ」開発を統括するのは、中山聡取締役、2009年三菱プレシジョンに入社、ロケットや衛星の搭載機器開発をしてきた。2021年1月[IST]に入社、開発部ゼネラル・マネジャーを経て2024年5月取締役VP of Launch Vehicleに就任している。

図12:(Interstellar Technologies)複数の超小型衛星を模した実験装置。各衛星周囲にはアンテナが、内部には集積回路が搭載されている。それぞれが枠に固定されているが、実際の飛行では枠から外され、制御される。衛星の大きさは超超小型。
[ZERO]初号機の顧客
一般に打上げ初号機は性能確認・実証が目的で顧客の衛星を搭載する事はない。しかし[IST]では[ZERO]初号機の打上げに際し、2025年11月19日迄に8つの企業・研究機関・団体から衛星搭載の申込みを受け、契約している。これは世界的にも珍しい、それだけ[ZERO]の完成度が高いことを示している。
今回参加した企業や団体・大学は、それぞれの技術を宇宙で試し実証する貴重な機会と捉え参加した。[ZERO]初号機の顧客は次の通り;―
- Ocullospace(シンガポール)
- Wolfpackキューブサット開発チーム(米国)
- DALRO Aerospace(韓国)衛星分離機構の搭載
- 大阪公立大学 小型宇宙機システム研究センター(SSSRC)(日本)
- 東京都市大学(日本)
- 東京大学 宇宙資源連携研究機構(CSRI)(日本)
3Uサイズ・キューブサット衛星、大きさ30 cm x 10 cm x 10 cm、重さ5 kg
- Fulton Science Academy(米国)
1Uサイズ・キューブサット衛星、大きさ10 cm x 10 cm x 10 cm、重さ1 kg
- Lothan Space(米国)
1Uサイズ・キューブサット衛星、大きさ10 cm x 10 cm x 10 cm、重さ1 kg
終わりに
インターステラー・テクノロジズ {IST}は、20人規模の人員で発足し、2019年5月4日、完成した小型観測ロケット[MOMO]3号機で初めて高度100 kmを超える宇宙空間に上昇するのに成功した。企業発足当時ホリエモンこと堀江貴文氏が後援していため「ホリエモン・ロケット」としてもてはやされた。その後 着実に研鑽を重ね、政府・関連業界から評価されるようになり、次の[ZERO]ロケットには世界中から注目が集まっている。こうして[ZERO]初号機には7基の衛星が搭載され、2026年に低地球周回軌道に打上げられる予定だ。
[IST]はさらに、[MOMO] [ZERO]で実証しつつある低コストの設計コンセプトや生産技術を使い、国内既存の大型ロケットと同等の輸送能力を備えた再利用可能な新ロケット[DECA]の開発を進めており2030年代末には実現したい、としている。
これらの事業を進めるため、SBIグループ、野村不動産、B Dash Ventures、SMBC Edge、などを引受先とする増資を行い、201億円の資金調達を完了した(2026年1月16日発表)。これで累計の調達額は446億円となった。
―以上―
本稿作成の参考にした記事は次の通り。
- Interstellar Technologies News 2026-1-16 “インターステラテクノロジズ、シリーズFで総額201億円の資金調達を完了“
- Interstellar Technologies News 2025-12-22 “人工衛星事業で、複数衛星を用いて高性能アレーアンテナを構成する地上原理実験実験に成功しました“
- Interstellar Technologies News 2025-12-18 “ロケットZERO製造体制強化の新たな拠点として東北支社を開設しました“
- Interstellar Technologies News 2025-11-19 “ロケットZERO初号機の顧客として新たに日米の3衛星が決定“
- 読売新聞オンライン 2025-11-14 “インターステラが狙うロケットの価格破壊、[トヨタと提携[勝ち筋見えてきた]”
- 読売新聞オンライン2025-11-14 “インターステラ、30年代前半に通信事業参入、[ロケットを最大限活かす]
- Interstellar Technologies News 2025-6-12 “北海道スペースポートの新発射場Launch Complex 1の優先事業者に選定され、北海道大樹町と打上げに向けた基本合意書を締結しました。
- Aviation week October 27-November 9, 2025 “Home Field Advantage” by Garrett Reim“
- Space Connect 2024年8月29日”IST,ロケット最難関の1つ「ターボポンプ」の自社開発に成功“
- Interstellar Technologies News 2023-12-7 “小型人工衛星打上げロケットZERO、エンジン燃焼器単体試験に成功しました”
- Interstellar Technologies News 2022-4-28 “Interstellar Technologies’ ZERO rocket for microsatellites begin full-scale engine testing on actual mode;. Water flow tests are being conducted on the turbopump, the heart of the rocket”
- Forbes JAPAN 2019-08-01 “世界「最低」性能で挑むロケット・ビジネス革命 “