2026-1-26(令和8年)松尾芳郎

図1:(Bell) ベルのV-280 バロー(Valor)実証機。エンジンナセルは固定されローター/ギアボックス部分が最大90度上方に回転する方式
米陸軍とベル(Bell)社は新しい[MV-75]テイルトローターの開発を急ぎ、2027年に配備を始める。これは1年前に目標としていた2030年配備開始を3年も前倒しすることになる。これは太平洋地域における軍事的緊張の高まりに対する措置と見られる。
(The U.S. Army and Bell are aggressively pushing to speed up fielding new MV-75 tiltrotor aircraft. This is three years earlier than targeting just 12 months ago. This sees increasing militants tension in the Pacific region.)
テキストロン(Textron)の傘下にあるベル(Bell)ヘリコプターが、陸軍の「将来型長距離侵攻機/FLRAA=Future Long-Range Assault Aircraft」計画に基づいて、開発した[V-280バロー(Valor)]テイルトローター機を基に[MV-75]を作る。ベルは2022年に実施された陸軍の[FLRAA]審査に[MV-75]を提案、2030年代中期までに納入することで競合相手に勝ち採用された。昨年2024年に納入時期が2030年へ前倒しとなり、今回2027年に再度改定された。

図2:(Bell) ベルのV-280 バロー(Valor)実証機、胴体後部にベルの「社章」が見える。
陸軍の報道官デイブ・バトラー中佐(Col. Dave Butler)は「今年中に試験飛行を完了し来年/2027年から部隊配備を開始する」と明言した。
[MV-75]初号機は現在組立中だが、実証機である「V-280」バロー(Valor/勇気)は2017年に初飛行し、以来ずっと試験飛行を続けている。陸軍は現在使用中のボーイング・シコルスキー(Boeing Sikorsky)製H-60ブラックホーク(Blackhawk)・ヘリコプターの後継機として[MH-75]の採用を決めた。
陸軍長官ランデイ・ジョージ大将(U.S. Army Chief of Staff Gen. Randy George)は1月12日(2026年)のニューヨーク州フォート・ドラム(Fort Drum)で行われた会合で、次のように述べた。
「[MV-75]は2006年末から入手を始める、これで空輸侵攻能力を飛躍的に強化する。現用の[H-60]ブラックホーク・ヘリコプターに比べ航続距離と速度はほぼ2倍になり、作戦可能な区域が著しく増大する。これはインド太平洋に散在する島嶼防衛にとって極めて重要な能力となる。
陸軍最強の侵攻師団である「第101空挺師団 」101st Airborne Division)」はすでに[MV-75]の受入れのための準備を始めている。夜間戦闘任務に特化した特殊部隊「第160特殊作戦航空連隊(U.S. Army 160th SOARA (Special Operations Aviation Regiment))」は、現在[H-60M]ブラックホーク60機ほどを運用しているが、半分を[MV-75]に変換すべく準備を急いでいる。160th SOARAの[H-60M]ヘリコプターの機首には。夜間地表識別・回避レーダーであるレイセオン(Raytheon)製[AN/APQ-187 Silent Knight terrain -following/terrain avoidance radar]が装備されているが、同じものが[MV-75]にも取付けられる。
[UH-60]系列の代表[UH-60M]は、乗員2名と要員2名、それに兵員11名と貨物1,450 kgを搭載する。最大離陸重量は約10 ton、エンジンはT-700-GE-701C/Dタボシャフト1,900軸馬力2基。巡航速度は282 km/hr、戦闘行動半径は590 km。

図3:(U.S.Army)第160 SOAR所属の[MH-60M] 2機が米海軍ドック型輸送揚陸艦「ジョンPマーサ(USS John P Murtha) LPD-26」25,000 tonに着艦するところ。機首には夜間地表識別・回避レーダーなど複雑な装置が多数装備されている。
米政府の会計検査院(GAO=Government Accountability Office)と議会関係者は、装備の増加で[MV-75]には重量増の懸念があると、指摘している。また「初期設計審査 (Preliminary Design Review)報告書には、「ペイロードを維持するため自重150 kgの削減が必要」、「本格量産の前に個々のシステム・レベルの設計・試験を急ぎ審査する必要」、「2028年までに実戦環境下でシステムの統合化試験の実施が必要」、「設計作業にはデジタル・エンジニヤリング技法・オープン・アーキテクチャ概念の一層深い活用が必要」など多くの指摘が記載されている。

図4:(GAO / U.S. Army) GAO (会計検査院)報告は2025年1月31日に発出された。図は島嶼防衛の出動する[MV-75]の編隊。
「将来型長距離侵攻機/FLRAA=Future Long-Range Assault Aircraft」計画のプログラム・マネジャーのジェフリー・ポケット中佐(Army Col. Jeffrey Poquette)は「色々なリスクがあるが、これら全ての指摘を歓迎する、これで新型機の完成が促進される」と話している。
テイルトローター機は、V-22オスプレイで経験したように、高価格で複雑、しかしヘリコプターと同じようにポイント・ツウ・ポイント(point-to-point)の輸送が可能で、しかも固定翼ターボプロップ機と同じ航続性能を持ち、同じ速度で飛行出来るという特徴を備えている。このため各国で開発が進んでいる。中国では、有人テイルトローターと無人テイルトローター機2機種の開発を進めている。
中国のテイルトローター機

図5:(TWZ Aug. 18, 2025) 中国が開発中の有人テイルトローター機、V-280と同じエンジン固定・ローターと駆動ギアボックスが回転する方式。イタリアのレオナルド(Leonardo) AW609 (12人乗り)に酷似した機体。サイズはV-22オスプレイの全備重量52,000 lbsに比べかなり小さい18,000 lbs. 安徽省のUAC製。

図6:(TWZ Nov.. 18, 2025) [R6000]と名付けられた無人テイルトローター機、Bell V-280 Valorと同じくローターとギアボックスが回転する方式。有人と無人の2形式があり、2024年のシンガポール航空ショーで公開された。安徽省のUAC製。
V-22 オスプレイ
V-22 Osprey(ミサゴ)はBell HelicopterとBoeing Defense, Space & Securityの共同開発機で1989年初飛行、2007年6月配備開始、460機以上を生産。2028年度で生産を終了する。米国防総省(DOD)は、海兵隊向け360機、海軍向け53機、AFSOC(空軍特殊作戦コマンド)向け56機のV-22を調達しており、一部は現在も生産中である。国防総省は、2028会計年度に生産ラインを閉鎖する予定である。米国はV-22を日本に輸出し、日本は17機のオスプレイを配備している。

図7:(U.S. Air Force) 米空軍第7特殊作戦コマンド(7th SOC / 7the Special Operations Command)所属のCV-22Bオスプレイ。エンジンとローターが一体で回転する方式。V-22は最大離陸重量27.4 ton、乗員・兵員24名を収容、エンジンはT406/AE 1107C (RR製)出力6,150馬力を2基、巡航速度446 km/hr、航続距離3,590 km。
ベル[MV-75]とベル[V-280]バローは同じ
以前は[V-280]バローと呼ばれたテイルトローター機が、米陸軍の「将来型長距離侵攻機/FLRAA=Future Long-Range Assault Aircraft」計画で2025年5月に正式に[MV-75]と命名された。[V-280]の初飛行はアマリロ(Amarillo, Texas)で2017年12月18日に行われた。米陸軍は2022年に[FLRAA]計画で、現用のシコルスキー製[UH-60] Blackhawkヘリコプターの更新として[V-280]テイルトローター機を選定した。
競合で敗退したのは、ボーイング・シコルスキー(Boeing-Sikorsky)提案の[SB-1] Defiantコンパウンド・ヘリコプターである。これは2重反転ローターと尾部に推進プロペラを備えた型式で、エンジンはハニウエルT55ターボシャフト2基を装備。初飛行は2019年3月だった。
当初の予定では、実戦部隊への配備は2031年としていたが、既述のように太平洋に散在する第1列島線の島嶼をめぐる軍事的緊張の高まりに対処するため、2007年からの配備に改められた。
[V-280]開発の協力企業として、ロッキード・マーチンがアビオニクス・センサー、モーグ(Moog Inc )がフライト・コントロール、GE Aviationがエンジン、GKNが尾部構造、スピリット・エアロシステムズが複合材製の胴体、イートン(Eaton Corp.)が油圧系統、イスラエル・エアロスペース(Israel Aerospace Industry)がナセル構造、TRUシュミレーション(TRU Simulation & Training)がシュミレーターと整備用訓練装置、などを担当することが決まっている。今後一部が変わるが大半は継続される予定。
[V280]は、巡航速度520 km/hr、最高速度556 km/hr、戦闘行動半径1,480 km、最大離陸重量14,000 kg、V-22との相違は、エンジンが固定されローターと駆動シャフトがテイルト/回転する方式になった事。両翼のローターは主翼内を通る駆動シャフトを介し単独のエンジンで駆動される。これで片側エンジンが故障しても他方のエンジンで安定した飛行を続けられる。ランデイングギヤは引込み式。
乗員は4名、14名の兵員を乗せる。胴体にはカーゴフック2個があり4,500 kgのM777A2榴弾砲を吊り下げ280 km/hrの速度で飛行できる。着陸時には、主翼は地表から2,1 mの高さにあり、兵員は容易に両側のサイドドアから乗降できる。
構造部材は殆どが先進複合材で作られる。これは航空機向け熱硬化性CFRP部材の表面に熱溶融層を形成させ、部材表面を瞬間的に加熱し接着する簡易に接合できる素材、これで複雑な構造部材を高速度で成型できる。
エンジンは実証機ではGeneral Electric製T64が使われている。しかし2021年10月ベル/ロールスロイス(Bell・Rolls-Royce)両社は記者会見で、Rolls-Royce T406/AE 1107C(V-22用エンジン出力6,150軸馬力)を改良した[AE 1107F]出力7,000軸馬力2基装備に改める、と発表した。

図8:(Wikipedia) ベルV-280バロー、2019年10月フォートオース(Fort Worth, Texas)で行われたアライアンス航空ショーで撮影。
ベル・テキストロン社 (Bell Textron Inc.)
米国航空宇宙企業で本社はフォートオース(Fort Worth, Texas)にあり、テキストロン社の一部門、軍用ヘリコプターはフォートオースおよびアマリロ(Amarillo, Texas)工場で、民間ヘリコプターはカナダ・ミラベル(Mirabel, Quebec, Canada)工場で製造している。創立は1935年「ベル航空機(Bell Aircraft Corp)」として始まった。1940年代にかけて[P-39 Airacobra]や[P-63 Kingcobra]戦闘機を生産した。ヘリコプターでは1942年に[Bell 30]の初飛行、続いて[Bell 47]が民間用として型式証明を取得した。この成功で1951年ヘリコプター部門をテキサス州ハースト(Hurst, Texas)に移転した。
1960年にテキストロン(Textron)が「ベル航空機」からヘリコプターを担当する「ベル航空宇宙(Bell Aerospace)」部門を買収「ベル・ヘリコプター会社(Bell Helicopter Co.)」とした。同社は[UH-1]ヒューイ(Huey)ヘリコプターを製造し成功を収め、テキストロン最大の部門となった。1976年1月テキストロンは名前を「ベル・ヘリコプター・テキストロン(Bell Helicopter Textron)」に改めた。
ベル社は英伊共同の「アグスタ・ウエストランド(AgustaWestland)」と協力を深め[Bell 47]や[AW139]などの共同生産をした。また両社は[AW609]テイルトローター機の開発生産でも協力してきた。
テキストロン社(Textron)
ロードアイランド州プロビデンス(Providence, Rhode Island)が本拠のコングロマリット(conglomerate)、傘下に「ベル・テキストロン(Bell Textron)」、「コーテックス(Kautex)」、「テキストロン・エビエーション(Textron Aviation(ビーチクラフト/Beechcraftおよびセスナ/Cessna)」、「ライコミング・エンジン(Lycoming Engines)」などがある。創業は1923年。
終わりに
米陸軍は2025年1月現在、UH-60Lを800機、UH-60Mを931機を含み合計2,000機以上のUH-60系列ヘリを運用している。これが2027年以降2030年代初めまでに全て[[MV-75]に更新されることになる。
我が国自衛隊は、陸自が[UH-60JA] 40機、海自が[UH-60J] 19機、空自が[UH-60J] 79機を運用中。このうち113機が三菱重工でライセンス生産されている。
九州・南西諸島を含む第1列島線島嶼の防衛を責務とする自衛隊装備の近代化も喫緊の課題である。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- Aviation Week October 27-November 9, 2025 “The U.S. Army makes risky move to speed up FLRAA” by Brian Everstine and Steve Trimble”
- The War Zone com. Newsletter “Army Punches its MV-75 Tiltrotor Program into Overdrive” by Joseph Trevithick and Howard Altman
- TORAY新聞2023-2-1 “炭素繊維複合材料部材の高速熱溶着技術を開発〜航空機の高レート生産と軽量化に貢献〜
TokyoExpress 2020-05-15 初飛行から30年、ベル・ボーイングV-22オスプレイの近況“