2026-2-3(令和8年) 松尾芳郎

図1:(Boom)ブーム超音速旅客機「オーバーチェア」は乗客80名を乗せ、4,250 n.m.の距離を高度60,000 ft、速度マッハ1.7で飛行する。AAL、UAL、JALなどから130機の確定・オプションを受注している。
ブーム超音速旅客機用エンジン「シンフォニー」は、AI業界から地上設置エンジン「スーパーパワー」の発注を受けたことで開発が促進される。「スーパーパワー」初号機の試運転は2026年末に始まる。両エンジンののコアは共通で、試試験は今年初めからスタートする。
(Boom Supersonic engine “Symphony” work speed up after purchasing from AI industry as “Superpower”. Test of “Superpower” are set for late 2026. Core tests early this year will inform both Symphony and Superpower development.)
超音速旅客機「オーバーチェア(Overture)(“序章”の意)」の開発は当初の予定より遅れている。11年前に創業者でCEOのブレーク・スコール(Blake Scholl)氏が開発を始めた。2024年3月・2025年2月の間、超音速飛行を含む飛行試験を技術実証機[XB-1]で実施、低速時・高速時の運用特性、地上に及ぼすソニックブーム特性などのデータを収集、合計飛行時間は525分、超音速飛行2回を含む13回の試験を行い、オーバーチエア設計のための基礎データを収録した。

図2:(Boom) 2025年2月10日、13回目の試験飛行、高度36,500 ft、速度マッハ1.18、約40分間のフライトでソニックブームの試験を完了した。
これまでの11年間の期間中、最も時間を要したのはエンジン選定の問題であった。ロールスロイスと長期にわたる交渉が破談になり、他のエンジン・メーカーからも良い回答が得られず、機体開発と並行して自社でエンジン開発を進めることになった。新型旅客機の開発は、信頼性のある既存エンジンを採用するのが一般的なので、これは極めて異例と受け止められた。
ブームでは、試行錯誤、検討を重ねて、長時間超音速飛行可能な推力40,000 lbs級のターボファン「シンフォニー(Symphony)」の開発をスタートした。
「シンフォニー(Symphony)」は高空で超音速飛行を長時間続けるため、コア/高圧コンプレッサー(HPC)部分が同級のエンジンに比べ大きくしてある。
そこへ思いも掛けず異業種「AI (Artificial Intelligence)/人工頭脳」業界の大企業から「シンフォニー」のコア/HPCを基本にして地上設置型エンジン「スーパーパワー(Superpower)」ガスタービンを製作するので「コア」を購入したい、との要求が入った。2025年12月9日「ブーム」社は、「クルーソー(Crusoe)」社から「スーパーパワー」に使う「シンフォニー」のコア/HPC部を29台、総額にして12億5000万ドルで受注した、と発表した。「クルーソー」は2030年までに年間合計で4 GW(ギガワット)以上の電力を供給する体制を整える。
「シンフォニー」は開発途上にあり、最も重要なコア部分は、証明取得のためにこれから数千時間に及ぶ耐久試験を行わなくてはならない。これが「スーパーパワー」として地上運転で実質的に代行されれば、大量の運転データが無償で入手可でき、これが「シンフォニー」開発に使えるので、信頼性の向上、完成が促進される。これからFAAに経緯を説明して理解を求める。これまでのエンジン開発では個々の部品の開発からスタートし証明取得まで長期間を要するのが通例だった。今回「クルーソー」社が「シンフォニー」コアを使い「スーパーパワー」ガスタービンを製造、地上電源とする決定をしたことで、「シンフォニー」の完成は疑いの余地がなくなった。
これと同時にブーム社は、「ダーサナ投資会社(Darsana Capital Partners)」を筆頭幹事とする投資グループ5社から総額3億ドルの投資が決まった、と発表した。
「ダーサナ投資会社(Darsana Capital Partners)」はニューヨークにあり、航空、宇宙、防衛、AI関連の企業が取組んでいる長期的収益プログラムを対象に投資をしている。今回の投資グループには[Altimeter Capital]、[ARK Invest]、[Bessemer Venture Partners]、[Robinhood Ventures]および[Y Combinator]の各社が参加している。
「クルーソー」社による「シンフォニー・コア」購入/地上電源装置の製作決定、および「ダサーナ投資会社」グループによる3億ドルの新規投資、の二つの重要事項の出現で、超音速旅客機「オーバーチェア」とそのエンジン「シンフォニー」の完成の見通しは一層確実になった。3億ドルの資金に加え「シンフォニー」のコアの販売で利益が上がり、この利益で「オーバーチェア」超音速機開発費の一部が賄えることになった。
「スーパーパワー」の話が始まったのは2025年3月、「ブーム」の最初の投資企業[OpenAI]社のCEOサム・アルトマン氏がブームのCEOブレーク・スコール(Blake Scholl)氏と「クルーソー」の副会長カリー・キャブネス(Cully Cavness)氏に電話があり『AI (artificial intelligence/人工頭脳)」事業は途方もない莫大な電力が必要で、電力会社からの入手は不可能、自前で発電装置(GPU)を作るしか手段はない。(スコール氏に向かって)「ブーム」で発電装置に使うタービンを作れないか?それも出来るだけ早く』と伝えてきた。
「シンフォニー」は既述のように長時間の超音速飛行をするため高圧系(HP system)は、大推力と高温下で長時間連続運転ができるよう作られている。従って長時間安定して連続運転が必要な地上電源として充分な能力を持っている。
「シンフォニー」の高圧系(HP system)は、後述のように、ブリスク(blisk/ブレード・デイスク一体構造)の6段高圧コンプレッサー(HPC)と1段の高圧タービン(HPT)から成る。燃焼器は、シンフォニー用では燃料ノズルが24個だがスーパーパワーでは天然ガスとデイーゼル用経由を使うので22個になる。
「スーパーパワー」の低圧系(LPシステム)は、マッハ1.7の飛行は無関係の地上設置なので十分余裕があり、エンジン後端にフリータービンを取付けこれで発電用ジェネレーターを駆動・連続運転が可能だ。
「スーパーパワー(Superpower)」は、天然ガス(Natural Gas)を燃料とするエンジンで、テキサス州の夏季炎天下で出力42 MW(メガワット)を安定して供給するガスタービンとなる。これがAI データセンターの冷却用電源になる。「スーパーパワー(Superpower)」出力42 MWの初号機の試運転は2026年末に予定している。「スーパーパワー」の要点は;―
- ISO基準のシッピング・コンテナ(shipping container)に収まるサイズで、出力は42 MW
- 出力は外気温110度F以上でも変わらない
- 寒暖、雨天でも冷却水無しで運転が可能
- 燃料は天然ガス、必要に応じデイーゼル用軽油も使用可能
「クルーソー」社
「クルーソー」は「AI factory company」つまり「顧客の[AI]システムを受託・構築する会社」で、大量のenergy(エネルギー)とintelligence(知能)を迅速に処理・統合化するのが仕事である。
現在、テキサス州アビレーン(Abilene, Texas)に、AI企業「オラクル」の[OCI=Oracle Cloud Infrastructure]構築をサポートするため「AI データセンター(AI Data Center)」(図7参照)を建設中である。ここでは、高速度でチップ・モジュールを製造するので大量の熱が発生する。これを液化冷却装置で効率よく冷やす必要がある。この電力は1.2 GW(ギガワット)に達する。『1GW(ギガワット)=1,000 MW(メガワット) !』。この電力を賄うのに「クルーソー」は「スーパーパワー」エンジン29台の製作を決定した。これが評価され、クルーソーが建設するアビレーンのデーターセンターは、全米のAI業界が参加する「データーセンター・ダイナミクス(DCD)」が発表する「2025年度北米最大のデータセンター・ダイナミックス」賞に選ばれた。

図3:(Boom)「シンフォニー(Symphony)」は、長さ42 ftのナセルに収められ、空気取入れ口(air inlet)には可動式の同軸スパイク、排気ノズルには可動式同軸プラグ、が付く。インレット側は長さ12 ft、排気ノズル側は長さ19 ft。

図4:(Boom)ブーム超音速旅客機「オーバーチェア」のエンジン「シンフォニー(Symphony)」は2軸式ターボファン、推力40,000 lbs。長時間超音速飛行をするので、コア/高圧コンプレッサー(HP)部分が同級エンジンに比べかなり大きい。低圧系(LP system)はファン1段、LPコンプレッサー3段、LPタービン3段で、ファン・バイパス比は[ 3 : 1 ]。「スーパーパワー」ではこの低圧系が改修され、後端にフリータービンと発電用ジェネレーターが付けられる。

図5:(Boom/ Crusoe)クルーソーが作る「スーパーパワー」地上設置型ガスタービン。「シンフォニー」の高圧コンプレッサー6段・燃焼器・高圧タービン1段、が中心、低圧系が改修される。全体がISO規格 ”8-8-40”コンテナ、すなわち、長さ40 feet (12 m)、幅8 feet (2.4 m)、高さ8 ft 6 inch (2.6 m)、の中に収まる。

図6:(Boom/Crusoe) 8-8-40コンテナの内部に収まる「スーパーパワー」ガスタービンの姿。後端(右端)の大型フリータービン/発電用ジェネレーターに注目。
「シンフォニー(Symphony)」の開発状況
離陸推力40,000 lbs、「オーバーチェア」に4基装備しマッハ1.7の速度で飛行する。燃料は100 % SAF(sustainable aviation fuel/環境適合航空燃料)も使用できる。
「クラトス(Kratos Defense & Security Solutions)」社の一部門「フロリダ・タービン・テクノロジー(FTT=Florida Turbine Technologies)」がエンジン設計を担当、「GE Aerospace」の子会社「Colibrium Additive」がアデイテイブ製造(Additive Manufacturing)/部品の積層製造法を担当、「スタンダード・エアロ(StandardAero)」が整備と組立てを担当、「Aurora Flight Science」 の近くデンバー空港にある「コロラド・エア&スペース・ポート(Colorado Air & Space Port)」に500万ドルでエンジン試運転設備を建設中。
2023年10月に概念設計審査(Conceptual Design Review)を完了、部品製作を開始、「スタンダード・エアロ(StandardAero)」がテキサス州サンアントニオ(San Antonio, Texas) に100,000平方フィート規模の工場を建設、年間330台のエンジンを生産する。エンジンで最も重要な「コア(高圧/HP)」部分はコンプレッサー6段、タービン1段だが、いずれも一体構造の「ブリスク(Blisk)構造でブリスクの製造は「ATI」が担当している。
コア部分の試作初号機は[Sprint core]と名付け現在FTTで組立て中、2026年上半期にブーム社のワトキンス(Watkins, Colorado)施設で試運転を開始する。
並行して「シンフォニー」試作エンジン(2軸式)の組立ても進行中で、試運転開始は2026年末〜2027年初めになる。
「スーパーパワー」用のコアは2027年に出荷できる。
低圧系(LP system)は、直径72 inchのワイドコード・ファン1段を3段の低圧タービンで駆動する仕組みである。
騒音への取組みは、ICAO Chapter 14 騒音規定に適合することが目標。
- エア・インレット(air inlet)は超音速流を亜音速にするため長さ12 ftで、圧縮スパイクを備えたデフューザー・エキゾースト式になる。
- 排気ダクト部分は長さ19 ftで、スラスト・リバーサー(thrust reverser)を組込み、ローブ付きミクサー(noise suppressor)があり、軸芯に沿って動くプラグ付構造になっている。

図7:(Crusoe) テキサス州アビレーン(Abilene, Texas)に建設中の「クルーソーAIデーターセンター(Crusoe AI Data Center)」の全貌。毎日7,000名が建設に従事している。12ヶ月後に第1次工事が完成するが、これだけで今後20年間に10億ドルの価値を創出する。全施設が稼働すればアビレーン市の歳入の32 %を賄うことになる。

図8:(Crusoe)ISO規格コンテナ(8 x 8 x 40 ft)に収納された「スーパーパワー」地上電源。左側にエンジン吸気装置、右側に出力電源装置が接続される。
終わりに
ガスタービンを地上用あるいは船舶用電源にする例はこれまでにある。いずれも航空機用ファンエンジンを基本したものだ。代表的なものは、GE 製LM2500:CF6 を基本にした出力25.1.MW、これは米国、日本のミサイル駆逐艦などに多数使われている。また新しいロールスロイス製MT30 (Marine Trent)は[Trent 800]が基本で出力は36 MW、英国および日本の新型艦の動力として採用されている。どちらもクルーソー社「スーパーパワー」の42 MWには及ばない。
クルーソーからのシンフォニー・コア発注は、ブームにとって予期しなかったことで、これでシンフォニーの完成が促進され、超音速旅客機オーバーチェア就航の見通しは一層確実になった。
日本航空は10年前の2017年12月5日に、ブームに1,000万ドルを出資、超音速旅客輸送の戦略的支援をする協定を締結、オーバーチェア20機の優先購入権を得た。ユナイテッド航空(United Airlines)は2021年6月3日に15機の確定発注と35機のオプション契約を締結した。アメリカン航空(American Airlines)は2022年8月16日に20機の確定発注をした。また、2022年1月11日に米空軍が行っている民間技術を支援するプログラム[STRATFI]に選定され、3年間で6,000万ドルの供与を受けた。続いてノースロップ・グラマン社はブームと協力してオーバーチェアの軍用機型の開発に取組む協約を結んだ。
―以上―
本稿作成の参考にした記事は次の通り。
- Crusoe News December 22, 2025 “Crusoe wins [North American Data Center Project for the Year] at 2025 Data Center Dynamics Global Awards”
- Boom Newsroom Dec. 9, 2026 “Boom Supersonic to Power AI Data Center with Superpower Natural Gas Turbines; Adds $ 300 Million in New Funding”
- Aviation Week January 12, 2026 “Power Path” by Guy Norris
- Boom Newseoom Dec. 3, 2025 “Boom Supersonic to Power AI Data Centers with Superpower Natural Gas Turbines; Adds $300 Million in New Funding”
- Aviation Week July 23, 2024 “Boom Advances Supersonic Engine Development” by Guy Norris
- TokyoExpress 2025-3-1 “ブーム、実証機XB-1お飛行試験を完了、オーバーチャー実現へ“