参院選の結果と日本政治の展望


 

—日本国憲法改正が最大のテーマにー

 2016-08-08(平成28年)  元杏林大学教授  豊島典雄

 

・参院選、改憲勢力が三分の二に

「改憲3分の2 発議可能に 自民一人区21勝11敗」(産経新聞 7月11日)。

7月10日投票の第24回参議院選は、与党の自公両党、保守系のおおさか維新の会が議席を増やし、日本国憲法を見直そうという政党が参議院(定数242)の3分の2の議席を確保する歴史的な参院選になった。

衆院(定数475)では、既に改憲勢力は自公とおおさか維新の会で324議席と3分の2をクリアしている。憲法改正を発議できることとなった。70年前の占領期に連合国最高司令官総司令部(GHQ)に押し付けられたメイドインUSAの日本国憲法(昭和22年5月3日施行)に、手を入れるチャンスが初めてやって来た。日本人の日本人による日本人のための憲法を作れる好機が来た。改憲が参院選後の日本政治の最大の課題となってきた。

 

・めでたさも中くらいなりおらが春

121議席を争った参院選は、改選議席50の自民党が56議席(追加後任を含む)、改選議席43の民進党が32議席、改選議席9議席の公明党が14議席、改選議席3の共産党が6議席、改選議席2のおおさか維新の会が7議席、改選議席2の社民党が1議席を獲得した。

自民党はこの参院選の結果、公示前の115議席が121議席となった。無所属参院議員が加わり、現在は122議席である。比例区での得票数は2011万票と3年前の1846万票より大きく伸びた。

勝因は国際情勢の緊迫もある。近隣国である核保有国の中国や北朝鮮からの高まる軍事的脅威。日本周辺の波は著しく高まっている。中東や欧州で荒れ狂うテロは沈静化の兆しはない。むしろ激化している。日本国民は政治の安定を求めている。アベノミクスの成果か? 雇用が良い。学生の就職率が高いからか若者の支持が高かった。

日経新聞によれば、18、19歳の40%が比例区で自民党に投票した。

また、20代の43.2%、30代の40.9%が自民党に投票した。

しかし、自民党の獲得議席は大手マスコミの予想(59議席前後)よりは低かった。一人区では、東北6県で勝ったのは秋田県だけ。「TPPへの反発が懸念」(自民党選挙対策関係者)されたが、それは杞憂ではなかったようだ。「大勝とは言えない」(自民党幹部)ようだ。めでたさも中くらいなりおらが春、である。

 

票は増えても政権は遠くなる民進党

民進党の32議席は3年前(17議席)よりは議席が増えたが、6年前の43議席より議席を減らした。公示前の60議席が49議席に減少した。

共産党等との野党四党の共闘で32の一人区では11勝できた。比例区での得票も1175万票と3年前の713万票より大きく増えた。

「野党共闘相乗効果あり」(河北新報)、「反転攻勢の第一歩を踏み出せた」(枝野幹事長)と言う。共産党票という饅頭(票)は美味しかったようだが、癖にならないか。毒が入っていないか。というのは、民進党と共産党の体質は著しく異なる。

共産党の綱領の五には

「日本社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が課題となる。…………社会主義的変革の中心は主要な生産手段の所有・管理・運営を社会の手に移す生産手段の社会化である」。

安全保障政策では

「日米安保条約を廃棄し、アメリカ軍とその軍事基地を撤退させる」。自衛隊は解消するとしている。

南シナ海、さらに東シナ海の尖閣諸島への中国の野心による危機は今ここにある危機である。しかるに共産党は、弱肉強食のジャングルの掟が生きている国際社会でも、抑止力は要らないというのだ。非武装でよいというのだ。戸締りも番犬も要らないという発想である。現実逃避のオストリッチ・ポリシー、幻想的平和主義である。

一方の民進党の綱領には

「私たちは、専守防衛を前提に外交安全保障における現実主義を貫く。わが国

周辺の安全保障環境を直視し、自衛力を整備して国民の生命・財産、領土・領海・領空を守る。日米同盟を深化させ、アジアや太平洋地域との共生を実現する」とある。

共産党とは水と油の関係である。この両党が選挙のために共闘するのは野合となる。民進党は禁じ手をおかしたことになる。

民進党内には「共産党との共闘を本当にやるべきなのか」(長島昭久元防衛副大臣)との不満がくすぶる。共産党と手を組む民進党に政権を任せることに不安を持つ有権者は少なくあるまい。失ったものは大きいのではないか。

選挙と政権は別だといっても、政治理念や政策で溝が深い民進党と共産党である。民進党は外交と国防は政府与党と共通の基盤に立つべきである。そのほうが国民の信頼も得られ、政権復帰が早くなるのではないか。民共合作は統一戦線方式であり、結局、民進党は利用されるだけであることは、中国の「国共合作」の歴史が示している。

「気をつけよう。甘い言葉と民進党」(安倍)と批判されたが、共産党との野党共闘にのめりこんだため、民進党は反対だけで対案なし路線と批判される。人材不足もある。「うっかり一票がつかり4年」。前進の民主党政権の時に、有権者の期待を裏切ったこともあり。信頼は戻っていない。

9月の代表選に注目したいし、きちっとした総括をすべきである。路線論争を展開すべきだ。路線論争を捨てたポスト争いは自滅行為である。

 

・踏まれても踏まれても

公明党は公示前の20が25議席に躍進した。

自公連立は、平成11年から21年までと2012年12月から現在までの計14年にならんとしている。夫婦は似るというがそうはなっていないようだ。

かっては日米安保条約即時廃棄を唱えていた公明党である。だから、安全保障政策などでは自民党との調整に苦しんできた。

しかし、昨年の安保関連法案でも、結局は公明党が歩み寄るというパターンであった。「踏まれても踏まれてもついていきます下駄の雪」等と皮肉る向きもある。

「自民党は別れられない悪い奴」だが、政権に入っているからこそ公明党の独自政策は実現する。政権のうまみを知り尽くしている。

自公連立でも「自民党に譲歩しすぎる」とする不満は蓄積し、参院選では公明票の三割未満が野党に流れている。憲法改正をめぐる与党協議にも注目したい。

おおさか維新の会は公示前の7議席が12議席になった。橋下徹氏が不在でも515万票を獲得した。

各種のアンケート「日本を任せられる人」では橋下氏はいつもトップクラスである。党名変更は喫緊の課題である。いつ橋下氏が国政選挙に登場するかと注目されている。

 

人を殺す予算

共産党は公示前の11議席が14議席に増えた。

「野党と市民との共闘は、最初の挑戦としては大きな成功をおさめた」(常任幹部会声明)というが、党幹部がNHK討論番組で防衛予算は「人を殺す予算」(藤野前政策委員長) と発言して、他党から厳しい批判を招いた。だから、予想されていたほどの議席(9)は得られなかった。

新党改革の代表を務めていた荒井広幸前参院議員はその討論番組に出演していたが、6月28日、「その場にいたが辞任は当然だ。共産党と連立を組むのは怖い。一緒に戦う政党の気が知れない」と民進党を皮肉った。

最近、「奈良県が誘致を進める陸上自衛隊駐屯地をめぐり、共産党奈良県会議

員団などでつくる団体が昨年10月、駐屯地誘致に反対する講演会のチラシに「

陸上自衛隊は『人殺し』の訓練」などと記していたことが19日、分かった」(産経新聞、7月20日)と言う。

いろいろとお化粧しているが、共産党は“普通の政党”ではない、地顔はかなり“怖い”ということだ。

 

・自民党総裁任期の延長

与党はすでに衆院で三分の二を保有している。参院でも与党(147)と保守系政党(15)、保守系無所属(4)をあわせれば166議席となる。三分の二の162をクリアした。また、8月初めに自民党執行部の交代、内閣改造が行われた。豪腕の二階堂前総務会長の幹事長への就任が注目されている。親中国派と言われる二階幹事長は安倍総理とは思想信条をかなり異にするが、公明党に太いパイプがあり「憲法改正などで、公明党対策を期待できる」(自民党幹部)。

今後の政治テーマとしては

①、総裁任期延長のための自民党の党則改正。

安倍総理の周囲は、安倍総理を2020年五輪まで在任させたい。そこで、一期3年、2期6年までの自民党総裁の任期(2018年秋)延長が取りざたされている。2年延ばせば2020年の東京五輪が退陣の花道となる。

昭和61年(1986年)の衆参同時選挙で圧勝した中曽根康弘氏が任期(当時は2期4年)を一年延長された例がある。

党内の反安倍勢力は「かって相当人気があった小泉首相ですら任期を守った。安倍首相も任期を守る人だから、18年には必ず総裁選をやる」(野田聖子、7月18日)と早くも牽制球を投げている。

しかし、党の重鎮の二階総務会長(当時)は7月19日の記者会見で、総裁任期の延長は「あっていい」と述べ、容認する考えを示した。棚橋泰文幹事長代理(当時)も賛同する意向を表明した。ある自民党幹部も「総裁任期延長は党則の改正問題であり、さして難しくはない」とい言っている。

しかし、ポスト安倍をうかがう実力者から「先のことを話すのは気の早い話ではないか」(岸田文雄外務大臣)、「今党内で議論すべきは経済がきちんと回るようにすることだ」とけん制の発言が出ている。

年内をめどに議論をまとめたいという二階幹事長の采配が注目される。

②、9月召集の臨時国会。

TPP承認案件、TPP関連法案、新型経済政策を盛り込んだ大型補正予算を成立させることである。しかし、TPP調印国の米国には孤立主義、保護主義の傾向が見える。大統領のオバマ氏は政権末期でレイムダック状態である。大統領候補のトランプ(共和党)、クリントン(民主党)ともにTPPに反対であることは気になる。

③、衆院解散は年末?

熊本地震もあり、安倍総理は衆参同時選挙、ダブル選挙を避けたが、いつ衆院解散するかは苦悩の種である。

「次回の衆院選では、290ある自民党の議席が20は減る」(自民党選対筋)。タイミングや争点を誤り、与党の獲得議席が3分の2を下回れば悲願の改憲は危うくなる。

衆院解散は年末と観測されている。「年が明ければ景気の悪化ははっきりする」と言われている。

来年夏は都議選もあり、都議選を重視する公明党はその前後の衆院選を嫌がる。

来年夏以降になる衆院の区割り後の解散総選挙は定数465で行われる。小選挙区は6減、比例区は4減する。

小選挙区は青森、岩手、奈良、三重、熊本、鹿児島県の6県でそれぞれ1減り、比例区は東北 北陸信越 近畿 九州の4ブロックで1減となる。「われわれが強い田舎で定数が減る。その前に総選挙をやったほうが良い」(自民党選対筋)と言う。

④、最大の課題は「日本国憲法」の改正である。

憲法の国産化で歴史に名を残せるか?  「日本国憲法」はGHQが一週間で作ったメイドインUSAである。

60年前に「もはや戦後ではない」(昭和31年の経済白書)と言われたが、戦後はいまだに終わっていない。

米国務省で日本部長を務めたリチャード・B・フィンは、米国の外交官として昭和22年(1947年)から27年(1952年)まで占領下の日本でGHQに勤務していた。彼は後に著書の「マッカーサーと吉田茂 上」(同文書院)の中で、

「1946年、連合国最高司令部が日本政府に押し付けて交付した新憲法は、近い将来改正せざるを得ず、占領時代に手の着けられた経済・経済改革もやがて破綻するだろうと予想されていた」と言っている。

しかし、米国製の日本国憲法は70年間一指だに触れられず、見直しが許されない不磨の大典になっている。他人が腕力を背景に押し付けた家訓を子々孫々にわたって墨守しているようなものだ。外国製の憲法を神棚に上げてお祭りするのは精神衛生上も良くない。

時代に適応できなくなっている。わが国の独立や安全をはかる上で障害になっている。「憲法が残って国亡ぶ」ではあまりにも愚かである。

「憲法は庭園のごときものである。手入れを怠れば観賞に耐えなくなる」。同じ敗戦国でもドイツは60回も改正している。

改憲には両院の3分の2による発議――国民投票の過半数という二段階の関所がある。

改憲勢力は参院で、自民党122、公明党25 おおさか維新の会12 日本の心を大切にする党3、無所属4人を含めれば166人となり、参院(定数242)の三分の二をクリアした。

「このチャンスを逃したらもう改憲は難しい。3年前の参院選で65議席をとっているが、次回は減ることはあっても増えることはない」(自民選挙対策関係者)。

護憲派の主砲とも言うべき朝日新聞の世論調査でも「憲法を変える必要がある」は49%、「憲法を変える必要はない」は44%(7月11日の出口調査)。7月11日の毎日新聞では改憲議論「賛成」51%、「反対」は32%。7月12日の読売新聞では「今後、国会で憲法改正に向けた論議が活発に行われることを期待するとこたえた人は70%に上り、期待しないの25%を大きく上回った。日経新聞(7月11日)の出口調査によれば、20歳代では憲法改正に「賛成」48%、「反対」が45%で、賛成が反対を上回っており、「若い人ほど前向きの傾向がうかがえる」という。

民進党も岡田代表のかたくなな姿勢への内外の批判も高まり姿勢に変化が現れている。

岡田代表は「安倍政権である限りは憲法改正の議論をしないというのが民主党の考え方であるべきだ」(27年1月14日の民主党代表選の演説会)と言っていた。

それが「憲法改正あるいは議論そのものを一切しないと言っているわけではない。球は首相にある」(7月14日の記者会見で岡田代表)と変心した。岡田氏が代表の座を降りることを表明したことで、民進党の憲法論議への積極化が期待される。

野党第一党を巻き込むとなると手をつけやすいのは私学助成、緊急事態条項、大災害時の議員の任期、参議院の選挙区を都道府県単位にすることなどであろう。

安倍総理は尊敬する祖父の岸信介がなし得なかった憲法改正を断行し、歴史に名前をとどめることになるだろうか。

 

—以上—