ロシア軍機、頻繁に我国周辺の領空に接近


2017-04-17(平成29年) 松尾芳郎

 

北朝鮮による弾道ミサイル発射や核実験の準備、さらには新型弾道ミサイルの公開などに目を奪われる昨今だが、一般にはほとんど報じられなかったロシア軍機による度重なる我国防空識別圏内の飛行・領空接近のニュースがある。

防衛省統合幕僚監部の発表によれば、ロシア軍機が4月11日(火)、12日(水)と14日(金)の3日にわたり我国の日本海沿岸と太平洋沿岸の防空識別圏内を飛行、領空侵犯はなかったものの領空への接近飛行を行った。航空自衛隊はその都度戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防ぐべく警戒に当たった。

飛来したロシア軍機は次の通り。

 

4月11日(火)の場合;—

Tu-95 戦略爆撃機    2機

Tu-142 対潜哨戒機   2機

IL-38 対潜哨戒機      2機

4月12日(水)の場合;—

Tu-95 戦略爆撃機       2機

IL-20 電子戦情報収集機 1機

4月14日(金)の場合;—

Tu-142 対潜哨戒機  2機

Su-24 攻撃機       1機

IL-20 電子戦情報収集機 1機

IL-38 対潜哨戒機     2機

 

この時期は、北朝鮮による弾道ミサイル発射に備え、我国のミサイル防衛システムの活動が活発なっている。ロシア軍はこれに合わせて、電波情報の収集を行い、同時にレーダー基地等に対する巡航ミサイル攻撃演習や対潜水艦攻撃演習などを実施したものと思われる。すなわち、レーダー電波の周波数、その変化パターンと傾向の調査、レーダーサイトと、海上展開のイージス艦、陸上配置のPAC-3低層域対空ミサイル部隊などとの通信連絡の詳細、などを探るのが目的だったようだ。

 

以下に3日間のロシア軍機の行動とそれらの性能を紹介し、最後に我国の弾道ミサイル防衛レーダー配備の現状を示す。

 

411日(火)の場合;— 

04-11ロシア機航跡

図1:(統合幕僚監部)4月11日のロシア軍機の航跡。赤線で示すTu-95戦略爆撃機2機は日本海側青森県から石川県能登半島沖を数回にわたり往復している。IL-38対潜哨戒機2機もこれに合わせて飛行した。一方大型のTu-142対潜哨戒機2機は太平洋岸を南下、房総半島沖まで飛来した。

04-11 Tu-95

図2:(統合幕僚監部)4月11日(火)日本海能登半島沖に接近し周回飛行を行い、12日(水)太平洋沿岸を房総半島沖まで接近飛行したロシア空軍戦略爆撃機ツポレフTu-95型機。1956年に配備が始まったが今でもロシア空軍の重要な一翼を担う。1984年から新型のTu-95MSに更新、63機が配備されている。Tu-95MSは各種長射程巡航ミサイルを16基、15トンまで搭載可能で、我国全域がその射程に入る。軸馬力14,800hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925km/hr、航続距離は6,400km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。

04-11 Tu-142

図3:(統合幕僚監部)4月11日(火)と14日(金)に太平洋沿岸房総半島沖に飛来したツポレフTu-142対潜哨戒機。空軍のTu-95戦略爆撃機を改造した海軍用哨戒機で、1972年から配備が始まり現在15機を運用中。全長53.1 m、翼幅50 m、離陸重量185㌧、行動半径は6,500 km。

04-11 IL-38

4:(統合幕僚監部)イリューシンIL-18型4発ターボプロップ旅客機を基本にして、対潜哨戒機に改装したのがIL-38。1967年初飛行、以来40機近くがロシア海軍で使われている。IL-18の胴体を4m伸ばし、主翼を前方に移動し、尾部にはMAD(磁気探知装置)を装備している。前部胴体の下にあるドームはレーダー。胴体前後には兵装庫があり対潜魚雷などを収納できる。4月11日と同14日に2機ずつ、いずれも日本海沿岸に飛来した。

 

412日(水)の場合;—

Tu-95 戦略爆撃機   2機

IL-20 電子戦情報収集機 1機

04-12 ロシア機行動

図5:(統合幕僚監部)4月12日(水)のロシア軍機の飛行経路。戦略爆撃機Tu-95 2機は北海道北方領土から本州東岸を房総沖まで飛行、反転引き返した。一方日本海側沿岸には電子情報収集機IL-20の1機が飛来した。

04-12 Tu-95

図6:(統合幕僚監部)4月12日(水)太平洋沿岸を房総半島沖まで接近飛行したロシア空軍戦略爆撃機ツポレフTu-95型機。詳しくは図2を参照。

04-12 IL-20

図7:(統合幕僚監部)4月12日(水)日本海沿岸の青森、秋田、新潟沖に接近した電子情報収集機イリューシン(Ilushin) IL-20。1950-1960年に約600機作られたイリューシン旅客機Il-18を、電子戦情報収集機に改修し”IL-20 Coot”と呼ぶ。クズネツオフ製NK-4またはイフチェンコ製AI-20ターボプロップ(4,000shp)4基を装備、最大離陸重量64㌧、航続距離6,500km。前部胴体下に長さ9mのSLAR(Side Looking Airborne Radar)ポッドを装備、胴体頂部には通信傍受用アンテナ2個が見える。乗員5人と情報蒐集要員8名が乗務する。1968年に初飛行、約20機が運用中。

 

414日(金)の場合;—

Tu-142 対潜哨戒機   2機

Su-24 攻撃機          1機

IL-20 電子戦情報収集機 1機

IL-38 対潜哨戒機     2機

04-14ロシア機行動

図8:(統合幕僚監部)4月14日(金)のロシア軍機の飛行経路。図のように4方向から飛来した。Tu-142対潜哨戒機2機は北海道東岸の北方4島上空から太平洋岸房総半島沖に飛来、反転。Su-24攻撃機1機、IL-20電子戦情報収集機1機、IL-38対潜哨戒機2機、はいずれもシベリア東岸の基地から飛来、日本海沿岸を飛行したが、IL-20は対馬北端まで往復飛行をした。

04-14 Tu-142

図9:(統合幕僚監部)4月14日(金)に太平洋沿岸房総半島沖まで飛来したツポレフTu-142対潜哨戒機2機のうちの1機。詳しくは図3を参照。

04-14 Su-24

図10:(統合幕僚監部)4月14日(金)空自機撮影のスーホイ24(Su-24)、NATOでは「フェンサー(Fencer)」と呼ぶ超音速攻撃機。可変後退翼、双発、乗員2名で、2014年10月、2015年4月、にも本州北部沿岸に飛来した。

1973年から1993年までに1,400機が作られ、空軍と海軍で約400機を配備中。Su-24は、新型の対地・対艦ミサイルKh-29の発射を可能とする近代化改修を実施済み。全長22.5m、展張時の翼幅17.6m、最大離陸重量43.8㌧の大型機。エンジンはSaturn AL-21F-3A推力75kN (16,900lbs) を2基。最大速度は高空でマッハ1.35、航続距離はフェリーの場合3,000km。兵装は、8ヶ所のハードポイントにKh-29を含む各種ミサイル、誘導爆弾など合計8㌧を携行できる。Kh-29ミサイルは、重量約700kg、射程10-30km、320kgの炸薬を搭載、原発を含む発電所、レーダーサイト、各種艦艇などの攻撃用として製造が続いている。

04-14 IL-20

図11:(統合幕僚監部)4月14日(金)飛来のIL-20電子戦情報収集機。詳しくは図7を参照。

04-14 IL-38

図12:(統合幕僚監部)4月14日(金)飛来のIL-38対潜哨戒機。詳しくは図4を参照。

 

 

我国の防空レーダーサイトの配備図;—

我国は航空自衛隊が全国各地に防空レーダーサイトを配置、自動警戒管制組織に組込み、接近する飛翔体を探知、常時防空の任務についている。サイトが探知したデータは全国4カ所の防空指揮所に伝えられ、必要に応じ迎撃戦闘機の緊急発進などが行われる。しかしレーダーサイトは、ジャミングや対レーダーミサイルなどの攻撃に弱く、防衛体制の充実が緊急の課題となっている。

空自レーダー配置図のコピー

図13:(航空自衛隊)我国の防空レーダー配備図。赤字で示す「大湊」、「佐渡」、「下甑島」及び沖縄の「与座岳」の4箇所には長距離で弾道ミサイルの発射を探知する ”FPS-5”レーダーが配備されている。青色で示す「当別」、「加茂」、「輪島」、「大滝根山」、「経ヶ崎」、「笠取山」、「背振山」、の7箇所には、”FPS-5”で探知した弾道ミサイルを、捕捉・追尾する”FPS-3改“レーダーが設置されている。

“FPS-5”はAESA方式、高さ34mの六角形建物にL、S波帯レーダー1面とL波帯レーダー2面の計3面のアンテナがあり、建物と一緒に回転する方式である。

“FPS-3改”は、AESAレーダーで遠距離、近距離2種類のアンテナを持ち、追尾能力を向上、さらにデコイ電波を発射してホーミング・ミサイルの攻撃を回避できる。アンテナはドーム内に収められ回転する。

この他に、米軍のハワイ、グアム両基地に配備済みのTHAAD中層域防空ミサイルの前進基地レーダーとして、X波帯・可搬式レーダー“AN/TPY-2”が、青森県車力分屯地と京都府経ヶ崎分屯地に配備されている

 

—以上—