ロシア海軍艦艇の動き宗谷海峡で活発化


2017-07-02(平成29年) 松尾芳郎

 

今年の6月後半、北海道北端の宗谷岬沖を往来するロシア海軍艦艇の動きが活発化している。以下は防衛省統合幕僚監部が発表した内容である。この付近でのロシア海軍の動きは頻繁に起きるためか、一般マスコミは無関心で報道していない。

北方4島のコピー

図:北海道宗谷岬付近と北方四島付近の位置関係を示す地図。国後島、択捉島、色丹島、歯舞諸島はロシアが実効支配中で、我国の施政権は及んでいない。

 

29-06-28統幕発表

 

6月27日(火)午前0時、宗谷岬の北北東30 kmの海域を浮上して西に向かうロシア海軍キロ級潜水艦1隻を発見、その後同潜水艦は日本海に入った。

発見、追尾したのは八戸基地海上自衛隊第2航空群所属のP-3C哨戒機と横須賀基地第11護衛隊護衛艦「ゆうぎり」である。

153ゆうぎり

図1:(海上自衛隊)護衛艦「ゆうぎり」(DD-153)は「あさぎり」型の3番艦。1989年2月就役。基準排水量3,500 ton、満載排水量4,900 ton、速力30 kt、兵装は62口径76 mm単装砲1門、74式アスロック対潜弾連装発射機1基、対空機関砲20 mm CIWS 2基、ハープーンSSM 4連装発射筒2基、シースパロー短SAM 8連装発射機1基、など。SH-60Jヘリコプター1機を搭載する。艦齢28年を越す高齢艦である。

06-27 キロ級潜水艦

図2:(統合幕僚監部) キロ級潜水艦はジーゼル・エレクトリック動力の攻撃型潜水艦。ロシア海軍は改良型 (636.3型) を含み28隻を保有するが、2019年から改良型6隻を建造、太平洋艦隊に配備する。キロ級は水上排水量2,300 ton、水中排水量3,000- 4,000 ton、全長70-74 m、水上速力12 kt、水中速力25 kt。動力は1000 kWジーゼル発電機2基、出力6,800 shpのモーターで6または7翅のスクリューを回す。45日間のパトロールができる。潜航深度は230 mと言われる。兵装は口径533 mmの魚雷発射管6門と魚雷18発、爆雷24個、対空ミサイル8発を装備する。636.3改良型は対地・対艦・対潜攻撃ができる巡航ミサイル“カリブー(Kalibur)”の発射能力を持つ。昨年12月にロシアがイスラム国の拠点攻撃に使ったのは潜水艦から発射したこのミサイルであった。中国海軍に新型10隻を含む12隻、インド海軍に旧型10隻、イラン海軍に旧型を3隻、ベトナム会d軍に新型を6隻、それぞれ輸出している。インド海軍によれば、キロ級潜水艦は極めて静粛で、米印合同演習で米軍原潜ロサンゼルス級と渡り合い相手に気付かれずに“撃沈”に成功したという。

 

29-06-27統幕発表

 

6月25日(日)午前9時から26日 (月) 午前6時に掛けて北海道北の礼文島の北西80 kmの海域を北東に進む4隻のロシア海軍艦艇を発見した。これら艦艇は、ロシア太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦1隻、ウダロイI級駆逐艦2隻である。その後いずれも宗谷海峡を東進、オホーツク海に入った。

発見、追尾したのは八戸基地第2航空群所属のP-3C哨戒機と横須賀基地第11護衛隊所属の護衛艦「ゆうぎり」、「やまぎり」、及び大湊基地の第1ミサイル艇隊所属「わかたか」である。

やまぎり

図3:(海上自衛隊) 護衛艦「やまぎり」(DD-152) は「あさぎり」型の2番艦。前掲「ゆうぎり」の説明を参照。前甲板には76 mm単装砲、アスロック対潜弾発射機、煙突の後ろにはハープーン4連装発射筒2基、後部ヘリ甲板の後ろにシースパロー短SAM発射機が見える。「やまぎり」は2016年2月から1年間大谷三穂2等海佐が海自初の女性艦長として勤務、話題となった。

 

以下に宗谷海峡を通過東進したロシア艦艇を示す。

06-25 スラバ級巡洋艦

図4:(統合幕僚監部)艦番号011は1989年就役の「バリヤーク」と呼ばれロシア海軍太平洋艦隊の旗艦で、2008年にオーバーホールを完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃を主任務とする。3隻が現役配備中。両舷4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルが収められている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。これまで度々北海道宗谷海峡沖や対馬海峡近辺に出没している。

06-25ソブレメンヌイ駆逐艦

図5:(統合幕僚監部)ロシア海軍の956型ソブレメンヌイ級駆逐艦は10隻が就役中で、図5の「ブイストルイ(Bystry) 715」はそのうちの一隻。1980-1994年にかけて作られた。蒸気タービン推進艦のため維持に手間がかかるようだ。満載排水量8,500 ton、速力33 kt。対空兵装として30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSAM発射機2基、6連装対戦ロケット砲2基、さらに主砲としてAK-130型130 mm連装砲2基を持つ。艦後部にヘリ1機を搭載する。我が国近海にはしばしば出没する。

06-25ウダロイI級駆逐艦

図6:(統合幕僚本部)「ウダロイI級」ミサイル駆逐艦、艦番号572「アドミラル・ビノグラドフ」。同艦はしばしば日本近海に現れている。ウダロイ(Udaloy)I級ミサイル駆逐艦は満載排水量8,500㌧の大型対潜艦。強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980年から1991年にかけて12隻が就航し、現在8隻が現役にある。太平洋艦隊にはこの内4隻が配備されている.

06-25ウダロイ548

図7:(統合幕僚監部)前掲の説明を参照。

 

29-06-19統幕発表

 

6月17日(土)午後6時、宗谷岬の北北東35 kmの海域を西に進むロシア海軍ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇3隻を発見、追尾した。その後同艦艇は宗谷岬を通過日本海に入った。

発見、追尾したのは第1ミサイル艇隊の余市防備隊配置の「くまたか」である。

827くまたか

図8:(海上自衛隊)「はやぶさ」型ミサイル艇 (PG = guided missile patrol boats) は2000年から2004年(平成12-16年)にかけ6隻が建造された。「わかたか」(PG-825)と写真の「くまたか」(PG827)はこの中に含まれる。他の4隻は舞鶴基地と佐世保基地にそれぞれ2隻ずつ配備されている。「はやぶさ」型は、基準排水量200 ton、全長50.1 m、エンジンはIHIライセンス生産のLM500-G07ガスタービン5,400 hpを3基と付随するウオータージェット推進器。速力最大44 kt、乗員21名、兵装は、艇尾に90式対艦ミサイル連装発射筒2基、前甲板に76 mm単装砲1門などがある。対空戦用のCIWS機関砲は搭載していない。

 

余市防備隊は、海自大湊地方隊の配下部隊で北海道小樽市近くの余市郡余市町にあり、第1ミサイル艇隊の一部が駐留する。大湊地方隊には「わかたか」(825)と「くまたか」(827)の2隻が配備され、秋田県沖から北海道北端の稚内までの広い範囲の日本海海域の警備に当たっている。

06-17ナヌチカIII級

図9:(統合幕僚監部)ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇は、沿岸警備を任務とする大型ミサイル艇で、1990年代に100隻以上整備されたタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇の後継艦。基準排水量570 tonで我が海自の「はやぶさ」型ミサイル艇の3倍近くあり、M-507Aジーゼルエンジン3基を搭載出力30,000 hp、速力は32 ktを出せる。兵装は、射程が150 km近くあると言われるP-120マヒラート対艦ミサイル3連装発射筒を2基備える。また対空戦用に4K33オサーM短SAM連装発射機1基及びAK-639 30 mm CIWS対空機関砲を1基、さらに対水上戦用に57 mm連装速射砲1基を備える。大型であるだけに海自「はやぶさ」級よりはるかに強力な武器を持つ。ロシア海軍ではこの級のミサイル・コルベットを40隻程度保有している。

06-17ナヌチカ418

図10:(統合幕僚監部)前掲の説明を参照。

06-17ナヌチカ450

図11:(統合幕僚監部)前掲の説明を参照。

 

終わりに

以上、今年6月のロシア海軍の宗谷海峡往復の状況を統合幕僚本部の発表を基に述べた。

これは今年4月2日にスラバ級ミサイル巡洋艦と補給艦が、本州北端の津軽海峡を日本海から太平洋に通過し、本州太平洋沖を航行、4月6日に鹿児島県種子島北の大隅海峡に出現・通過、東支那海に入って以来のことである。

最近ロシアとの関係は、北方四島の開発に対する我国からの経済協力の話で持ちきりだが、一方でロシアはこのように対日軍事圧力を緩めてはいない。大型爆撃機による度重なる我国防空識別圏付近の周回飛行、太平洋艦隊への新型艦増強など、脅威はむしろ増大しつつある。この現実に目を背けることなく、対処に一層の努力を払うべきと思う。

 

—以上—