2017-11-29(平成29年) 松尾芳郎
図1:(Zunum Aero) ズーナム航空が開発する12席級の電動コミュータ機「ズーナム2022」。全備重量5.6 ton、うちバッテリー重量1.1 ton、最大出力1MW、巡航速度550 km/hr、航続距離1,100 km。同クラスのピラタスPC-12に比べ、運航コストを3分の1から5分の1にすることを目指している。
自動車の世界では、この数年ガソリンエンジンに変わり電気動力の車が数多く出現してきたが、飛行機の分野でも電気動力機が提案されるようになった。
創立間もないズーナム航空(Zunum Aero) では次世代型電動コミュータ機を開発し、小規模都市を結ぶリージョナル航空で掛かる費用を大幅に削減しようとしている。
ズーナムはシアトル近郊カークランド(Kirkland) に本拠を持ち、ボーイングのベンチャー援助基金ホライゾンX (HorizonX) の資金とジェットブルー航空(JetBlue Airways) からの支援を受けて、リージョナル航空で使う運航コストの安い、10—50席級の電動コミュータ機の開発に乗り出した。
(注) スーナム(Zunum)とは、マヤ(Mayan)の言葉で「ハチドリ(Hummingbird)」を意味する。
ズーナム航空では、このほど初めて開発する飛行機でこの目標を達成すると表明した。最初の飛行機はエコノミー客席数12席(ビジネス席数では9席)のコミュータ機で2022年の就航を目指し、1時間当たりの運航費は260ドル程度に抑える。
最大巡航速度は340 mile (550 km/hr) (大型ジェットでは500 mile)、離陸滑走距離は2,200 ft (660 m) 、航続距離は700 miles (1,100 km)、バッテリー技術が向上する2030年代半ばには航続距離を2,000 milesに伸ばし、同級のピラタスPC-12型機と同じにする。
(注)ピラタス(Pilatus) PC-12型機は、時速518 km.hr、最大11名を乗せ、航続距離3,400 km。単発ビジネス機市場を独占支配している。詳しくはTokyo Express 2017-08-31 “ピラタスPC-12独占の単発ビジネス機市場に、セスナが新型機“デナリ”で参入“を参照されたい。
バッテリーはリチウムイオン(lithum-ion)で、飛行中は搭載するジェットエンジンで充電できる。バッテリー技術が向上すれば、エンジンを取外しバッテリーだけにすることも検討している。
そしてノイズと排気エミッションは 同サイズの機体と比べて80 %も低くなる。
ズーナム機により、米国中に散在するあまり使われてない小さな地域空港に定期便が飛ぶようになり、地方に経済的な恩恵をもたらすことになろう。
ズーナム航空のCEOアシシュ・クマール(Ashish Kumar)氏はTechcrunch社記者のインタビューに答え次にように述べている。
「これまで、あまり運航コストについて話してこなかった。電動航空機にすると信じられないほど安くなるからだ。これが実現すればこれまで作られてきた同クラスの旅客機はとても太刀打ちできない」、「1マイル-1席当たりのコストは僅か8セント程度(前述の1時間当たり運航費250ドルに相当する)、これは一般のビジネスジェットのコストの10分の1に過ぎない」。
続けてクマール社長は、全米に散在する殆ど使われていない空港が5,000箇所あることを示す地図を手元にしながら、これだけの遊休施設を利用してズーナム機で航空輸送を行い、地域を活性化するのが目標だ、と語っている。
ズーナム機は、既存の小さな空港で使えるよう設計され、新たに大規模な燃料補給施設やバッテリー充電設備などの追加配備は不要としている。また、在来機の事業用操縦士免許を持つパイロットであれば、容易に移行できる。
ズーナム機は、動力源を任意に変換できるよう作られている;—
つまり“ハイブリッドーエレクトリック (hybrid-to-electric)”と呼ばれているように、燃料タンクのサイズを小さくし追加のバッテリーと積み換えることもできる。またバッテリー技術が向上すれば機体の大掛かりな改修をせずに、完全な電動飛行機にすることもできる。
利用者の利益はどうなるか? クマール社長は「旅行に要する時間は劇的に短縮される。例えば首都ワシントンDCからボストンに行く“ドアto ドアの旅行”の場合4時間50分を要していたのが、ズーナム機を使えば2時間30分で済む。また、旅行費用も現在の航空運賃で400ドルだったものが140ドル程度になる。
カリフォルニアでの旅行を例にしてみよう。サンフランシスコ郊外のサンノゼ(San Jose)からロスアンゼルスへの “ドアtoドア旅行”は平均で4時間40分掛かるが、ズーナム機では2時間15分に短縮され、料金はほぼ120ドル程度で済みそう。
この飛行機が得意とする路線の例を挙げると;—
シアトルの南にあるボーイング・フィールド(Boeing Field)、あるいは、北にあるエベレット(Everett)のペイン・フィールド(Paine Field)から、モンタナ州ミソーラ(Missoula, Mont.)、カナダのブリテイッシュ・コロンビアにあるウイスラー(Whistler, B.C.)、オレゴン州ポートランド(Portland, Ore.,)、カリフォルニア州のサクラメント(Sacrament, Calif.,)など、を結ぶ路線である。例えばシアトルからウイスラーへスキーに行くのに、時間は2時間弱、料金は79ドルで済む。
幹線を飛ぶ旅客機は混雑するハブ空港を利用し、そこから離れたターミナルでリージョナル機に乗らなければならない手間、さらに安全検査やチェックイン行列待ちでかなりの時間が掛かる。これに対しズーナム機を使う人は、大型機より速度は劣るが、旅行者の居住地に近い小さな空港を使うので、安全検査、チェックインなどの時間がずっと少なく、旅行全体にかかる時間を短縮できる。
これはビジネスジェットを使い旅行する人にも当てはまる。
図2:(Google) ズーナム航空の電動コミュータ機2022型の運航に適する路線の例。ボーイング・フィールド/タコマからのおよその距離は、ポートランド/200 km、ウイスラー/400 km、サクラメント/1,000 kmで、ズーナム機の航続性能で十分カバーできる。
図3:(Zunum Aero Graphic) ズーナム・エアロ2022型機。主翼搭載のバッテリー動力で電動ファンを回し推力を得る。バッテリーは交換可能。”V”字型尾翼の間に付けた小型ターボジェットは、推力を出すと共に巡航中はバッテリーの充電に使える。
ズーナム社では2019年にシカゴ(Chicago) に新しい開発センターを開設、それに合わせて2022型機の地上試験を行い初飛行する。2022年までに4-6機を製作してFAA型式証明を取得、顧客へ引渡しを開始する。また次世代型航空管制システム(NextGen ATC)も念頭に置き、FAA認定のADS-Bシステムの搭載を検討している。
FAA型式証明取得後は毎年100-200機を製造する予定という。
ADS-Bとは「Automatic Dependent Surveillance-Broadcast」(自動従属監視—放送システム)の略で、全米の全ての空域を監視する次世代型 (US NextGen)航空監視システムである。FAAにより「2020年1月1日より全米の航空管制空域を飛行するあらゆる動力付き航空機はADS-B装置を搭載すべし」と決められている。
航空管制当局 (ATC=Air Traffic Controller) が航空機の位置を把握するには、衛星を通じて知るか、航空機から正確な位置情報を通告/放送させる必要がある。また、飛行中の自機側は、他機の位置情報を知ることで自機との間隔が判り安全飛行が確保される。
ADS-Bは“自動(Automatic) ”なのでパイロットが操作せずに自動的に位置情報を送信する。また、“従属 (Dependent) ”とは自機の航法システムから出されるデータに従った内容を送信することを意味している。
航空機から送信されるADS-Bには、レーダーと同じように送信と受信の二つのモードがあり、それぞれ ”ADS-B Out” および ”ADS-B In”と呼ばれる。
“ADS-B Out” は、自機からは周期的に、標識記号、現在位置、高度、速度、を送信する。また管制当局 (ATC) からは従来のレーダー情報より正確な各機の位置情報が近傍の各機に知らされる。
“ADS-B In” では、ATCから送信される最新の気象情報、および、近くを飛行中の他機の位置情報などを受信する。
ADS-Bシステムは、高精度のGPS航法装置とADS-B 装置と呼ぶデータリンク装置の二つからなる。ADS-Bデータリンク装置は、大多数が1090 MHz波帯を使う改良型モードSトランスポンダー機能を備えている。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week October 16-29, 2017 “Regional Revivalist” by Graham Warwick
Techcrunch.com Oct. 5, 2017 “How Zunum Aero’s hybrid-electric Planes Aim to transfprm flight starting in 2022” by Darrell Etherington
GeekWire Newsletter Oct. 5, 2017 “Zunum unveils its electric airplane design for 2022-and adds to its team in Chicago” by Alan Boyle
Federal Aviation Administration “ADS-B”