ロシア空軍戦略爆撃機2機が我国の太平洋岸沿岸の全域を往復飛行


2018-02-25(平成30年) 松尾芳郎

 

防衛省統合幕僚監部(平成30-02-20)によれば、同日ロシア空軍のTu-95型戦略爆撃機2機が我国北方領土の国後島・択捉島間を通過南下し、本州太平洋側の我国防空識別圏(ADIZ)内を侵犯飛行した。2機は南下を続け伊豆諸島の御蔵島と八丈島の間を北西から南東に向け通過してからさらに足を伸ばし、南大東島の南方沖を周回してから北東に変針した。そして沖縄列島東岸沖から本州南岸を北東に進み往路とほぼ同じ経路を飛行、北海道北部周囲を飛んだ後シベリヤ方面に立ち去った。

航空自衛隊は、三沢(北部航空方面隊)、百里(中部航空方面隊)、新田原(西部航空方面隊)、那覇(南西航空方面隊)などの各基地から戦闘機を緊急発進させて領空侵犯に備えた。

防空識別圏を侵犯飛行したTu-95戦略爆撃機は、図1説明のように多数の巡航ミサイルを搭載でき、今回の経路で日本全国がその射程に入った。

昨年(2017) 10月30日に、同型機2機が本州日本海側舞鶴付近で我が国防空識別圏(ADIZ)に侵入した件に続く事案である。この時はそのまま能登半島、佐渡島、男鹿半島沖を北上し、北海道宗谷岬沖を経て、北海道をほぼ半周し、そこから宮城県沖を南下、千葉県の犬吠埼沖に達しそこで反転北上、同じコースを通り宗谷岬沖から退去した。

本件は我国安全保障上極めて憂慮すべき案件であるにも関わらず、我国メデイアは折からの平昌冬季オリンピックに目を奪われ、一部新聞を除き本件について全く触れていない。

Tu-95写真

図1:(統合幕僚監部)2月20日に空自戦闘機が撮影したロシア空軍戦略爆撃機ツポレフTu-95型機。1956年に配備が始まり今でもロシア空軍の重要な一翼。これまでにも頻繁に我国周辺の防空識別圏を侵犯、示威飛行をして空自の対応を試し、対空レーダー機能の偵察を含む飛行を行なっている。現在は新型のTu-95MSが63機配備されている。今回飛来したのは、2017年8月22-24日、同10月30日、と同様、Tu-95MSである。軸馬力14,800hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925km/hr、航続距離は6,400km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。

Tu-95MSは、ラドガ(Raduga)Kh-15巡航ミサイルを6発、胴体内のドラムランチャーに搭載可能。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga)Kh-55巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発、合計16発を搭載する。

Kh-15は超音速対地攻撃用で、射程は300 km、発射後高度40,000 mに上昇、それから目標に向かい急降下して速度マッハ5に加速、目標に着弾する。

Kh-55は亜音速対地攻撃用で、射程は2,500 km、速度マッハ0.75、核弾頭搭載可能で中国に輸出している。

Tu-95航跡

図2:(統合幕僚監部)2月20日本州太平洋沿岸沖合を往復飛行したロシア空軍戦略爆撃機Tu-95型2機の航跡。我国全域はTu-95が搭載する各種巡航ミサイルの射程圏内に入る。

日本ADIZ地図

図3:参考に我国の防空識別圏(ADIZ= Air Defense Identification Zone)を示す。日本の防空識別圏は、大東亜戦直後の1945年(昭和20年)に米軍が設定した空域をそのまま踏襲し、当時の防衛庁により昭和44年(1969年)に設定された。その後中国が平成25年(2013年)11月に尖閣諸島の領有権を持ち出し、自国の防空識別圏を拡大し現在に至っている。我国政府は中国による一方的な防空識別圏設定を認めていない。

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