2018-08-04(平成30年) 松尾芳郎
防衛省統合幕僚監部が発表した7月のロシア、中国、の海空軍が我国周辺で活動した状況は次の7件である。これ以外にも、中国海軍は7月中旬に東支那海で大規模な演習を行った。またロシア軍は択捉島で大規模な軍事演習を実施、さらに択捉島に戦闘機の配備を開始している。ロシア海軍情報管理局ブログ(8月3日)によるとロシア太平洋艦隊の原子力潜水艦「クズバス」は、単独でオホーツク海で敵艦隊を攻撃する演習を行なった。さらに、7月下旬から8月上旬にロシア・中国の共同主催、2018年国際兵器競技演習(IAG 2018= International Army Games 2018)が開催されている。これには中露両国製の兵器を購入しているイラン、ベネズエラ、などの反米諸国が参加している。IAG 2018については最後に簡単に紹介する。
このように我国を取り巻く軍事情勢はいささかも変わっていない。北朝鮮が核、ミサイル放棄を約束したというので、イージスアショアの配備を見直すべしとの声もあるが、実情はさほど簡単ではない。ロシアSputnik通信(8月4日)によれば「北朝鮮は核開発及びミサイル開発を放棄しない」と報じている。
- 7月2日発表:6月29日(金)ロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻が宗谷海峡を西に向け通過日本海に入った。海自第1ミサイル艇隊余市基地所属の「くまたか」および第2航空群八戸基地所属のP-3C哨戒機が発見、追尾した。これらは6月3日宗谷海峡を東航したものと同じ。
図1:(統合幕僚監部)海自ミサイル艇「くまたか」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(954)。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装は前記SS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。
図2:(統合幕僚監部)同じく海自ミサイル艇「くまたか」撮影のロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(971)。
- 7月2日発表:7月1日(日) ロシア海軍ウダロイI級駆逐艦2隻およびドウブナ級補給艦1隻が東支那海から対馬海峡西側を北上、日本海に入った。海自第14護衛隊舞鶴基地所属の「あさぎり」と第4航空群厚木基地所属のP-1哨戒機が発見、追尾した。諸般の状況からこのロシア艦隊は、南支那海あるいは東支那海で中国海軍と演習を行い、帰途についたところだと推測される。
図3:(統合幕僚監部)海自護衛艦「あさぎり」が撮影したウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦(564)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中。太平洋艦隊には4隻が配備されている。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。同型艦(548)が今年1月6日に東シナ海から対馬海峡を抜け、日本海に入った。
図4:(統合幕僚監部)海自護衛艦「あさぎり」が撮影。説明は図3を参照。
図5:(統合幕僚監部)海自護衛艦「あさぎり」が撮影したドウブナ型中型海洋給油船「ペチェンガ」。1979年就役、満載排水量9,000 ton、速力16 knot。
- 7月13日発表:7月13日ロシア空軍Tu-95爆撃機2機が対馬海峡南側空域を通過、それぞれ東支那海と日本海に入った。空自戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。
図6:(統合幕僚監部)7月13日ロシアTu-95戦略爆撃機2機の航跡。
図7:(統合幕僚監部)緊急発進した空自戦闘機が撮影したロシア空軍Tu-95戦略爆撃機2機のうち1機。ツポレフTu-95型機は1956年配備開始の古い機体だが、現在は改良型Tu-95MSとなり63機が配備中。軸馬力14,800hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基、最大離陸重量185㌧、最高速度925km/hr、航続距離は6,400km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga)Kh-15巡航ミサイル、射程300 kmを6発、胴体内のドラムランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga)Kh-55亜音速対地攻撃用、射程2,500 kmの巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発、計16発を搭載する。
- 7月17日発表:7月16日(月)ロシア海軍ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻が宗谷海峡を東に向け通過、オホーツク海に入った。海自第1ミサイル艇隊余市基地所属の「わかたか」が発見、追尾した。これらは6月5日に宗谷海峡を日本海に向け航行したものと同一である。
図8:(統合幕僚監部)海自ミサイル艇「わかたか」が撮影。ナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇は、沿岸警備用の大型ミサイル艇で、1990年代に100隻以上整備されたタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇の後継艦。基準排水量570 tonで、発見した「わかたか」ミサイル艇の3倍近くあり、M-507Aジーゼルエンジン3基を搭載出力30,000 hp、速力は32 kt。兵装は強力で、射程150 kmのP-120マヒラート対艦ミサイル3連装発射筒を2基備える。対空戦用に4K33オサーM短SAM連装発射機1基及びAK-639 30 mm CIWS対空機関砲を1基、さらに対水上戦用に57 mm連装速射砲1基を備える。ロシア海軍では同級を40隻ほど所有している。
図9:(統合幕僚監部)海自ミサイル艇「わかたか」が撮影。説明は図8を参照。
- 7月17日発表:7月16日(月)ロシア海軍タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻が宗谷海峡を西に向け通過、日本海に入った。海自第15護衛隊大湊基地所属「ちくま」と第1ミサイル艇隊余市基地所属の「くまたか」が発見追跡した。
図10:(統合幕僚監部)海自護衛艦「ちくま」またはミサイル艇「くまたか」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(921)。説明は図1を参照。
図11:(統合幕僚監部)海自護衛艦「ちくま」またはミサイル艇「くまたか」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(978)。
- 7月27日発表:7月27日(金)中国空軍Y-9情報収集機1機が東シナ海から対馬海峡西側の空域を通過、日本海に入り、反転、同じ航路を取り東支那海に戻った。空自戦闘機が緊急発進、領空侵犯を防いだ。
図12:(統合幕僚監部)7月27日中国空軍Y-9情報収集機の航跡。
図13:(統合幕僚監部)空自戦闘機が撮影した中国空軍Y-9 情報収集機・機体番号9211は、去る1月29日、2月27日、6月4日、東支那海から対馬海峡経由、日本海に入り、反転、同じコースで立ち去った機と同一機。写真で見ると、機首と胴体側面前後にアンテナを収める膨らみがあるので「Y-9JB」型らしい、通信、レーダー波、などを傍受し諜報活動を行うELINT型と思われる。基本形は空軍用中型輸送機Y-9で、全長36 m、翼幅38 m、全備重量65 ton、貨物積載量20 ton、航続距離1,000 kmとされる。
- 7月27日発表:7月27日)金)中国海軍ジャンカイI級フリゲート1隻が対馬海峡南西側を通過、日本海から東支那海に向かった。海自第4航空群厚木基地所属のP-1哨戒機が発見、追尾した。
図14:(統合幕僚監部)海自P-1哨戒機が撮影した045型ジャンカイ/江凱I級フリゲート(526温州)満載排水量3,800 ton。江凱I級は西側技術を導入した試験艦で建造は2隻。これを基に改良、大型化した045A型/江凱II級は僚艦防空能力を備えたフリゲートとなり、30隻が建造されている。
中露両国主催の2018年国際兵器競技演習(IAG 2018)
中国軍の英文サイト“China Military (8月2日) ” によると、中国、イラン、ロシア、ベネズエラ、などの各国軍が参加して、中露各地で、7月30日から8月10日にかけて、2018年国際兵器競技演習(IAG 2018)を実施中である。兵器競技と称しているが、実態は中露両軍の合同演習で、その中には次の項目が含まれている。;—
①台湾海峡に面した福建省の沿岸Quanzhou/泉州市で上陸作戦演習を2日間に渡り実施した。
②中国ウイグル自治区Xinjiang地区演習場で、対空ミサイル発射、対地攻撃射撃演習などが行われた。
③7月29日からはロシア・モスクワ南東約200 kmのRyazan地区で、中国、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン各國空軍が参加する”Aviadarts 2018” 演習を実施中。中国空軍からはH-6K爆撃機、J-10A戦闘機、JH-7A爆撃機などが参加している。
図15:(Chinamil.com.cn/Photo by Yang Pan) “Aviadarts 2018”演習に参加、離陸のため滑走路に向かうH—6K爆撃機。
図16:(Chinamil.com.cn/Photo by Yang Pan) “Aviadarts 2018”演習に参加、離陸体勢に入った中国空軍のJ-10A戦闘機。
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