2018-09-22(平成30年) 松尾芳郎
プーチン大統領は9月11日ウラジオストックで行われた安倍首相との会談で「前提条件なしで平和条約を結ぼう」と提案した。そして北方四島返還問題は条約締結後改めて話し合いたいと述べた。我国の一部メデイアはこれを前向きに受け止め評価している。
一方で首脳会談の数日前には、日露戦争以来と云われる28隻のロシア大艦隊がオホーツク海から宗谷海峡を抜け日本海に入った。その後も我国周辺でのロシア軍の動きは活発で、我が国に対する軍事的圧力が続いている。統合幕僚監部の公表によると;—
- 9月13日公表:「ロシア海軍艦艇の動向について」
9月12日早朝、ウダロイI級駆逐艦、ステレグシチー級フリゲート、アムール級工作艦、各1隻、合計3隻が日本海から宗谷海峡を抜けオホーツク海に入った。発見追尾したのは大湊基地第15護衛隊所属護衛艦「はまぎり」。
- 9月14日公表:「ロシア海軍艦艇の動向について」
9月14日早朝、スラバ級ミサイル巡洋艦、ソブレメンヌイ級駆逐艦、各1隻とウダロイI級駆逐艦2隻の計4隻が日本海から宗谷海峡を抜けオホーツク海に入った。発見追尾したのは余市分屯地第1ミサイル艇隊所属「くまたか」。
- 9月19日公表:「ロシア機の日本海における飛行について」
9月19日ロシア空軍Su-35戦闘機1機、Su-24戦術偵察機1機、および機種不詳1機が日本海側の新潟県佐渡島沖から秋田県男鹿半島沖に接近、反転して立ち去った。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。
- 9月19日公表:「ロシア海軍艦艇の動向について」
9月18日午後スラバ級ミサイル巡洋艦1隻、ウダロイI級駆逐艦1隻がオホーツク海から宗谷海峡を抜け日本海に入った。発見追尾したのは大湊基地第15護衛隊所属「はまぎり」と余市分屯地第1ミサイル艇隊所属「くまたか」。このうちスラバ級ミサイル巡洋艦は9月14日に宗谷海峡を抜けオホーツク海に入ったものと同一である。
さらに防衛省発表ではないが、ロシアのタス通信は次のように伝えている。
- 9月15日付けタス(TASS)通信;—
9月11日—17日の間、ロシア極東及び太平洋隣接海域で、ロシア最大規模の演習「ボストーク(Boctok) 2018」を実施した。演習には30万名の将兵、1,000機以上の航空機、3万6000両の戦車・装甲車、および北方艦隊と太平洋艦隊から80隻の艦船が参加した。演習では、空軍の支援で海軍歩兵部隊が沿海州沿岸のクレルカ岬への上陸も行われた。上陸作戦は太平洋艦隊所属の複合測定艦マルシャル・クリロフの指揮で行なわれた。
以下に写真と解説を、順を追って述べる。
- 9月13日公表:「ロシア海軍艦艇の動向について」
図1:(統合幕僚監部) ロシア海軍情報管理局では「大型対潜艦」と呼んでいる。ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦(548)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリコプター2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備する。1980—1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中。太平洋艦隊には4隻が配備されている。日米両海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。
図2:(統合幕僚監部) ロシア海軍では本級を「最新鋭コルベット」と呼んでいる。ステルス形状で、水中抵抗も従来船型より25%減となった。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新式の閉囲型で内部に各種レーダーが装備されている。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載用に改良した対空ミサイルを12セルVLS(垂直発射装置)に装備。さらに対艦用に3M24ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載。比較的小型だが高性能のフリゲートである。太平洋艦隊には2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」(333)が配属されている。同型艦は4隻が就役済みで、3隻はバルチック艦隊に配備。現在3隻が建造中でいずれも太平洋艦隊に配属される予定。
図3:(統合幕僚監部)
- 9月14日公表:「ロシア海軍艦艇の動向について」
図4:(統合幕僚監部) 「新鋭ロケット巡洋艦」と呼ぶ「ワリヤーグ」(011)は太平洋艦隊の旗艦。1989年就役だが、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で空母機動部隊攻撃が主任務。3隻が現役配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程距離700km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン」対艦ミサイルが装備されている、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載している。度々北海道宗谷海峡や対馬海峡近辺に現れている。
図5:(統合幕僚監部)「ソブレメンヌイ級駆逐艦21隻をロシア海軍では956型と呼ぶ。満載排水量8,500 ton、全長156 m、速力33 kt。対空兵装は30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSAM発射機2基、6連装対潜ロケット砲2基、両側にKT-190 4連装艦対艦ミサイル(モスキート)発射機を備える。さらに主砲としてAK-130型130 mm連装砲2基を持つ。艦後部にヘリ1機を搭載する。我が国近海にはしばしば現れている。
図6:(統合幕僚監部)詳しくは図1説明を参照。
- 9月19日公表:「ロシア機の日本海における飛行について」
図7:(統合幕僚監部)9月19日3機のロシア機が新潟県の佐渡島沖に飛来、北東に変針、秋田県男鹿半島沖で北西に向きを変えシベリアに立ち去った。防空識別圏は侵犯したが、領空侵犯はなかった。航空自衛隊戦闘機が緊急発進、監視追尾した。
図8:(統合幕僚監部)スーホイSu-35は、スーホイ設計局が設計、コムソモリスク(Komsomolisk) アムール航空機工場で生産中。基本のSu-27を数次に渡って改良、Sukhoi PAK FA )Su-57)とも呼ばれたが、2009年にSu-35Sとしてロシア空軍が採用、71機を発注済み。中国が24機発注しうち14機を受領、インドネシアが11機発注している。アメリカ政府は9月20日、本機を購入した中国政府の担当部局とその幹部に対し、国内法に基づき制裁対象とし、米国内資産を凍結した。
図9:(Tass Russian News Agency) Su-35は、単座、双発、多目的戦闘機で、エンジン排気孔に推力偏向ノズルを付け、高い機動性を持つ。最高速度は2,500 km/hr、航続距離は3,400 km、戦闘行動半径は1,600 km。翼下面に12カ所のハードポイントがあり、各種ミサイル合計8 tonを携行する。最大離陸重量34.5 ton、エンジンはSaturn Al-41F1Sアフとバーナ時推力31,900 lbs(142 Kn)を2基。
図10:(統合幕僚監部) 2018-09-07でも紹介した本機は、今年3回目の我が国防空識別圏を侵犯した。スーホイ(Sukhoi)Su-24攻撃機の後期量産型Su-24Mを偵察機型に改装しSu-24MRと呼ぶ。機首にはBKR-1側方視認レーダー、胴体下面には赤外線センサー、電子偵察機材、各種カメラを搭載、主翼下面には電子情報蒐集のELINTポッドを備えている。ロ空軍の戦術偵察機の主力。
基本形のスーホイ(Sukhoi) Su-24フェンサー(Fencer)は、超音速の全天候攻撃機で、可変後退翼、双発で並列座席に乗員2名が乗る。1974年就役開始、1993年までに約1,400機が作られた。航続距離3,000 km、爆弾・ミサイル搭載量は8 ton。構造、電子装備の近代化改修が行われSu-24M2として配備されている。最大離陸重量は43,8 tonの大型機で、可変後退翼は飛行モードに応じて4段階にセットできる。エンジンはサターン(Saturn)AL-21F-3A、アフトバーナ付き推力24,700 lbsが2基。ロシア空軍では各種合わせて約370機を配備している。
- 9月19日公表:「ロシア海軍艦艇の動向について」
図11:8統合幕僚監部)詳しくは図4を参照。
図12:(統合幕僚監部) 詳しくは図1を参照。
- 9月15日付けタス(TASS)通信;—
図8:(ロシア海軍情報管理局)「ボストーク2018」大演習に参加した駆逐艦「ブイストルイ」はオホーツク海で超音速対艦ミサイル“モスキート”を発射した。
P–270“モスキート”は固体燃料ロケット・ラムジェット統合推進(IRR)方式で、発射後ロケットで加速、固体燃料がなくなると、ここがラムジェットの燃焼室に変わり飛行する。射程は200 km前後。全長約10 m、直径74 cm、重量4.5 ton。速度はマッハ2.2 / 低空、マッハ3/ 高空。
図9:(Wikipedia)モスキートの弾頭には320 kgの炸薬が搭載され、目標手前5-7 kmまで接近すると高度を10 m以下に下げ、超低空を10 – 15 Gの高速S字飛行をしながら目標に突入する。
図10:(ロシア海軍情報管理局)艦首から見た“ソブレメンヌイ級駆逐艦(956型)「ブイストルイ」の写真。左舷(写真では右側)に対艦ミサイルモスキートを発射した4連装対艦ミサイル発射筒が見える。”ソブレメンヌイ級駆逐艦“については図5の説明を参照のこと。
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