アベノミクスの急所か
2013-08-19 やぶにらみ左膳
安倍首相が、来年4月実施予定の消費税の3%引き上げの最終判断を秋に先送りしたが、有力経済人は「長期金利の指標となる10年国債の金利が、1%上がると、国債残高1千兆円に近い政府の金利負担は、年10兆円増えてしまう。単純計算で、消費税4%分が軽く吹っ飛んでしまい、財政再建が必須の日本経済全体に与える打撃は測りしれない」-と消費増税の予定通り実施により、超低利な長期金利の維持を促した。消費増税が予定通り実施されないと、内外で日本国債が売られ、長期金利が急騰するとの見方が強い。
財務省が最も恐れる長期金利の上昇に対して、日銀は4月から毎月7兆円程度の大量の長期国債などを市場から購入して金利を意図的に押し下げている。長期金利は、現在年0・8%前後の低い水準で一応推移しているが、5月には一時、過去最低の0・3%から1%に急上昇し、黒田日銀総裁をヒヤリとさせる危うい局面があった。この時、「安倍首相に信認が厚いとはいえ、黒田総裁がいろいろしゃべりすぎる」と、経済界からブーイングが上がった。大量の国債を抱え込む銀行は、長期金利急上昇により自動的に国債価格は下がるため、巨額の含み損が発生する。産業界は、銀行から借りる時の金利が上がりかねない。円安で経営が好調になった輸出産業中心に、資金需要が出始めている矢先の金利急騰だった。
ニューヨーク株式市場は、米国経済の自信回復をバネにして史上空前のブームが続き、米銀も4へ6月期の好決算に沸く。その一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が5月、大量の国債購入政策を秋にも縮小するとの方針転換を示して以来、長期金利が1%も急騰してしまい、米金融界の片方の目は、長期金利の動向にくぎ付けになる、神経質な展開が続く。国債など債券運用の世界最大手、米ピムコなどは、債券価格の下落で相応の痛手を受けた。
米国経済が大方の予想通り順調な回復軌道をたどる中で、大量国債購入政策が9月にも縮小された場合、長期金利が、現在の年2%台後半から切り上がっていくのが、経済の最も自然な流れだ。2008年のリーマン・ショツクによる世界金融危機を機に強化された日米欧の超低金利政策は、緊急避難措置とはいえ、やはり前代未聞の異常政策なのだ。
今後、米国の長期金利の上昇の可能性が強い中、脱デフレを掲げる日銀は、物価上昇率2%を目指して後1年半も国債の大量購入政策を進める。欧州中央銀行は、スベインなど低迷する南欧の国債金利急騰が恐ろしいため、超低金利政策を続ける見通しだが、日銀のような本格的な大量国債購入政策に踏み切るかは、欧州共同体(EU)経済を仕切るドイツの反対が強く疑わしい。このため、来年以降、縮小するFRBの国債大量購入政策の肩代わりを日銀が務め、世界中へのマネー供給源となる公算が出てくる。先がよく読めない、未体験で不気味な国際金融時代の到来といっていい。
「(長期金利動向など)なにが起きるか分からないから、細心の注意を払って当れ」-と、国内の銀行などの金融経営者が、社内の資金運用担当者に厳重警戒を指示するのは当然だろう。黒田日銀が、今後、目論見通りに機能するか誰もが不安なのだ。先の4へ6月決算発表では、大量の国債を抱えてきた銀行は、軒並み国債を売り保有残高の圧縮に走って警戒する。消費増税は、よく時の政権を倒す政治的難題などと言われてきた。しかし、今は、長期金利急騰が政権にとっての一番の経済的急所ではないか。 (世界経済分析チーム)