令和3年7月、我国周辺における中露両軍の活動と我国/同盟諸国の対応


2021-08-03(令和3年) 松尾芳郎

令和3年7月、我国周辺における中露両軍の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し、それぞれの公的部門から多くの発表があった。以下にその項目と内容を紹介する。注目すべきニュースは次の通り;―

  • 英空母打撃群との共同訓練
  • ロシア太平洋艦隊、ハワイ沖演習から帰還
  • 第1空挺団、グアム島まで飛行しパラシュート降下訓練を実施
  • 豪州東方海域で多国間共同訓練パシフィック・バンガード21に参加
  • 豪州東方海域で多国間共同訓練タリスマン・セイバー21に参加
  • ヘリ空母「かが」を中心とする艦隊、インド太平洋諸国を歴訪
  • 米空軍、F-22など多数をグアムに集結、緊急即応演習を実施
  • 防衛白書発表と中国の過剰な反応

(The military threats by Russo-Chinese Forces around Japan and Taiwan were reported as active. Following eight were noteworthy;-1) UK Aircraft Carrier Strike Force conduct maritime exercise with Japanese at gulf of Aden. 2)Russian Pacific Fleet returned home port after exercise nearby Hawaii. 3) Japan’s 1st Airborne Brigade troop conducts direct flight to Gum and paratroop exercise. 4) Japan’s Maritime Force join the Pacific Vanguard 21 multi-national exercise at Eastern Sea of Australia. 5) Japan’s Navy participate the multi-national Exercise Talisman Saber 21 around Eastern Sea of Australia. 6 ) Helicopter Carrier “Kaga DDH 184” and other vessels will visit Indo-Pacific Nations in August. And others.)

防衛省

7月13日発表 英空母打撃群艦艇との海賊対処共同訓練の実施について

7月11日、12日の両日、アデン湾において護衛艦「せとぎり」は、英海軍「クイーン・エリザベス(Queen Elizabeth)」、フリゲート「リッチモンド(Richmond)」および「ケント(Kent)」、補給艦「タイドスプリング(Tide Spring)・A136」および「フォート・ビクトリア(Fort Victoria)」からなる空母打撃群(CGS 21)、米海軍駆逐艦「ザ・サリバンス(The Sullivans)」、オランダ海軍フリゲート「エファーツエン(Evertsen)」、等と海賊対処のための共同訓練を実施した。今回の共同訓練は「CGS 21」が本年5月に英国を出港してから海自と行う初の共同訓練であり、今後とも「自由で開かれたインド太平洋」の維持・強化に向けて共同訓練を続ける予定である。

「CGS 21」とは「The UK’s Carrier Strike Group 2021」の略で、「クイーン・エリザベス」を中心とする英海軍艦艇に米「ザ・サリバンズ」、オランダ「エファーツエン」を含んだ打撃群を意味する。

本件に関し統合幕僚監部からも同様の発表があった。

図1:(統合幕僚監部)アデン湾のもう気で良く見えないが、奥が英空母「クイーン・エリザベス」、手前が海自護衛艦「せとぎり(156)」。「クイーン・エリザベス」は2017年就役、同型艦「プリンス・オブ・ウエルス」は2019年就役。満載排水量65,000 ton、全長280 m、幅39 m、F-35B STOVL戦闘機36機とヘリコプター数機を搭載する。「せとぎり(DD-156)」は「あさぎり」級の6番艦、1990年就役、満載排水量4,950 ton、全長137 m、最大速力30 kts、第14護衛隊所属、舞鶴基地が定係港。SH-60Jヘリコプター1機を搭載する。

7月20日発表 緊急発進回数の3万回到達について

令和3年7月19日、空自戦闘機による緊急発進回数が3万回に達した。昭和33年(1958年)に緊急発進が開始されてから25年後の1983年に1万回、その23年後の2006年に2万回、さらにその15年後になる現在2021年に3万回になった。このように増加のペースは著しく早まっている。防衛省自衛隊は厳しい環境の中、国土・領海・領空を守るため日夜領空侵犯を防ぐため努力を続けている。

統合幕僚監部

  • 7月6日発表 ロシア海軍艦艇の動向について

7月4日午後2時、沖縄本島の南東150 kmの海域を北西に太平洋から東シナ海に進むロシア海軍太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦を中心にウダロイI級駆逐艦2隻、ステレグシチー級フリゲート3隻、およびマルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦1隻の合計7隻からなる艦隊を発見した。艦隊はその後宮古海峡を通過・北上し、対馬海峡を抜けて日本海に向け航行した。

発見・追尾したのは那覇基地海自第5航空群所属の「P-3C」哨戒機、鹿屋基地第1航空群所属の「P-1」哨戒機、沖縄基地第46掃海隊所属の「ししじま」、佐世保基地第2掃海隊所属の「ひらしま」および第3ミサイル艇隊所属の「しらたか」である。

「ロシア東方軍管区太平洋艦隊広報サービス」(2021-07-08発表)は本件について「太平洋の大規模演習に参加した太平洋艦隊の歓迎式がウラジオストクで行われた」と題して次のように報じている。

太平洋艦隊司令官セルゲイ・アバキャンツ大将は、式典で「太平洋艦隊の戦闘艦、潜水艦など20隻以上の艦艇と航空機が参加、大挙してハワイ西方海域に進出、仮想敵国の空母打撃群を攻撃する演習を行なったのは今回が初めてだ。演習は2ヶ月間に渡り2万海里を航行し五十回の戦闘訓練が行われた。これで艦隊は大洋における地位を確立した。」と強調した。

図2:(統合幕僚監部)太平洋艦隊旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ(011)」。1989年就役、2008年に近代化改修完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で敵空母打撃群を攻撃するのが主任務。3隻が配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程距離700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを格納、各筒に2基ずつ合計16発を搭載。

図3:(統合幕僚監部)大型対潜艦・ウダロイ級駆逐艦は、満載排水量7,500 ton、全長163 m、速度35 kt、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、ヘリコプター2機、SA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年に作られ8隻が就役中で太平洋艦隊には4隻を配備。

図4:(統合幕僚監部)

図5:(統合幕僚監部)最新鋭コルベット・ステレグシチー級フリゲート「グロームキー (333)」。満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マストは閉囲型で内部に各種レーダーを装備。兵装は、対空戦用にGSh-630M 30 mm ガトリング砲 2基、陸上用対空ミサイルS-400を艦載化して12セルのVLS(垂直発射装置)に装備、対艦用に3M24ウラン・ミサイルを4連装発射筒2基に搭載。艦番号[333]は2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」、太平洋艦隊に配属。同型艦は6隻で追加2隻が艤装中。

図6:(統合幕僚監部)

図7:(統合幕僚監部)

図8:(統合幕僚監部)複合測量艦「マルシャル・クルイロフ」(331)、

図9:(ロシア東方軍管区(太平洋艦隊広報サービス)太平洋艦隊司令官セルゲイ・アバンキャッツ大将は、ウラジオストックに帰還した艦艇の将兵を祝って、ロシア海軍の伝統に従い各艦長に子豚の丸焼きを贈った。

  • 7月8日発表 多国間共同訓練コブラ・ゴールド21への参加について

多国間共同演習コブラ・ゴールド(Cobra Gold)はインド・太平洋地域の軍事演習でタイ国が主催し、米国、日本を含む8カ国が参加する演習。

自衛隊は2005年(平成17年)から参加中で今年は17回目となる。今年はコロナ拡大の影響で陸自部隊を派遣する実動演習は見送り、規模を縮小して行われる。

目的は地域の安全を確保し、地域に生じた紛争やサイバー攻撃に迅速に対応する技量を向上させること。期間は7月10日から8月23日まで、場所はタイ国および防衛省市ヶ谷地区で実施する。

自衛隊からの参加は統合幕僚監部から10名、海上自衛隊から5名、自衛隊指揮通信システム隊から5名。

訓練内容は、①幕僚訓練/共同対処事態に対処するための活動の調整。②サイバー攻撃対処訓練。③人道民生支援/人道支援、災害救援を想定した机上演習。

  • 7月9日発表 2021年度第一四半期の緊急発進実施状況について

本年度第一四半期(4月1日から6月31日の期間)の空自戦闘機の緊急発進は142回実施した。対象は対中国機が94回/全体の66 %、対ロシア機が48回/34 %であった。空自方面隊別では、北部航空方面隊が44回、中部航空方面隊が2回、西部航空方面隊が11回、そして南西航空方面隊が85回の緊急発進を行なった。

図10:(航空幕僚監部)元図「日本ADIZ」に空自各航空方面隊の担当空域を加筆した図。緊急発進回数は「北部航空方面隊(三沢基地)」と「南西航空方面隊(那覇基地)」が著しく多く、両方面隊の負担が大きい。

  • 7月12日発表 ロシア海軍艦艇の動向について

7月9日午後7時、北海道宗谷岬北東35 kmの海域で浮上して西/日本海に向け航行するロシア海軍キロ級潜水艦1隻を発見した。発見・追尾したのは海自横須賀基地第6護衛隊所属「おおなみ」と八戸基地第2航空群所属の「P-3C」哨戒機である。

図11:(統合幕僚監部)通常動力型潜水艦で「877型」と呼ばれる。1982年から就役、ロシア海軍20隻、中国12隻、インド9隻などが配備中。司令塔に射程5 km程度の対空ミサイルを装備、浮上時に対空射撃ができる。排水量は水上/2,350 ton、水中/3,950 ton、長さ70-74 m、水中速力25 kts、潜航深度は240 m。533 mm魚雷発射管6門を装備、魚雷18発を携行する。最新型「877EKM型」では全ての発射管から有線誘導魚雷を発射できる。魚雷装填は自動化され、装填から発射まで3分で可能。太平洋艦隊には最新型を含め12隻ほどが配備されている。

陸上幕僚監部

l  7月8日発表 令和3年度第2回国内における米空軍機からの降下訓練の概要について

7月20日-22日の間、東富士演習場および横田基地で本年度2回目の米空軍機からの降下訓練を実施する。訓練参加部隊は第1空挺団の将兵。米空軍機からの降下回数を増やし、空挺作戦に必要な戦技の向上を図るのが目的。

第1空挺団は陸自唯一の空挺部隊。3個普通科大隊、1個特科大隊など1,900名で編成され千葉県習志野駐屯地に司令部を置く。空自輸送機「C-1」、「C-130」、「C-2」からの落下傘降下、陸自ヘリコプター「HU-60J」、「CH-47J」などを使うヘリボーン作戦を実行する空挺部隊。

大東亜戦争でセレベス島パレンバンに降下した陸軍落下傘部隊「陸軍挺進団」が前身、戦後当時の隊員により創立された。空挺団の隊歌は当時の「空の神兵」がそのまま継承されている。

図12:(陸自第1空挺団)空自「C-1」輸送機から降下する第1空挺団の隊員。使用するパラシュートは角形の自由降下傘「MC-4」と「13式」降下傘がある。写真は主として使われる「13式」降下傘(藤倉航装製)。「MC-4」は高高度から20 km以上離れた地点に操縦しながら降下できる自由降下型。いずれもレジャー用のパラシュートよりかなり大きい。隊員の装備はパラシュートを含め80 kgを超え着地時の衝撃は2階から飛び降りる程度になる。

 7月8日発表 令和3年度北海道訓練センター第3回実動対抗演習等の概要について

7月31日から8月26日の間、北海道上富良野演習場および矢臼演習場で本年度第三回の実動対抗演習を実施する。訓練参加部隊は第6師団および第5旅団の将兵。演習を通じて戦車部隊、野戦特科部隊(砲兵部隊の意)、普通科連隊(歩兵連隊の意)、の連携行動の練度向上を図るのが目的。

第6師団は山形県神町駐屯地に司令部をおく機動師団。1個即応機動連隊と2個普通科連隊を基幹とする。

第5旅団は北海道帯広駐屯地に司令部を置く旅団、3個普通科連隊を基幹とするいわゆる自動化歩兵旅団。

使用する主な装備は「10式戦車」、「90式戦車」、「155 mm 榴弾砲」、「軽装甲機動車」、「UH-1J」および「AH−1S」ヘリコプターである。

図13:(陸上幕僚監部)令和3年度第三回実動対抗演習の概要。

7月8日発表 令和3年度米国における米陸軍との実動訓練(共同降下訓練等)の概要について/7月30日一部修正発表

7月9日から7月30日の間、グアム島アンダーセン米空軍基地などにおいて、陸自第1空挺団は米陸軍第1特殊部隊と共同で固定翼機からの空挺降下とそれに続く地上戦闘訓練を行い、即応性の強化と空挺作戦に関わる両軍の共同作戦能力のさらなる向上を図る。

今回の訓練は、日本からグアム島に直接飛行して日米共同の空挺降下を行う陸自初の訓練となる。東京―グアム島の距離は2,500 km、これを直航、数時間の飛行の後、パラシュート降下に入るため隊員の負担が大きい。

この訓練は、一旦占領された島嶼を空挺作戦で奪回するための訓練である。

  • 7月26日発表 地対艦ミサイル部隊実射訓練について

7月5日-17日の間、地対艦ミサイル部隊は米国カリフォルニア州ポイント・マグー射場において地対艦ミサイルの発射訓練を実施した。ミサイル型式は発表された写真によると「88式地対艦ミサイル」。「88式」は北海道千歳基地の第1特科団麾下第1-第3の地対艦ミサイル連隊および宮城県仙台の第4ミサイル連隊に配備中。新型の「12式地対艦ミサイル」は、熊本県建軍基地第5地対艦ミサイル連隊に配備、南西諸島への展開・配備が始まっている。

各ミサイル連隊は、ミサイル6発を搭載する発射機(写真)1-16輌を中心にレーダー、射撃統制装置などの車両で編成する中隊、3-4個中隊で編成される。

図14:(陸上幕僚監部) 「88式地対艦ミサイル」は、本体直径35 cm、長さ5m、重量660 kg、射程200 km(推定)、固体燃料ロケットとターボジェットを使用、時速1,150 km/hrで飛翔する。

海上幕僚監部

  • 7月1日発表 日米共同訓練について

6月25日-30日の間、オーストラリア北方海空域(珊瑚海など)で海自護衛艦「まきなみ」と搭載ヘリ「SH-60K」1機は米海軍ミサイル駆逐艦「ラファエル・ベラルタ」、補給艦「サカガウイア」と各種戦術訓練を実施した。

図15:(海上幕僚監部)左が海自「まきなみ」、右が米「ラファエル・ペラルタ」

  • 7月5日発表 日米豪韓共同訓練について

6月30日-7月3日の間、オーストラリア東方海空域で海自護衛艦「まきなみ」と搭載ヘリ「SH-60K」は米海軍ミサイル駆逐艦「ラファエル・ベラルタ」、オーストラリア海軍駆逐艦「ブリスベン」、韓国海軍駆逐艦「ワン・ゲオン」と電子戦訓練、戦術運動、通信訓練等を共同で実施した。(写真省略)

  • 7月12日発表 日米豪韓共同訓練(パシフィック・バンガード21)について

7月5日-7月10日の間、オーストラリア東方海空域(タスマン海など)で、海自護衛艦「まきなみ」と搭載ヘリ「SH-60K」は、米海軍ミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」とP-8A哨戒機、オーストラリア海軍駆逐艦「ブリスベン」、潜水艦、とP-8哨戒機、および韓国海軍駆逐艦「ワン・ゲオン」と共同でミサイル射撃訓練、水上射撃訓練、対水上線訓練、対潜訓練、および通信訓練を実施した。

図16:(海上幕僚監部)手前から海自「まきなみ」、米海軍「ラファエル・ベラルタ」、韓国「ワン・ゲオン」、豪海軍「ブリスベン」

本件について米第7艦隊ニュース[July 9, 2021]は「米国と同盟諸国はオーストラリア沿岸区域で”パシフィック・バンガード2021(Pacific Vanguard 2021)”演習を実施」と題して報じている;―

米海軍は7月5日からオーストラリア東方のタスマン海(Tasman Sea)でオーストラリア、日本、韓国、各國海軍と共同演習「パシフィック・バンガード(PACVAN=Pacific Vanguard) 2021」を実施した。

主催したオーストラリア海軍からは、ホバート(Hobart)級駆逐艦「HMAS ブリスベン(Brisbane(DDG 41))、コリンズ(Collins)級潜水艦「HMAS Bankin (SSG 78)」および空軍機が参加した。

米海軍からは、第15駆逐艦隊(DESRON 15)に所属する最新型アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ラファエル・ベラルタ(Rafael Peralta) DDG 115」が参加した。

海上自衛隊からは「たかなみ」級駆逐艦「まきなみ(DDG 112)」が、韓国海軍からは駆逐艦「ワン・ゲオン( DDH 978)」がそれぞれ参加した。

図17:(7th Fleet) 米駆逐艦「ラファエル・ベラルタ(Rafael Peralta) DDG 115」から発射された対空ミサイルSM-6と見られる。

  • 7月13日発表 令和3年度機雷戦訓練(陸奥湾)及び掃海特別訓練(日米共同訓練)について

7月18日-30日の間、陸奥湾で大規模な令和3年度機雷戦訓練および日米共同で爽快特別訓練を実施する。参加するのは海自掃海母艦2隻、掃海艦2隻、掃海艇10隻、MCH-101掃海ヘリコプター2機、P-3C哨戒機3機、P-1哨戒機1機、の合計艦艇14隻と航空機7機である。米海軍からは掃海艦1隻が参加する。(後述米第7艦隊ニュースを参照されたい)

  • 7月18日発表 日豪韓共同訓練について

7月14日-17日の間、オーストラリア東方海空域で海自護衛艦「まきなみ」と搭載ヘリ「SH-60K」はオーストラリア海軍駆逐艦「ブリスベン」、フリゲート「パラマッタ」、および韓国海軍駆逐艦「ワン・ゲオン」と電子戦訓練、通信訓練を行なった。(写真省略)

  • 7月18日発表  米豪主催多国間共同訓練(タリスマン・セイバー21)への参加について

7月18日-27日の間、オーストラリア東方の海空域で海自護衛艦「まきなみ」と搭載ヘリ「SH-60K」は、米海軍の強襲揚陸艦「アメリカ」、ドック型輸送揚陸艦「ニューオリンズ」、ドック型揚陸艦「ジャーマンタウン」、駆逐艦「ラファエル・ベラルタ」、補給艦「アラン・シェパード」、補給艦「ラパハノック」、およびP-8A哨戒機、オーストラリア海軍の強襲揚陸艦「キャンベラ」、揚陸艦「チャールズ」、駆逐艦「ブリスベン」、フリゲート「パラマッタ」および「パララット」、およびP-8哨戒機、カナダ海軍のフリゲート「カルガリー」、それに韓国海軍の駆逐艦「ワン・ゲオン」と射撃訓練、対潜戦訓練、海上作戦訓練を実施する。

本件について米第7艦隊ニュース[July 17, 2021]は次の2つに分けて報じている;―

  • 第72任務部隊(Task Force 72)、“タリスマン・セイバー(Talisman Sabre)”に参加

第72任務部隊とは第7艦隊哨戒部隊で三沢基地に司令部を置く。7月14日からオーストラリア・クイーンズランド州沖合のタリスマン・セイバー21演習に参加した。演習はインド太平洋の安全と秩序を守るため米国と同盟諸国が実施する。参加するのは米海軍、オーストラリア海空軍、日本海上自衛隊、韓国海軍、ニュージランド海軍、カナダ海軍、英国海軍、の7ヶ国軍17,000名の将兵。

第72任務部隊には、フロリダ州ジャクソンビル(Jacksonville, Florida)海軍航空基地を本拠とし現在は沖縄に展開するVP-45哨戒機部隊からP-8A哨戒機が参加中。

  • 第7遠征打撃群(Expeditionary Strike Group 7)、“タリスマン・セイバー21に到着

第7遠征打撃群(ESG 7)の前方展開艦隊と海兵隊第31 遠征師団は7月16日に”タリスマン・セイバー21” が行われるオーストラリア東岸の珊瑚海に到着した。

オーストラリア国防軍(ADF)が主催するこの演習は、インド太平洋の自由と安全を守るため、米豪と同盟諸国が参加する大規模な訓練で、これを通じて同盟諸国間の連携強化の向上を図る。

本演習は2005年から隔年に開催されてきたオーストラリア北部での米豪共同陸上演習(3万人規模)が起源。

タリスマン・セイバー21に参加するのは、米軍唯一の「前方展開水陸両用即応軍(ARG=forward-deployed amphibious ready group)」で、強襲揚陸艦「アメリカ(USS America LHA 6)」、ドック型輸送揚陸艦「ニューオリンズ(USS New Orlins (LPD 18)」、ドック型揚陸艦「ジャーマンタウン(USS Germantown LSD 42)」と付属艦艇、それに沖縄基地の「第31海兵隊遠征部隊(31st MEU=Marine Expeditionary Unit)」。

演習で、米軍の「ARG-MEU」チームは、オーストラリア、カナダ、日本、韓国の各國海軍と協力して各種の戦技向上訓練を行う。

図18:(USN 7th Fleet)「タリスマン・セイバー21」演習に参加する米「前方展開水陸両用即応軍(ARG)」の艦艇。右/「ニューオリンズ」、中央奥/「アメリカ」、左/駆逐艦「ラファエル・パリスタ」。中央手前は不明。左右艦の後ろにはエアクッション揚陸艇が続いている。上空にはMV-22オスプレイ輸送機が3機飛行。

  • 7月27日発表 令和3年度インド太平洋方面派遣訓練について

8月20日から11月25日の長期間、海自艦艇4隻からなる艦隊は、インド太平洋の各國を訪問すると共に、各國や地域に艦艇を派遣している欧州各國海軍と共同訓練を実施する。これを通じて海自の戦技向上と各國海軍との連携強化を図ると共に、各國との相互理解を増進する。

派遣部隊は、第3護衛隊群司令池内 出海将補の指揮の下、ヘリ空母「かが」、護衛艦「むらさめ」、「しらぬい」、潜水艦1隻と搭載航空機4機、さらにP-1哨戒機1機、である。派遣人員は合計でおよそ900名の予定。寄港予定地は、インド、インドネシア、オーストラリア、シンガポール、スリランカ、パラオ、ベトナム、フィリピン、仏領ニューカレドニア、の各地。

図19:(海上自衛隊)8月20日から3ヶ月間インド太平洋各國を歴訪する海自艦隊の旗艦を務めるヘリ空母「かが(DDH-184)」。満載排水量26,000 ton、全長248 m、最大幅38 m、最大速力30 kts。現在はヘリコプター搭載艦だが、2026年度からF-35B STOVL 戦闘機を運用する空母に改修する。

  • 7月28日発表 令和3年度第一回米国派遣訓練(潜水艦)について

来たる8月20日-9月22日の間、海自潜水艦「おうりゅう(SS-511)」は日本からグアム島に至る海域で対潜戦訓練を実施する。潜水艦の米国派遣訓練は昭和38年から毎年実施しており、今回は81回目となる。

「おうりゅう(SS-511)(鳳龍)」はそうりゅう型の11番艦で2020年3月就役の最新型、世界初のリチウムイオン電池(GSユアサ製)搭載の潜水艦である。水中排水量4,200 ton、全長84 m、水中速力20 kts、HU-606魚雷発射管6門を装備、長射程の89式魚雷およびハープーン巡航ミサイルを発射できる。呉基地第1潜水隊群第3潜水隊所属。

図20:(海上自衛隊)「おうりゅう(SS-511)」はリチウムイオン電池搭載のため従来の鉛蓄電池使用の潜水艦に比べ水中航続距離が大きく伸び、機動力が向上している。

航空幕僚監部

なし。

米第7艦隊ニュース

  • 7月12日発表 第7艦隊は航行の自由作戦を実施

7月12日、米海軍駆逐艦「ベンフォード(Benfold / DDG 65)」は南シナ海パラセル諸島近海で「航行の自由作戦」を実施した。パラセル諸島は中国が国際法と近隣関係諸国の抗議を無視して占有を続けている南シナ海の島々である。

米国は、中国の主張する南シナ海諸島の領有権は完全な違法で断じて許すことはできない、とする。

これに対し中国China Military com.は、北京発で「米国は南シナ海で危険なリスクを弄ぶ」と題し、次のように報じた。

米海軍ミサイル駆逐艦「ベンフォード」は、7月12日中国固有の領土、西沙諸島(パラセル諸島)の領海に無断で侵入、中国軍の警告で退去した。これは南シナ海の平和を乱す行為で許容できない。

図21:(Google) 南シナ海の地図。中国はパラセル諸島のウッデイ島だけでなく、スプラトリー諸島も占領、スービ礁、ミスチーフ礁、ファイアリークロス礁の3箇所に3,000 m級滑走路とミサイル基地を、その他4島嶼にレーダー基地を建設済み。(TokyoExpress 2021-06-04 “令和3年5月、我が国周辺における中露両軍の活動と我国/同盟諸国の対応”17ページ参照)

図22:(China Military com.)7月12日パラセル諸島で航行の自由作戦を行った米ミサイル駆逐艦「ベンフォード」。中国軍の撮影。

  • 7月22日発表 米海軍と日本海自は機雷掃海訓練「2JA」を実施

7月19日青森県陸奥湾で、米第7艦隊麾下の第7対機雷戦部隊は日本海上自衛隊第2掃海群と共同で機雷掃討作戦の演習を行なった。演習では、米海軍の無人水中探査機が使われた。この訓練は「MINEX21-2JA」と呼ばれ今回は40回目となる。

海自からの参加は、第3掃海隊所属の掃海母艦「ぶんご(MST 464)」、同「うらが(MST 463)」満載排水量6,900 ton、掃海艇「ひらしま(MSC 601)」排水量600 ton。および繊維強化プラスチック(FRP)製の大型掃海艦「あわじ(MSO 304)」排水量780 ton。

米海軍からは掃海艦「ウオリアー/USS Warrior (MCM 10)」および佐世保基地の第7対機雷戦中隊要員が参加した。「ウオリアー(MCM 10)」はアベンジャー級掃海艦で音響機雷、磁気機雷に探知され難い構造、排水量1,300 ton、

図23:(7th Fleet) 第7艦隊掃海艦「ウオーリア」から降ろされる掃海具。

環球時報(Global Times)/China Military Online

  • 7月21日発表 中国に対抗?米軍が25機のF-22をグアムに集結、過去最大規模

7月20日、米軍はグアム島で過去最大規模となる25機のF-22戦闘機を集結し「「太平洋の鋼鉄(Pacific Iron 2021)」と呼ぶ訓練を実施した。米軍は、中国との軍事衝突でグアム・アンダーセン空軍基地が打撃を受け機能しなくなった場合を想定、グアム民間空港、テニアン空港を演習区域に含めて行った。その背景には中国のJ-20戦闘機と米軍F-22戦闘機を同一レベルと見なしていることがある。つまり米軍はF-35だけではJ-20戦闘機に対抗が難しいと考えている。

米軍の報道によると、「パシフィック・アイアン2021」は、ハワイに司令部を置く米太平洋空軍が実施した訓練で、中国に対し「米軍を侮るのは早すぎる、痛い目に遭うぞ」と云う警告のメッセージを出すために行われた。

参加するのは、ハワイ州パールハーバー空軍基地のハワイ州空軍第199戦闘飛行隊、アラスカ州エレメンドルフ・リチャードソン空軍基地の第525戦闘飛行隊、に所属する25機のF-22戦闘機、アイダホ州マウンテンホーム空軍基地の第389戦闘飛行隊所属の10機のF-15E戦闘機、、横田基地から2機のC-130輸送機、およそ800名の将兵がグアムに集結して行われた。これで、空軍の緊急展開能力が優秀な態勢を維持しており、台湾、沖縄、南シナ海で中国軍が侵攻を始めても、直ちに戦闘機、兵員を展開できるぞ、と中国側に示した。

米空軍はF-22を195機保有、うち約100機を実戦配備中。F-35は660機以上が作られ、米軍を主に、日本を含む各國が配備している。中国が誇るJ-20戦闘機は150機が配備されている。

F-22とJ-20は、空対空戦闘を主目的とする戦闘機であるのに対し、F-35は空対空戦闘を十分できる戦闘機であるのに加えて対地攻撃、対艦攻撃にも使える多目的戦闘機である。従って環球時報が言う”F-35はJ-20にかなわない“とする見方は一方的だ。

図24:(US Air Force) 「パシフィック・アイアン2021」に参加するハワイ州空軍のF-22戦闘機。

  • 7月13日発表 日本が台湾の独立派を支援するなら大きな痛手を受ける

日本防衛省が7月13日に発表した令和3年度防衛白書で、台湾問題に言及、中国を刺激している。

中国関係者は、もし日本が中国の国家目標である台湾再統一を妨害し、台湾独立を支援するなら甚大な損失を被ることになる、と警告している。

防衛白書の記載内容について一部の日本国内のネットユーザーから非難の声が上がっている。内容が軍事力の使用を強調し過ぎでおり、憲法9条に反するということ。

白書は、台湾海峡の安定問題は中国大陸からの軍事的圧力の増大で、これまでになく高まり、台湾を巡る情勢を安定化させる事は日本と周辺諸国に取り極めて重要である、と述べている。

中国軍の著名な報道官Song Zhongping氏は、日本は台湾問題を理由にして軍事行動を正当化し、平和憲法を改定しようとしている、と非難している。

Song氏はさらに、日本は台湾の潜水艦建造計画に技術的支援をし、続いて武器売却を試みるだろう、これは中国は絶対に許さない、と述べている。

3月16日に米国-日本は防衛・外務両大臣の2+2会談を行った。ここで日本は台湾問題で中国を挑発する一連の発言をしている。

しかし日本が台湾問題で軍事的介入をすれば、中国軍による強力な打撃を受けることになる。さらに日本経済は中国市場に大きく頼っており、必要があれば中国は日本資金を直ぐに凍結できる。

中国外務省高官Zhao Lijian氏は、日本は中国の国内問題(台湾、香港、ウイグル、チベットを指す)に口を挟むな、また軍事費の増加について国防のためな必要な費用であり非難に値しない、台湾は中国の一部であり台湾問題は我々の国内問題だ、我々は台湾を必ず統一/併呑する、と言明している。

中国の軍事専門家は、中国の軍事力は近年著しく増大し、日本の軍事力ははるか下に取り残されている。日本はこのことを直視し、米国への追従を止めるべきだ、日本が頼る米国は今や西太平洋で中国を打ち破る力は無い、と極言している。

もう一つ、白書が尖閣諸島について中国が領海侵犯を繰り返すと非難しているが、尖閣諸島は中国固有の領土であり、日本が領有を主張するのが間違っている、と付け加えている。

環球時報が伝えるこれら主張は、全く自国本位で理不尽、強欲、領土拡張欲、極まりない。秦の始皇帝時代の再来を想起させる。習近平は始皇帝になろうしているのか。

ロシア海軍報道局

  • 7月13日発表 太平洋艦隊小型対潜艦「コレーエツ」はピョートル大帝湾で実弾射撃を実施

「コレーエツ」はパラシュート降下の目標に対し対空射撃を実施、さらに水上目標、船舶および浮遊機雷、に対し艦載砲および機銃で攻撃、破壊した。

図25:(ロシア海軍報道局)小型対戦艦「コレーエツ」(390)は1990年就役、日露戦争当時のロシア海軍砲艦「コレーエツ」に因んで名付けられた。

  • 7月20日発表 バレンツ海で空母攻撃演習、極超音速ミサイル「ツイルコン」を発射

バレンツ海(Barents Sea/フィンランドの北東海域)で、フリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」から海上に設置した空母目標に対し極超音速対艦ミサイル「ツイルコン(Tsirkon)」を発射、空母を破壊する訓練を行なった。これは前日の訓練、350km離れた標的にマッハ7で飛行・命中したものに続く今年二回目の訓練・実験になる。

プーチン大統領は、「ツイルコン」は高度20,000 mの大気圏内ををマッハ9に達する極超音速で最大1,130 km 飛行し目標に着弾するミサイル、と説明している。

図26:(ロシア海軍報道局)ロシア国防省が以前に発表した極超音速ミサイル「ツイルコン」の姿。スクラムジェットで飛行するが、19日発表の「ゴルシコフ」のVLSから発射される写真では、先端に長いキャップが付いた円筒状で、キャップは発射後に投棄されると思われる。

図27:(ロシア国防省)フリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」艦上の VLSから発射された極超音速ミサイル「ツイルコン」。動画では、円筒状キャップはブースターで上昇する途中で投棄され、本体は超音速に加速上昇を続けた。

「ツイルコン」は脅威ではあるが、目標に接近するターミナル段階での速度は弾道ミサイル(ICBM、IRBM)より遅い。従って新型艦の多くが装備を進めているSM-6艦対空ミサイルで撃墜は可能と、専門家は指摘している。

Newsweek日本語版(2021-07-21)によると、この試験の直後、ロシア政府は米国防総省に対し、米国が極超音速ミサイルをヨーロッパに配備すれば偶発的な戦闘が起きる可能性があると警告した。そしてロシア国防省は、「ツイルコン」の戦術的・技術的特性はこの試験を通じて確認された」と述べた。

米国防省報道官カービー氏は「もちろん承知している。ロシアの新しい極超音速ミサイルは核弾頭の搭載もできるのでヨーロッパの不安定化を招く」、「アメリカは核を搭載しない極超音速ミサイルの開発を進めている。これでNATO諸国とともに抑止戦略で地域の安定化を図る」と述べている。

6月からNATO諸国は黒海で軍事演習を開催、2014年にロシアが併合したクリミア半島沖で「航行の自由作戦」を実施しており、ロシアは神経を尖らせている。

ロシア駐米大使は会見で、「アメリカが極超音速ミサイルをヨーロッパに配備すれば地域の著しい不安定さを招く、米国のミサイルは飛行時間が短いため、発射された場合ロシアには演習か実戦かを判断する時間が全くない、そのため想定外の紛争が起きる可能性が高まる。」と批判した。

  • 7月26日通告 ロシア、7月も北方領土で射撃、爆撃演習を通告

ロシア軍は6月にもウルップ島と択捉との間、択捉海峡で爆撃演習を行なったが、7月27日から8月末に掛けて国後島海域で断続的に射撃訓練を行うと日本政府に通告してきた。ロシアは、26日にミシュスチン首相が択捉島を訪問現地の経済活動の活発化のための施策を発表した。また国後、択捉両島には最新の地対空ミサイルS-400を配備するなど、その実効支配を強めている。

わが国政府は外交ルートで「北方領土の軍備強化の動きは、わが国の立場と相容れない」と厳重抗議している。

しかし、厳重抗議などはいつものことで全く効果がない、犬の遠吠えに過ぎない。相手の力による行動を抑えるには、こちらの力しかない。

図28:(Google) 北方四島の地図。国後島の長さは100 kmちょっと、これで地域の広がりを想像されたい。

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