2022-2-11 (令和4年) 松尾芳郎
令和4年1月、我国周辺における中露両軍の活動と、我国および同盟諸国の動きに関し、それぞれの公的部門等から多くの発表があった。以下にその項目と内容を紹介する。注目すべきニュースは次の通り;
- 北朝鮮のミサイル発射:北朝鮮は1月中に6回にわたり各種弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。特に30日発射の「火星12号」に関して、岸防衛大臣は“烈度の高い弾道ミサイル”であり我国と地域国際社会を脅かすものと強く非難した。
- 2021年度(令和3年度)第3四半期までの緊急発進回数:この期間の緊急発進回数は785回に達し、2020年度の1年間の発進回数725回を上回った。中でも中国機に対する緊急発進回数が73 %に達し、ロシア機に対する回数を大きく上回った。
- 米空母打撃群2個群と海自の共同演習:1月17日〜22日の間、米海軍の2個空母打撃群はフィリピン海から南シナ海で大規模演習を実施、これに海自ヘリ空母「ひゅうが」が参加し、戦技向上と相互運用性の向上を図った。これに対し翌23日に中国空軍機39機が台湾南西部の台湾ADIZに侵入、抗議の意を示した。
- ロシア太平洋艦隊原潜の能力向上:ロシア太平洋艦隊配備の原子力潜水艦949AM型(オスカーII型)「アンテイ級」は近代化改修で強力な対艦ミサイル「オニークス」と「カリブル」を72基搭載可能になり、一斉射で空母打撃群を殲滅できる、と誇示している。
- その他
以下に詳細を述べる。
- 北朝鮮のミサイル発射:
北朝鮮は1月に、5日、11日、14日、17日、25日、30日、の6回弾道ミサイル/巡航ミサイルを日本海に向けて発射した。防衛省はその都度「お知らせ」で「北朝鮮のミサイル等関連情報」を発表。ここではロイター通信(Reuters. com)の情報BOX[などを含め、あらましを紹介する。
5日:極超音速滑空ミサイル
新型の「極超音速ミサイル」の発射実験をした。北朝鮮内陸部から発射され約500 km 飛翔し北朝鮮沿岸部の沖合に着弾した。これは「極超音速滑空ミサイル(HGV=hypersonic glide vehicle )」で、発射後ブースターから切り離された弾頭は大気圏外に出て、弾道ミサイルより低い高度を音速の5倍、マッハ5以上の速度で飛翔し、上下左右に軌道を変えながら目標に着弾する。飛行軌道が変るので従来の弾道ミサイル防衛システムでは対応が難しくなる。
11日:極超音速滑空ミサイル
5日発射の「極超音速滑空ミサイル(HGV=hypersonic glide vehicle )」と同じ型のミサイル発射試験で、平壌北部から発射、約700 km 離れた日本海・沿海州沖合の海域に着弾した。これには金正恩総書記が立ち会った。
米国カーネギー国際平和基金(Carnegie Endowment for International Peace)のシニア・フェロー「アンキット・パンダ(Ankit Panda)」氏は、今回発射の極超音速ミサイルは、液体燃料使用の機動式再突入弾頭(MaRV=maneuver reentering vehicle)の弾道ミサイルで、2021年10月開催の「自主防衛展示会(Self Defense Expo)」で展示された、と述べている。
北朝鮮には、これとは別に「火星8」極超音速滑空ミサイルがあり、弾頭が細長い三角錐の形で、2021年9月28日に発射実験をしている。
図1:(北朝鮮中央TV)2021年10月開催の「自主防衛展示会」の写真。左から2番目、オレンジ色の弾頭のミサイルが機動式再突入弾頭(MaRV)搭載の極超音速弾道ミサイル(HGV)で、1月5日と11日に発射された。左の黄色の輪・スカート付きのミサイルは後述の「火星12」型中長距離弾道ミサイル、1月30日に発射された。
図2:(KCNA via Reuters Connect) 1月5日に発射した“極超音速ミサイル(HGV)”、11日発射も同じ形式。オレンジ色の煙は液体燃料ブースターであることを示している。
図3:(US GAO) 極超音速滑空ミサイル(HGV)は、射程1,000 kmの場合、最高高度は弾道ミサイルの300 kmに比べ低く数十km程度、このため地上レーダーでは探知が遅くなる。切り離された弾頭は、弾道ミサイルの場合放物線軌道で飛行するがHGV弾頭は上下左右に方向を変えながら飛翔・着弾する。
14日:短距離弾道ミサイルA/KN-23
防衛省発表によれば、ミサイルは午後3時前北朝鮮北西部から日本海沿岸部沖合に向け発射され、最高高度約50 kmで400 km 飛翔し落下した。ミサイルは防衛省分類の「短距離弾道ミサイルA」に似た固体燃料式、2021年9月に鉄道から発射したものと同型のようだ。発射したのは2発で、北朝鮮の中国との国境付近の鉄道車両から発射した。米軍呼称の短距離弾道ミサイル「KN-23」と同じものと見られる。北朝鮮メデイアは、ミサイル運用部隊の練度を高めるための演習、と伝えた。鉄道車両発射型は、トレーラー搭載発射型(TEL=Transporter Erector Launcher)に比べ費用が安く、トンネルに隠蔽できるので発射前に探知するのは困難。「KN-23」は、射程400~600 kmの短距離弾道ミサイルで、低い軌道でミサイル防衛システムをすり抜ける目的で開発された。最初の発射実験は2019年5月に行われた。その後、トレーラー発射車両(TEL)からも2発の「KN-23」を発射したが、飛行高度はこれまでで最も低かった。
図4:(KCNA) 米軍呼称「KN-23」短距離弾道ミサイル。ロシア製新型地対地ミサイル「イスカンデルM/E」を基本にしたミサイル。弾道ミサイルでありながらかなり低い高度/50 km程度を飛行し、変則機動しながら目標に向かう。終末段階(terminal stage)で急上昇する(pullup maneuver)ので迎撃が困難。米調査機関(CSIS)によると[KN-23]は500 kgのペイロード(通常爆弾あるいは核弾頭)搭載可能で最大射程は690 kmという。
17日:短距離弾道ミサイルB/KN-24
首都平壌の空港から2発の短距離弾道ミサイルを発射した。防衛省発表では最高高度50 km 程度で約300 km 飛翔した。このミサイルは2020年3月21日発射と同じ固体燃料式「短距離弾道ミサイルB」と思われる。北朝鮮メデイアは、ミサイルは東部沿岸沖の標的の島に正確に命中した、と伝えた。このミサイルは「KN-24」(米軍呼称)らしい。すでに2020年3月にも実験済みで、量産化しており実戦配備中とみられる。「KN-24」は米陸軍の戦術ミサイル「ATACMS」と似た特性を持ち、低い軌道を飛翔して敵のミサイル防衛網を突破する目的で作られた。
米陸軍の「ATACMS / MGM-140」は、重量1,670 kg、長さ4 m、直径61 cm、射程300 km、飛翔高度50km、速度マッハ3、M270やHIMAES車両から発射される。米陸軍では3000発以上を配備している。
図5:(KCNA) 新型短距離弾道ミサイル「KN-24」。
25日:長距離巡航ミサイル
北朝鮮国営メデイアは2発の長距離巡航ミサイルを発射し、1,800 km 飛行して東部沿岸沖の標的の島に命中した、と伝えた。同種の巡航ミサイルは2021年9月に最初の試験を実施済みで、北朝鮮は核弾頭搭載可能な「戦略的巡航ミサイル」と位置付けている。
北朝鮮の巡航ミサイルは国連安保理決議で禁止されていないので、わが国ではあまり関心がないが、平壌から東京あるいは沖縄までの距離は1,500 km 程度なので、射程1,800 km の巡航ミサイルの攻撃圏内にある。弾道ミサイルと同程度の脅威と認識すべきだ。
図6:(KCNA) 北朝鮮国営中央通信が2021-09-12に発表した新型巡航ミサイルの写真。今回発射された2発はこれと同一のミサイル。超低空を飛翔し日本全土を射程に収める。
30日:中長距離弾道ミサイル・火星12型
防衛省発表によれば、ミサイルは高度2,000 km のロフテッド軌道で約800 km飛翔、日本海に落下した。北朝鮮が中距離弾道ミサイル (IRBM) 「火星12」の最初の発射実験は2017年4月に3発行われたが、米韓の当局者はいずれも失敗に終わった、と判断した。その後2017年5月の実験で成功、同年中にさらに2発を発射、北海道渡島半島および襟裳岬の上空を通過する形で飛行した。
30日の発射試験では(周辺国に配慮して?)ロフテッド軌道を採り高度2,000 kmに打上げ、射程を800 km に押さえる形で実施した。「火星12」の推定射程距離は4,500 km あり、日本全土は勿論のこと、グアム島およびアリューシャン列島の一部を射程内に収める。北朝鮮メデイアは、大型核弾頭を搭載でき、グアム島に打ち込み「火の海にできる」と威嚇している。
図7:(朝鮮中央TV) 「火星12」型中長距離弾道未猿の発射実験に立会う金正恩総書記。
図8:(北朝鮮国営中央通信) 2022年1月30日早朝、車両搭載発射機(TEL=Transporter Erector Launcher)から発射される「火星12」中長距離弾道ミサイル。
- 2021年度(令和3年度)第3四半期までの緊急発進回数:
1月25日發表 統合幕僚監部 「2021年度第3四半期撫での緊急発進状況について」
- 2021年4月―12月の9ヶ月間の緊急発進回数は785回に達し、すでに前年度12ヶ月間全体の緊急発進回数725回を上回った。相手国別では、全体の73 %が中国機でロシア機は25 %であった。中国機に対する緊急回数は571回で前年度1年間の458回を超え著しく増加している。
- 緊急発進を行う航空自衛隊方面隊別では、中国機に対処する南西航空方面隊が525回で飛び抜けて多く、すでに昨年度1年間の404回を上回っている。続いてロシア機に対処する北部航空方面隊の168回、西武航空方面隊の74回、中部航空方面隊の23回となる。
- 特異飛行のトップに挙げるのは、11月19日に中国空軍戦略爆撃機H-6K 2機とロシア空軍戦略爆撃機 Tu-95M 2機の4機が編隊飛行、日本海から対馬海峡を通過し東シナ海を経由し太平洋に進出した件である。
図9:(統合幕僚監部)2021年4月から同12までの9ヶ月間における中露両空軍機の我国防空識別圏(ADIZ)および領空侵犯飛行の飛行パターンを示す図。期間中の中国機に対する緊急発進回数は571回、ロシア機に対する回数は199回で、全体で785回、2020年度1年間の544回を大きく上回った。我国周辺では、中露両軍による軍事的緊張が著しく高まっていることを示している。
- 米空母打撃群2個群と海自の共同演習:
- 1月23日發表 海上幕僚監部 「日米共同訓練について」
- 1月24日發表 米第7艦隊ニュース「米インド・太平洋軍は2個空母打撃群で南シナ海で演習を実施」
日米同盟の抑止力・対処力を強化するため、1月17日〜22日の間、沖縄南方のフィリピン海で、米空母打撃群、「カール・ビンソン」と「エブラハム・リンカーン」、それに付随する艦艇群の演習が行われたが、これに海自ヘリ空母「ひゅうが」が参加して共同訓練をした。
1月23日からは南シナ海で、空母打撃群(CGS) 1所属の空母カール・ビンソン(Carl Vinson / CVN-70)と空母打撃群(CGS) 3所属の空母エブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln / CVN-72)は、通信訓練、対潜水艦訓練、対空訓練、補給訓練、航空機相互運用訓練、洋上阻止訓練、等を実施、戦闘即応能力の強化を図った。この二つの空母打撃群と海兵隊で合計14,000名以上の兵員が演習に参加した。
なお南シナ海での演習で、24日に空母カール・ビンソン(CVN-70)でF-35C戦闘機が着艦に失敗する事故があった。パイロットはejection seat(脱出座席)で脱出しヘリコプターで救出されたが、このパイロットを含む空母乗組員7名が負傷し病院で手当てを受けている。機体は海没した。
図10:(海上幕僚監部)最右列手前から「エイブラハム・リンカーン」、「カール・ヴィンソン」 右から2列目手前から「エセックス」、「ひゅうが」、「アメリカ」 右から3列目手前から「グリッドレイ」、「チャフィー」、「スプルーアンス」 最左列手前から「モービル・ベイ」、「レイク・シャンプレーン」。(第7艦隊発表の説明と異なる箇所があるがそのまま掲載する)
図11:(7th Fleet 220122-N-PQ495-1384)1月22日フィリピン海で撮影。左からワスプ級ドック型揚陸艦「エセックス(USS Essex /LHD 2)、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「グリッドレイ(USS Gridley/DDG 101)」、ニミッツ級空母「アブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln/CVN 72)」、海自ヘリ空母「ひゅうが (DDH 181)」、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「レイク・チャンプレイン(USS Lake Champlain/CG 57)」、ニミッツ級空母「カール・ビンソン (USS Carl Vinson/CVN 70)」、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦「スプルーアンス (USS Spruance/DDG 111)」、および強襲揚陸艦「アメリカ(USS America/LHA 6)」、の順。演習は米第7艦隊の「カール・ビンソン」および「アブラハム・リンカーン」の両空母打撃群、「エセックス」および「アメリカ」の強襲揚陸艦群、それに日本海自が参加して“自由で開かれたインド太平洋を守る”ために実施した。
図12:(7th Fleet 220122-N-PQ495-1384)1月22日フィリピン海で撮影。手前は、ニミッツ級空母「カール・ビンソン(USS Carl Vinson/CVN 70)」から離艦するF-35C艦上戦闘機(所属は第147攻撃戦闘航空団 / Strike Fighter Squadron VFA 147)。奥は、同空母「アブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln/CVN 72)」から離艦するF-35C艦上戦闘機(所属は第314海兵隊攻撃戦闘航空団(Marine Strike Fighter Squadron / VMFA 314)。2機のF-35Cが別々の空母から同時発艦する様子を捉えた写真。
図13:(Flight Global via @OedoSoldier on Twitter) 空母「カール・ビンソン/CVN-70」着艦に失敗し海面に墜落したF-35C。1月24日に「カール・ビンソン」の飛行甲板監視ビデオが撮影したもの。F-35Cはグライドスロープ(glideslope/進入角)よりかなり低く進入し、甲板後縁に胴体下面を接触、続いて機首が甲板に当たり、ランでイング・ギアが折れ、甲板から滑り落ちた。パイロットはその途中で脱出した。事故機はカール・ビンソン搭載の第147戦闘攻撃航空団(VFA-147/Strike Fighter Squadron VFA-147)所属の機体。
中国側は、今回の米海軍2個空母打撃群と海自ヘリ空母が参加する演習を受けて、1月23日にJ-16戦闘攻撃機を主力とする39機で台湾防空識別圏(AGIZ)の南西部に侵入、抗議の意思を示した。台湾国防部の発表では、侵入したのはJ-16戦闘攻撃機24機、J-10戦闘機10機、Y-9輸送機2機、Y-8対潜哨戒機2機、H-6K戦略爆撃機1機、である。続けて24日には最新鋭の「J-16D」2機を含む13機が同じ空域に侵入した。
これに対し台湾軍は無線で警告、対空ミサイル防衛システムを展開し、監視に当たった。
台湾国防省によると、中国軍機の台湾の防空識別圏(ADIZ)への侵入は2021年1年間で延べ1000機に達した。これで中国軍が台湾侵攻に踏み切る時期がいよいよ切迫してきた、として関係国は懸念を強めている。
図14:(2021年珠海航空ショー)「J-16D」は、2021年9月~10月の広東省珠海航空ショー(13th China International Aviation & Aerospace Exhibition)で公開された最新鋭の電子戦機。複座でジャミング・ポッド、電子戦ポッドなどを装備、敵レーダーや通信システムを撹乱し、レーダー・サイトや通信設備をミサイルで攻撃・破壊するのが任務。基本の「J-16」戦闘機は最大離陸重量35 tonの大型機、翼幅14.7 m、全長21.9 m、最大速度マッハ2.0、航続距離3,900 km。
図15:(台湾国防省)2022年1月23日に台湾防空識別圏(ADIZ)に侵入した中国空軍機39機の飛行経路を示す図。
- ロシア太平洋艦隊原潜の能力向上:
- 1月17日発表 ロシア海軍情報供給部発表 「“一度の斉射で十分”:ロシアは航空母艦に対する新たな兵器を獲得する(2022年末〜)」
現在航空母艦攻撃用として、太平洋艦隊にはプロジェクト949A原潜として、「イルクーツク」、「チェリヤビンスク」、「ビリュチェンスク」、「オムスク」、「トムスク」の5隻をカムチャツカ半島ルイバチー基地に配備している。同型原潜は、ほかに北方艦隊に3隻が配備中。艦齢は最も若いK-150「トムスク」が26歳、他は30歳以上でかなり高齢になっている。
ロシア海軍はプロジェクト949AMとして、2019年からK-132「イルクーツク」を手始めに近代化改修を開始し、「イルクーツク」は2022年末までに完成、太平洋艦隊に復帰させる予定。
949AM型への改修で、従来の超音速対艦ミサイルP-700「グラニート」を、より軽量で強力なP-800「オニークス」/射程300 kmと「カリブル」ミサイルに変更し、搭載数を72基に増やす。
3M54E型「カリブル」は533 mm魚雷発射管から発射する固体燃料ブースター+ターボジェット形式の全長8.22 m、重量2.3 ton、射程300 km以上の対艦ミサイルである。発射後亜音速で飛行するが目標から20 km付近に近ずくと弾頭が切り離され超音速で飛翔・目標に着弾する。「949A」型原潜はこれを数十基携行している。
一度に数十発の超音速対艦ミサイルの攻撃を阻止できる防衛手段は存在しない。それに加えて「カリブル」の後継である極超音速ミサイル「ツイルコン」の配備が間も無く開始される。「ツイルコン」は、飛行速度マッハ9、射程1,000 km、で固体燃料ブースターで大気圏外まで上昇、弾頭は極超音速滑空で機動しながら目標に向かうミサイルだ。
図16:(ロシア通信社ノーボスチ)プロジェクト949A 原子力潜水艦「アンテイ」型は現在北方艦隊と太平洋艦隊に合計8隻が配備中。この原潜は排水量24,000 ton、全長154 m、水中速力32 kts、潜航深度最大600 mの潜水艦。動力は原子炉2基と蒸気タービン2基で総出力は98,000 SHP。
図17:(ロシア海軍情報供給部)949A「アンテイ」型原潜の見取り図。水上排水量14,700 ton、全長154 m。艦橋の両側の強化船殻の外側に、40度傾斜角付き発射筒12基に超音速対艦ミサイル「グラニート」を搭載する。加えて艦首には65 mm魚雷発射管2基と533 mm魚雷発射管6基を備えている。
- その他
- 統合幕僚監部発表
1月4日発表 「ロシア海軍艦艇の動向について」
12月29日午後3時、対馬の北北東430kmの海域を南西に進むロシア海軍太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ」、ウダロイI級駆逐艦「アドミラル・トリプツ」、およびボリス・チリキン級補給艦「ボリス・プトマ」の3隻を発見、その後3隻は対馬海峡を通過南シナ海に入った。発見追尾したのは厚木基地海自第4航空群所属の「P-1」哨戒機、鹿屋基地第1航空群所属の「P-1」哨戒機、佐世保基地第3ミサイル艇隊所属「しらたか」、および佐世保基地第2護衛隊所属の護衛艦「あさひ」である。
図18:(統合幕僚監部)太平洋艦隊旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ(011)」。
図19:(統合幕僚監部)ウダロイI級駆逐艦「アドミラル・トリプツ(564)」。
図20:(統合幕僚監部)ボリス・チリキン級補給艦「ボリス・プトマ」。
2月8日ロシア海軍情報供給部発表によると、これら太平洋艦隊の3隻は、対馬海峡を通過後、東シナ海、南シナ海、インド洋を経て1月25日にはアラビア海に入り、この海域の西部で中国海軍と共同演習を行い、2月初頭にはスエズ運河を通過、地中海に入った。
1月20日ロシア国防省は、1月末から地中海をはじめ黒海、北大西洋、バルト海、太平洋などで140隻以上の艦艇を動員してロシア海軍大演習を開始する、と発表した。演習は、1月末から4艦隊(北方艦隊、太平洋艦隊、黒海艦隊、バルト艦隊)が参加し、地中海東部を中心に世界各海域で実施中である。上述・対馬海峡を通過した3隻は、地中海でこの演習に参加し、折から同海域に進出中の米空母打撃群を牽制する構えをとっている。
連日報道されているように、ロシアはウクライナのNATO加盟意向に反対し、領土を占領・併合する構えで、ウクライナ国境周辺に10万の大軍を集結、いつでも侵攻できる体制を整えている。緊張高まるウクライナ情勢を、海上から支援し西側に圧力を加えているのが今回のロシア海軍大演習である。不思議なことに我国はこの件に関し全く沈黙している。しかし我国周辺のロシア艦隊の動きは、この海軍大演習に密接に連動している事を知るべきである。
図21:(ロシア海軍情報供給部)2月8日地中海の荒波を航行するロシア太平洋艦隊旗艦「ワリヤーグ(011)」ミサイル巡洋艦。1989年就役、2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,300㌧、強力な防空力と打撃力で西側空母打撃群を攻撃するのが主たる任務。同型艦は3隻が配備中。両舷に見える4本ずつの筒の中には、射程700 km、速度マッハ2の「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを格納、各筒に2基ずつ合計16基を搭載している。
- 陸上幕僚監部
1月24日発表 「令和3年度第4回国内における米空軍機からの降下訓練について」
1月25日〜27日、東富士演習場で米空軍輸送機(C-130)から第1空挺団(習志野)の兵員が降下訓練を行う。目的は島嶼部が攻撃された場合の奪還など各種事態に対処するため能力の維持・強化を図るためである。
- 海上幕僚監部
1月5日発表 「令和3年度米海軍主催・固定翼哨戒機多国間共同訓練(シー・ドラゴン 2021 / Sea Dragon 2022)への参加について」
1月5日発表 米海軍第7艦隊ニュース 「インド太平洋6ヶ国が参加しシー・ドラゴン演習を開始」
1月2日〜20日、グアム島周辺の海空域で、固定翼哨戒機による6ヶ国共同訓練を実施した。参加したのは、米海軍「P-8A」ポセイドン哨戒機2機、海上自衛隊「P-1」哨戒機2機、それにオーストラリア空軍、カナダ空軍、インド海軍、および韓国海軍からそれぞれ「P-3C」哨戒機1機ずつである。
米海軍から参加した「P-8A」の1機は、青森県三沢空軍基地に展開する第7艦隊麾下の第72偵察・哨戒航空軍[Commander Task Force (CTF) 72]の第47哨戒航空団(VP-47) 所属で、グアム島アンダーセン空軍基地(Andersen AFB)から出発、訓練に参加した。他の1機は同じく第26哨戒航空団(VP26)所属である。
海自から参加の「P-1」哨戒機2機は、海自発表で“第31飛行隊所属機”とされるが基地名や上位航空群名などは不明。(P-1は40機ほどが納入済み、厚木基地・鹿屋基地に配備されている)
「シー・ドラゴン2022」演習は対潜水艦戦を主にした演習で、参加した米海軍潜水艦1隻を目標にして、発見、追跡、仮想攻撃などを含み、総飛行時間は270時間に達する演習である。地上演習では、参加国のパイロット・乗員が一堂に集まり、それぞれの能力、装備の状況に応じた共同戦術の話し合いが持たれた。
“第31飛行隊長”道山智行2等海佐の談話;―「この演習は毎年行われる高度な対潜水艦戦の演習で、教室での地上訓練から実際の潜水艦をターゲットにした訓練まで行われる。これで我々の戦術技量が一層向上し、さらに訓練を通じて多国間の軍同士の意思の疎通が改善され、緊密の度合いが深まる。」
1月27日発表 「コープ・ノース22における日米豪共同訓練について」
同日付け航空幕僚監部発表 「コープ・ノース22における日米豪共同訓練について」
2月2日から18日の間、グアム島アンダーセン空軍基地および周辺海空域で、海上自衛隊、航空自衛隊は、米軍、オーストラリア軍と実戦的環境のもとで訓練を行い、相互運用性の向上を図る。海自からの参加は第71飛行隊長川口智久2等海佐と同飛行隊所属の救難飛行艇「US-2」1機である。第71飛行隊は「US-2」6機を運用、岩国基地と厚木基地に分散配備している。
図22:(新明和)救難飛行艇「US-2」。全備重量47.7 ton、翼幅、全長共に33.3 m、エンジンはロールス・ロイスAE2100出力4,600 hpを4基。航続距離4,700 km、巡航速度480 km/hr。波高3 mの海上でも離着水可能なSTOL性を備える。操縦系統はフライ・バイ・ワイヤ、客室は与圧式構造。
空自からの参加は、千歳基地第2航空団、築城基地第8航空団、入間基地航空戦術教導団、入間基地航空教導団、および浜松基地警戒航空団、から多数の航空機が参加する。すなわち;―F-15J/D戦闘機6機、F-2A戦闘機6機、U-125A 航空救難機1機、UH-60Jヘリコプター1機、およびE-767早期警戒管制機1機、それに小牧基地の航空支援集団・第1輸送航空隊KC-767輸送機1機が加わる。
空自の訓練はグアム島北方のファラロン・デ・メデイニラ空対地射爆場でも実施される。空自訓練項目は、防空戦闘、戦術攻撃、空対地射爆撃、捜索救難、および機動展開訓練等からなる。
1月30日発表 「米国主催・国際海上訓練(IMAX/CE22)への参加について」
1月31日から2月17日の間、中東ペルシャ湾内のバーレーン(Bahrain)沖合海域で米海軍が主催する国際海上訓練に、海自から掃海母艦「うらが」と掃海艦「ひらど」を派遣参加する。この訓練は機雷敷設戦および対機雷掃海を主に行われる。
図23:(Google) 国際海上訓練(IMAX/CE22)が行われる中東のペルシャ湾バーレーン(Bahrain)の位置、ここで海自などによる機雷掃海訓練が行われる
1月31日発表 「令和3年度機雷戦訓練(伊勢湾)および総会特別訓練(日米共同訓練)について」
2月1日から10日の間、伊勢湾で海自掃海隊群の艦艇15隻と掃海ヘリコプター3機が参加して機雷敷設戦および対機雷戦訓練を行う。訓練には米海軍からUUV操作員5名が参加する。海自から参加するのは、掃海母艦1隻、掃海艦2隻、掃海艇12隻で、訓練統制官は掃海隊群司令・金刺基幸海将補、米海軍からは第5機動水中処分隊第501小隊指揮官が当たる。
[UUV]とは「Unmanned Undersea Vehicle/無人水中航走体」の略で、海中を自律走行し、装備するソナーやセンサーで水中や海底に潜む機雷を探知する装置である。そして発見した機雷は爆破処分をする。
図24:(Motor Fan/Hydroid)海自掃海艦「えたじま」が搭載しているUUV 「リーマス(REMUS) 600」米ハイドロイド社製UUV。[REMUS 600]は長さ4.3 m、直径0.7 m、重さ320 kg、艦に搭載する発射/回収装置から発射・回収する。毎秒2mの速度で150~200 km、時間にして24時間連続して掃海できる。最大掃海深度は600 m。「えたじま」は「あわじ」級・排水量690 tonの3番艦で2021年3月就役、海自最大の繊維強化プラスチック(FRP)製の艦である。
- 航空幕僚監部
1月14日発表 「米軍との共同訓練の実施について」
1月11日日本海および三沢東方の太平洋上の空域で、空自三沢基地第3航空団F-35A戦闘機2機、百里基地第7航空団 F-2戦闘機2機は、米空軍B-1戦略爆撃機2機と共同訓練を行なった。訓練項目は邀撃戦闘訓練および編隊航法訓練である。
図25:(航空幕僚監部)1月11日、米空軍B-1戦略爆撃機2機と空自百里基地の第7航空団所属のF-2戦闘機の編隊飛行。
1月20日発表 「米軍との共同訓練の実施について」
1月26日発表by Air Force News 「米空軍と日本空自機は太平洋上で「サザーン・ビーチ演習」(Exercise Southern Beech)を実施」
1月18日と19日那覇基地南東の太平洋上の空域で戦術空輸訓練、輸送機援護訓練、および空中給油訓練を行なった。
参加部隊は;―
空自からは、那覇基地第9航空団所属のF-15戦闘機8機、南西航空警戒管制団・警戒航空団所属のE-2C早期警戒管制機1機、小牧基地第1輸送航空隊所属のC-130H輸送機1機、入間基地の第2輸送航空隊所属のC-1輸送機1機。
米空軍からは、沖縄県嘉手納基地第18航空団所属の各航空団からF-15戦闘機14機、E-3Gセンチュリー早期警戒管制機1機、KC-135空中給油機2機、およびHH-60救難ヘリコプター2機。
「第18航空団(18th Air Wing)」は、米空軍最大の戦闘航空団で太平洋空軍麾下の第5空軍に所属している。米国と日本を防衛するための即応集団で、常時出撃可能な戦闘機部隊、空中給油部隊、早期警戒監視部隊、救難機部隊で構成されている。
今回の演習は島嶼争奪戦を想定し、過酷な戦闘下で遂行しなければならない補給作戦を主眼にした訓練で、両軍合わせて28機の航空機が参加した。演習は、日本の空自側が主体となって計画を立案し、実施し、事後評価(debriefing)までを行った。これで空自の能力の高さを改めて米空軍に示すことになった。
これで日米両空軍は、お互いの強さ、練度、を深く理解でき、連帯して有事に当たる対応能力を一段と向上させることができた。
図26:(USAF photo by Airman 1st Class Moses Taylor)1月19日太平洋上で行われた「サザーン・ビーチ22-2演習」で、米空軍第18航空団麾下の第909空中給油航空団 (909th Air Refueling SQ)のKC-135ストラト・タンカーから給油を受ける空自F-15J戦闘機。
―以上―