“反撃力のシンボル” BGM-109トマホーク巡航ミサイル


2022-11-21(令和4年) 松尾芳郎

図1:(Raytheon Missiles & Defense) トマホーク巡航ミサイル、1983年配備開始、改良を重ね現在はBlock Vの生産が始まっている。長さ5.67 m、直径52 cm、円筒形で折畳式主翼・翼幅2.67 mの基本は変わらない。重量は1.5 ton位。エンジンはWilliams製ターボファン、推力は順次アップされ700 lbs以上。巡航速度はマッハ0.8、新型の射程は3,000 kmに達する。

10月末メデイアは一斉に、日本政府は北朝鮮・中国・ロシアからの軍事的脅威の高まりに対処するため、米国が作る長射程巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討中、と報じた。(Japan is looking into buying US-developed Tomahawk cruise missiles as it seeks to counter growing regional threats, including from North Korea, China and Russia, the government said end of October.)

「BGM-109 トマホーク(Tomahawk)」は、1983年から米海軍で配備が始まった亜音速・低空飛翔・核爆弾搭載の巡航ミサイル。このうちトマホーク搭載用の核弾頭は2012年までに全て解体され、退役したので現在は存在しない。

その後、通常弾頭搭載の長射程・攻撃ミサイル「RGM/UGM-109トマホーク」が作られるようになった。「RGM/UGM-109トマホーク」は、米海軍の原子力潜水艦、水上艦からイラク戦争、リビア攻撃、などに使われ、ピンポイント攻撃で大きな成果を上げた。イギリス海軍はトマホークを購入、潜水艦に搭載している。

「トマホークBlock IV」は最近まで製造されてきた型で、従来型 (Block III)の比べ、飛行中に飛行計画を変更できるなど戦闘能力が向上している。製造コストは、安価なエンジンへの換装などで性能は維持しつつBlock IIIの半分になった。これで、配備・運用が遥かに容易になっている。米海軍には専門の「トマホーク・ウエポン・システム・プログラム・オフィス」[Tomahawk Weapon System Program Office (PMA-280)]が設置されており、ここでトマホークの調達、開発、維持を行なっている。

「トマホーク」は米海軍の対地攻撃用ミサイルの主役である。これまでに4,000発以上を調達し、2011年3月には、ミサイル駆逐艦「バリー(USS Barry/DDG-52)」が実戦で2,000発目となる「トマホーク」を発射し目標を破壊している。

「トマホーク」の誘導に使われているのは、「TERCOM (Terrain Contour Matching)・地形照合システム」、「DSMAC (Digital Scene Matching Area Correlator)・デジタル映像照合システム」、それに「INS (慣性航法システム)」および「GPS(全地球測位システム)」の4つのシステム。

  • 「TERCOM (Terrain Contour Matching)・地形照合システム」

トマホークの基本となる航法装置で、最初から装備され、逐次改良され現在に至っている。攻撃目標が決まると、発射前にミサイルのコンピューターに飛行経路の地形データを入力して発射、ミサイルは自身のレーダー高度計で高度を計り・地形の凹凸に沿いながら目標に向かう。あらかじめ入力する正確な地形データは、偵察衛星のレーダー情報から取得する。日本がトマホークを購入した場合は、保有する偵察衛星の数が少なく情報量に限りがあるので、米国民間衛星会社から購入したり、米軍の情報支援に頼ることになる。

  • DSMAC (Digital Scene Matching Area Correlator)・デジタル映像照合システム」

「トマホークBlock II」から装備され現在に至っている。発射前に飛行予定経路上にある建物や地形の特徴(目標を含む)をミサイルのコンピューターに入力し、発射後、ミサイルの光学センサーで実際の光景を確認・照合しながら正確に着弾する。あらかじめ入力する建物、地形の映像は、光学衛星からの情報となるので、「TERCOM」と同様、米国からの支援が必要になる。

  • 「INS(Inertial Navigation System)慣性航法システム」

「INS」は潜水艦、航空機、ミサイルなどに搭載、外部からの電波等による支援を受けずに、自らの位置や速度を知る装置。原理は、加速度計で得る加速度を積分して速度を知り、速度を積分して距離を求める。一方、ジャイロで方角をを知り、出発点からの移動距離を知る。天候や電波妨害の影響を受けないが、移動距離が長くなると誤差が大きくなる。このため「GPS(全地球測位システム)で補正する必要がある。

  • 「GPS(Global Positioning System)全地球測位システム」

米国防総省が1970年代後半から開発を進めてきた衛星による測位システムで、地球周回軌道上の24個の衛星からの情報で自分の位置を知る。これで軍用の航空機、船舶、ミサイルの位置情報を正確に取得できるようになった。1993年からは民間にも利用が開放されたので、自動車や個人の位置情報(緯度・経度・高度)をも知ることができる。

「xGM-109C/DトマホークBlock III」は、米海軍で2020年まで調達されてきたモデル。重さ1,000 lbsの通常炸薬搭載の水上艦用「xGM-109C」と、多数の子爆弾を持つ弾頭を備え潜水艦発射型の「xGM-109D」型がある。これら「Block III」は射程750 n.m.(1,400 km)だが、発射準備(mission planning)のためのデータ・ローデイングに80時間も要すると云う弱点があった。

図2:(BBC News) BBC作成の原図に新しい情報を入れ修正した「Block III」の図。「Block IV」でも大差ない。右端の「ブースター」は潜水艦発射型に使われている。

「xMG-109EトマホークBlock IV」は「TACTOM /タクテイカル(Tactical)トマホーク」と呼ばれ、2004年から供用が始まった。価格が「Block III」の半分になり、2004年から2015年まで生産された。米海軍では4,000発以上を調達、うち10 %を実戦に投入あるいは試験に使用してきたので保有数は3,600発程度、今後保有中のミサイルは「Block V」に改修されるだろう。

「Block IV」では、新たに「双方向UHF SATCOMデータ・リンク」が搭載されたので、衛星リンク経由で発射母体から発射後に素早く目標を変更したり、途中で待機飛行をするなどの、指示できるようになった。

「Block IV」は、弾頭は通常炸薬のままだが、構造の軽量化で燃料搭載量を増やし、射程900 n.m.(1,660 km)に延伸、発射準備に要する時間を80時間から1時間に短縮したので、実戦への対応力が著しく向上している。水上艦発射型「RGM-109 VLS」と潜水艦発射型「UGM-109」の2種類があり、さらに潜水艦発射型には次の2つがある;―

  • 「CLS (canisters launch system)」は、米海軍のロサンゼルス(Los Angeles)級(SSN 719以降)、バージニア(Virginia)級、およびオハイオ(Ohio)級の各原潜にある垂直発射管から発射できるキャニスター(円筒形の筒)に収められている。
  • 「TTL (torpedo tube launch)」は、潜水艦の魚雷発射管から発射できるよう構造を強化し、キャニスターに収納した型で、イギリス海軍の原潜トラファルガー(Trafalgar)級1隻とアスチュート(Astute)級5隻で運用されている。

両方とも潜水艦のキャニスターから射出され、「UGM-109」が潜水艦から十分離れ安全な位置になると、ブースターが点火、空中に飛び出し、ブースターを分離・ジェットエンジンが作動し始める。

潜水艦側に残ったキャニスターは、魚雷、機雷、UUVなどの装填が必要な場合は、ミサイル射出後に投棄できる。

図3:(Raytheon Missiles & Defense)米原子力潜水艦から発射される「トマホーク」。固体燃料ロケット・ブースターで加速上昇を開始したところ。

トマホークBlock V

米海軍は2020年から「トマホーク」のさらなる近代化を開始、保管期限(recertification /使用のための再認証への期間)を現在の15年から30年に延長する新たな「Block V」シリーズの開発に取り組んでいる。保管期限に達すると全ての装備品は検査・試験する規定なのでこれは大きな改善になる。Block Vの単価は200万ドル(2億8000万円)とされる。

「Block V」は次のモデルで構成される。

  • Block V:Block IV / TACTOMの航法・衛星通信システムを改良、精度を一層向上する。
  • Block Va:洋上を航行する移動目標・艦艇を攻撃する。「海洋打撃トマホーク」・「MST=Maritime Strike Tomahawk」と呼ばれ、最新の終末誘導用のシーカーで敵艦艇を識別、精密攻撃する。
  • Block Vb:高強度の炸薬を搭載し、強固に防護された地上目標を攻撃・破壊する。

Block VaとVbに分かれているが、両者はほとんど同じ、搭載する炸薬の違いだけで、実質的に「Block Va」/「MST」は対地・対艦両用の巡航ミサイルと云って良い。

終わりに

「トマホーク」はこれまでに、米国とイギリスはGPSを使った飛行試験を550回繰り返し、実戦では2,300発を発射した経験を有する。最新の発射事例は2018年で、米海軍の水上艦と潜水艦からシリアの化学兵器工場破壊のため66発を発射し、目標工場を破壊するのに成功した。

「トマホーク」は米海軍、英海軍で使用中だが、これからオーストラリア海軍、カナダ海軍、オランダ海軍が導入を予定している。

述べてきたように「BGM-109トマホーク」は、マッハ0.8亜音速で2~3時間掛けて距離2,000~3,000 kmを飛翔、途中で目標の変更や、欺瞞のため旋回飛行をするなど飛行経路の変更の指示ができるようになった。「Block Va」は、中国、北朝鮮、ロシアなどが保有する各種弾道・巡航ミサイルの攻撃に十分対抗できる有効な「反撃能力」を持つ巡航ミサイルである。国産の「12式地対艦誘導弾・能力向上型」の本格的配備が10年後になるので、それまでの間即戦力として期待されるのが「トマホークBlock V」、早急の導入を期待したい。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Defense Industry Daily Oct. 31, 2022 “Tomahawk’s Chops: xGM-109 Block IV Cruise Missiles”
  • Yahoo News 2022-10-29 “トマホーク巡航ミサイルについて・核攻撃型はもう存在しない・対地/対艦兼用の新型が登場“ by JSF軍事/生き物ライター
  • Wikipedia “Tomahawk”
  • BBC News April 7 2017 “Syria war: US launches missile strikes in response to ‘chemical attack’
  • Raytheon Missile & Defense “Tomahawk”
  • Forbes Oct 23, 2019 2Tomahawk Cruise Missile “The Navy’s Tomahawk Cruise Missile is Becoming More Lethal, More Versatile” by Lore Thompson 
  • Defense & Security Monitor August 29, 2019 “U.S.NAVY Awards Raython $349 million for Maritime Strike Tomahawk” by Shaun McDougall
  • TokyoExpress 2022-08-15 “12式地対艦誘導弾(能力向上型)開発の現況“