アルマ望遠鏡で、恒星表面の変動状況の観測に成功


2024-9-21(令和6年) 松尾芳郎

巨大な星でも遠方にあるので肉眼では“点”にしか見えない。しかし望遠鏡を使えば別の姿を見せてくれる。南米チリにあるALMA望遠鏡を使って「かじき座」の星[R-ドラド(R-Doradus)]を観測した天文学者は、星の表面が巨大な高温の泡で覆われ、その泡が30日間隔で浮き沈みしている事を発見した。個々の泡は我々太陽の75倍もあり、恒星[ R-ドラド]の大きさは太陽の350倍で、地球の太陽周回軌道よりも大きい。約180光年の距離にある。

(Although stars are enormous, they are extremely far away, and appears as point sources in telescopes. Now astronomers have used Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) to fined detail on the star R-Doradus and track its for 30 days. The images revealed giant, hot gas bubbles 75 times larger than the Sun. R-Doradus is 350 times larger than the Sun, and180 light-years away.)

図1:(ALMA /ESO/NAOJ/NRAO/W. Vlemmings et al.) 天文学者がALMA望遠鏡を使い南半球で観測できる「かじき座(Constellation Doradus)」の恒星[R-ドラド(R-Doradus)]を撮影した。撮影日時は、左から2023-07-18、2023-7-27、2023-8-2の順。いずれの表面も太陽の75倍の大きさの浮き沈みする多数の巨大な泡で覆われている。この泡は恒星内部の熱源から生じるプラズマ対流で生じている。恒星の大きさをイメージするために左下に地球の太陽周回軌道(軌道直径は3億 km)を描いてある。

この様子を写したビデオは9月11日に公開された。

9月11日発刊の「ジャーナル・ネイチャー(Journal Nature)」誌に寄稿したスエーデンの「チャルマーズ工科大学(Chalmers University of Technology)」の博士課程学生「ベザド・ボノデイ・アルバブ(Behzad Bojnodi Arbab)」と共同執筆者「ウオーター・ブレミングス(Wouter Vlemings)」教授は、”ヨーロッパ南天文台 (ESO= European Southern Observatory)“でのプレス:リリースで次のように述べている。

「かじき座(Constellation Drado)にある恒星Rドラド(R-Doradus)は、広がりが我々太陽の300倍もある赤色巨星で太陽からおよそ180光年の距離にある。表面はぶくぶく沸き立つスープのようで、太陽の75倍ほどのもある巨大な泡の浮き沈みで覆われている。泡は星の中心部で起きている“核融合”反応の超高温で生じるプラズマ泡で、表面の冷えた密度の高いガスの層に当たって破れ沈む。この過程でコアで炭素、窒素などの新しい元素が生まれ、それが太陽風(恒星風)に乗り宇宙に拡散し新しい星の誕生につながる。

これまでの太陽の観測で、細かい無数の泡立ち/浮き沈みで表面が覆われている事を知っているが、今回太陽以外の恒星でも規模は異なるが、同様な泡で覆われている事が分かった。」そして「恒星の表面観測でこのように詳しい観測データが得られるとは全く予想していなかった。」

アルマ望遠鏡でRドラドを観測したのは昨年(2023)の7月初めから8月初旬の間、この結果で、ブレミングス教授等は「R-ドラド表面のプラズマの泡は1カ月のサイクルで浮き沈みしている。我々太陽で生じている対流泡はもう少し長いサイクルで変化している。Rドラドは信じられないほど膨らんでいるが(太陽の300倍!)、質量は太陽とほぼ同じである。太陽は50億年後には、水星の軌道程の大きさの赤色巨星に膨らむと予想されているが、その姿を示している。そしてこのクラスの恒星表面の対流渦は星の年齢と共に大きくなることを示している」と話している。

以前行われたアルマ望遠鏡の観測で、Rドラドはそれまで考えられていた赤色巨星の自転速度より二桁速い速度で自転していることが分かった。ブレミングス教授チームは新しい研究で、高速自転が恒星表面の泡立ちに影響を及ぼしてはいない、と話している。

これは別のチームが、オリオン座(Constellation Orion)の赤色巨星ベテルギウス(Betelgeuse)を調べ、その自転速度が予想より100倍も速いことを発見した事による。Rドラドはの自転速度は、対流渦の浮き沈みの周期1カ月よりずっと長い周期であることが分かったからである。

核融合反応 (Nuclear Fusion)

太陽/恒星の主成分は水素原子。水素原子4個からヘリウム原子1個が合成されると、質量が0.7 %減少する。この0.7 %が太陽エネルギー、熱や光、電磁波になる。核融合反応が起きるには1000万度K以上の高温が必要で。太陽の中心核コアではこの超高温を超えているので反応が連続して起きている。コアにある水素全てがヘリウムに変わる時間は100〜109億年とされる。

太陽表面にできたプラズマ対流による泡の写真が、全米科学財団(NSF)から公開されている。

図2:(NSO/AURA/NSF)全米科学財団(NSF)がマウイ島に建設したダニエル K イノウエ太陽望遠鏡で撮影した太陽表面の様子(2020-1-29)。太陽表面は、コアで起きる核融合反応で超高温のプラズマ対流が生じ浮上、粒状泡ができ全面が覆われる。泡の大きさは1000 kmほど。50億年後にはこの泡が図1のように大きくなるのだろうか。

かじき座 (Constellation Drado)

「かじき座」の星々は、次のようになっている。

[Alpha Doradus]:青白色の星、3.3等星、地球から176光年で「かじき座」で最も明るい星。

[Beta Doradus]:セファイド変光星(Cepheid Variable star)で、超大型の黄色星で、等級 (magnitude) は4.1から3.5の範囲を9日と20時間で変動している。地球から1,040光年の距離にある。

[R-Doradus]・「Rドラド」:「かじき座」には変光星が多いが、R-Doradusは赤色巨星の変光星で等級は4.8~6.3、地球からの距離は178光年、場所は隣にある「網座(Reticulum)」との境目にある。肉眼では見え難いが、赤外線で見ると全天で最も明るい星 (-2.65等級)の一つとなる。最大はベテルギウス(Betelgeuse)-2.9等級、アンタレス(Antares)-2.73等級で3番目の明るさ。

図3:(ステラルーム)かじき(長い角を持つ魚)座の見取り図。大マゼラン雲の近くにある。

図4:(Wikipedia) 「かじき座 (Constellation Drado)」は、天の川銀河の伴銀河「大マゼラン雲(Large Magellanic Cloud)」(かじき座の下、赤の輪郭)があるので望遠鏡ですぐ見つかる。R-ドラドは、肉眼では見難いが赤外線では非常に明るい。

ALMA(アルマ)望遠鏡 [Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA)]

アルマ望遠鏡は南米チリの北部、標高5,000 mのアタカマ砂漠に建設された電波干渉計である。2011年に観測を開始、日本・韓国・台湾、北米、欧州南天天文台の加盟国とチリを併せた22カ国が協力して建設運用している。

口径12 mのパラボラ・アンテナ54台と口径7 mのパラボラ・アンテナ12台の合計66台を連結し1つの巨大電波望遠鏡としている。日本は計画全体のおよそ4分の1の貢献をしている。パラボラ・アンテナは16台、電波をとらえる受信機は10種類のうちの3種類を日本が開発、また他の受信機の開発にも貢献している。日本が用意するアンテナ本体は三菱電機、受信機は国立天文台、相関器は富士通がそれぞれ担当している。

アルマ望遠鏡は、「可視光線(波長400 nm~700 nm)」より長い波長の「赤外線(波長1 μm~100 μm)」から、さらに長い電波領域「遠赤外線/マイクロ波(波長0.3 mm~1 cm)で観測する。これでガスや塵の分布、動きを調べることができる。これにより従来の地上設置型電波望遠鏡の1000倍以上の高い感度を得ている。

図:(国立天文台/富士通)アタカマ砂漠に設置された口径12 mパラボラ・アンテナ54台と口径7 mのパラボラ・アンテナ12台、全体の配置図。富士通は観測データを処理する専用計算機「相関(ACA Correlator)」などの制御システムを開発している。

終わりに

太陽表面の観測で、プラズマ対流で生じる泡がびっしりと覆っている事が判ったのは10数年前のこと。今回南米チリのアルマ望遠鏡を使い赤外線観測で、太陽の遠い将来の姿を示すかじき座の赤色巨星Rドラドの観測に成功。そこでは表面が粒状ではなく太陽の75倍の大きさの巨大な対流渦が1カ月の周期で変動している事が分かった。観測チーうは全く予期しなかった発見と驚きを隠さない大発見となった。宇宙には我々の知らない事象がいっぱいあることを示す1例である。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Space.com Sept. 13, 2024 “The bubbling surface of a distant star was captured on video for the 1st time ever”  by Sharmila Kuthunur
  • Guide to Space Weekly Space News Letter by Fraser Cain Sept. 14, 2024 “High Resolusion Images Show Bubbling Gas on the Surface of Another Star”
  • Wikipedia “R Doradus”
  • Sorae 2020-01-31 “これが太陽の表面。ハワイの太陽望遠鏡が高解像度画像と動画を公開“by 松村武宏