ウクライナ空軍、ドローン迎撃用新防空システムの試射を公開


2024-10-11(令和6年)松尾芳郎

図1:(Ukrainian Air Force) 「スカイネックス(Skynex)」ドローン・巡航ミサイル迎撃用短射程35 mm機関砲が迎撃射撃をしているところ。

ウクライナ空軍は2024年9月25日、ドイツ・ラインメタルが開発した最新の防空システム「スカイネクス」の試験運用している様子を初めて公開した。「スカイネクス」防空システムは、ドイツがウクライナに供与した最新の短射程防空システムで、最大4基の35 mm口径機関砲無人砲塔、火器管制室(fire control unit)、目標探知レーダー、で構成されている。

(Ukraine Air Force has released first time of a cutting edge Rheinmetall developed Skynex air defense system firing during training exercises. The Skynex Anti-Aircraft Artillery System, supplied to Ukraine by Germany, as the latest short range air defense system. The system equipped with maximum fore 35 mm unmanned gun units, a control node and a radar system that detects targets.)

「スカイネクス (Skynex)」防空システムは、ドイツの国防企業「ラインメタル(Rheinmetall)」傘下のスイス企業「エリコン(Oerlikon)」社が開発した「エリコン・スカイネクス (Oerlikon Skynex)」である。ネットワーク化された短射程防空システムで、広範囲の航空攻撃に有効に対処できる。半径50 km以内に侵入する航空機・ロケット弾・巡航ミサイル・ドローンなどの脅威を防ぐ。飽和攻撃 (saturation)、群れ攻撃(swarm)に対する効果的な防空システム。システム全体がオープン・アーキテクチャー化され、モジュール化されているので、改良が容易で拡張性に優れている。

ウクライナには、これまで同盟諸国から防空システムとして、NASAM、IRIS-T、ペトリオットなどが供与されてきたが、いずれも極めて高価な地対空ミサイルでロシアのミサイルの迎撃に使われてきた。

ロシア軍はイラン製の“シャハド (Shahad)”ドローンを毎晩のように発射しているが、これは単価20万ドル以下(5~19万ドル)、これに対しNASAMミサイルは単価60万〜100万ドル、ペトリオットは400万ド(5億円)、IRIS-Tは多少安く45万ドルもする。例えば、ロシア軍は9月26日夜、シャハド・ドローン78発をウクライナ各地に向け発射した。これの迎撃に従来形迎撃ミサイルを使うのは費用/効果が極めて悪い。これらドローンは小型で探知・追跡・攻撃が難しい。そこで期待されるのが「スカイネクス」である。

「スカイネクス」は、発射速度毎分1,000発、有効射程4 kmの「エリコン口径35 mmリボルバー・ガン(Oerlikon revolver gun) Mk.3」を発射機/ガン・モジュールに搭載している。発射機にはXバンド追跡レーダーと電子光学センサー(electro-optical sensor)およびプロセッサー(fire control processor)を搭載している。これで標的を識別し「火器管制室(control node)」と情報を共有しながら、選定した発射機から35 mm弾丸を発射する。弾丸は直接衝突するのではなく、目標に接近すると破裂して多数のタングステン製ペレットを散布目標を破壊する。

「スカイネクス」システムの中核は「火器管制室(control node)」である。ここは「エリコン・スカイマスター戦闘管制システム(Oerlikon Skymaster Battle Management System)」を中心に構成されている。「エリコン X-TAR3D戦術情報収集レーダー(Tactical Acquisition Radar)」が「火器管制室」に装備され対空情報を収集する。そこから情報を、「スカイマスター」ネットワークを経由して選定した」発射機「エリコン・リボルバー・ガン(Oerlikon Revolver Gun) Mk.3に自動的に送る。

Mk.3リボルバー・ガンは、弾倉が回転するピストルと同じ構造で、弾倉が2つ、銃身が1本の組み合わせになっている。

図2:(Rheinmetall / Oerlikon)「スカイネクス」システム全体の広告。「エリコン・スカイマスター・戦闘管理システム(Oerlikon Skymaster Battle Management System)」を内蔵した「火器管制室 (control node)」(左)が中心、ネットワーク経由で最大4基の発射機/ガン・システムで目標を迎撃する。

図3:(Rheinmetall / Oerlikon)「火器管制室 (control node)」と頂部に取付たXバンド・レーダー。これは「X-TAR3D」/3次元戦術情報収集レーダー」と呼ばれ、来襲する航空目標を360度全周を最大50 kmの距離で探知、追跡、クラス分類(航空機、巡航ミサイル、ドローン、砲弾など)をする。

図4:(Rheinmetall / Oerlikon)「火器管制室 (Control node)」の室内。「エリコンX TAR3D (Tactical Acquisition radar)」レーダー・スクリーンが中心。3名のコントローラーが射撃の指揮をとる。発射機/ガン・システムは無人。

図5:(Rheinmetall / Oerlikon)ラインメタル製HXトラックに搭載した「スカイネクス」の外観。「発射機/ガン・システム」は、35 mmエリコンMk.3リボルバー・ガン、Xバンド・レーダー、それにEOセンサー、レーザー距離計、赤外線カメラなどが装備されている。

図6:(Rheinmetall / Oerlikon)「スカイネクス」システムの構成。「火器管制室(control node)」(右下)が飛来する目標(右上)を探知・追跡する。距離を含むデータを「ガン/発射機」(左下)に転送、「ガン」搭載のレーダーと情報交換をする。発射する弾丸にガン・コンピューターから破裂プログラムを入力する。発射された弾丸は目標に接近・破裂してタングステン弾片を散布、目標を破壊する。

図7:(Rheinmetall / Oerlikon)「スカイネクス」35 mm 機関砲弾丸の構成。飛翔中は「発射機」からの信号を「受信用コイル」で受信、目標に接近すると「ヒューズ(fuse)」すなわち「近接信管」が作動、「破裂用炸薬」を爆破「タングステン弾片」を散布する。

ドイツ政府のウクライナ援助

2022年12月9日、ドイツ政府は、ウクライナに「スカイネクス」システムを2基、価格で1億8,200万ユーロ (2億ドル)を無償供与すると発表した。これに基づき、最初の「スカイネクス」は2024年1月、2基目は2024年4月に引き渡された。2025年度分も発注済みとなっている。

ウクライナに供給されている「スカイネクス」システムは、4基の「エリコン35 mmリボルバー・ガンMk.3」・HXトラック積載型、「火器管制装置 (fire control node)」、「X-TAR3Dレーダー」、で構成されている。

ドイツは2024年5月に、ウクライナに対し、防空システムを始めとし、弾薬、その他の軍需品をこれまで以上に供与すると発表した。9月には、供与する品目の詳細なリストをウクライナに送付したが、これで2022年2月のロシア侵攻以来のウクライナ軍事支援の総額は280億ユーロになる。これには2024年度分の71億ユーロを含む。

終わりに

ウクライナ政府は我国に対し繰り返し、支援を要請してきているが、我国は発電機、地雷除去車両、その他細々とした物資の供与にとどまり、「武器輸出3原則」を頑なに守り続けている。同じ敗戦国ドイツは長いこと類似の措置で自らを縛っていたが、ロシア侵攻が始まった2022年以来方針を転換、ウクライナのみならずNATO諸国への武器輸出に積極的になっている。発足早々の石破内閣にも見習ってほしい、と思うが、無理な期待かな。

―以上―

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

  • Kyiv Post September 27, 2024 “Ukrainean Air Force Video shows Impressive Skynex System for First time” 
  • Newsweek Sept. 25,  2024 “Ukraine fire new NATO Skynex Anti-Aircraft Artillery System”
  • New Voice of Ukraine September 25, 2024 “Ukrainian military displays advanced Skynex air defense system”
  • Rheinmetall.com “Skynex-networked air Defence”
  • Rheinmetall.com “Oerlikon Skynex Air Defense System”
  • World Tank News 2021-11-17 “ドローンの群れに対抗するためのラインメタルSkynex防空システム“