2024-10 23(令和6年) 松尾芳郎
図1:(SpaceX)惑星間飛行を目的とするスターシップは100人乗り、高さ50.3 m、直径9 m、ラプターロケット6 基を装備する。ブースターは高さ71 m、直径9 m、ラプターロケット33基で合計最大推力は 1,670万 lbs。
世界最大のロケットは5回目の打上げで、初めての回収に挑戦、成功した。スターシップにとって宇宙飛行に向けて大きな前進となる。スペースX社は、スターシップの1段目^スーパー・ヘビー”とスターシップを分離した後に再び発射地に帰還させ発射塔の「箸」で捉えて回収した。
(The biggest rocket ever build took to the sky again. This time , it came back. The mission aimed to open new road for Starship, and for space flight. SpaceX planned to return huge first stage booster, Super Heavy, to its launch mount, catching it with “chopstick” arms of the launch tower in an unprecedented maneuver.)
“スターシップ”と“スーパー・ヘビー”を一体にして5回目の試験発射 ( IFT-5 =integrated flight test)を実施した。高度70 km付近で“スターシップ”を分離、“スーパー・ヘビー”は打上げ7分後にボカチカ・ビーチ(Boca Chica Beach, Texas)に戻り、発射塔に付属する2本の「箸」で捉えて着陸に成功した。
“スーパー・ヘビー”から分離した“スターシップ”は速度6,800 km/hrで高度110 kmに上昇し低地球周回軌道近くを飛行し、計画通り打上げ65分後にインド洋に着水した(回収はしない)。この際、大気圏再突入時に必要な改良型セラミック耐熱シールドの試験が行われ、満足すべき結果を得た。
スペースX品質システム・エンジニアリング課長ケイト・タイス(Kate Tice)氏は「“スーパー・ヘビー”の完璧な回収、“スターシップ”の耐熱シールドの試験、いずれも期待以上の最高の成果を得た」と話している。
“スーパー・ヘビー”は、メタン燃料使用のラプター(Raptor)ロケット33基で打上げる。打上げは10月13日午前7時25分(現地時間)、全長121 mの“スターシップ・スーパーヘビー”はメキシコ湾に向けて上昇した。FAAから発射許可が降りたのは前日の10月12日。FAAは打上げ可否を11月末まで検討したいと難癖を付けていたが、スペースX側は「不必要な遅延要求だ」と繰り返し抗議して、打上げに漕ぎつけた。
打上げ後3分40秒(T+3分40秒)、高度90 km辺りで“スーパー・ヘビー”は“スターシップ”を分離して、向きを変え33基のラプター・エンジンのうち内側の13基を再スタートし、メキシコ湾方向に戻った。そして予定通りエンジンの停止・着火を繰り返しながら降下して発射塔に接近、2本のキャッチャー・アーム“箸”で捕捉された。発射塔でキャッチ出来なかった場合に備え、メキシコ湾に着水させるプログラムも用意していたが、杞憂に終わった。
“スーパー・ヘビー”は、ゆっくりと正確に発射塔に接近し、発射塔の2本のアーム“箸”の間に降下し、捕まりエンジンを停止した。
スペースXでは、発射塔を含む全体システムを「メカジラ(Mechazilla)」と呼んでいる。発射塔捕捉システムが完成したことで、“スターシップ・スーパーヘビー”システムの整備が容易になり、再使用のための整備期間が短縮できる。
この成功について前述のケイト・タイス氏は「まるで魔法のようだった、技術の歴史を飾る1ページになる」と語っている。
図2:(SpaceX) スーパーヘビーは全長71 m、直径9 m、液体メタン(CH4)と液体酸素(LOX)燃料3,400 tonを搭載、ラプター・ロケット33基、総推力1670万ポンド/74,400 kNでスターシップを打上げる。
既述したがITF-5のもう一つの目的は スターシップのセラミック製耐熱ヒートシールドの改良試験だった。
今年6月6日のIFT-4試験は、スターシップ「S29 (29号機)」とスーパーヘビー・ブースター「B11 (11号機)」の組合わせで行われた。全エンジンが予定通り作動し、スターシップは予定高度に上昇して降下したが、前部のステアリング・フラップ (steering flap /操舵翼)1枚が再突入時に晒された高温のため破損した。これでインド洋上の予定箇所から外れて着水した。
大気圏再突入時の温度は2,600度F ( 1425度C ) 。現用の大型ターボファンのタービン入口温度は約1,300度Cなので、再突入時に晒される温度はかなり高い。
今回の試験飛行IFT-5は、スターシップ「S30 (30号機)」とスーパーヘビー・ブースター「B12 (12号機)」で行われた。
イーロン・マスクC E Oの指示で、「S30(30号機)」に取付け済みの耐熱シールドを全て剥がし、新型と交換した。すなわち、新開発の耐熱タイル、耐熱被膜で塗装、フラップ取付部に耐熱装置を追加などの改良を加えた。さらに再突入時の姿勢制御を改善するソフトを追加して、10月13日の[IFT-5]に臨んだ。
図3:(SpaceX) スターシップは全長50 m、直径9 m、搭載燃料(CH4+LOX)合計で1 ,200 ton、エンジンはラプター(Raptor)ロケット、大気圏用が3基、真空用が3基、計6基の合計推力は12,300 kN (280万lbs)。前部と後部に2枚ずつ合計4枚のフラップ/操舵翼がある。スターシップ全面のほぼ半分は耐熱温度1,400度C 、6角形黒色セラミック・タイル18,000枚で覆っている。地球周回軌道へのペイロードは人員100名、または貨物100~150 ton。
スペースXは、スターシップとスーパーヘビー・ブースターを一体で打上げ、いずれも回収し再使用することを目標にしている。そして将来、火星旅行を実現しそこに移住基地を作ることを目指している。
“スーパーヘビー”は推力1,670万ポンド(751.5万kg)を出す世界最大のロケット。これは、NASAが月着陸用アポロ宇宙船の打上げに使ったサターンVロケットやNASA/ボーイングが開発を急いでいるスペース・ローンチ・システム(SLS=Space Launch System)の2倍の推力になる。NASAは月面の有人探査を再開するための「アルテミス(Artemis)」計画を進めているが、この中で、宇宙飛行士が、月を周回する宇宙基地と月面を往復するために“スターシップ”を使うことを決めている。
NASAのビル・ネルソン(Bill Nelson)長官は今回の“スーパーヘビー”の回収成功について「5回目の試験で見事ブースターのキャッチに成功した。心から祝福する。これからも試験を続け、我々の目標である月の南極への着陸とその後の火星への飛行に挑戦したい。」とメデイアに語った。
以下にスペースX社撮影・発表の動画からピックアップした写真を示す。写真の下段には左から「ブースターのロケット作動状況」、「飛行速度、飛行高度」、中央には「打上げ後の時間」、右には「スターシップのロケット作動状況」などがそれぞれ示されている。
打上げT+2秒後。ボカチカ宇宙基地の発射塔から打上げた様子。左下に33基のラプター・エンジンが全て作動している事を示している。
T+58秒後。上昇中のスターシップ・スーパーヘビー。速度1075 km/hr、高度8 km。
T+1分35秒。速度2,131 km/hr、高度22 km。
T+1分50秒。高度31 km、スターシップ前方フラップ(操舵翼)から後部を見た映像。ブースターの噴射炎が広がっている。
T+2分41秒。高度68 km。左ブースター・エンジンは3基のみが作動中/スターシップから撮影。
T+2分46秒。速度5170 km/hr、高度72 km。左はスターシップから分離したスーパーヘビーが光って見える。右はスーパーヘビー頂部カメラの映像。左下、ブースターの33基エンジン、右下スターシップ・エンジン6基が作動中を示す。
T+3分25秒。ブースター側速度1297 km/hr、高度92 km、エンジン13基作動。スターシップ側、速度6101 km/hr、高度97km、エンジン6基作動。
T+3分50秒。ブースター側、速度1857 km/hr、高度96km、全エンジン停止、水平飛行中。スターっシップ側、速度6807 km/hr、高度110 km、エンジン6基作動。
T+6分30秒。ブースター側、速度1230 km/hr、高度1km、エンジン8基作動で降下中。スターシップ側、速度15167 km/hr,、高度144 km、エンジン6基で飛行中。
T+6分33秒。ブースター側、速度924 km/hr、高度1 km、エンジン13基で降下。
T+6分46秒。速度85 km/hrエンジン3基で降下。
T+6分55秒。時速3 km/hrで発射塔アームに捕えられた。全エンジン停止。スターシップ側は速度17,344 km/hr、高度144 km、エンジン6基で飛行中。
T+6分59秒。アームに捕えられたブースター頂部。
T+8分。朝日に映える発射塔と着陸に成功したスーパーヘビー・ブースター。
終わりに
イーロン・マスク氏は10月15日に「次は高さ50 mのスターシップ(簡略して“シップ”)を同じように発射塔でキャッチする。今年末か2025年初めに実行する」とXで語った。
今回の試験飛行IFT-5で、巨大なブースターを完全な形で発射塔に回収する技術が確立された。これでスペースXが挑戦する惑星間飛行は実現に向けて大きく前進した。惑星間飛行を日常化するには、解決すべき主な項目として次が考えられる。すなわち;―
・スターシップへの宇宙空間での燃料補給
・スターシップの不整地着陸
・スターシップの月面での居住施設化
惑星間飛行ではなく、地球上の2地点を結ぶ超高速輸送にスターシップを使うことが検討されている。テキサスやフロリダの宇宙基地と英国や日本に新設する宇宙基地を1時間程度で飛行する構想である。
スペースXの実行力で近い将来これらの技術を完成して、惑星間飛行が実現することを期待したい。
―以上―
本稿作成に参考にした主な記事は次の通り。
- SpaceX.com Oct 13 “SpaceX catches giant Starship Booster with ‘Chopsticks’ on historic Flight 5 rocket launch and landing(video)” by Mike Wall
- Guide to Space Oct. 18 2024 “SpaceX’s Mechazilla Catches a Starship Booster on First Try” by Alan Royle
- Space.com Oct 14 2024 “SpaceX launche
- Space.com Oct. 16 2024 “SpaceX planning ‘chopsticks’ catch of Starship in early 2025” by Mike Wail
- Aviation Week.com Oct. 13 2024 “SpaceX Catches Returning Starship Booster with Launch Gantry” by Irene Klotz
- Wikipedia “SpaceX Starship
- TokyoExpress 2024-4-20 “NASA、有人月面探査車/LTV開発で3社競合、JAXA/トヨタ開発のルナ・クルーザーも月面へ“
- TokyoExpress 2023-11-22 “スターシップ打上げ分離に成功、高度150 kmに上昇するも爆発”
- TokyoExpress 2023-4-25 ”スペースXスターシップ打ち上げ成功、しかし数分後に制御不能で爆破処理“