2024-11-4 (令和6年) 松尾芳郎
図1:(Northrop Grumman)、飛来する赤色の極超音速滑空ミサイル(HGV)をGPI(滑空段階迎撃用誘導弾)が迎撃する場面(想像図)。
中国、ロシアが進める極超音速滑空体(HGV=Hypersonic Glide Vehicle)の配備に対し、日米両国は共同で次世代型ミサイル防衛システムGPIの開発協定を正式に締結した(May 15, 2024)。米国防総省ミサイル防衛局 (MDA=Missile Defense Agency)は2024年9月25日、GPIはノースロップ・グラマン (NG=Northrop Grumman)社案を採用すると決定した。これを受け防衛省はNG社と共同開発を進めると発表した。
(Japan and the United States signed an agreement on May 15 to jointly develop Glide Phase Interceptor (GPI), next-generation missile defense system defeating hypersonic missiles that are deployed by China and Russia. The U.S. Missile Defense Agency (MDA) announced on September 25, 2024, will proceed with Northrop Grumman to continue development of the GPI, with international partner the Japan Ministry of Defense (MoD).
GPI日米共同開発は2023年8月に、当時の岸田文雄総理大臣とJoe Biden大統領の会談で共同開発することで合意・覚書を交換済み、これが今年5月の政府間協定で正式に決定した。
米国防総省(DOD)は、中国やロシアが開発・配備を進める極超音速滑空体 (HGV=Hypersonic Glide Vehicle)に対処するため専用の迎撃弾 (GPI=Glide Phase Interceptor)の開発を進めてきた。中国・ロシアの極超音速滑空体(HGV)は飛行コースを複雑に変えながら大気圏上層部をマッハ5以上の速度で飛来するので、既存の迎撃ミサイルでは対処困難とされている。このため米DODでは地球周回低軌道(LEO)上に赤外線センサー衛星多数を配備し、並行して専用の迎撃ミサイルシステム「GPI-Glide Phase Intercepter」の開発を進めてきた。2021年には、ノースロップ・グラマン、ロッキード・マーチン、RTXの3社と予備設計契約を締結したが、まずロッキード・マーチンが選外となり、今回MDA長官ヒース・コリンズ空軍中将(USAF Lt. General Heath Collins)の最終発表でノースロップ・グラマンに決定した。
米国には、毎年の国防予算に対し,議会が使用目的や配分、輸出入等について細かく定める国防権限法(NDAA=National Defense Authorization Act)という法律がある。2024年度権限法(NDAA)には「2029年末までにGPIの初期運用能力(IOC= initial operational capability)を取得すること、2032年までに完成すること、2040年までに24基のGPIを実戦配備すること」が定めている。しかしミサイル防衛局(MDA)は、一貫して「2029年末の初期運用能力(IOC)取得は難しい、2035年以降の脅威に対抗できるようにしたい」と主張している。
防衛省は、2024年度予算で、初期開発、試験の費用4億9000万ドルを計上済み。米MDAでは、GPIプログラム合計の費用を30億ドルと予想、日本はその33 %~50 %、10億~15億ドルを負担する。
日米が共同開発したミサイルプログラムでは、SM-3 Block IIAがありこの時の米側担当はRTX (Raytheon Technologies)であった。
図2:(Northrop Grumman) 中露が進める極超音速滑空体(HGV=Higher-sonic Glide Vehicle)の脅威に対抗するGPI (Glide Phase Interceptor / 滑空段階迎撃用誘導弾)の想像図。弾頭は先進シーカー付き、敵ミサイルに衝突・破壊(hit-to-kill)する方式。2段式の機体燃料ロケットで、2段目は停止状態から再着火できる方式、これで広範囲の高度の脅威に対処する。
ノースロップ・グラマンは、ミサイル防衛局(MDA)および日本企業と協力してGPI完成に向け努力することになる。すなわち;―
- イージス駆逐艦(Aegis Ballistic Missile Defense Destroyer)および陸上設置型垂直発射装置(VLS)から発射するGPIの初期設計を進める。
- 初期運用能力( POC)取得の申請の前に極超音速環境下での性能を実証する。
- 自社で開発済みの技術(例:AARGM-ER、SiAWなど)を活用して事前に飛行試験をする。
- GPI計画全体にデジタル技術を適用し設計・開発の速度を上げる。
2024年11月1日に防衛省はGPIの日米開発の分担を発表した;―
図3:(防衛省)11月1日発表の「滑空段階迎撃用誘導弾 (GPI)の日米開発分担を示す図。
- 日本側の担当企業は三菱重工、開発部位は次の通り。
キル・ビークル(kill vehicle/破壊飛翔体)の操舵装置、ロケット・モーター、シーカー・ウインドウ
第3段階 姿勢制御装置
第2段ロケット・モーター(操舵装置を含む)
- 米国側の担当企業はノースロップ・グラマン、開発部位は次の通り。
キル・ビークル(kill vehicle/破壊飛翔体)の外殻、誘導制御装置、シーカー
第3段ロケット・モーター
第1段ブースター
契約金額は約560億円、納期は2029年3月とする。
米MDAでは、GPIプログラム合計の費用を30億ドルと推定、日本はその33 %~50 %、10億~15億ドルを負担する。
日米が共同開発したミサイル・プログラムでは、SM-3 Block IIAがありこの時の米側担当はRTX (Raytheon Technologies)であった。
中国が配備を進める極超音速滑空弾(HGV)
米国防総省によると、中国は、[DF-ZF]極超音速滑空体( HGV)の飛行試験を7回実施いずれも成功、2019年から作戦運用可能になった。これは多様な弾道ミサイルに搭載可能だが、2019年10月1日、建国70周年記念の天安門広場での軍事パレードで[DF-17]極超音速滑空ミサイルとして公開した。[DF-17]は、それ以前に登場した[DF-16]短距離弾道ミサイルを元にして弾頭部を滑空飛翔体(HGV)にしたもの、と思われる。
極超音速滑空ミサイル/弾 (HGV)は、上昇は弾道ミサイルと同じだが、降下して機首を起こし高度100 km以下の大気圏内を滑空(極超音速)して目標に向かう。このため長距離レーダーでは発見が難しく、迎撃が遅れる。
[DF-17]の性能は、射程1800~2500 km、速度はマッハ5~10と推定され、核爆弾搭載可能である。
図4:(Reuters) 2019年10月1日、天安門広場で公開した[DF-17]極超音速滑空ミサイル。パレードでは16両のDF-17発射機車両(TEL)が行進した。
図5:(中国軍)DF-17を上から見た写真。DF-16とほぼ同じ大きさである。搭載する発射車両(TEL=Transporter Elector Launcher)は、多少の違いはあるものの基本は同じようだ。
図6:(中国軍)カバーをかけられた状態のDF-16短距離弾道ミサイル。最大射程1000 kmと言われている。
終わりに
中国が配備する[DF-17]極超音速滑空弾は、射程が2000 km前後、大気圏上層部をマッハ5以上の速度で変則飛行をしながら目標の空母打撃群あるいは地上重要施設を攻撃する。米国防総省が危惧するのと同様、我国も危機感を持って対応を急いでいる。これがGPI(滑空段階迎撃用誘導弾)である。中国軍の2017年台湾侵攻説が現実味を帯びる中、1日も早いGPI実践配備が望まれる。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
- 防衛省 令和6年9月26日“GPI共同開発に係る開発コンセプトの決定について”
- MDA News September 25, 2024 “MDA, Northrop-Grumman to Move Forward with Development of the Glide Phase Interceptor”
- Northrop Grumman September 25, 2024 “Northrop Grumman to Produce First Hypersonic Glide Phase Interceptor”
- 航空万能論2024-09-26 ”GPIの主契約者にノースロップ・グラマンを選定、日本も開発に参加予定“
- Breaking Defense Sept. 25, 2024 “Northrop selected to develop anti-hypersonic Glide Phase Interceptor” By Aaron Mehta
- Defense Scoop Sept. 25, 2024 “MDA taps Northrop Grumman to move forward in Glide Phase Interceptor program” by Mikayla Easley
- 防衛省・自衛隊 令和6年11月1日 ”GPI共同開発に係る契約の相手方の決定について“
- J Defense News 2024-11-1 “極超音速兵器に対抗する新たな迎撃ミサイルGPI日米の開発分担と三菱重工との契約を発表”
- 日経ビジネス 2023-7-26 “中国の極超音速兵器は核搭載可能、東京も射程に“By Eisuke Mori
- Yahooニュース2019-10-1 “極超音速滑空ミサイルDF-17を中国が初公開” by JSF軍事/生き物ライター